宇野功芳の“第九”これでもか!? アンサンブルSakura大阪特別公演


   
      
2007年11月24日(土)15:00開演
いずみホール

宇野功芳指揮/アンサンブルSakura
石橋栄実(ソプラノ)、田中友輝子(アルト)、竹田昌弘(テノール)、藤村匡人(バリトン)
大阪新音フロイデ合唱団

ベートーヴェン/「フィデリオ」序曲
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱」

座席:指定席(前売) 1階N列17番


宇野功芳がアンサンブルSakuraを指揮して、大阪公演を行ないました。アンサンブルSakuraは、日本大学管弦楽団のOB・OG有志によって結成されたアマチュアオーケストラです。前回は2000年に同じいずみホールで宇野功芳の指揮でベートーヴェン(コリオラン序曲、交響曲第8番、交響曲第3番)を演奏しています。このときのライヴCD(アンサンブルSakura自主制作盤 URFC0006〜7)を聴いて、超個性的な演奏に強い衝撃を受けました。
宇野功芳が指揮する演奏会に行くのは、大阪フィルハーモニー交響楽団を指揮した宇野功芳の“すごすぎる”世界以来です。この間、宇野氏は東京フィルハーモニー交響楽団を指揮してベートーヴェンの「運命」と「英雄」を演奏するなど、プロのオーケストラを指揮する機会が増えています。

宇野功芳の“すごすぎる”世界は満員だったので、どれだけ客が来るのか注目していましたが、ホールの入りは8割程度でした。さすがに大阪フィルハーモニー交響楽団を指揮したときのような大入りにはなりませんでした。コンサートミストレスは、宇野功芳の“すごすぎる”世界同様、新星日本交響楽団でコンサートミストレスを務めた佐藤慶子が特別出演しました。

プログラム1曲目は、ベートーヴェン作曲/「フィデリオ」序曲。宇野功芳がゆっくり登場。遅めのテンポで演奏しました。ホルンは音を外すなど不調でした。ティンパニは大きく叩きました。

休憩なしでプログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱」。『レコード芸術』誌の連載「樂に寄す」(2007年9月号・10月号)に「功芳、《第9》を語る。」と題して、今回の演奏会に対する意気込みを書いていました。宇野功芳にとっては、第九の演奏は今回が6回目の挑戦とのこと。宇野氏が公演パンフレットに執筆した「ぼくの第九」によれば、第九の演奏には「人間業を超えた力が必要」と書いています。
アマチュアオーケストラなので、プロのオーケストラと比べると技術は明らかに劣ります。アインザッツが合わなかったり、音程が悪かったり、もっとパート練習をしてほしいです。明らかな演奏ミスもいくつかありました。また、音を塊で聴かせるので、強奏では個々の楽器の音色が分かりませんでした。ホールの容量に対して、音量が大きすぎます。聴いていて頭が痛くなりました。大きな音量はいらないので、きれいな音色で聴かせてほしいです。
宇野功芳は、スコアをめくりながら、指揮台を左右に動き回って指揮しました。左の耳たぶを触って、音程を合わせるようにオーケストラに指示していました。宇野氏の解釈は細かな音量操作はありましたが、「運命」ほどの大胆なアゴーギクによるデフォルメはありませんでした。いつものように、打楽器は全体的に大きめに演奏しました。
第1楽章のラストは、宇野功芳の“すごすぎる”世界で紹介された解釈と同じ。531小節からティンパニを強打。544小節は音量を落としました。上述の「ぼくの第九」によると「第2楽章も第3楽章も完全終止しないので、第1楽章の終結でも不安感を出すようにした」とのこと。
第2楽章は、55小節付近で速く演奏しようとして縦線が乱れました。178小節からの弦楽器のピツィカートはスコアの指定はpですが、強めにはっきり演奏。414小節からのトリオは遅いテンポで演奏。ラスト3小節はディミヌエンドして終わりました。これは、上述の「樂に寄す」(2007年10月号)で、第2楽章の最後の小節に強弱記号が書かれていないことを指摘しています。宇野氏はmpかmfと書きたかったのではないかと推理していますが、今回の演奏でそれを実行したのでしょう。
第3楽章は、ゆっくりしたテンポで大切に演奏。ファンファーレは121小節からのスタッカートつきの四分音符を短く切りました。
第4楽章の前に舞台を暗転させて合唱団が入場しました。男女それぞれがステージの両サイドに分かれて4列に並びました。第4楽章はこれまでの楽章よりも演奏の完成度が上がりました。練習時間を多く取ったのでしょう。30小節から始まる「前3楽章の回想」ですが、第1楽章と第3楽章の回想は、前楽章と同じように演奏しました。63小節からの第3楽章の回想は弦楽器で演奏しましたが、「樂に寄す」を読み返して思い出したくらいなので、あまり違和感なく聴けました。独唱の出番になっても独唱者がステージに登場しなかったので、どうやって登場するのか気になっていましたが、216小節の歌い出しと同時に、バリトン独唱が2階席のバルコニーL4の後ろにある扉から登場。その後、階段を下りてパイプオルガンの前まで歌いながら歩きました。その後、他の3人の独唱者も同じルートで登場し、パイプオルガンの前で並んで歌いました。いずみホールの構造をうまく生かした演出でした。独唱はパイプオルガンの前で歌うとよく響きました。独唱がここまではっきり聴こえた演奏会も初めてでした。合唱は上述したように両サイドに分かれていることもあって、ちょっと歌いにくそうでした。
330小節のフェルマータは長く伸ばしました。331小節からのシンバルは、431小節のラストに向けてクレシェンド。920小節からのPrestissimoはシンバルが強打。「ぼくの第九」には「オーケストラが弾けないくらいの速いテンポで崩壊寸前の演奏をしなければならない」と書かれていますが、オーケストラは何とかついていっていました。宇野氏も一心不乱に激しく指揮しました。

アンサンブルSakuraは、普段は東京都台東区で活動しています。アマチュアオーケストラが地方公演を行なうことが珍しいので、意欲的な取り組みとして評価したいと思います。団員の年齢層も意外に幅広かったです。
第九シーズンにはまだ時期が早かったですが、異色の演奏だったためか「第九」を聴いた気になれませんでした。コートをクロークに預ける季節になってからでないと雰囲気が出ませんね。第九は年末に聴くという習慣が染み付いてしまったようです。


(2007.11.27記)


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