京都市立芸術大学 芸大祭2017「弾丸はチョコレイト」


   
      
2017年11月5日(日)
京都市立芸術大学

座席:自由


京都市立芸術大学の学園祭「芸大祭」に初めて行きました。11月3日(祝・金)から5日(日)までの3日間行なわれ、最終日に開催された「クラシックコンサート」がお目当てでした。入場無料で事前申し込みも不要の企画も多く、楽しめました。
京都市立芸術大学を訪れたのは、京都市立芸術大学第151回定期演奏会 大学院オペラ公演「カルメン」以来でした。西京区の端(もうすぐ亀岡市)まで行くのは遠くて、京都市バスの均一運賃区間外のため、一日乗車券も使えません。京都市立芸術大学は、美術学部と音楽学部の2学部で構成され、音楽学部の1学年定員は65名(作曲専攻・指揮専攻4名、ピアノ専攻14名、弦楽専攻14名、管・打楽専攻16名、声楽専攻14名、音楽学専攻3名)。

今年度の芸大祭のテーマは「弾丸はチョコレイト」。パンフレットには「弾丸のごとく貪欲に、チョコレイトのごとく甘い創造を!!」とあり、芸祭長(芸大祭実行委員会委員長)の挨拶文によると「人と人の間に存在する壁を打ち砕き、人と人を繋げたいというメッセージが込められている」のとことで、専攻や回生の壁を越えた「共闘」の実現を図りたいとのこと。音楽学部長の大嶋義実も「「弾丸はチョコレイト」は京芸に飛び交う様々な想いを言い当てている」と称賛しています。4日(土)には芸大祭楽団公演「弾丸はチョコレイト」では、美術学部が制作した大砲が音楽学部のオーケストラと共演しました。

11:30頃に到着。パンフレットは立派な冊子でした。イベントスケジュールが「晴天」と「雨天」の2パターンが掲載されているのがおもしろい。理由はメインステージのイベントを雨天時は体育館で行なうためです。この日はいい天気でした。


11:30 芸祭イベント紹介 メインステージ

この日最初のイベントとして、メインステージで「芸祭イベント紹介」が行なわれましたが、ステージには誰も現れず、パンフレットの掲載内容をアナウンスで読み上げただけでした。上述した大砲がメインステージ横に3台置かれていました。この日も鳴らしたようですが、私は見られませんでした。残念。

模擬店は41店。構内に所狭しと並んでいます。出店が凝っていて、さすが芸大生。本格的な建築物になっていて、壊すのがもったいないです。陶磁器専攻は窯焼きのピザを販売するなど独創的すぎる。なお、ピザを焼いていたのは教授とのこと。ぶっとんでます。なお、中央棟のロビーには、映画館や美術館のビラが多数置かれていて、さまざまな情報が入手できる環境はうらやましい。
イベントタイムテーブル メインステージ 大砲 泥家(窯焼きピザ)


12:00 オオさんショウさん芸祭に行く!の巻

オオサンショウウオのキャラクター「オオさんショウさん」が学内を練り歩きました。何の関係があるのか分かりませんでしたが、京都市立芸術大学×京都市交通局×京都水族館の連携事業として、大学院美術研究科修士課程の院生が制作したとのこと。グッズも販売していました。
オオさんショウさん オオさんショウさんグッズ


13:00〜15:00 クラシックコンサート 講堂

お目当ての公演です。入場無料でした。田村響(たむらひびき)がピアノ独奏を務め、協奏曲が2曲という珍しいプログラムです。田村響は2015年度から京都市立芸術大学音楽学部音楽学科ピアノ専攻講師を務めています。まったくの余談ですが、私と誕生日が同じでした。

指揮者はホームページでは発表されなかったので、今年度から指揮専攻教授に就任した下野竜也がサプライズで出演する期待もしていましたが、指揮者は坂口航大。京都市立芸術大学大学院修士課程のなんと器学専攻(ピアノ)2回生。ピアノ専攻の院生が指揮にも取り組んでいるとは多才で、しかも今回が初めての指揮ではなく、「オーケストラ・アンサンブルWings」(京都市立芸術大学有志によるオーケストラ)などですでに指揮者として公演を行なっているとのこと。

