シューベルト/交響曲第7番「未完成」


◆作品紹介
シューベルト25歳の作品。副題が示すように第2楽章までしか完成されていない。第3楽章スケルツォは、冒頭の9小節までがオーケストレーションされて中断し、残りはスケッチのみが残されている。
シューベルトがシュタイエルマルク音楽協会の名誉会員に推薦されたお礼に、1822年に作曲し、同協会役員のヒュッテンブレンネルに第1楽章と第2楽章のスコアを送った。しかし、ヒュッテンブレンネルは同協会に送付せずにしまいこんでしまったため、作品の存在が忘れられていた。初演は作曲から40年以上経った1865年に、ヨハン・ヘルベックの指揮で行なわれた。シューベルトの交響曲で初めてトロンボーンが使われている。
未完成のまま放置された理由は、シューベルトが2楽章だけで完成された作品と考えたためと推測されている。事実、2楽章だけで高い芸術性を持った作品である。
交響曲の番号には少し混乱が見られる。従来は「第8番」とされていたが、国際シューベルト協会編『シューベルト作品目録改訂版』(1978年出版)で、「第7番」と改められた。そのため現在では「第7(8)番」と表記されることがある。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1950 EMIクラシックス TOCE14034
チェリビダッケ指揮/スイス・イタリア語放送管弦楽団 1963 アウラ(輸) AUR128-2
テンシュテット指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1984 TDKコア TDKOC021
アーノンクール指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1992 テルデック WPCS10825
ブリュッヘン指揮/18世紀オーケストラ 1993 フィリップス PHCP10512
スダーン指揮/東京交響楽団 2009 東京交響楽団 TSOCD007
久石譲指揮/東京フィルハーモニー交響楽団 2009 ワンダーランドレコーズ WRCT2001


フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
フルトヴェングラー同曲唯一のスタジオ録音。死人の顔を見るような涼しさと透明感がある。迫り来る死の怖さも感じられる。弦楽器主体の演奏で、主旋律以外はあまり聴かせない。全奏でも混濁しない。
第1楽章は122小節からテンポを落としてゆっくりと盛り上げる。176小節からトロンボーンが生音で強奏する。336小節からの弦楽器の美しさは格別で、ステレオ録音で聴きたかった。第2楽章はやや遅めのテンポ。96小節から大きな音量と強い音圧で、意志を持って演奏される。


チェリビダッケ指揮/スイス・イタリア語放送管弦楽団 【評価C】
ライヴ録音。音像が遠少しもやもやしている。チェリビダッケにしては珍しく、遅くない標準的なテンポ設定である。オーケストラは技術的にはいまひとつで、音程も悪い。
第1楽章は強奏で音符にスピード感があり、特にfzでは音圧が瞬間的に強くなる。第2楽章は音符を長めにとって、ゆったり流れる。
チェリビダッケには同曲の正規録音がないため、貴重な音源といえる。


テンシュテット指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
1984年4月11日の東京簡易保険ホール(現ゆうぽうとホール)でのライヴ録音。ロンドンフィル音楽監督を務めていたテンシュテットの初来日だった。
大きな流れで作品をとらえている。音符を長めにとって丁寧に鳴らす。アクセントもテヌート気味に演奏する。fzも鋭くなく音の立ち上がりはやさしい。弦楽器主体で管楽器はあまり聴こえないが、随所でオーボエがよく聴こえる。高貴な雰囲気で、アーノンクールとは対局にある演奏と言える。聴けば聴くほど味が出てくる演奏である。
第1楽章から150小節からのフルートとクラリネットがトランペットのように聴こえる。176小節からのトロンボーンがあまり聴こえない。第2楽章は遅めのテンポで、さらにおだやかな表情でたっぷり歌う。103小節からの第2ヴァイオリンとヴィオラの三十二分音符をしっかり響かせる。
当日のリハーサルを13分収録している。テンシュテットは英語で話していて、言葉は聞き取りにくい。ほとんど演奏を止めないで、指揮しながらしゃべって指示している。冒頭には団員の笑い声が聴こえる。


