|
|
| 映画「真夏の夜の夢」（2009年/日本）を見ました。原作はＷ・シェイクスピア著『真夏の夜の夢』。監督は沖縄在住の中江裕司。脚本は中江素子と共作です。シェイクスピアの有名な「真夏の夜の夢」を沖縄に置き換えたストーリーですが、原作が大胆にアレンジされているので、シェイクスピアを原作扱いしていいのか少し疑問です。原作の妖精パックがキジムン（精霊）のマジルーに置き換わっています。キジムンはかつては目撃談もあったほど人間に近い存在の こと。また、浮気草の花の絞りつゆが恋の花の汁に、さらに、劇中劇も「琉球王国由来記」では、ライオンが獅子に置き換わっています。月や石塀は原作と同じです。 ストーリーは現実的でないですが、映画らしいファンタジーなストーリーで楽しめます。脚本がしっかりしているので、映画全体が夢物語のようです。琉球王朝をストーリーにした演劇も楽しめます。一部のセリフが沖縄語で話されて、日本語訳が字幕で表示されます。 沖縄らしい風景も見もの。世嘉冨島は伊是名島で撮影されています。ロケ地がすばらしく、さんかく山（伊是名グスク）も印象に残ります。美しい海や木々も沖縄らしい。同じ沖縄を舞台にした映画でも、「群青」とは対照的です。 俳優では、ゆり子役の柴本幸が好演。映画初主演とのことですが、沖縄らしい顔ですね。マジルー役の蔵下穂波は約3000人のオーディションで選考されたとのこと。着ている衣装が質素で精霊らしくありません。 ＢＧＭは、メンデルスゾーン「真夏の夜の夢」ではなくて、バッハ「無伴奏チェロ組曲」のヴィオラ演奏です。 映画を見終わった後に、『シナリオ』誌（2009年８月号）に掲載されている脚本を読みました。中江素子が書いた原稿を、中江裕司監督が手直ししたとのこと。脚本では沖縄語のセリフも日本語で書かれています。「琉球王国由来記」のストーリー（島の娘カニメガとキジムンのオホホの間に産まれた双子が琉球王とマジルーの祖父）は映画では少し分かりにくかったですが、脚本を読むと詳しく理解できます。また、タンメーとアンマーハーメーは人間に忘れ去られたから痩せたということも分かりました。 |
|
2009年9月17日 |
|
|
| 映画「宇宙（そら）へ。（原題：ROCKET MEN）」（2009年/イギリス）を見ました。監督はリチャード・デイル。NASAが保管している秘蔵映像をもとに、アメリカの有人宇宙飛行の歴史を概観する優良ドキュメンタリー映画です。 NASAの映像なので対象はアメリカばかりで、旧ソ連との宇宙開発競争はまったく触れられません。対比させればさらによかったでしょう。また、ボイジャー計画などの無人探査機も出てきません。「ザ・ムーン」（2007年/イギリス）はインタビューが中心でしたが、今作は映像がメインで宇宙開発史を時系列で丁寧に描きます。知らないことが多くて勉強になりました。 映像がよく残ってることに感心しました。ちゃんと撮影しているところがすごい。カメラを設置している場所もうまい。アメリカってすごいですね。爆発などの失敗映像も多数収録していて、試行錯誤や失敗のうえに成功が成り立ってることがよく分かります。ミッションを積み重ねる過程や、ロケットからスペースシャトルに移行する過程も分かりやすい。初期のマーキュリー計画のロケットがちゃっちくてびっくりしました。時代が進むにつれてロケットも大きくなり、映像も鮮明になります。 ニール・アームストロング船長「That's one small step for a man, one giant leap for mankind.」はやはり名言ですね。アポロ11号の月面着陸の様子はテレビ生中継されていたことを初めて知りました。チャレンジャー号爆発事故やコロンビア号空中分解事故の失敗映像も収録。打ち上げを見守る人や管制室の様子を収録しています。チャレンジャー号爆発事故後のレーガン大統領のテレビ演説「The future doesn't belong to the fainthearted; it belongs to the brave.（未来は臆病な人々のものではなく、勇気ある人々のものです）」のメッセージは心を打たれました。ハッブル宇宙望遠鏡は地球の軌道上（空中）にあるんですね。初めて知りました。 日本版ナレーションは宮迫博之。少したどたどしいですが、低い声が魅力的。字幕も出るのでそんなに出番はありません。 日本版主題歌はゴスペラーズ「宇宙へ 〜Reach for the sky〜」。エンドクレジットで流れますが、これが完全に浮いていて、せっかくの感動がぶち壊し。日本版だけの主題歌など必要ないでしょう。映画本編の音楽がよかったので残念。 |
|
2009年9月5日 |
|
|
