普門館ライヴ1979
(ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱」)


   
 
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
アンナ・トモワ=シントウ(ソプラノ)、ルジャ・バルダーニ(アルト)、ペーター・シュライアー(テノール)、ジョセ・ヴァン・ダム(バリトン)
ウィーン楽友協会合唱団
1979年10月21日 普門館

カラヤンのメッセージ
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱」


グラモフォン UCCG9396



カラヤン7度目、ベルリンフィルは6度目の来日公演のライヴ録音です。いずれも東京普門館で演奏されました。このCDに収録されている演奏会は、来日公演の5日目にあたります。この年の来日公演では、ハイドン「天地創造」やヴェルディ「レクイエム」など大規模な作品がプログラムに並んでいます。現在では考えられませんね。ちなみに、この年の来日公演で「第九」が演奏されたのはこの日だけでした。また、この録音はNHKのデジタル録音の第1号で、FMでも生中継されました。

カラヤンは「第九」を正規盤で5回録音しています。この演奏は、時期的には4回目(1977年)と5回目(1983年)の間にあたります。

普門館は座席数5000を数える大ホールです。当時のカラヤンの人気は、このホールを満員にする力を持っていたというからすごいものです。現在も全日本吹奏楽コンクールの会場として使用されていますが、音響面でいろいろ問題があるホールのようです。このホールの容積が大きすぎることが原因として挙げられますが、この録音でもそれらの問題点を指摘することができます。
まず、デジタル録音第1号であるとは言え、現在のデジタル録音と比べると鮮明度には明らかに差があります。また、残響や余韻が薄く、平面的に聞こえます。演奏そのものも直線的で機械的に聞こえがちです。音色も非常に乾燥していてカサカサしています。残念ながら、この録音が演奏の全てをとらえているとは思えません。

演奏内容ですが、さすがベルリンフィルだけあって個々のプレーヤーの技術はすばらしいと思います。ただし、全体としてのアンサンブルの精度は低く、カラヤンにしては不本意な演奏だったのではないかと思います。慣れない演奏会場でアンサンブルしにくい部分もあったのでしょう。音圧が低く、重量感や力感に乏しいため、音の成分がスカスカして貧弱に聞こえます。ライヴらしい勢いや高揚感にも不足しており、ワクワクさせてくれません。いつものベルリンフィルの演奏やカラヤンサウンドを期待して聴くと、がっかりするでしょう。バランス的にも、ティンパニが大きくやや耳障りです。

第1楽章冒頭の強奏はタテがズレていて散漫な印象を受けます。
第2楽章も細部はよく磨かれていますが、低弦に張りがありません。もっと迫ってくるようなエネルギーが欲しいです。トリオは歌い込みすぎてテンポが遅くなっています。
第3楽章は、音量を抑制しすぎたため、木管が無表情に聞こえます。あまりカラヤンらしさが感じられず、無味乾燥な演奏になっています。
第4楽章になってもスタミナ切れを起こすことはありませんが、トランペットからいつもの耳に突き刺さるような輝かしい音色が聴けなかったのが残念。独唱陣は、テノールが美しい歌声を聴かせます。ソプラノは発声がはっきりせず、都はるみのような歌い方。アルトはマイク位置のせいかあまり聞き取れません。合唱団はオーケストラにかき消されてしまいがちなので、もう少しボリュームがあってもいいと思います。混声になると交通整理不足でやや散漫にななるのが惜しい。

全体としてはカラヤンが意図した演奏であるとは言えません。演奏会当日に会場でこの演奏を聴かれた方は、カラヤンが指揮する姿を思い浮かべたり当時の感慨に浸りながら聴くことができるのでしょうが、初めてこの演奏を聴く者にとっては、それほど強い感銘を受ける演奏ではありません。
NHKにはこの他にもカラヤンの来日公演の音源が残されている可能性がかなり大きいと思います。ぜひ聴いてみたいです!


(2003.12.9記)