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<京都市交響楽団練習風景公開>
2010年4月10日(土)10:30開演 広上淳一指揮/京都市交響楽団 佐藤直紀/龍馬伝 座席:自由
<京都市交響楽団スプリング・コンサート> 2010年4月11日(日)14:00開演
広上淳一指揮/京都市交響楽団 第1部:NHK大河ドラマのヒーローたち! 座席:3階 C−1列20番 |
広上淳一の京都市交響楽団常任指揮者3年目の幕開けです。スプリング・コンサートは去年から始まった自主公演で、今年はNHK大河ドラマのテーマ曲を集めたプログラムです。最近のものからけっこう昔のものまで8曲がセレクトされました。広上淳一は、これまでの演奏会のアンコールで、特別演奏会「第九コンサート」で「篤姫」、第527回定期演奏会で「天地人」をすでに演奏しましたが、集中的に取り上げるプログラムが組まれるとは予想外でした。最近は大河ドラマはまったく見ていませんが、「武田信玄」から「毛利元就」までは毎回見ていました。
チケットは、1500円と格安。公演の2週間前に完売になりました。
本番前日に京都市交響楽団練習場で、毎月定例の「練習風景公開」が行なわれました。往復ハガキで申し込んだところ、めでたく参加票のハガキが届きました。いつものように2階のギャラリーから聴きます。団員は私服で音出し中でした。打楽器奏者が大幅に増員されていて、9名もいました。
10:30になって音が鳴り止み、事務局の方から団員に向けて連絡事項。今日の練習は、大河ドラマ、アンコール、田園の順。「京響メールマガジン第49号」では、練習曲目は「ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」/予定」となっていましたが、スケジュールが変更されたようです。明日のゲネプロは10:30開始。その他の連絡事項で「ジュニアオーケストラのオーディションや京都府知事選挙で使われる練習室がある」「明日は新年度初めての自主公演なので(終演後の)お見送りをする話が出ている。お見送りしたい人は事務局まで」「明日のゲネプロで広報用の写真を撮影する。「田園」のメンバーで撮影する」と話しましたが、横で聞いていた広上淳一が「(降り番の)テューバがかわいそう」とコメントしたので、再度調整してアナウンスされることになりました。写真は毎年撮っているようですね。どんな写真になるか楽しみです。
コンサートマスターの渡邉穣が立ち上がってチューニング。広上が指揮台へ上がりました。服装は、第533回定期演奏会練習風景公開と同じ、背に白字の縦書きで「京響」と書かれた緑色の半袖Tシャツでした。お気に入りのようです。メガネをかけていました。
まず、佐藤直紀作曲/龍馬伝。現在放送中の大河ドラマです。独唱の馬場菜穂子(京都市立芸術大学大学院音楽研究科修士課程2回生)がマイクで歌いましたが、ギャラリーからは姿は見えませんでした。1回通した後、広上が「Bまで来たらテンポが決まってしまう。0.5%ほど前に」「打楽器は明日(ホールで)調整しますが、音量はこれ以上大きくならないように」と話しました。また、独唱の馬場には「歌い出しはもう少し前に」「練習のときはセキュリティを持っている自分と戦うと音楽の本質が見えてくる。本番でうまくいかなかったらそれは仕方ない」「盛り上がったらもっと出していい」と話し、将来的にも応用できるアドバイスを送りました。「もう1回」と話して、2回目の通し練習。金管楽器の鳴りがすばらしい。
メンバーが入れ替わって、10:42頃から芥川也寸志作曲/赤穂浪士。聴いたことがある曲でした。中間部の前でパウゼを仕掛けましたが演奏が止まらなかったので、一度演奏を止めて「完全にストップしてください」と話しました。中間部はクラシカルギターのソロ。ギター奏者は、第2ヴァイオリンとチェロの間に座っていました。この曲が終わると退場したので、エキストラでしょう。演奏後、広上は「弦楽器の「八分音符+十六分音符の三連符」の音型の八分音符は、マルカート、スタッカートに近いキャラクターで」と話しました。
