２００９年３月２３日（月）19:00開演 サントリーホール大ホール エリアフ・インバル指揮／東京都交響楽団 横山幸雄（ピアノ）、晋友会合唱団 ラヴェル／ピアノ協奏曲 ラヴェル／バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲 座席：Ｓ席　２階Ｃ　６列２１番

都響スペシャル「第九」で鮮烈な演奏を聴かせたエリアフ・インバルが、いよいよ2008年４月に東京都交響楽団のプリンシパル・コンダクターに就任しました。しかし、指揮する機会は極めて少なく、以降は2008年４月の就任披露公演でマーラー作曲／交響曲第８番「千人の交響曲」を指揮しただけでした。今回の演奏会は実に約１年ぶりの指揮となります。
今回の演奏会は、オール・ラヴェル・プログラムです。インバルがラヴェルをどのように聴かせるか注目です。サントリーホールの館内アナウンスが、日本語の後に英語でも話されるようになったのでびっくり。チケットは全席完売で当日券も発売されませんでしたが、いくつか空席がありました。もったいない。

プログラム１曲目は、ピアノ協奏曲。ピアノ独奏は、横山幸雄。オーケストラの音量はひかえめで、響きが軽い。ピアノ独奏の背景の合いの手をうまく聴かせます。ジャズから影響を受けた作風はほとんど感じさせません。第１楽章の中間部でハープが左右の手で違う音符を奏でるなど、ＣＤでは分からない演奏技術もよく分かりました。ただ、インバルと東京都交響楽団はほぼ１年ぶりの共演になるせいか、少しエンジンがかかるのが遅いように感じました。インバルはスコアをめくりながら指揮しました。
横山幸雄のピアノは得意とするショパンのような響きで、あまりペダリングを使っていないのか、音符の輪郭をはっきり聴かせました。古典派の作品を聴いているようで、この作品ではもう少ししゃれっ気がほしいと思いました。はっきり聴かせるという点では、インバルの音楽作りと方向性が一致したピアノソロでした。
第１楽章ラストの打楽器の色彩感はすばらしい。第２楽章はコールアングレのソロはもっと大きくていいです。休みなく第３楽章へ。ここまで聴衆ノイズがほとんどなかったので、さすが都響の定期演奏会は聴衆マナーがよいと感心しましたが、第３楽章冒頭の強奏を聴いて目が覚めた方が多数おられました。気持ちよく寝ておられたようです。第３楽章は木管楽器が活躍しました。カーテンコールでは、インバルと横山が肩を組んで拍手を受けていました。

休憩後のプログラム２曲目は、バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲。晋友会合唱団がステージ後方に２列で並びました。左が女声、右が男声で、総勢100人以上の合唱団です。譜面なしで歌いました。もちろん立って歌いましたが、出番がないときは座りました。
オーケストラの演奏レベルは高く、インバルにかなり鍛えられていることがよく分かりました。細部をあいまいにしないインバルらしさを随所に感じました。ただ、演奏はよかったですが、60分近い全曲版はさすがに長く、聴いているほうが途中で中だるみしてしまいました。インバルならもっとおもしろく聴かせてくれるかと思いましたが。インバルでもこの作品を刺激的に聴かせるのは難しいようです。晋友会合唱団はアマチュア合唱団とのことですが、人数が多いので、響きも豊かです。しかし、合唱の音量が大きいので、強奏ではオーケストラが埋もれがちになるのが残念。音量バランスが気になりました。合唱団はもう少し人数が少なくてもよかったかもしれません。インバルはこの曲もスコアをめくりながら指揮しました。
冒頭の「導入」からゾクッとしました。弦楽器の音色に色気があります。「全員の踊り」は木管楽器の響きが上品。「ドルコーンのグロテスクな踊り」は、ティンパニと大太鼓が大きな音量で力強い。「ニンフたちのゆったりとした神秘的な踊り」では、ウィンドマシーンが活躍。合唱のみで歌われる「間奏曲」は、最初から音量が大きめなので、後半の盛り上がりに欠けました。途中から加わるトランペットとホルンは、ポディウム席の後ろで立奏しました（左がトランペット、右がホルン）。奏者にスポットライトが当てられました。続く「戦いの踊り」は、打楽器が大きくてオーケストラがよく聴こえません。後半は男声合唱が健闘して盛り上がりました。有名な「夜明け」はやや速めのテンポ。あっさりしていて物足りない。フルートとピッコロの鳥のさえずりは大きめに聴かせました。最後の「全員の踊り」は、フルートとクラリネットがうまい。カーテンコールでは、インバルは合唱指揮の清水敬一と肩を組んで拍手に応えていました。

都響スペシャル「第九」に続く名演を期待しましたが、ベートーヴェンとは異なり、ラヴェルはマジックを効かせにくいのかもしれません。次回の演奏会に期待しましょう。

(2009.4.1記)