大阪音楽大学ミレニアムホール特別講座 第20回レクチャー・コンサート「サクソフォーンの過去・現在・未来」


   
      
2005年10月1日(土)14:00開演
大阪音楽大学ミレニアムホール

プロデュース:日下部吉彦
講師:赤松二郎(ソプラノ・サクソフォーン)
演奏:篠原康浩(アルト・サクソフォーン)、中谷龍也(テナー・サクソフォーン)、飯守伸二(バリトン・サクソフォーン)

座席:全席自由


第19回「オペラのヒロインの死なせ方」に続いて、今年度2回目のレクチャー・コンサートです。今回のテーマは「サクソフォーンの過去・現在・未来」。講師は大阪音楽大学教授の赤松二郎氏。受講料1,000円は事前に振り込みました。ホールは8割程度の入り。

演奏者(赤松二郎サクソフォン・カルテット)が登場。左からソプラノ、テナー、バリトン、アルトの順で着席。J.S.バッハ作曲/G線上のアリアを演奏。これがちょっとまずい演奏。というのも、大阪音楽大学音楽博物館に展示されているアドルフ・サックスによる発明当初のサクソフォーンを借りた演奏とのこと。赤松氏曰く「木管的な柔らかい音色」がするとのこと。第一部はまずサクソフォーンの歴史について説明。サクソフォーンは今から150年前にベルギー人のアドルフ・サックスが製作したとのこと。サックスが開発したので、サクソフォーンと呼ばれるようになったのですね。今まで知りませんでした(恥)。サックスは木管楽器と金管楽器の両方を兼ね備えた楽器としてサクソフォーンを考えたとのこと。ちなみに、サックスの工場ではサクソフォーンだけでなく打楽器なども製作したが、そのなかでサクソフォーンが大ヒットしたとのことです。赤松氏曰く、サクソフォーンは「スーパーな楽器」で、運動性、開発力、現代奏法に優れているため、作曲者がどんどんハードルを上げている。演奏者は練習が大変、と述べていました。
つづいて、サクソフォーンの種類について解説。コントラバス・サクソフォーン(E♭管)、バス・サクソフォーン(B♭管)、バリトン・サクソフォーン(E♭管)、テナー・サクソフォーン(B♭管)、アルト・サクソフォーン(E♭管)、ソプラノ・サクソフォーン(B♭管)、ソプラニーノ・サクソフォーン(E♭管)の7種類。コントラバスとバスはまず見ることはない。受注生産なので200万円くらいするとのこと。
ここで、4人がそれぞれの楽器を演奏。ソプラノがサティ作曲/ジムノベティ第1番、アルトがムソルグスキー作曲(ラヴェル編曲)/展覧会の絵より「古城」 、テナーがラヴェル作曲/ボレロより、バリトンがフォーレ作曲/夢のあとに。上述した博物館にある発明当初のサクソフォーンで演奏。進化した現代のサクソフォーンと比べると、フィンガリングやキーシステムが異なるため「間違うことが多々あるでしょう」と演奏前に言い訳。演奏ですが、息を強めに入れないと音が出ないような印象を受けました。音程も悪い。ただ、ソフトな音色がしました。
さらに、CDでサクソフォーン奏者の演奏を聴きくらべ。最初はジャズ。ジャズにサクソフォーンが採用された理由は「音と音の間のうねり」にあるとのこと。デューク・エリントン・バンドにいたハーリー・カーネーと、モダンジャズのチャーリー・パーカーの聴きくらべ。赤松氏は「ハーリー・カーネーは伝承音楽に近い。チャーリー・パーカーは今でもこういうスタイルを練習している。発展性を持っていて進化する要素がある」と解説。次はクラシック。パリのコンセルバトワール教授を務めたマルセル・ミュールと、クロード・ドラングル。赤松氏は、マルセル・ミュールは「クラシックサクソフォーンの基本を作った。サクソフォーンとは思えないほど柔らかい音がする。ヴィヴラートが細かくて振幅が広い。ドラングルの演奏はヴィヴラートをかけなくなっている。ヴィヴラートは演奏年代を表す。年配の方はヴィヴラートをかける演奏が好き」と解説。

