◆作品紹介
ショスタコーヴィチの全15曲の交響曲のなかで、最も演奏頻度が高い作品。
1933年のオペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」と1935年のバレエ「あかるい小川」について、1936年のソヴィエト共産党機関紙『プラウダ』に「音楽のかわりに荒唐無稽」「バレエの偽善」と題する記事が掲載され、ソヴィエト社会主義の方向に外れた作品であると厳しい非難を浴びた。
批判を率直に受け入れたショスタコーヴィチは、すでにリハーサルが終わっていた交響曲第4番(1934〜36年作曲)の初演を取り下げ、新たに交響曲第5番を作曲する。
約3ヶ月で完成し、初演は1937年11月21日(ソヴィエト革命20周年記念日)に、ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー交響楽団によって行われた。この初演の成功によって、ショスタコーヴィチは見事に名誉を回復した。苦悩から歓喜へ至る曲想など社会主義の勝利を歌ったような作品であるが、ヴォルコフ編『ショスタコーヴィチの証言』によると、フィナーレは「強制された歓喜」であるとされる。
なお、この曲を「革命」と呼んでいるのは日本だけであり、ショスタコーヴィチは副題をまったくつけていない。
この作品にはスコア上の問題がいくつか指摘される。『レコード芸術』1998年10月号と11月号で「ムラヴィンスキー直筆(実使用譜)でわかったショスタコーヴィチ交響曲第五番演奏の秘密」と題する文書を金子建志氏が寄稿しており、詳細については参照されたい。
(1)第4楽章284小節4拍目は、出版譜では「As、C」となっているが、ムラヴィンスキーのスコアに書かれた「F、As」が正しい。
(2)第4楽章324小節(=練習番号131)からのテンポは出版譜では「四分音符=188」となっているが、ムラヴィンスキーのスコアに書かれた「四分音符=88」が正しい。
◆CD紹介
演奏団体 | 録音年 | レーベル・CD番号 | 評価 |
スクロヴァチェフスキ指揮/ミネアポリス交響楽団 | 1961 | マーキュリー UCCP7096 | D |
ストコフスキー指揮/ロンドン交響楽団 | 1964 | BBCレジェンズ(輸) BBCL4165-2 | C |
チェリビダッケ指揮/スウェーデン放送交響楽団 | 1967 | ヴィブラート(輸) VLL19 | B |
朝比奈隆指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 | 1981 | ビクター/タワーレコード NCS559 | D |
広上淳一指揮/ノールショピング交響楽団 | 1993 | RCA/タワーレコード TWCL2013 | D |
マズア指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 | 2004 | LPO(輸) LPO0001 | C |
大植英次指揮/ハノーファー音楽大学管弦楽団 | 2006 | ハノーファー音楽大学(輸) HMTH0514 | D |
スクロヴァチェフスキ指揮/ミネアポリス交響楽団 【評価D】
スクロヴァチェフスキがミネアポリス交響楽団の首席指揮者に就任して間もない時期の録音。
スクロヴァチェフスキの演奏解釈は興味深いが、オーケストラの力量不足ばかりが耳につく。音程がかなり悪い。特に弦楽器の音程は最悪で、線も細い。他の楽器でも技術的な問題が散見される。音色も乾燥していて潤いがない。マイク位置が近いようで、残響があまり収録されていないため、響きが貧弱である。
スクロヴァチェフスキは見通しのよいすっきりした音響を目指しているようで、音符を短めに処理しているが、重厚感がまるでない。全体的にホルンがおとなしい。
第1楽章冒頭と253小節からのa tempo con tutta forzaは、速いテンポで演奏。第2楽章はラスト2小節でアッチェレランド。第3楽章はチェロとコントラバスが鳴らないのが残念。第4楽章は、8小節の4拍目と54小節4拍目のアクセント付きの四分音符をテヌート気味に伸ばして演奏(読売日響第116回東京芸術劇場名曲シリーズでも同じ解釈)。352小節からリタルダンドして終わる。
ストコフスキー指揮/ロンドン交響楽団 【評価C】
ライヴ録音。全体的に早めのテンポで演奏されるが、アッチェレランドやリタルダンドで細かくテンポを操作する。強い音圧で、濃厚ではっきりした表情を作り上げる。弦楽器のアクセントは強めで切れ味が鋭い。また、レガート奏法で旋律全体にスラーをつけて流れるように演奏する。主観的な性格が強い演奏と言える。
第1楽章120小節から速めのテンポで演奏され、熱狂的な盛り上がりを見せる。315小節のトランペットはミュートをつけて演奏している。第2楽章も速いテンポで躍動感がある。第3楽章は音量が大きめ。115小節でクラリネットと第2チェロの旋律にホルンを追加している。第4楽章247小節から速いテンポでそのまま速いテンポで演奏される。ラスト2小節はスコアにないドラがクレッシェンドして終わる。
