大阪フィルハーモニー交響楽団京都特別演奏会


   
      
2005年2月26日(土)18:00開演
京都コンサートホール大ホール

井上道義指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団

井上道義/メモリー・コンクリート〔関西初演〕
ショスタコーヴィチ/「ステージ・オーケストラのための組曲」より
ショスタコーヴィチ/交響曲第5番

座席:S席 3階 C−2列20番


大阪フィルハーモニー交響楽団は年に1回、京都コンサートホールで京都特別演奏会を開催しています。2003年に小林研一郎指揮の演奏会を聴きに行っています(そのときの演奏会レポートはこちら)。ここ数年は3月末に開催していましたが、今年は東京定期演奏会が組まれているので、1ヶ月ほど前倒しで開催されたようです。
指揮は、1990年から1998年まで第9代京都市交響楽団常任指揮者を務めた井上道義です。演奏を聴くのは今回が初めてです。
客席は5〜6割程度の入りで、空席が目立ちました。2日前に大植英次音楽監督の指揮による「スマトラ島沖大地震チャリティコンサート」がザ・シンフォニーホールで開催されたのでそちらに流れたのかもしれません。

プログラム1曲目は、井上道義/メモリー・コンクリート〔関西初演〕。2004年10月14日の新日本フィルハーモニー交響楽団第375回定期演奏会で井上の指揮で世界初演され、今回が関西初演となりました。コンサートマスターが登場し、すぐに井上道義が登場。どうしてチューニングをしないのか、チューニングしそこなったのかと思いましたが、その理由はすぐに分かりました。この作品がGのユニゾンからはじまるので、チューニングを省略したのでしょう。
プログラムに井上道義の作曲ノートが掲載されています、それによると、この作品について「過去の記憶を音楽として書き留めた日記帳」、「今までの57年、記憶の中から刻印したい事を恥ずかしげもなく書き綴った私小説のようなもの」、「自分を取り巻いてきた時間を書きとめたような作品」と解説しています。30分近い作品ですが、楽想のつなぎ方が強引で唐突。次の場面に突然切り替わるので、まったく別の作品のように感じてしまいます。脈絡が不足しているので、連続して聴かせる根拠が薄いように感じました。ソロがあったり打楽器による激しい強奏もあったり、強弱やメリハリが極端。多くの打楽器を使用し、通常のオーケストラ編成からするとかなり増強されています。また、ステージ上だけではなく舞台裏からも、ピアノ、シンバル、電話のベルが聴こえてきました。その他、効果音も多数使用。旋律はいろんな作曲家の作品のいいとこどりをしたような印象です。武満徹を模したようなフルートから小太鼓によるジャズビートまであまり一貫性があるようには思えませんでした。もっとも上述したコンセプトで作曲されているので、変化に富んでいるのは当然なのですが。この作品の評価を評価するのはなかなか難しいですが、自己満足の感は否めませんが、アイデアが面白いのでそんなに内容のない作品だとは思いません。ただ少し長いです。
井上道義は、指揮棒を持たず、ひざや足のつま先など文字通り全身を使って指揮。酒に酔ったような部分で脚をふらつかせたり、小太鼓ソロによるジャズビートでは、指揮台を下りてコンマスの近くでステップを披露していました。大阪フィルも完成度の高い熱演で応えていました。作品に共感を持って演奏している様子が伝わりました。ただ、強奏ではどれが主旋律なのかよく分からない部分がありました(これは作品にも問題がありますが)。

プログラム2曲目は、「ステージ・オーケストラのための組曲」より。全8曲からなる作品から、行進曲(第1曲)、抒情的ワルツ(第5曲)、小さなポルカ(第4曲)、第2ワルツ(第7曲)、第1ワルツ(第2曲)の5曲を演奏。
すっきりと見通しがよい演奏でそれぞれの楽器が何を演奏しているのかよく分かりました。内声がはっきり浮き出て、各楽器の音色がひとつの楽器のように融合し、恐ろしいほど一体感がある演奏でした。また、弦楽器が軽く、つややかに磨かれた明るい音色を聴かせました。CDにしてもう一度聴いてみたい演奏でした。「行進曲」はスーザ風。井上は最後に敬礼。「抒情的ワルツ」は弦の旋律が泣けます。「第2ワルツ」は、サックス3重奏とトロンボーンソロを立たせて演奏。

休憩後のプログラム3曲目は、ショスタコーヴィチ/交響曲第5番。前半同様見通しがよい自然な演奏でしたが、健全すぎるように感じました。全体的に速めのテンポで、途中でテンポを操作することもなく、ほぼ一定のテンポで演奏。ショスタコーヴィチの作品という堅苦しい枠に押し込めるのではなく、かなり開放的に演奏をしていました。無理して鳴らさず力が抜けていて、ソフトな音響は聴いていて気持ちいいのですが、あっさりしすぎで物足りなく感じました。逆に言えば、ここまでこの作品をきれいに演奏した例は珍しいと思います。『証言』に書かれていることも含めて、この作品は特別の意味を持つ作品なので、作品の位置を考慮した演奏を私は好みます。
井上道義はこの作品はほぼ直立不動で指揮。大阪フィルの演奏も、前半と比べると完成度が落ち、縦線が不揃いだったり、弱奏で弦楽器の音程が不安定だったり、トランペットが音を外したり、細部での緻密度がいまひとつ。強奏では弦楽器の音量がもう少し欲しいと感じました。
第2楽章の最後の音を井上は両腕を使って大きく指揮。スコアにはアクセントが記されているので、これを強調したかったのでしょう。第4楽章の284小節は、ヴァイオリンとヴィオラとピアノの音を修正して演奏(修正箇所についての考察は、『レコード芸術』1998年10月号掲載の金子建志氏の「ムラヴィンスキー直筆(実使用)譜でわかったショスタコーヴィチ交響曲第5番、演奏の秘密−1」を参照のこと)。

数回のカーテンコールの後、井上道義が指揮台で挨拶。「今日は雪が降っていますが、私としてはもっとどんと降ればよかった。今日のお客さんは京都会館で指揮を始めた頃の数で、記憶に残る演奏会になりました。」「もう1曲軽い曲を」と言って、アンコール(作品名不明、ネット情報では、バーンスタイン作曲/オーケストラのためのディヴェルティメントから第2曲「ワルツ」)を演奏。弦楽器のみの演奏でしたが、7拍子のリズムに乗れていませんでした。

井上道義は、2003年まで新日本フィルハーモニー交響楽団の首席客演指揮者を務めていましたが、現在はポストを持っていないようです。大阪フィルハーモニー交響楽団とは客演指揮者の間柄ですが、大阪フィルから完成度の高い演奏を引き出せるのはさすがです。京都市交響楽団がどうして常任指揮者を解任してしまったのか、本当に残念です。ただ、プログラムの前半と後半で明らかに指揮のテンションに差があったのは気になります。

大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏を聴いたのは、大阪フィルハーモニー交響楽団第377回定期演奏会以来でしたが、確実にレベルアップしていることが感じ取れました。交響曲での演奏精度をさらに高めて欲しいと思います。

(2005.3.1記)




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