10:47頃から湯浅譲二作曲/元禄太平記。初めて聴きましたが、テンポや表情の切り替えが忙しい。本格的な現代音楽といえるでしょう。ダイナミクスについて指示した後、途中から通して終わろうとしましたが、ホルン奏者から「広上さん」と呼びかけられて質問。広上はスコアを持ってホルン奏者のところまで歩いていきました。冒頭のクレシェンドのタイミングについての質問でした。
10:55頃から林光作曲/花神。おだやかなメロディーが京響の弦によく映えます。1回通しただけで終わり。広上はまったくノーコメント。無言で次の曲へ。
10:58頃から一柳慧作曲/翔ぶが如く。このドラマは小学生の頃見ていました。今聴いても名曲ですね。中盤でティンパニが入りを間違ったので、広上が「あー」と大きな声で叫びました。演奏後には「惜しかったね」と話しました。また、ピアノだけ弾かせて、「ソロのイングリッシュホルンを押していく感じで弾いていただけるとありがたい」と話しました。また、「宅間さん」とティンパニ奏者に呼びかけて、「1回目はffよりも小さく、2回目がff」。また、ホルンとトランペットに「キュー出すので早めに食いついて」と話しました。最後まで終わると「はい、ぶらあぼ」と話して次の曲へ。
11:10頃から渡辺俊幸作曲/利家とまつ。途中のテンポが速くなるところ(Piu mosso)の打楽器に「実は3拍目と4拍目が遅くなっています。常に遅くなっていると思って演奏してほしい。打楽器の皆さんは心臓部なのでよろしくお願いします」と話しました。また、コントラバスにも「1拍目と3拍目で巻きを入れるように」と話しました。
11:15頃から吉俣良作曲/篤姫。2回演奏しましたが、2回目のほうが断然よかったです。
11:20頃から大島ミチル作曲/天地人。シンフォニックな曲ですが、すっきりした音響でした。指揮しながらコンサートマスターに向かって何か叫んでいました。1回通すと「休憩してください。ありがとうございました」と話して、11:25に終了しました。
大河ドラマのテーマ曲という共通項で、日本人作曲家の聴き比べができて楽しかったです。広上は「恐れ入りますが」など丁寧な言葉遣いで団員に話しました。演奏経験があまりない曲ということで、1回では最後まで通らない曲もありました。
定期演奏会ではないので、開演前のプレトークはなし。大河ドラマという親しみやすいプログラムということで、定期演奏会に比べると小さなこども連れの親子が多く見られるなど、いつもとは客層が少し違うようでした。
演奏会は2部構成。第1部は「NHK大河ドラマのヒーローたち!」と題して、前日の練習風景公開で演奏した大河ドラマのテーマ曲集です。プログラムに掲載された片山孝のProgram Noteが短い文章ながら充実した内容で、放送年などの基本データが掲載されていました。
プログラム1曲目は、佐藤直紀作曲/龍馬伝(平成22年)。ドラマを見ていないので知らなかったのですが、テレビで放送されているテーマ音楽は、広上淳一が指揮するNHK交響楽団の演奏とのこと。独唱の馬場菜穂子は指揮者とコンサートマスターの間に立って、マイクで歌いました。前には独唱者用のモニタースピーカーが置かれていました。京都コンサートホールではなかなかお目にかかれないので珍しい。
演奏会の後に大河ドラマのオープニング(広上淳一指揮/NHK交響楽団)を聴きましたが、この日の演奏はNHK交響楽団よりも少し遅いテンポでした。TVで歌っているリサ・ジェラルドの歌を聴くと歌詞があるように聴こえますが、特に歌詞はないようです。馬場は主に「あ」で歌っていた気がします。馬場の独唱は緊張のせいか、前日の練習よりも声がやや上ずっていました。声域はアルトのようですが、リサ・ジェラルドほど低くなく若い声でした。