チェリビダッケ指揮/スウェーデン放送交響楽団 【評価B】
ライヴ録音。旋律を深く歌わせて濃厚な表情を作り上げる。緩急強弱の表情が豊か。伴奏にも意志が徹底されている。スラーの音符は拍の長さをしっかり伸ばすだけでなく、次の音符につなげる意識を持っている。チェリビダッケのうなり声や指揮台を踏みしめる音が聴こえる。
第1楽章は全楽章で最もチェリビダッケらしい演奏。冒頭は遅いテンポだが、感情がこもっているので妥当なテンポとも思える。じれったい気持ちにさせない。120小節から徐々にテンポアップ。247小節4拍目裏から248小節2拍目までチェロ(?)がユニゾンのオクターヴ下を演奏する。
第2楽章は標準的なテンポ。冒頭のチェロとコントラバスがやや弱々しく始まる。軽い演奏で、スケルツォの性格を意識したと思われる。強奏でも音量はあまり大きくない。ボウイングもあまり強い力をかけない。
第3楽章はやや遅めのテンポ。45小節からの盛り上がりが鳥肌もので必聴。編集の問題なのか、最後の3小節が収録されていない。
第4楽章冒頭のティンパニの音色が濁っているのが残念。71小節から煽られるようにテンポアップして、速いテンポで進む。119小節からのトロンボーンはテヌートで演奏。144小節(Poco animato)からはやや速めのテンポ。247小節からのコーダはかなり遅いテンポで始まる。324小節からは金管がバテたのかあまり鳴らない。
朝比奈隆指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 【評価D】
1981年2月16日の第172回定期演奏会(フェスティバルホール)のライヴ録音。朝比奈隆2回目で最後の録音。同曲の邦人初の録音である。
朝比奈は格調高く聴かせたいようだが、オーケストラの技術が対応できていない。音程悪さがかなり気になる。弦楽器の線が細く、響きが貧弱である。宇野功芳氏は解説で「技術的なアラを探すような聴き方は厳にいましめるべき」と書いているが、許容範囲を越えている。ホールの音響せいか、各パートの動きが分離して聴こえる。
第1楽章120小節からのピアノ・チェロ・コントラバス、188小節からのティンパニ・小太鼓など、テンポの変わり目で落ち着かない。215小節からはティンパニと小太鼓以外をリタルダンドする珍しい解釈。 第4楽章は完成度上がって朝比奈が目指したと思われる音響が聴かれる。343小節でホルンを強調する。
広上淳一指揮/ノールショピング交響楽団 【評価D】
広上淳一が首席指揮者を務めていたノールショピング交響楽団を指揮した録音。
収録されている音量が小さいため、ボリュームを上げて聴く必要がある。また、マイク位置が遠いのかステレオ効果もいまひとつで、左右があまり分離して聴こえない。
オーケストラは丁寧に演奏しているが線が細い。響きが直線的で硬い。響きが広がらないため、無表情に聴こえる。強奏でも混濁しない。音程の乱れが少し気になる。第1楽章243小節のLargamenteからテンポを落としてゆっくり演奏。第3楽章も遅いテンポで演奏している。
マズア指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
ロンドン・フィル自主制作レーベルからのリリースで、首席指揮者のマズアが指揮したライヴ録音。直接音が多く、音響がデッドで広がりに欠ける。
オーケストラの編成もあまり大きくないようである。音程が不安定で、少し頼りない。縦線も落ち着かないので、緊張感に欠ける。金管楽器の音圧が低くあまり盛り上がらない。マズアのうなり声は頻繁に聴こえる。
聴きどころは、第4楽章練習番号121からの超スローテンポ。驚異的な遅さで、最後まで遅いテンポのまま維持される。練習番号126の低弦、練習番号128の大太鼓も重々しい。『ショスタコーヴィチの証言』に書かれた「強制された歓喜」を表現しているようである。
第1楽章練習番号39からのPiu mossoは速いテンポで演奏する。
大植英次指揮/ハノーファー音楽大学管弦楽団 【評価D】
大植英次が指揮科で終身教授を務めるハノーファー音楽大学の管弦楽団を指揮したライヴ録音(ハノーファー音楽大学大ホール)。
音大生ということで期待したが、期待外れの演奏。音符の処理の仕方がアマチュアレベルである。もっと演奏精度を上げてほしい。楽器によって上手下手があるが、弦楽器の音程がよくないのがかなり耳につく。木管楽器のソロ、トロンボーン、テューバは健闘している。
大植英次は、内声を聴かせようとしている。また、アクセントをテヌート気味に演奏している。
第2楽章はラスト2小節でリタルダンド。第4楽章284小節の4拍目を「F、As」で演奏していて注目される。
2001.2.14 記
2007.8.16 更新
2007.12.22 更新
2008.2.17 更新
2008.6.30 更新
2009.3.6 更新
2010.8.24 更新