大阪音楽大学創立90周年記念シンポジウム「オペラ活動の21世紀」


   
      
2005年10月15日(土)15:00開演
大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウス

ミニコンサート
ヴェルディ/燃える心−歌劇「椿姫」第2幕より
ヴェルディ/穏やかな夜には−歌劇「ルイザ・ミラー」第2幕第3場より
チレーア/ありふれた話(フェデリーコの嘆き)−歌劇「アルルの女」第2幕より
ビゼー/花の歌「おまえが投げたこの花は」−歌劇「カルメン」第2幕より
プッチーニ/泣くなリュー−歌劇「トゥーランドット」第1幕より
プッチーニ/星は光りぬ−歌劇「トスカ」第3幕より
ジョルダーノ/ある日青空をながめて−歌劇「アンドレア・シェニエ」第1幕より
 田原祥一郎(テノール)
 浅井康子(ピアノ)

シンポジウム「オペラ活動の21世紀」
 パネリスト:井原広樹(演出家)
        岸田生郎(新国立劇場制作部制作部長)
        重松みか(声楽家)
        松村禎三(作曲家)
 コーディネーター:中村孝義(大阪音楽大学教授)

座席:全席自由


大阪音楽大学創立90周年を記念したシンポジウムです。入場は無料で入場整理券を大阪音楽大学ホームページから申し込みました。大阪音楽大学のキャンパスにはこれまで「大阪音楽大学ミレニアムホール特別講座レクチャーコンサート」で足を運んでいますが、ザ・カレッジ・オペラハウスは前を素通りしていたので、今回初めて中に入りました。客席は700席程度で奥行きはあまりありませんが、なかなかの構えです。

客席は5割程度の入り。シンポジウムに先立って「ミニコンサート」がありました。田原祥一郎(大阪音楽大学教授)のテノール、浅井康子(大阪音楽大学助教授)のピアノで7曲披露。田原はピアノの淵を持って歌いました。田原の歌声は大阪音楽大学ミレニアムホール特別講座第19回レクチャーコンサート「オペラのヒロインの死なせ方」で聴きましたが、今回もすばらしい歌唱。声量が豊かで張りのある声ですが自然な響き。美声のテノールです。一度オーケストラ伴奏で聴いてみたいです。ピアノの浅井もテノールと一体感のある伴奏で好演。7曲の中では「ありふれた話(フェデリーコの嘆き)」と「星は光りぬ」が演奏者の長所が生かされた演奏でした。「星は光りぬ」は冒頭のピアノ伴奏からゾクッときました。有名なアリアですが意外に短いですね。
演奏終了後は、客席から「ブラーボ」「ブラビー」の声がかかりました。こういうところはいかにもオペラですね。拍手に応えて1曲アンコール(演奏曲不明)。さらにこの曲の後半をもう一度演奏しました。ミニコンサートという粋にとどまらない立派な演奏でした。

休憩をはさんでシンポジウム「オペラ活動の21世紀」が開始。2時間程度の議論でした。コーディネーターの中村孝義氏がパンフレットに寄せた文章には「莫大な費用を必要とするオペラ上演」「なかなか上演の機会が得られない」「上演のために長い時間の拘束が余儀なくされる」など悲観的な状況認識が並んでいました。これを打開するための意見をパネリストにうかがうというのがこのシンポジウムの趣旨だったようです。結論から言うとあまりおもしろいシンポジウムではありませんでした。テーマが幅広かったために、パネリストの体験談に時間が多く裂かれてしまい話がうまくかみ合わず、明るい展望を切り開くような話は聞けませんでした。パネリスト個々のお話はおもしろかっただけに残念。途中で退席するお客さんが続出して、最後まで聞いていた人は200人くらいでしょうか。
シンポジウムの議論内容ですが、パネリストの話がかなり多岐に分散してしまったので体系的に書くのはやめて、部分的におもしろかった話だけ書きます。
演出家の井原広樹氏の話で興味深かったのは、「演出家とは「通訳」のようなもの」という話。「演出は作品に対してストレートに取り組むのがスタートだったが、だんだんと作品を解体してテーマを見出すようになっている。そのバランス感覚が難しい。」とのこと。「斬新な演出はお客さんが引きがちで集客が難しい」とも述べていました。「オペラは文化のバロメーター」なので「新国立劇場ができて誇らしい」と述べました。
新国立劇場制作部制作部長の岸田生郎氏は、新国立劇場の果たすべき役割について、「税金を使って運営しているわけだから、国民の支持をいだだけるように心がける」と述べました。具体的にはまず「今年からはじめた新国立劇場地域招聘公演を毎年続けていくこと」を挙げました。また、「新国立劇場で1年間で上演する11演目のうち、7演目は新制作だが、新制作の上演は歌手の拘束時間を4週間前にした。再演の上演も拘束時間を1週間から2週間に延ばした」とのこと。「この完全拘束によって、密度の濃い上演ができている」と成果を披露。「真摯に毎回いいものを作ることがすべてに波及する。常にきちっとしたものを作ることが重要。デコボコがあってはいけない」と述べました。今後については「オペラに足を運んでいただく、知っていただく努力が必要。一部の人が楽しむのではなく、税金を使うことがいいものだと思ってもらうようにしたい」と語りました。
声楽家(メゾ・ソプラノ)の重松みか氏の話は、欧米での体験談が多く楽しく聞けました。重松氏は「どういう演出でも文句は言わない。斬新な演出はおもしろいし混乱したりしない」とのこと。また、オペラ上演までの期間について「アメリカは3週間で初日を迎えるが、ドイツは再演の場合なら3〜4日で初演を迎えることもある」と紹介。「お金を払って聴きに来ていただいている以上、上演には社会的責任がある」と述べました。今後のオペラについては、「新しいアクションを起こしていかないとおもしろくなくなる。これまで支えられてきたものをどう発展させるかが課題」と述べました。
作曲家の松村禎三氏は、大阪音楽大学が新国立劇場で公演したオペラ「沈黙」の作曲者です。ボソボソした声で何を言っているのかよく聞き取れませんでした。「演出が定着する作品を作りたい」と述べていました。

(2005.10.18記)


大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウス



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