日本を代表する室内オーケストラで聴くベートーヴェン交響曲全曲演奏会Vol.5


 

2007年12月15日(土)16:00開演
いずみホール

飯森範親指揮/いずみシンフォニエッタ大阪
松田奈緒美(ソプラノ)、谷田育代(メゾ・ソプラノ)、畑儀文(テノール)、高田智宏(バリトン)
特別編成合唱団

西村朗/ベートーヴェンの8つの交響曲による小交響曲(世界初演)
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付」

座席:S席 1階R列17番


いよいよ今年も第九シーズンの到来です。いずみホールでは7月から「日本を代表する室内オーケストラで聴くベートーヴェン交響曲全曲演奏会」が行なわれてきました。鈴木秀美指揮/オーケストラ・リベラ・クラシカ、ゲルハルト・ボッセ指揮/紀尾井シンフォニエッタ東京、ジャパン・チェンバー・オーケストラ、ギュンター・ピヒラー指揮/オーケストラ・アンサンブル金沢の4団体が、交響曲第1番から第8番まで演奏しました。トリを飾る「第九」は、いずみホールを本拠地としているいずみシンフォニエッタ大阪が、常任指揮者の飯森範親の指揮で演奏しました。演奏者は合唱を含めても約70人という少人数です。小編成で「第九」を演奏するとどう聴こえるのか注目していました。いずみシンフォニエッタ大阪が「第九」を演奏するのは今回が初めてとのこと。チケットはいずみホールフレンズの優先発売で購入しました。

チケットは全席完売でした。開演に先立って、音楽監督の西村朗と飯森範親がステージに登場してプレトーク。飯森にとっては今回が82回目の「第九」の指揮とのこと。飯森は「ベートーヴェンがいた時代は、バッハ、ハイドン、モーツァルトが活躍していて、非常に微妙な時期だった。先人たちとの葛藤がある。また、ベーレンライター版を使用しているので、ベートーヴェンが作曲当時どういうことを考えていたか分かる。呪縛や幻影が垣間見える。ロマンティックな人間的なベートーヴェンが聴こえる」と話しました。また、「ビブラート奏法は20世紀に入ってから」ということで、この演奏会ではピリオド奏法で演奏することも紹介。「こんなにクオリティの高い第九は初めてかも」と話しました。さらに、当時のオーケストラの配置(対向配置)で演奏することと、ティンパニはバロックティンパニを使うことを説明しました。西村は「第九は後世への影響が大きい作品だが、私は第九の魅力に惹かれて作曲家になった」と話しました。

プレトーク終了後に、団員が入場。女性のドレスが紫、緑、白など色とりどりでびっくり。これも当時の演奏会の衣装を再現したのでしょうか。
プログラム1曲目は、西村朗作曲/ベートーヴェンの8つの交響曲による小交響曲。この演奏会のためにいずみホールが委嘱した作品です。2007年秋に作曲されて、今回が世界初演です。オーケストラのみで合唱は使いません。4つの楽章からなります(第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ、第2楽章 アンダンテ、第3楽章 スケルツォ/アレグロ・ヴィヴァーチェ、第4楽章 フィナーレ/アレグロ)。小交響曲という作品名ですが、11分程度の短い作品でした。ベートーヴェンの交響曲第1番から第8番までの全楽章を引用して作曲されています。登場する順番はバラバラです。第6番「田園」だけは第5楽章まであって4楽章の枠組みからはみ出してしまうので、第4楽章後のコーダにしたとのこと。先ほどのプレトークで、西村は「ベートーヴェンを分かってる人ほど笑っていただける」と話しました。飯森は「リズムだけ引用するとか巧みに作曲されている」と賞賛していました。
ベートーヴェンの引用なので古典的な響きを予想していましたが、意外にも現代的な新しい響きがしました。西村朗の作風が前面に出た作品と言えるでしょう。不協和音も使用しています。緊張度が高く、とても「笑える」作品ではありませんでした。ベートーヴェンの原曲は作品によって調性が違うわけで、もともとくっつけて演奏するのは無理ですが、かなりアレンジされていてベートーヴェンには聴こえません。原曲をそのまま引用しているとは限らないので、よほどのベートーヴェン好きでなければ、どこに引用されたのかは分からないでしょう。有名なメロディーも断片的に聴こえますが、長く続きません。楽器編成に木琴とチャイムを追加したのがとても効果的でした。演奏終了後は、客席で聴いていた西村が、飯森に呼ばれてステージに上がりました。

休憩後のプログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱付」。上述したように、少人数での演奏です。編成は、ヴァイオリン12、ヴィオラ4、チェロ3、コントラバス2、フルート3、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット3、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、打楽器4、ソプラノ6、アルト6、テノール6、バス6。合唱団がステージ最後列に2列で並びました。合唱団も女性のドレスは色とりどりでした。
飯森はスコアなしで指揮。やや速めのテンポで、貯めを作らずにスイスイ進めました。プレトークで話したように、ピリオド奏法を徹底していました。スリムですが、響きが薄い。また、編成が小さいためか、どの楽器も均等に聴こえてしまって、何をやっているのかよく分からない部分がありました。ちょっと交通整理不足でした。随所でトロンボーンを強調していたのが印象的でした。
当時の演奏を再現しようとした意義はありますが、ピリオド奏法を評価するかどうかで、好みが分かれるでしょう。これがベートーヴェンが望んだ演奏なのか疑問です。私がピリオド奏法の演奏に聴きなれていないこともありますが、違和感がありました。飯森は派手なアクションで指揮しましたが、小編成だと表現の幅が限られてしまいます。重厚な演奏に聴き慣れている耳には物足りなく感じました。もう少しおもしろい響きが聴けるかと思いましたが、期待外れでした。
第3楽章の弦楽器のアンサンブルは美しく聴けました。第4楽章の前に独唱者4人が入場。合唱団とオーケストラの間に座りました。独唱者は豊かな声量で、合唱団よりもよく響きました。
演奏終了後はカーテンコールが続き、最後に飯森が「また来年に向けてがんばります。楽しいクリスマス、すばらしい新年を」とあいさつしました。

(2007.12.17記)



日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト2007 コンサート8 小林道夫チェンバロ演奏会