司会の豊田瑠衣が登場。フリーアナウンサーと自己紹介しましたが、京都には縁がないようです。広上と対談。「スプリング・コンサート」の趣旨について、広上は「4月に新入生になったり新しい生活を始められた方へのお祝い」と話しました。大河ドラマのテーマ音楽を取り上げたことについては、「歴史が大好き。年号を覚えるのは苦手だが、人物が好き」と語りました。「NHKの回し者ではありません」と話した上で、「実は亡くなった父がNHKに勤めていた」と話すと、場内からどよめきが起こりました。NHK交響楽団との録音については「別撮りで収録した。弦だけ、管楽器だけ、打楽器だけとか。最後はヘッドフォンを耳につけて指揮した。2時間くらいでした」と話しました。広上が豊田に「福山(雅治)さんお好きですか?」と質問。広上は「私は岩崎弥太郎(香川照之)が好きです」。「福山さんと香川さんならどちらがお好きですか?」と豊田を質問攻めにしました。
プログラム2曲目は、芥川也寸志作曲/赤穂浪士(昭和39年)。大河ドラマ第2作ですが、広上が「私は覚えています」と話し、当時は大河ドラマの放送時間が日曜8時ではなかったことなどを紹介。また「穣さん覚えてる? 同じ世代でしょ」とコンサートマスターの渡邉穣にも聞きました。「私が尊敬する芥川先生の唯一の作品」と話して指揮。
中間部で変わった音色が聴こえましたが、舞台裏でキーボードでチェンバロの音を弾いているようでした。前日の練習でもキーボードが置かれていましたが、本番ではスピーカーで流したようです。ムチが小節単位で打ち鳴らされますが、演奏後に豊田が「あれはなんという楽器なんですか?」と聞くと、広上が「ムチという楽器でいいですね」と奏者に確認。「手をはさんだりしないんですか?」と聞いたところ、ときどき手をはさむことがあるようです。
プログラム3曲目は、湯浅譲二作曲/元禄太平記(昭和50年)。広上が豊田に「元禄ってどんなイメージですか?」と質問。豊田は「私は質問される立場ではなくて、質問する立場なのですが」と困惑気味。広上は「元禄は人々の心が安定した時代。平成時代に似ている」と話しました。それにしては、この曲の性格は不協和音もあって変幻自在です。最後はティンパニの一撃で終わります。
プログラム4曲目は、林光作曲/花神(昭和52年)。「かしん」と読みます。広上は「非常に明るい」「希望を与える」「ここちがよい」と紹介しました。弦楽器のメロディーがまさに心地よい。
プログラム5曲目は、一柳慧作曲/翔ぶが如く(平成2年)。広上が「西田敏行さんはお好きですか?」と聞くと、豊田は「普通です」と答えました。広上は「私は好きですね」と答えました。「鹿賀丈史さんは?」と聞くと、豊田は「好きなほうです」と答えました。広上は「鹿賀さんは歌がうまい。最近では料理の鉄人ですか」と話しました。
演奏は、管楽器の入りがやばい。ちょっと不本意な出来でしょう。前日の練習でも苦戦していましたが、この曲は難曲ですね。
プログラム6曲目は、渡辺俊幸作曲/利家とまつ(平成14年)。オーケストラ・アンサンブル金沢が演奏を担当したことを話すと、広上は「金沢に行って、オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏を聴いてください」と宣伝。また、豊田が金沢での最終回の視聴率が80%を超えたと話すと、広上は「龍馬伝は京都では視聴率100%を目指しましょう」と話しました。広上が「唐沢(寿明)さんは好きですか?」と聞くと、豊田は「好きです」、さらに「どういうところが?」と聞くと、「見た目が」と答えました。
演奏は、前日の練習でPiu mossoで打楽器のテンポが遅くなることを指摘されたので、意識してシビアに聴きましたが、ちょっと遅れている気がしました。
