◆作品紹介
モーツァルト後期3大交響曲のなかの1曲。モーツァルトの死の3年半前に完成された。交響曲第25番と並んで、短調で書かれている。トランペットとティンパニを欠く楽器編成である。
初演日時は不明で、モーツァルトの生前には演奏されなかったとかつては考えられていたが、最近の研究では生前に演奏されたことが確実視されている。その根拠として、作曲後間もない時期に筆者譜が多く残されていることや、第2稿で初版にはなかったクラリネットが追加されていることが挙げられる。
◆CD紹介
演奏団体 | 録音年 | レーベル・CD番号 | 評価 |
トスカニーニ指揮/NBC交響楽団 | 1938〜9 | ナクソスヒストリカル 8.110895 | D |
フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1948 | EMIクラシックス TOCE14053 | C |
カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1970 | EMIクラシックス TOCE14065 | B |
チェリビダッケ指揮/シュトゥットガルト放送交響楽団 | 1973 | リヴィングステージ(輸) LS4035159 | B |
レヴァイン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1989 | グラモフォン UCCG5011 | C |
ブリュッヘン指揮/18世紀オーケストラ&エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団 | 1991 | フィリップス PHCP5295 | B |
ショルティ指揮/バイエルン放送交響楽団 | (P)1997 | ファーストクラシックス(輸) FC126 | B |
宇野功芳指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 | 2005 | エクストン OVCL00107 | D |
ペシェク指揮/チェコ・ナショナル交響楽団 | 2005 | ビクター VICC60742 | C |
ミンコフスキ指揮/ルーヴル宮音楽隊 | 2005 | アルヒーフ UCCG50018 | C |
トスカニーニ指揮/NBC交響楽団 【評価D】
トスカニーニ3回目の録音。録音はノイズがほとんどなく聴きやすい。
意外に肩の力が抜けていて、音圧はあまり高くない。スコアにないアーティキュレーションやテンポに緩急をつけて演奏される。
第1楽章冒頭の第1主題は、音量に変化をつけて歌わせる。また、インテンポではなく、44小節からの第2主題はテンポを落とす。第2楽章はテンポが速く、三十二分音符がせかせかしていてせせこましい。第3楽章第1主題は、アーフタクトにスラーをつけている。音価を長めに取って、旋律の横の流れを重視している。カラヤンファンも驚くほどのレガートで聴かせる。第4楽章は速めのテンポだが、71小節および247小節からの第2主題でテンポを落とす。
フルトヴェングラー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
クラリネットなしの第1稿による演奏。ゴツゴツした感触のモーツァルトで、ベートーヴェンと同じアプローチである。低弦が力強く、曖昧さを許さないはっきりした表現である。癒し系とは対極にある厳格な演奏と言える。たまに弦楽器の音程が合わないことがあるのが残念。
第1楽章はテンポが速く、行進曲のようである。八分音符を演奏するヴィオラが忙しそうである。第3楽章は低弦の進行がはっきり聴こえる。13小節1拍目と2拍目にスラーをつけずに演奏。第4楽章は速いテンポだが、なめらかに流れる。
録音はモノラルだが、情報量が多い。トラックの最後が残響の途中でブチッと切れるのが残念。
カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
カラヤン3回目の録音。弦楽器がたっぷり歌い込む。奏者が多いので、量感もあり、豊かな響きがいい。チェロとコントラバスの響きも重厚である。木管楽器の美しいソロも絶品。第1楽章はpとfの表情をはっきり対比させる。第3楽章3分32秒付近で、珍しくカラヤンのうなり声が聴こえる。
チェリビダッケ指揮/シュトゥットガルト放送交響楽団 【評価B】
ライヴ録音。残響を多く含んでいる。ヴァイオリンの響きがやや金属的に聴こえる。
少し乱れがあるものの、全体的に整ったアンサンブルを聴かせる。チェロとコントラバスが力強い。チェリビダッケにしてはかなり速いテンポ設定で演奏している。特に第4楽章は驚くほど速いが、オーケストラはついてきている。第3楽章メヌエットは、4小節(もしくは8小節)単位でクレシェンド・デクレシェンドをつけている。
レヴァイン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
ヴァイオリン主体の柔らかい響き。弦楽器が木管楽器のように聴こえる部分があるなど、ウィーンフィルの魅力を堪能できる。音符を長めに演奏していて、少しひきずっているように聴こえる。古楽器奏法を部分的に取り入れているが中途半端で、音程や縦線が乱れるなど演奏精度が低くなって逆効果である。聴いていて居心地が悪い。スコアに書かれた反復記号をすべて実行しているので、演奏時間が長くなっている。