休憩後の第二部は、まずこの講座をプロデュースしている日下部吉彦氏と赤松氏が対談。赤松氏がサクソフォーンを演奏するようになったのは、テレビでキャノン・ボールアダレイの演奏を見たことがきっかけで、中学校から吹奏楽部に入ったとのこと。サクソフォーンは音が出やすい楽器だが、いい音にするのに苦労するとのこと。サクソフォーンの未来については、音量や運動性ではなく、自然な音に移行するだろう、楽器メーカーの話では、ウッディや癒し系などウォームな音を目指しているとのこと。アコースティックの時代に入るだろうとコメントしました。
ここからはサクソフォーンカルテットでの演奏。まずグラズノフ作曲/サクソフォーン協奏曲より「カンツォーネ・ヴァリエ」を博物館所蔵のサクソフォーンで演奏。フランスで作曲されたとのことですが、弦楽四重奏曲をサクソフォーンに置き換えたような作品で、まとまりがあり4人の奏者に緊密な関係が生み出されていました。こういう作品では、昔のサクソフォーンのほうが現代の楽器よりも素朴に聴こえていいです。赤松氏は博物館所蔵のサクソフォーンに慣れようとは思わないと言っていました。楽器構造がシンプルすぎるからだそうです。
つづいて、この作品の2曲目を楽器を変えて演奏。ソプラノ、アルト、テナー、バリトンから、テナー、バリトン、バス、コントラバスに1オクターブ下げて演奏。一番大きいコントラバス・サクソフォーンはなんと立って演奏。それほど大きい。また楽器を移動するのにも楽器の下に台車がついています。音色は弦楽器のコントラバスのようにドーっという響き。会場内は爆笑でした。この楽器は息を入れるのが大変だそうです。普通の人なら一息で一音しか出せないとのこと。
次に、サクソフォーンの運動性が分かる作品としてリヴィエ作曲/グラーヴェとプレストを演奏。ここからは現代のサクソフォーンで演奏。やはり現代の楽器のほうが使い慣れていることもあって演奏がぐっと安定しました。グラーヴェの盛り上がりがいい。プレストは細かな音符が連続。
続いて、ガーシュウィン作曲/「ポーギーとベス」セレクション。サクソフォーンならでは息遣いやフレージングが楽しめました。
最後は、赤松二郎作曲/M1(エムワンと読む)。さまざまな特殊奏法が登場。バリトン・サクソフォーンが高音を強奏したり、音を割ったり、ノイズを出したり、尺八のような息遣いのソロがあったり、クライマックスでキーンというリード音を鳴らしたり、サクソフォーン演奏の可能性を示唆する作品でした。
拍手に応えてアンコール。「総集編」ということで、サクソフォーン四重奏によるメドレー。何曲入っているかというクイズも兼ねていて、正解者1名にはケース入りのミニチュアサックスをプレゼントというおもしろい企画。演奏された曲は、パリのアメリカ人、古城、ボレロ、パストラール(アルルの女)、メヌエット(同左)、A列車で行こう、闘牛士のマンボ、北の宿から、テイク・ファイブ、ムーンライト・セレナーデなど。正解は14曲。私は12曲しか分かりませんでした。日下部氏が「今までのレクチャー・コンサートのなかで最高に盛り上がった」とコメントして終わりました。

サクソフォーンは最近まであまり好きな楽器ではありませんでしたが、トルヴェール・クヮルテットのトルヴェールの「惑星」を聴いてから興味を持つようになりました。また機会があれば聴いてみたいです。

(2005.10.4記)




生誕250年記念(2006年)モーツァルト・ツィクルスNr.8 大阪音楽大学創立90周年記念シンポジウム「オペラ活動の21世紀」