会場は京都市立芸術大学第151回定期演奏会 大学院オペラ公演「カルメン」と同じ講堂。開場は12:30でしたが、11:30頃にはすでに数人並んでいて、開場前には200人程度の行列に。大学生よりも年輩の方が多数来場されました。約400名の座席が満席になって、補助イスも出されました。
オーケストラは、京都市立芸術大学音楽学部オーケストラ。50人超の編成でした。田村響が登場。金髪の短髪で、黒ぶちメガネ。想像していたよりも小柄な体格でした。

プログラム1曲目は、リスト作曲/ピアノ協奏曲第1番。田村響は全曲暗譜で演奏。音符の粒がはっきりしていて打鍵は強め。音量も大きめです。第3楽章では激しいアクションを見せましたが、ミスタッチもありました。指揮とピアノ独奏は、ほとんどアイコンタクトを取りません。田村があまり指揮を見ていないようです。坂口航大の指揮はちょっと危なっかしいところがありました。この作品はアインザッツを合わせるのが意外に難しいですね。オーケストラは音色が洗練されていなくて、あまり響きません。終楽章は白熱した演奏になりました。

20分休憩後のプログラム2曲目は、ラフマニノフ作曲/ピアノ協奏曲第2番。こちらのほうが1曲目のリストよりもピアノとオーケストラに一体感がありました。第3楽章の最後は胸が熱くなりました。この曲でも田村と坂口のアイコンタクトは少なかったですが、阿吽の呼吸と言えるでしょうか。坂口航大は指揮者の役割を立派に果たしたと言えるでしょう。

拍手に応えて、田村がアンコール。メンデルスゾーン作曲/無言歌集より第1番「甘い思い出」を演奏。曲想がシューマンに似ていますね。

講堂


15:00〜16:00 オペラアンサンブル♪ 大学会館ホール

声楽専攻の院生を中心としたメンバーがオペラのアリアを披露するということで大学会館に移動しました。この公演も入場無料でした。大学会館ホールは円形の舞台で、予想していたよりも多くの人が集まったようで、イスが足りなくなって追加で出していました。100人以上は来ていました。

はじめに、大学院2回生の講殿由紀奈(こうどの ゆきな)が企画の趣旨を説明。学部生と院生の6年間を通じて、卒業するまでに歌いたかったけどできなかった曲を歌うためにメンバーを募ったとのこと。やりたいことをやるという最近の学生には見られなくなった積極性があってすばらしい。伴奏はピアノで、後方には指揮者がいてアンサンブルを整えました。実際のオペラの舞台のように衣裳を着て、演技つきで小道具もありで歌いました。パーテーションの裏で着替えたり、メンバーは忙しく動いていました。

プログラムの配布などはありませんでしたが、歌う前にメンバーがストーリーを解説。模造紙に書かれた人物相関図を差し棒で指し示しながら説明しました。また、歌詞の日本語訳も抜粋で紹介され、演奏中に模造紙をめくりました。模造紙は手書きで書かれていて、手作り感がいい。

プログラム1曲目は、ビゼー作曲/歌劇「カルメン」から五重唱「うまい話がある」。天井が高いので、よく声が響きます。
プログラム2曲目は、ドニゼッティ作曲/歌劇「愛の妙薬」から二重唱「なんて愛情でしょう!」。この曲はメンバーの大西くんが歌うチャンスを2回逃したとのこと。講殿がいい声でした。
プログラム3曲目は、モーツァルト作曲/歌劇「ドン・ジョバンニ」から二幕フィナーレ(地獄落ち)。騎士長の石像役の低音がいい声でした。
プログラム4曲目は、R.シュトラウス作曲/歌劇「ばらの騎士」から二重唱「天上のばら」。講殿が歌いたかった曲のようです。
プログラム5曲目は、ロッシーニ作曲/歌劇「セヴィリアの理髪師」から五重唱「ドン・バジリオ!」。テノールがいい声でした。
アンコールは、先ほどの五重唱「ドン・バジリオ!」をもう一度。講殿の呼びかけで、今度は「buona sera(ボーナセーラ)」(「おやすみなさい」の意味と説明されましたが、正しくは「こんばんわ」でしょうか)を観客も一緒に歌いました。