ブリュッヘン指揮/18世紀オーケストラ&エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団 【評価B】
ライヴ録音。ブリュッヘン2回目の録音で、合同オーケストラでの演奏である。第2楽章は18世紀オーケストラのみで演奏している。
古楽器による演奏だが、音程は低くない。表現も違和感が少なく受け入れやすい。速めのテンポで音符を短く処理して、余計な残響を取り除く。スリムで見通しがよく、フレーズを構成する楽器の成分がよく分かる。木管楽器とホルンも大きめに聴かせて、具だくさんで楽しい。伴奏も表情豊かで、随所で新しい発見がある。反復はスコアどおりにすべて実行する。
第1楽章冒頭は、ヴィオラの八分音符を大きめに聴かせて、せき立てるようなスピード感がある。94小節1拍目の四分音符はテヌート気味に伸ばす。115小節頃と205小節頃にホルンの伴奏を目立たせる。最後の二分音符は、パイプオルガンのような荘厳な音色がする。第2楽章では、13小節などの装飾音を音符の拍内で処理するのが特徴。104小節4拍目でホルンのゲシュトップフト奏法が炸裂する。第3楽章は速めのテンポで機械的に演奏。28小節でいったん音量を落としてからクレシェンドする。両翼配置のため、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの左右の掛け合いも楽しい。第4楽章は、147小節頃と301小節頃にホルンを聴かせる。294小節と298小節のフルートの点線スラーは、スラーではなくタンギングで演奏している。
ショルティ指揮/バイエルン放送交響楽団 【評価B】
(P)1997(=1997年が最初の発行年)の記載はあるが、録音年の表記はない。演奏後に拍手が収録されているので、ライヴ録音と思われる。
重厚な響きで柔らかく充実した響きが聴ける。堂々としていて風格がある。いきいきした生命力ある表情が魅力である。音程がややずれるのが少し気になる。コンサートマスターのものと思われる鼻で息を吸う音がよく聴こえる。
第1楽章はやや遅めのテンポでどっしり構える。第2楽章はpでも大きめの音量で演奏している。第4楽章293〜294小節と297〜298小節で、ヴァイオリンの音量を落とす。
宇野功芳指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 【評価D】
音楽評論家の宇野功芳が初めて大阪フィルを指揮した演奏会「宇野功芳の“すごすぎる”世界」のライヴ録音。
スコアにない小細工が多い。たっぷり歌い込みたい部分でテンポを落とすが、不自然で落ち着いて聴けない。音楽の流れも滞ってしまう。オーケストラは指揮棒によくついてきていて大きく乱れることはない。音響は意外にスマート。
第1楽章はヴァイオリンの3小節1拍目と2拍目のスラーをグリッサンドで演奏する。10小節1拍目と2拍目のスラーも同様。10小節、44小節、68小節、153小節など頻繁にテンポを落として演奏する。211小節の前ではパウゼ。これほどまでにテンポを操作する演奏は他に見当たらない。第3楽章はトリオでテンポダウンしてしまうので長ったらしく感じる。
ペシェク指揮/チェコ・ナショナル交響楽団 【評価C】
木管楽器がよく聴こえるのが新鮮。柔らかい響きに包まれるが、一方で弦楽器は弦を強く擦るガサガサした音色で、ざらつきのある触感である。音程や縦線が合っていなかったり、テンポが次第に遅くなったり、技術的な弱さがあり、繊細さが削がれる。反復記号は第2楽章をのぞいて実行する。
第1楽章第1主題は少し引きずるように演奏。ヴァイオリンの跳躍が下手。最後の二分音符は木管を聴かせて長め。第2楽章はやや速めのテンポで始まるが、次第に遅くなってしまう。第3楽章は木管楽器が顔を出すのはおもしろいが、運指がもたもたする部分がある。第4楽章は147小節からホルンがまったく鳴らない。176小節からの木管楽器と弦楽器の掛け合いがおもしろい。
ミンコフスキ指揮/ルーヴル宮音楽隊 【評価C】
ライヴ録音。対向配置での演奏。古楽器奏法をこれ見よがしに強調しないので、とっつきにくさはない。音符を短めに処理して、スリムな音響を目指している。速めのテンポで軽快に弾む。コントラバスが強調され重心が効いている。強奏ではsfが効かせる。反復記号はすべて実行する。ミンコフスキの呼吸がよく聴こえる。
第1楽章冒頭はヴィオラの八分音符の伴奏がせかせかと忙しそうに演奏する。34小節からのsfはコントラバスが効いてうなっているように聴こえる。第2楽章はビブラートを抑えた硬い音質。第3楽章は勢いをつけて演奏。マルカート気味に音符を短く切って、無駄な響きがない。メヌエットらしい優雅さはないが、小気味よい。第4楽章は4小節からホルンを効かせる。294小節からの木管楽器の上昇音型はスラーではなくタンギングをしている。
2007.8.11 記
2008.1.22 更新
2008.3.21 更新
2008.6.25 更新
2008.11.17 更新
2009.4.4 更新
2010.11.28 更新
2012.2.7 更新
2013.8.28 更新