読売日響名曲シリーズ「シルヴァン・カンブルラン 第9代常任指揮者就任披露演奏会」


   
      
2010年5月3日(祝・月)18:00開演
ザ・シンフォニーホール

シルヴァン・カンブルラン指揮/読売日本交響楽団

バルトーク/二つの映像
モーツァルト/交響曲第41番「ジュピター」
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」

座席:S席 2階AA列40番


今年4月から読売日本交響楽団第9代常任指揮者にシルヴァン・カンブルランが就任しました。読売日本交響楽団常任指揮者にフランス人を迎えるのは初めてとのこと。前任のスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ時代から新しい音楽表現に挑戦するということでしょう。カンブルランは、バーデンバーデン&フライブルクSWR(南西ドイツ放送)交響楽団首席指揮者(2010/11年シーズンまで)およびクラングフォーラム・ウィーン首席客演指揮者を務めていますが、2012/13年シーズンからはシュトゥットガルト歌劇場音楽監督に就任します。なかなか多忙なマエストロです。
「常任指揮者就任披露演奏会」が、東京(5月1日 サントリーホール)に続いて、大阪でも行なわれました。読売日響第160回東京芸術劇場名曲シリーズで初めてカンブルランの演奏を聴いて以来、楽しみにしていました。得意とするフランス音楽をあえて入れない意欲的なプログラムで勝負です。

ザ・シンフォニーホールの前に、読売テレビの中継車が停まっていました。朝日放送が運営するザ・シンフォニーホールの前に、ライバル局の中継車が停まっているという面白い写真が撮れました。チケットは当日券なしの全席完売。読売新聞読者が招待されたようで引換券を交換する行列ができていました。17:00開場でしたが、リハーサル中でロビーで待たされました。17:20にホール内へ。中継車が停まっていたことからも分かるように、演奏会がテレビ放送される案内掲示が貼られていました。TVカメラが、ステージに4台、客席に1台設置されていました。

プログラム1曲目は、バルトーク作曲/二つの映像。カンブルランが早足で颯爽と登場。オーケストラは大編成での演奏でした。初めて聴きましたが、なんともつかみどころがない作品です。メロディーも親しみやすくないので、1回聴いただけではどういう曲なのかよく分かりませんでした。楽器が多い割には外面的効果もそんなにないので、渋い選曲です。第1曲「花ざかり」は丁寧な演奏。弦楽器の響きにゾクっとしました。第2曲「村の踊り」は中間部(練習番号15〜)の強奏が金管楽器が荒々しい。
カンブルランは全曲スコアをめくりながら指揮。ひざを曲げて体重を左右に移動させました。

プログラム2曲目は、モーツァルト作曲/交響曲第41番「ジュピター」。管楽器は必要最少人数に減りましたが、弦楽器はそんなに減りませんでした。しかし、人数の割には響きが軽くて柔らかい。人数の多さを感じさせません。室内オーケストラのような響きです。語尾に余韻を持たせてふわっとした広がりがあります。反復記号はすべてスコアどおり行なったようです。
第1楽章冒頭は、2小節の2拍目〜4拍目表の休符をパウゼのように長く取りました。3小節のアウフタクトから始まるヴァイオリンの旋律をはっきり対比させる狙いがあるのでしょうか。この部分をインテンポでやらない指揮者も珍しいでしょう。同じ音型が何回か登場しますが、どこでもパウゼを徹底しました。101小節のヴァイオリンのメロディーの前でもパウゼを取ってひと呼吸置きました。第2楽章20小節の第1ヴァイオリンの三連符は、カンブルランが指揮棒を左右に揺らして表情を込めて演奏。第4楽章でようやく「らしさ」を発揮。掛け合いがリズミカル。舞曲のような華やかさがあって、踊れそうです。ティンパニが四分音符を叩く127小節からは全員が気持ちを合わせて縦線をきっちり決めます。

休憩後のプログラム3曲目は、ストラヴィンスキー作曲/バレエ音楽「春の祭典」。和音のバランスに気を使うよりは、トータルに鳴らします。音色もけっこう汚い。予想していた柔らかいサウンドと違って、強奏ではイケイケドンドン。前任のスクロヴァチェフスキの演奏を読売日本交響楽団第501回名曲シリーズよりも音が若くなって管楽器もストレートに鳴ります。特に金管楽器の音量がすごい。芯があって力強い。金管楽器の鳴りは日本一でしょう。木管楽器もよく聴こえます。打楽器もよく鳴って、特にドラのスピード感がいい。弦楽器は管楽器に負けて埋もれがちでした。
カンブルランはこの曲も譜面をめくりながら指揮。変拍子を巧みに振り分けました。腕や手を使って、奏者の息遣いやボウイングの長さを引き出しているようです。微妙なアゴーギクをコントロールしているようです。
第1部「春のきざし〜おとめたちの踊り」練習番号29からのアンティークシンバルは、高い音程で強めに演奏。「敵の都の人びとの戯れ」は2本のテューバが強力。「大地の踊り」練習番号78からは、木管楽器(特にフルート)がキャンキャン聴こえます。ここまで木管楽器が聴こえる演奏も珍しい。
第2部「乙女たちの神秘的な集い」のホルンのゲシュトプのフェルマータを長く伸ばしました。11/4拍子のあとの「いけにえへの賛美」は速いテンポ。「祖先の儀式」はテンポを落としてゆっくり。練習番号138のホルンが強烈。マルカートで演奏しました。最後の「いけにえの踊り」も速いテンポ。カンブルランの指揮にオーケストラが必死についていきました。カンブルランも譜面にかぶりつくような姿勢で指揮。アクセルを踏み続けてテンポを維持しました。最後まで指揮台の上をよく動きました。

拍手に応えてアンコール。ストラヴィンスキー作曲/サーカス・ポルカ。カンブルランが指揮台で曲名を叫んで紹介しました。メロディーが合いの手に分断されるおどけたこっけいな表情の曲です。

カンブルランの指揮は、オールフランス音楽で衝撃的な名演を聴かせた読売日響第160回東京芸術劇場名曲シリーズとは別人のような演奏でした。フランス音楽がプログラムになかったこともあってか、予想していた演奏と違ったので驚きました。もっと魅惑的な演奏を期待していましたが、作品によって演奏スタイルが変わるのでしょうか。今回の演奏会ではカンブルランの個性がよく分かりませんでした。読売日本交響楽団のよさを生かした演奏で完成度も高かったですが、カンブルランらしさを出すにはまだ過渡期ということでしょうか。次はフランス音楽を聴きたいですね。

(2010.5.5記)


ザ・シンフォニーホール案内掲示 ザ・シンフォニーホール前に停車する読売テレビ中継車



京都市交響楽団スプリング・コンサート 京都市交響楽団 at 円山公園音楽堂!