メンデルスゾーン/劇音楽「真夏の夜の夢」


◆作品紹介
「序曲」(作品21)と、13曲の「劇中音楽」(作品61)から成る。シェイクスピアの戯曲『真夏の夜の夢(原題:A Midsummer Night's Dream)』(1595年)をもとに作曲された。
「序曲」は、メンデルスゾーン17歳の1826年に作曲された。四手ピアノ連弾用に作曲され、その後オーケストラに編曲された。初演は、1827年2月20日に、レーヴェの指揮で行なわれた。
「劇中音楽」は、「序曲」完成から17年も経った1843年に、プロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルムの命を受けて作曲された。序曲のモティーフが劇中音楽にも転用されており、全曲の統一感が図られている。初演は、1843年10月14日にポツダム宮殿で行なわれた
劇中音楽には、登場人物のセリフがドイツ語と英語で書き込まれている。第3曲「まだら模様のお蛇さん」と終曲には、ソプラノ独唱2名と女声合唱が加わる。第9曲「結婚行進曲」は、結婚式BGMの定番。
低音金管楽器のオフィクレイド(Ophicleide)が用いられるが、現在ではテューバで代用される。
なお、物語の時期が「夏至」に当たることから、タイトルが「夏の夜の夢」と訳されることもある。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
小澤征爾指揮/ボストン交響楽団、タングルウッド音楽祭合唱団、バトル(S)、シュターデ(Ms)、吉永小百合(語り) 1992〜1994 グラモフォン UCCG4330
ブリュッヘン指揮/18世紀オーケストラ、グルベキアン合唱団、ヴェレス(S)、モニス(S) 1997 グロッサ(輸) GCD C81101


小澤征爾指揮/ボストン交響楽団、タングルウッド音楽祭合唱団、バトル(S)、シュターデ(Ms)、吉永小百合(語り) 【評価A】
全曲盤とあるが、第6曲「メロドラマ」のすべてと、それ以外の曲も一部をカットしている。
曲想にふさわしいフレッシュでリズミカルな演奏。室内楽のように緻密だが、表情が繊細で小回りが効く。肩の力が抜けていてリラックスして聴ける。語感がはっきりしていて、必要以上に幻想的な表情を強調しない。コントラバスが効いて見通しがいい。強奏の金管楽器の鳴りもすばらしい。独唱と合唱は英語で歌われる。
台本は松本隆。ブックレットに全文が掲載されているので、誰のセリフなのか分かる。スコアに記載されているナレーションから追加したり削除したりアレンジを加えている。また、セリフを話す登場人物も変えている。吉永小百合の語りは別収録。登場人物によって声色を変えて話す。
「序曲」は神妙に始まる。第1曲「スケルツォ」8小節の木管楽器の上昇音型は、1拍目と2拍目をスラーでつないで演奏する。第3曲「まだら模様のお蛇さん」は、ソプラノが透き通った声でハキハキと歌う。79小節の「good night, good night」を「so so good night」と変えて歌う。第9曲「結婚行進曲」は速めのテンポ。14小節から木管楽器と弦楽器が三連符+四分音符を分厚く聴かせて盛り上げる。


ブリュッヘン指揮/18世紀オーケストラ、グルベキアン合唱団、ヴェレス(S)、モニス(S) 【評価C】
ライヴ録音。語りなしでの演奏。「全曲」とあるが、第4曲「メロドラマ」、第6曲「メロドラマ」、第8曲「メロドラマ」、第12曲「メロドラマ」はカット。他の曲も語りがメインの部分がカットされている。
古楽器での演奏で、音程が低い。オーケストラの編成も小さく、コンパクトな響き。ヴァイオリンは対向配置。
音符を短く処理して、スピード感を作り出す。アクセント気味に勢いをつけて、シャープで切れ味が鋭い。ヴィヴラートや余韻を抑制した引き締まった音響だが、作品の雰囲気からすると硬い。落ち着いた大人のサウンドで、妖精が出てくる雰囲気はない。フルートの落ち着いた深みのある音色が魅力。テューバではなくオフィクレイドで演奏している。歌詞は英語で歌われるが、あまり明瞭に聴こえない。
「序曲」は冒頭のヴァイオリンの細かな音符がカチャカチャうるさく感じる。第1曲「スケルツォ」は、162小節からホルンがsfをゲシュトプ奏法で聴かせる。第2曲「メロドラマ」Allegro vivaceは遅めのテンポ。



2010.8.9 記


メンデルスゾーン/交響曲第4番「イタリア」 モーツァルト/交響曲第40番