| 映画「アマルフィ 女神の報酬」（2009年/日本）を戸田恵梨香目当てで見ました。原作は真保裕一著『アマルフィ』（2009年）。監督は西谷弘。 フジテレビ開局50周年記念作品で、日本映画初のオールイタリアロケを敢行しました。大規模な交通渋滞のシーンもあります。初めて撮影が許可された場所も多くあったようで、規制が多くて大変だったとのこと。「天使と悪魔」に登場したサンタンジェロ城でも撮影されています。また、ホテルの部屋やミネルヴァセキュリティなどは、チネチッタスタジオ内に建てられたセットで撮影したとのこと。よくできています。 スケールの割にストーリーがしょーもない。防犯カメラのセキュリティシステムを利用した犯罪ですが、矢上紗江子（天海祐希）の行動がバカにしか見えません。行動が唐突すぎて、心理描写が甘い。これは後述するように映画の脚本に問題あり。藤井昌樹（佐藤浩市）が外相の川越亘（平田満）の殺害を計画した理由もいたって個人的なものにすぎません。せっかくイタリアまで行ったのに、もう少し魅力的なストーリーがよかったですね。アマルフィの町並みもあまり魅力的に映りませんでした。「女神の報酬」という副題も意味不明。安達香苗役の戸田恵梨香は、黒田康作（織田裕二）の使い走りをうまく演技しています。 主題歌は、サラ・ブライトマンの「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」（1996年）。サラ・ブライトマンが本人役で出演していますが、劇中で主題歌を歌っただけでセリフはありません。 映画を見た後に原作を読みました。原作は映画のストーリーが決まってから書きはじめられて、当初のプロットをもとに書いたとのこと。原作のほうが映画よりもサスペンス色が強く面白いです。映画化にあたっては撮影条件や対外的な問題を考慮してストーリーが変更されているようです。 ちなみに、この映画には「脚本」がクレジットされていません。シナリオ作家協会が異常事態として抗議しました。フジテレビは「原作者が作った脚本に撮影中に監督が手を入れた脚本」と説明しています。原作のほうが魅力的なので、原作者と監督に確執があったのかと邪推してしまいます。 また、映画公開に先立って、「アマルフィ ビギンズ」がドコモ動画で配信されました。全５話。原作とも映画本編とはまったく別の話です。黒田康作（織田裕二）が日中通商交渉を成功させるため、クーリー（山本未來）とマカオでカジノで対決します。山本未來と松重豊が好演。ちなみに、「ビギンズ」の脚本は山本潤平とクレジットされています。監督は小林義則。西谷弘が監修として携わっています。 |
|
2009年8月29日 |
|
|
| 映画「色彩の記憶」（2009年/日本）を見ました。色彩に関する３つの職業「美容」「西陣織」「有田窯」の職人へのインタビューで構成されたドキュメンタリー映画です。監督は、御法川修。カラーリング（美容）、糸（西陣織）、辰砂(しんしゃ)（有田窯）など色彩がテーマですが、芸術文化そのものについても語られます。芸術家の手さばきや職人芸も収めています。ナレーションもないので静かに進みます。 女性美容師２名は「仕事は自分そのもの」とプライドを持って語ります。日本人の美しい黒髪を染めることは大きなことであると考えています。 西陣織で作られた「源氏物語錦織絵巻」は見事の一言。箔を入れるなど新しい技術も採用しています。山口伊太郎は2007年に105歳で亡くなったとのこと。その他にも糸や織りなど関連する職人が多数登場します。 有田窯の馬場真右ェ門が作る辰砂は、白磁に鮮やかな紅色。手を祭る神社を訪れて、手作業のよいところについて語ります。 また、紫式部の墓や佐賀県に伝わる大蛇の言い伝えに触れて、日本古来の文化についても意識させます。 |
|
2009年8月19日 |
|
|
| 映画「キング・コーン 世界を作る魔法の一粒（原題：KING CORN）」（2007年/アメリカ）を見ました。監督は、アーロン・ウルフ。 「アメリカ人の寿命が短くなっているのは食べ物に原因がある」と聞いた２人の青年が、アイオワ州の広大な畑でコーン（とうもろこし）を育てます。育てるコーンは家畜のエサや加工食品用に改良された品種（デントコーン）で食べてもおいしくありません。「食べ物ではなくクズを作っている」と農家が語ります。農作業はすべて機械化されていて、簡単に作業が終わります。「ごはんを一粒も残さないで食べる」などという「いただきます」の気持ちはありません。「育てる」というよりも「作る」という感覚でしょう。アメリカ政府から農家に助成金が出るため、コーン作りは黒字になります。過剰生産で、倉庫に入らないコーンが屋外に山盛り積まれています。もったいない話です。アメリカの元農務長官は、飽食だがそのおかげで食費が安くなったと成果を語ります。 また、コーンからコーンシロップ（高果糖液糖）が作られます。よく使われる食品添加物のひとつですが、果糖という名前から果物から作られると思っていましたが、コーンから作られるのですね。コーンを食べた牛の肉、コーン油で揚げたポテト、コーンシロップが含まれた炭酸飲料というように、ファーストフードはコーンで作られた食べ物ばかりです。「人間の体はコーンでできている」と話します。そのせいでアメリカでは糖尿病や肥満の患者が増加しているとのこと。炭酸飲料を飲むのをやめるだけで減量した男性も登場します。 日本はトウモロコシ自給率０％で、輸入の９割はアメリカに頼っているとのこと。この映画で語られていることはアメリカだけではなく、ほぼそのまま日本にも当てはまるでしょう。助成金の功罪はあれど、自給率が向上するのはいいことです。日本も見習って欲しいです。ちなみに、トウモロコシは映画のタイトルが示すように「穀物の王様」で、全穀物のなかで生産高が最大とのこと、小麦よりも多いとは驚きです。 映画は、コーン栽培体験と多くのインタビューとイラストで分かりやすく解説します。健康が気になる方にはお勧めの映画です。 |