アーノンクール指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 【評価B】
アクセントで勢いをつけて、音符を鋭角的にとがらせる。アクセントやデクレシェンドで音価にメリハリをつける。不必要な響きを削ぎ落とし、見通しのよい音響を聴かせる。響きが硬く、オーケストラを自由にのびのび歌わせないようにコントロールしていて、ピリピリした緊張感が張り詰めている。リズム音型を主旋律とほぼ対等に鳴らすため、意外な不協和音が聴こえる。随所に古楽器奏法を取り入れている。
第1楽章20小節でトロンボーンがfzを叩きつけるように激しく表現する。36小節でトランペットが突出して聴こえる。134小節からクラリネットとトロンボーンの掛け合いがおもしろい。第2楽章3小節からの第1主題はチェロの対旋律を聴かせる。102小節からスタッカートを軽く短く聴かせる。


ブリュッヘン指揮/18世紀オーケストラ 【評価A】
ライヴ録音。古楽器での演奏で、音程が低くヴィブラートが少ない。シューベルトの作品とは思えないほど金管楽器がよく鳴る。強奏は重厚に悲劇性を持って響く。音符を深くえぐりだすような姿勢である。余韻をあまり響かせず、アクセントやfzの一点を狙った鳴らし方がパワフルでパンチ力がある。硬めのマレットで叩かれるティンパニも俊敏で瞬発力があり切れ味が鋭い。アンサンブルも抜群で乱れがない。
第1楽章85小節からはテンポを落とす。122小節からの盛り上がりは、死への恐怖すら感じる。第2楽章は速めのテンポ設定。冒頭の弦楽器メロディーの音色はやや硬い。237小節からの強奏はトランペットの鳴りがすごい。


スダーン指揮/東京交響楽団 【評価C】
第565回定期演奏会(2009年3月21日 サントリーホール)のライヴ録音。自主制作盤のためか、録音は細部があまり鮮明ではないのが残念。
全体的に速めのテンポ設定で、ふわっと宙に浮くような柔らかい響きが魅力である。シューベルトにしては響きが軽い。強奏は金管楽器がよく鳴って決然とした表情である。ティンパニも硬い音色で叩かれる。
第1楽章9小節から中低弦のリズム音型が、クレシェンド・デクレシェンドの抑揚を大きくつける。85小節などのfzのついた二分音符は音価を維持せず減衰させる。ラスト5小節のffの四分音符3つは、短く硬めに演奏。最後の音符は弦楽器にトレモロがついていないことを意識させて終わる。
第2楽章は冒頭のヴァイオリンのメロディーがややオーバー気味に抑揚をつけて歌う。また、弦楽器がヴィブラートを抑制したピリオド奏法を適所で採用している。なかでも96小節からのffは音符を短めに処理して全体の見通しをよくする効果を上げている。演奏終了後の拍手は、完全に響きが鳴り終わるまで長い間がある。演奏の余韻を楽しめる良識ある聴衆である。


久石譲指揮/東京フィルハーモニー交響楽団 【評価C】
「久石譲 Classics vol.1」(2009年5月24日 サントリーホール)のライヴ録音。作曲家の久石譲が指揮した演奏として注目されるが、特段に目新しい演奏解釈はない。弦楽器主体の音響作りで、細部も丁寧に聴かせる。音色は明るめで、あまり厳格さはない。アインザッツや音程など、演奏精度の向上が求められる。
第1楽章は、弦楽器の十六分音符を一音ずつはっきり丁寧に聴かせる。ここまでくっきり聴かせる演奏は珍しい。40小節でホルンを十分に伸ばした後、42小節からの第2主題はテンポを落とす。テンポが遅めで、後半に進むにつれ、間延び感が拭えない。
第2楽章は、66小節からのクラリネットソロは、ppにふさわしい弱音で演奏される。ティンパニは律儀に音符を刻むが、響きが浅い。243小節の八分音符3つは、重みを持って和音を聴かせる。



2008.6.3 記
2008.10.3 記
2009.3.13 記
2009.8.8 記
2010.3.20 記
2011.10.26 記


シェーンベルク/浄められた夜 ショスタコーヴィチ/交響曲第5番