都響プロムナードコンサートNo.305


   
      
2003年7月6日(日)14:00開演
サントリーホール大ホール

広上淳一指揮/東京都交響楽団
庄司紗矢香(ヴァイオリン)

レーガー/ヴァイオリン協奏曲 [日本初演]
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」

座席:S席 2階LC 4列8番


カラヤンがアドバイスをして設計されたサントリーホールでコンサートを聴くのが数年来の夢でしたが、ようやくかないました。開場前にホール入り口で鳴るパイプオルゴールを聴いただけでも、格調の高さに身震いがしました。ワインヤード形式と呼ばれるホール構造は、やはり日本の他のホールにはない特徴を兼ね備えていると言えます。蛇足ですが、1階席と2階席の入り口が別々になっているのは少し意外でした。

この演奏会は、本来は大野和士が指揮を振る予定でしたが、頸部ねんざで来日できず、広上淳一が代役を務めることになりました。最近注目を浴びてきた大野だけに残念です。そういう事情もあってかチケットは全席完売でしたが、少し空席もありました。

プログラム1曲目は、レーガー作曲「ヴァイオリン協奏曲」。ヴァイオリンは庄司紗矢香。この演奏会が日本初演になりました(厳密に言うと、前日に東京オペラシティで同じ顔ぶれで行われた公演が初演ですが)。庄司はパガニーニ国際ヴァイオリンコンクールで史上最年少で優勝して、その後はまさに絶大な人気を誇っています。今年で20歳になったようです。
今回のレーガーは庄司の強い希望によって実現しただけに、大いに期待して聴きました。庄司が鮮やかな赤紫のドレスで登場。オーケストラは2管編成でした。指揮者だけではなくヴァイオリストにも譜面台が用意されていました。
作品は全体で1時間近い大作です。和音の使い方や旋律進行などはマーラーに似たところがありました。ある意味、作曲当時としては前衛的な要素を含んでいると言えるでしょう。
第1楽章では、庄司のヴァイオリンがオケに埋もれがちになるのが気になりましたが、だんだんノッてきたようで勢いのある演奏を披露しました。まず驚いたのはテクニックの正確さ。どのようなパッセージでも正確な音程で演奏されるなど、まさに何もかもが正確という印象を受けました。力強いボウイングなど伸びやかで勢いのある演奏でした。また、曲想に応じて弾き分ける多彩な表現力も有しています。カデンツァはまさに圧巻。
オーケストラ伴奏は、協奏曲とは思えないほどシンフォニックに作曲されています。広上淳一はバトンテクニックに優れていて、複雑なオーケストラ伴奏をコントロールしていました。ソロとオーケストラの一体感がじゅうぶん感じられる演奏でした。東京都響は低弦がすばらしいと感じました。ただし、この作品の伴奏としては、少し重厚すぎる部分もありました。
第2楽章は、重量感のある弦楽器がすばらしい。しかし、オーケストラ伴奏はもう少し交通整理ができたようにも感じました。ただ、これは座席のせいかもしれません。曲想としてはダラダラと続いており、メリハリに乏しいのが惜しまれます。
第3楽章は、ヴァイオリンに民謡風の主題が現れます。広上の指揮が絶好調。シンフォニーのように力強い演奏となりました。しっかりとしたスコアリーディングに基づき、この作品からさまざまな表情を引き出すことに成功しました。東京都響も好演で、この演奏会にかける意気込みが感じ取れました。庄司も最後までバテることなく弾ききりました。
作品自体は、内容的に優れているとは言えません。聴きどころは多いですが、なじみにくい作品です。今まで日本で演奏される機会がなかったのは、演奏時間の長さにも原因があるでしょう。今回の演奏は、この作品を親しみやすく演奏するのに成功したと言えます。録音でもう一度聴きたい名演でした。
庄司紗矢香はこの若さでソリストとしての風格をじゅうぶんに備えています。日本で一度も演奏されていない作品を選択する姿勢も気に入りました。すごいヴァイオリニストがいたものだと感激です。これからどこまで成熟していくのか予測不能です。今後も庄司の演奏会は足繁く通いたいと思います。

休憩後のプログラム2曲目は、ストラヴィンスキー作曲「春の祭典」。広上は奇を衒うことなく、正攻法のアプローチで演奏しました。早めのテンポ設定で爽快感のある演奏を披露しました。
第1部「大地礼賛」冒頭の木管楽器のソロはうまく、また浮き立ってきこえました。これはそれ以外の伴奏がサウンドとしてまとまっている証明でしょう。弦楽器もどっしりと力強く演奏。金管のパワーも炸裂で、特にホルンの鳴りのすさまじさには圧倒されました。「春の踊り」などはかなり速く演奏していましたが、東京都響も好演で応えました。ただし、トランペットが肝心なところで音を外したのが惜しい。技術的な困難さを感じさせない演奏であると断定するには、あと一歩届かないように感じました。
第2部「いけにえ」は、冒頭の弱奏でも演奏は安定していました。広上のバトンさばきが実に見事で、変拍子にも難なく対応していました。見応えのある指揮でした。筋肉質の引き締まった演奏で横綱相撲といえるほど余裕があり技術的に安定した演奏でした。シャープなスピード感にも事欠きません。ここまでオーケストラ全体として鳴るオケはなかなかないと思います。それだけどのパートもうまいと感じました。欲を言うと、技術的には問題がほとんどなかったために、逆にスリル感に不足していた印象があります。この作品には、ヒヤヒヤさせられる危なっかしさも必要だと感じました。実力のあるオーケストラだったので、もう少し挑戦的な解釈があってもよかったように感じました。早めのテンポ設定だったにもかかわらず、なんだか物足りなさが残りました。さらに付け加えると、細部をもう少し明確に整理して響かせて欲しい気もしました。これはブーレーズが指揮したCDを聴き込んでいることにも関係があるでしょうが、生演奏でそこまで求めるのは酷ですか?

演奏終了後は大きな拍手が巻き起こりましたが、広上はステージ上で数回礼をしたくらいであっさり退場してしました。残念。アンコールはありませんでした。

広上淳一は、代役を見事に果たしたと言えるでしょう。指揮をしている姿を見れば、意図している音楽設計が明確に感じ取れるタイプの指揮者だと感じました。視覚的に魅せられる指揮者です。現在は常任ポストを持っておらず、もっぱら都内のオーケストラを客演しているようです。関西で振ることがあればぜひ聴きにいこうと思います。

東京都交響楽団は、総合的に演奏技術が極めて安定しているオーケストラだと感じました。11月に音楽監督ベルティーニを伴って京都公演があります。大いに期待しましょう。

(2003.7.12記)


パイプオルゴール サントリーホール アーク・カラヤン広場



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