第12回京都の秋音楽祭開会記念コンサート


   
      
2008年9月14日(日)14:00開演
京都コンサートホール大ホール

広上淳一指揮/京都市交響楽団
木嶋真優(ヴァイオリン)

チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー/交響曲第5番

座席:全席指定 1階 19列15番


今年4月に京都市交響楽団常任指揮者に就任した広上淳一が、第511回定期演奏会「第12代常任指揮者就任披露演奏会」以来ひさびさに京響に登場です。今シーズンは広上は定期演奏会を2回しか指揮しないので、京都市交響楽団との共演は貴重で聞き逃せません。今回はオール・チャイコフスキー・プログラムでした。
「京都の秋音楽祭」は、毎年秋に京都コンサートホールで行なわれる演奏会の総称と言えば分かりやすいでしょうか。今年は9月14日から11月28日までの約2ヶ月間に、京都市交響楽団定期演奏会、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団来日公演、ロンドン交響楽団来日公演などが行なわれます。毎日演奏会が行なわれるわけではないので、日本各地で行なわれている音楽祭に比べれば、かなりまとまりのゆるーいイベントです。
開会記念コンサートは、文字通り音楽祭のオープニングを飾る演奏会で、毎年京都市交響楽団が務めているようです。入場料はなんと全席1,000円という安さ。しかも京都市民400名を抽選で無料で招待されていて、初めてクラシックの演奏会に来られた方もたくさんおられたようです。チケットは当日券なしの全席完売でした。座席は第511回定期演奏会「第12代常任指揮者就任披露演奏会」では響きが薄く感じられたので、今回はステージに近い1階席を選択しました。

いよいよ開演。ホールの照明がすべて消えて真っ暗になったので、何かあると思っていたら、パイプオルガンの左にある一番高いファンファーレ台のような場所にスポットライトが当たりました。「京都の秋音楽祭」の横断幕を背にして、金管楽器5名が立っていました。左から、トロンボーン2、ホルン1、トランペット2の順に、立奏でファンファーレを演奏。聴いたことがある曲ですが、作品名は知りません。
続いて、広上淳一が舞台脇に登場してマイクで挨拶。「本来は京都コンサートホールの人が出てくるのですが、お前がしゃべれと言われた」と話しましたが、京都市交響楽団の定期演奏会で今年から開演前にプレトークの試みを始めたので、何か話さずにはいられなかったのでしょう。京都の秋音楽祭の紹介、木嶋真優の紹介(「きじま」ではなく「きしま」と読むなど)、チャイコフスキーの交響曲第5番にまつわるエピソードを話しました。

プログラム1曲目は、ヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は、木嶋真優。木嶋が朱色の段々フリルのドレスで登場。前回聴いた杉並公会堂開館記念コンサートも変わったドレスだったので、彼女は衣装のセンスが個性的ですね。
木嶋は自分のペースで弾きます。テンポに緩急をつけて演奏しますが、オーケストラがどうやって合わせるかは気にしていないようです。また、ほとんど広上を向いて演奏しました。客席のほうを向いて演奏しないのも杉並のときと同じです。彼女の演奏スタイルなのでしょう。カデンツァでは指揮台の広上が彼女を向いてうなずきながら聴いていました。第3楽章の終盤の速いパッセージをスラスラ弾いたのでびっくりしました。技術的に難しい部分だと思いますが、よく指が回ります。音量も十分でした。逆にゆっくりした部分は苦手のようで、音程がやや揺れたりすることがありました。
広上淳一は腰や上半身を動かして巧みなバトンテクニックを見せました。指揮を見ているだけで楽しくなります。何度か笑ってしまいそうになりました。大きく息を吸う音や「うーん」といううなり声が聴こえました。オーケストラは軽い響きでした。木嶋の音量は十分大きかったのでオーケストラが遠慮したとは思えません。ホール全体に響き渡っていなかったので、もっと鳴らして欲しいです。余談ですが、広上はマイクで挨拶したときは上着は白色でしたが、登場したときは黒色の上着に着替えていました。衣装に細かいこだわりがあるようです。ちなみに、第1楽章が終わったときに、客席から大きな拍手が送られたのにはびっくりしました。楽章の間では拍手しないことを知らない人が多かったようです。

休憩後のプログラム2曲目は、交響曲第5番。演奏前の挨拶で、広上は「人生の大事なときに取り上げる曲。偶然だが何か縁がある」と話しました。3月に父親が他界したときに、アメリカでこの曲をレコーディングしていたとのことです。楽章の性格を鮮やかに描き分けた演奏でした。広上は全身を使った分かりやすい指揮で、旋律を歌わせるのが本当にうまい。この曲を初めて聴いた人でも聴きどころが分かる演奏でした。強奏では腕を高く上げて金管楽器に大きな音量を要求。その反面、弦楽器が埋もれがちになるのでもう少しがんばってほしいです。第1楽章は、力強く引き締まった音響。20小節のフェルマータを長く取りました。第2楽章は、美しいメロディーを存分に聴かせました。第3楽章は、28小節からのホルンのゲシュトプ奏法や、104小節からのトランペットなど、金管楽器が顔を覗かせました。第4楽章は、58小節からのAllegro vivace(alla breve)を遅めに演奏、82小節からは速めに演奏し、テンポにメリハリをつけました。472小節からは肩の力を抜いた大らかな音楽の流れ。472小節の前でフライングの拍手は起こりませんでした。めでたしめでたし。

カーテンコールの後、拍手に応えてアンコール。広上が「もう1曲、チャイコフスキーの曲を」と話して、弦楽セレナードより第3楽章「エレジー」を演奏。もちろん弦楽器のみの演奏です。これがこの日一番の名演。京都市交響楽団の弦楽器からこんな充実した豊かな演奏が聴けるとは驚きです。弦楽器にこれほど磨きをかけるとは、これはかなり練習したと思われます。弦楽器はアンコールに備えて余力を蓄えていたのではないかと思うほど。緊密な響きで一体感がすごい。表現力もすばらしい。心が洗われました。ぜひ全楽章聴きたいですね。第1楽章が飛び抜けて有名ですが、第3楽章のよさを見直しました。
終演後にロビーで「京都の秋音楽祭」デザインの「トラフィカ京カード」を販売していたので、記念に購入しました。限定1万枚の発売とのことです。プレミアの価値はつくでしょうか。

1,000円でこれだけの演奏が聴けて大満足でした。第511回定期演奏会「第12代常任指揮者就任披露演奏会」よりも完成度が高くなって、広上の指揮も気合いが入っていました。また、前回は響きが物足りなく感じましたが、今回の演奏会で不安は払拭されました。今後の演奏会も楽しみです。

(2008.9.16記)


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