相当レベルが高くてとても楽しめました。オペラ初心者でも楽しめるような説明もあって、クオリティが高い企画ですばらしい。がんばっている学生は輝いていて、応援したくなります。講殿由紀奈さんと中谷明日香さんがかわいい。後輩はぜひ来年以降も続けてほしいです。

オペラアンサンブル♪


15:30〜18:00 学生コンサート 講堂

講堂に戻って、学生コンサートへ。この公演も入場無料で、学生や院生が2〜7名の室内楽曲のアンサンブルを編成し、演奏時間は10分程度。全部で13団体が出演しましたが、前述の「オペラアンサンブル♪」と時間がかぶっていたので、私が聴けたのは、4〜13番の演奏になります。

アナウンスで曲名のみ紹介されて、なんだかコンクールのような雰囲気です。演奏者名入りのプログラムは私が入場した頃には品切れでなくなってしまい、ホールのドアに掲示されていました。客の入りは3割程度でしたが、曲間の出入りがかなり多い。友人の演奏を聴いたら出ていくという感じでしょうか。休憩もなく次々と出てくるので、トイレに行く暇もありません。いずれも練習の成果が見える演奏で、他の楽器とアンサンブルできる環境はいい。個人のレベルアップも図れるでしょう。

マイナーな選曲が多くてびっくり。楽器編成も多様で、グリンカ作曲/悲愴三重奏曲より抜粋(クラリネット、ファゴット、ピアノ)、フラッケンポール作曲/トランペットとチューバとピアノのためのソナタ(トランペット、テューバ、ピアノ)など、めったに聴けなさそうな曲もありました。

印象に残ったのは、サックス6名+コントラバス1名の編成で演奏されたピアソラ作曲/ブエノスアイレスの春。すばらしい演奏でした。また、おもしろかったのは、池内奏音作曲/女心と秋の空。ピアノ、ヴァイオリン、チェロの女性3名によるアンサンブルで、現代音楽に取り組んだ意欲的な選曲で、後半は有名な「ちいさい秋みつけた」(中田喜直作曲)のアレンジ。演奏後に譜めくりを担当していた女性が大きな拍手を受けていたので、彼女が作曲者だったようです。池内奏音は作曲専攻2回生で芸大祭楽団公演「弾丸はチョコレイト」ではオリジナル曲を作曲したとのこと。多才です。


19:00〜20:00 芸祭ブラス 講堂

夜遅くからの企画ですが、7割程度の入り。この公演も入場無料で、入口でプログラムを受け取りましたが、演奏曲のみの記載で、メンバーや指揮者の紹介はありませんでした。開演前のアナウンスでは、写真撮影や録画はお断りしますが、どうしてもという場合はかまわない、爆音がするので心臓が弱い人は後方で聴くことという注意が話されました。

予備知識がなかったのですが、芸祭ブラスでは毎年仮装して演奏しているようで、メンバーが入場すると客席から歓声が飛びました。関係者が多く来場しているようで、「学生コンサート」とは打って変わって砕けた雰囲気に。コスプレは本格的で、打楽器はぶどう(紫と緑の風船)、サクソフォンはチマチョゴリ、トランペットはクレヨン、オーボエはパンダで、パンダの頭部がステージ前に8個並びました。シュールすぎる。顔にもペインティングしていました。
意外に大編成で、80名超のメンバー。楽器編成ではオーボエ(8名)とファゴット(6名)が異常に多い。昼の「クラシックコンサート」や「学生コンサート」と掛け持ちで出演しているメンバーもいたようです。指揮者は誰なのかと思っていたら、客席後方から白タイツで女装した男が「みなさん、こんにちわー」と言いながら走って登場しました。

演奏はアクセル全開。強奏ではかなりの音量で、アナウンスで「爆音に注意」と言っていた意味が分かりました。コスプレしていますが演奏はさすがに本格的で、バランスなどをあまり考えていません。芸大生の合奏としては問題でしょうが、このステージは目立った者勝ちで、楽しければいいということでしょう。ソロでは客席から歓声が飛びました。