プログラム7曲目は、吉俣良作曲/篤姫(平成20年)。広上は「家内と娘がファンでした」と話しました。また、「日曜日のゴールデンタイムに戦国時代のような血みどろの殺戮場面は敬遠されるようになり、女性の視聴者も意識した番組作りが行なわれるようになってきた」と解説。「本当にNHKの回し者みたいになってきましたね」と自分でつっこむほどの博識でした。「来年の大河ドラマ「江」は、篤姫と同じ、田渕久美子の脚本、吉俣良の音楽なので期待できる」と話しました。ちなみに、吉俣良の弟はタレント(よし俣とよしげ)で、豊田は会ったことがあるとのこと。
プログラム8曲目は、大島ミチル作曲/天地人(平成21年)。広上は「上杉謙信は大好きな武将」と話しました。また、「すごくいい曲」「大島ミチルさんにお会いしたことがあるが、こういう曲を書くとは思えないほど華奢な女性」と話しました。大島ミチルの名前は知っていましたが女性だったんですね。私は映画「椿三十郎」の音楽が好きです。
司会の豊田瑠衣は台本を持っていましたが、広上がいろいろ想定外の質問をしてきて、それに答える役回りになっていて、司会役はほとんど入れ替わった感じです。広上は型にはまったトークが好きではないのでしょう。それにしても広上は歴史に詳しいですね。びっくりです。
休憩後の第2部は「クラシック音楽界のヒーロー、ベートーヴェン!」と題して、ベートーヴェン作曲/交響曲第6番「田園」。当初は交響曲第5番「運命」が予定されていましたが、「田園」に変更されました。理由について、広上は第533回定期演奏会のプレトークで「特に事情はない」と語りましたが、「田園」のほうが「運命」よりも繊細な演奏が要求されるからでしょうか。
司会の豊田が曲目やベートーヴェンの生涯を紹介した後、広上が登場して演奏開始。丁寧な演奏で精巧に音楽を作ろうとしていました。繰り返しもすべて行ないました。やわらかい響きが広上らしい。広上淳一指揮/京都市交響楽団の演奏で聴くベートーヴェンの交響曲はこれで3曲目でした。第9番「合唱」(特別演奏会「第九コンサート」)と第4番(第533回定期演奏会)を聴いたところでは、音量が物足りなく小さくまとまってしまう傾向が感じられましたが、この日の「田園」は作品の性格もあってかあまり気になりませんでした。ただし、ヴァイオリンの音色がカサカサした音色だったのが残念。もう少し透明感がほしいです。全体的にやや遅めのテンポ設定で、第4楽章「雷と嵐」もそんなに速くないテンポ。もう少しスピード感があってもいいでしょう。第1楽章と第2楽章の後に、客席から拍手が起こったので、交響曲を初めて聴かれた方がおられたようです。
演奏終了後に、広上がマイクで挨拶。「これだけのお客さんに集まっていただいてうれしい限り。去年からたくさんのお客さんに来ていただけるようになって、われわれのモチベーションも上がっています。京都市交響楽団は高い能力を持っています。これは音楽家として私が保証します。レストランと同じように、1ヶ月に1回演奏会に来て気持ちよくなって帰ってください」と話しました。
メンバーを補強してアンコール。「ヒーローということで、スーパーマン」と話し、J.ウィリアムズ作曲/「スーパーマン」よりマーチ。意外な選曲でした。フルオーケストラ編成で聴けるとはぜいたく。トランペットがよく鳴りました。色彩感もあって実に鮮やか。
終演後は、前日の練習で話されたお見送りが行なわれました。団員10人ほどが参加されました。
京都市交響楽団は明らかにレベルアップしていますが、その分些細なミスが目立つようになってきました。前日の練習で広上に指摘された部分が本番でもあまり直っていない部分がありました。京響のメンバーは本番に弱いのでしょうか。練習のほうがのびのび演奏できていた気がします。
大河ドラマシリーズの続編にも期待したいです。次回の機会があれば、三枝成彰作曲/太平記(平成3年)、小六禮次郎作曲/秀吉(平成8年)、栗山和樹作曲/北条時宗(平成13年)をリクエストしたいです。合唱など楽器編成が難しいでしょうが、チケット代が少々高くても聴きたいですね。
(2010.4.14記)