◆作品紹介
「ジダーノフ批判」を浴びた交響曲第9番から8年ぶりに作曲された。1953年3月にスターリンが亡くなると、ハチャトゥリアンの論文を先頭に「雪どけ」と呼ばれる自由主義的風潮が現れた。エレンブルグの小説『雪どけ』(1954〜1956年)において、主人公がこの作品をラジオ放送で聴く場面がある。ショスタコーヴィチはこの作品で「人間の感情と情熱を描きたかった」と述べているが、ヴォルコフ編『ショスタコーヴィチの証言』では「この交響曲でスターリンを描いた」とする。
第2楽章Allegroは、『証言』では「おおざっぱに言って、音楽によるスターリンの肖像である」とする。「二分音符=176」の高速テンポで4分ほどで終了するが、正しくは「二分音符=116」ではないかとする説もある。第3楽章ではショスタコーヴィチのイニシャルを表わす「D-S-C-H」の音型がはっきりと登場し、これ以降多くの作品で使用される。また、モスクワ音楽院の教え子だったエルミーラ・ナジーロヴァを示唆する「E-A-E-D-A」音型がホルンで演奏される。
初演は、1953年12月にムラヴィンスキー指揮のレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団によって行なわれた。
◆CD紹介
演奏団体 | 録音年 | レーベル・CD番号 | 評価 |
スヴェトラーノフ指揮/ソヴィエト国立交響楽団 | 1968 | ICAクラシックス ICAC5036 | C |
スクロヴァチェフスキ指揮/ベルリン・ドイツ交響楽団 | 2003 | ヴァイトブリック SSS0076-2 | B |
スヴェトラーノフ指揮/ソヴィエト国立交響楽団 【評価C】
ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ録音。モノラル録音で、細部がくすんでいて不鮮明で貧相。テクニックが劣るうえに、録音のせいか生気に欠けエネルギーに乏しい。後述するように歴史的意義はあるが、鑑賞するには他の音源のほうがいいだろう。
第1楽章が始まる前から、聴衆の野次のような叫び声が聴こえる。演奏会前日にソ連軍がチェコスロヴァキアに侵攻した「プラハの春」に抗議する声と思われる。30秒ほどで静まるが、スヴェトラーノフはよく演奏を続けたものである。208小節でフルートがリタルダンドする。393小節のトランペットの八分音符はテヌート指示だが、スタッカート気味に演奏する。第2楽章は小太鼓がテンポに乗り遅れる。213小節からの二分音符はアクセントをつけて減衰気味に演奏する。第3楽章295小節からトランペットと打楽器が華やかに演奏。第4楽章67小節からのAllegroは木管楽器の十六分音符が危なっかしい。落ちそうになっている楽器があるが、突進力がすごい。演奏終了後は大歓声と熱狂的拍手がすさまじい。
スクロヴァチェフスキ指揮/ベルリン・ドイツ交響楽団 【評価B】
ベルリン・フィルハーモニーでのライヴ録音。演奏終了後の拍手も収録している。
低弦の引き締まった音色がすばらしい。鋭く切り込むような音圧もぞっとするほど。管楽器と弦楽器がよく分離されていて、ちょうどいいバランスで、ここまで弦楽器と木管楽器がよく聴こえる演奏は珍しい。強奏を金管楽器と打楽器で塗り潰すこともない。響きや和音が必要以上に厚くならない。むしろ抑制された薄い響きである。
第1楽章冒頭の弦楽器はクレシェンド・デクレッシェンドと抑揚をつけて、意味深く語る。スターリンの恐怖を音化したかのよう。151小節でクラリネットがパイプオルガンのように響くのが驚き。木管楽器ソロの響きは薄い。228小節から続く八分音符に中身が詰まっている。337小節からクラリネットの対旋律を聴かせる。428小節からの強奏も粗くならずに丁寧に演奏する。660小節3拍目裏で第1ヴァイオリンの音程が乱れる。調号の見落としか。
第2楽章の八分音符の短め。音色が乾燥しているので、盛り上がりに欠ける。後半に向けてテンポが遅くなるのが残念。
第3楽章46小節からの木管アンサンブルによる第2主題がかわいらしい。154小節からホルンはあまり強く吹かれない。297小節からのヴァイオリンによる第2主題は四分音符をテヌート気味に演奏。359小節からの強奏もじっとりとした重苦しさはなく軽い。
第4楽章361小節からのシンバルはff指定だが控えめ。
2013.5.17 記