プログラム1曲目は、大野雄二作曲(星出尚志編曲)/ルパン三世のテーマ。聴き慣れたアレンジではなく、星出尚志の編曲は凝っていて、ジャズの要素がふんだんに盛り込まれています。客席からは手拍子。
プログラム2曲目は、星出尚志編曲/ディズニー・ファンティリュージョン!。指揮者が交代。2人目の指揮者も男で、ミニスカート姿でした。メンバーが客席に出てきて、お客さんにサイリウムを配っていました。
プログラム3曲目は、阿部勇一作曲/行進曲「ラメセスII世」。指揮が最初の指揮者に戻り、曲が始まると打楽器奏者が客席を行進しました。私の近くも通りましたが、「デラウェア」とか「巨峰」とかブドウの品名が書かれていて、コスプレがものすごく手が込んでいます。この曲は1995年度の全日本吹奏楽コンクール課題曲で、ちょうど今の大学生が生まれた頃です。パフォーマンス重視で、もはや演奏する曲は何でもいい感じです。
プログラム4曲目は、ミシェル・ルグラン作曲(福田洋介編曲)/キャラバンの到着。指揮者がまた交代。曲名を見ただけでは分かりませんでしたが、自動車のテレビCMのコマーシャルで使われていた曲でした。勢いがあっていい。
プログラム5曲目は、酒井格作曲/The Seventh Night of July -TANABATA-。3人目の指揮者が登場。全身黒タイツの男性でした。
プログラム6曲目は、東海林修作曲/ディスコ・キッド。3人目の指揮者が1人目と2人目の指揮者を蹴散らして引き続き指揮。1977年度の全日本吹奏楽コンクール課題曲で、かなり昔の選曲ですが、今も人気がある曲のようです。掛け声も楽しく大盛り上がり。また打楽器の行進が始まり、客席前で踊りました。実は初めて聴きましたが、なかなかハマりますね。マイブームが到来しました。
プログラム7曲目は、真島俊夫作曲/三つのジャポニスム。2人目の指揮者が指揮。この曲はパフォーマンスなしで、芸大生らしい真面目な演奏。「鶴が舞う」「雪の川」「祭り」の3曲からなりますが、今回演奏されたのはダイジェスト版の「三つのジャポニスム コンポーザーズ・エディション」だったように思います。ティンパニが乱打。
拍手に応えてアンコールは、和泉宏隆作曲(真島俊夫編曲)/宝島を指揮者なしで演奏。打楽器奏者が客席前に出てきて、ブドウの風船を割ったりで大盛り上がり。

曲目紹介などのMCは一切ありませんでしたが、盛り上がる曲が選曲されたようです。内輪受けもあり、楽器間のバランスとかはあまり考えていない演奏でしたが、楽しめて心に残りました。芸大生はお遊び気分で演奏しても上手です。

芸祭ブラス


20:00に終演。外に出るともう真っ暗でした。模擬店がまだ撤収されずに残っていましたが、明日(月曜日)は片付けのため、なんと授業は休講。「芸大祭後片付け(休講)」と学年暦にも記載されていて、正課授業に芸大祭が組み込まれています。芸祭は芸大最大のイベントと言われている理由も納得しました。「クラシックコンサート」以外は空席もあったので、もっと宣伝してもよいと思いました。

芸大祭に初めて行きましたが、学生がのびのびしていて、大学の自由な雰囲気が伝わって好感が持てました。学生(芸祭本部)が全館放送を使えるなど大学も協力的。在学生の参加が多いのも特筆すべきでしょう。大学の施設は古く、敷地も狭いですが、良好な人間関係が築けているようです。ぜひ来年も行きたいです。今回は時間切れで行けなかった学内展(美術学部の作品展)にも足を運びたいです。欲を言うと、クラシック系コンサートの時間帯が重複しないようにしていただけるとありがたいです。
なお、京都市立芸術大学は2023年度に京都駅東部の崇仁地域にキャンパスが移転します。移転が待ち遠しいですが、この自由な雰囲気はぜひ受け継いでいってほしいです。

模擬店

(2017.12.31記)

びわ湖ホール避難訓練コンサート〜オペラからアニソンまで〜 大阪教育大学教育協働学科芸術表現専攻音楽表現コース・教養学科芸術専攻音楽コース第61回定期演奏会