|
2009年8月19日 |
|
|
| 映画「マン・オン・ワイヤー（原題：MAN ON WIRE）」（2008年/イギリス）を、マイケル・ナイマンの音楽で目当てで見ました。原作は、フィリップ・プティ著『TO REACH THE CLOUDS』（2002年）。監督は、ジェームズ・マーシュ。2008年度アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。 フランス人の綱渡り師フィリップ・プティ（当時23歳）が、1974年8月7日に、当時世界一の高さ（110階建て）でまだ工事中だったワールド・トレード・センタービルのツインタワー間を綱渡りで渡りました。本作は、当時の映像と関係者のインタビューに再現映像を組み合わせたドキュメンタリー映画です。 当時の映像が残されていることをまず賞賛すべきでしょう。正真正銘の実写です。ビルを見上げる見物人の表情もリアル。共犯者が撮影した写真も美しい。以前にノートルダム大聖堂とシドニー・ハーバー・ブリッジで綱渡りをした映像も収録されています。パンフレットによると、プティはその後も世界各地で綱渡りに挑戦しているようです。 インタビューはプティと共犯者。全員がご存命のようです。複数名が同じ話を語るように編集されていて、編集がよくできています。非常に綿密に計画されたことが分かります。何回も現地を下見したことや、模型を作ったこと、身分証を偽造して入館したこと、機材をエレベータで搬入したことなどが語られます。共犯者はプティと疎遠になっているようで、話しながら涙を流す人もいます。プティは興奮気味に話しますが、最後に語られる「理由なんてない」「人生はエッジを渡るから楽しい」「挑戦し続けることが人生」という言葉はいいメッセージです。 再現映像がよくできています。わざと白黒で撮影されているので、本人が出演しているのかと思ったほどです。インタビューの発言を元に分かりやすく再現されます。 マイケル・ナイマンの音楽は、再現映像の雰囲気を大いに盛り上げます。グリーグ「ペール・ギュント 山の魔王の宮殿にて」やサティ「ジムノペディ第１番」など、クラシックも流れます。 ちなみに、ワールド・トレード・センタービルが崩壊した2001年のアメリカ同時多発テロ事件にはまったく触れられていません。マーシュ監督は触れなくても分かると考えたようです。 |
|
2009年8月16日 |
|
|
| 映画「群青 愛が沈んだ海の色」（2009年/日本）を見ました。原作は、宮木あや子著『群青』（2008年）。監督は中川陽介。 世界的ピアニストの森下由紀子（田中美里）が沖縄の離島に移住して、仲村龍二（佐々木蔵之介）と結婚して、娘の涼子（長澤まさみ）が誕生し成長するまでを、「第一章」から「第三章」に分けて、長いタイムスパンで描きます。 長澤まさみにとっては意欲作だったとのことですが、役に共感できませんでした。精神的に病んでいて、寝てばかりと思ったら、突然起きて陶芸をしたり、ピアノを弾いたり。彼女にとってイメージがプラスになる役柄ではないでしょう。ラストシーンも天を見上げて終わり。ストーリーにヤマがありません。 また、原作には性的描写が多く含まれていますが、映画では設定を変えてしまったため、ストーリーがおもしろくなくなりました。原作には、由紀子と龍二のセックスシーンが濃厚に書かれていたり、涼子が裸になったり、初潮が来たり、流産したり、不特定多数の男と寝るシーンもありますが、映画ではカット。長澤まさみが濡れ場に挑戦していると報じられましたが、実際はベッドシーンどころかキスシーンさえない。泣くシーンもなし。セリフが少ないため、表情で見せなければいけないシーンが多いですが演技力も物足りない。「Ryoko」をピアノで弾くマネも下手。原作には「映画の脚本を原案に著者が書き下ろした」と記されているため、映画の撮影段階でストーリーが変更されたということでしょう。興行収入は不調のようですが、それもうなずけます。映画評も酷評が目立つようです。 父親役の佐々木蔵之介は好演。酒を飲んでいるだけではなく、多彩な表情を見せます。 ロケは、沖縄県渡名喜島で撮影されましたが、せっかくの自然が生かされていません。カメラアングルは意図が不明で効果的ではありません。 原作にも書かれているラヴェル作曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」がピアノで演奏されます。 映画を見た後、原作を読みました。原作は「紺碧」「三原色」「群青」の三部で構成されています。上述したように、映画にはない刺激的な描写が多く驚きます。映画にあるピアノの弦が切られるシーンは原作にはありません。由紀子とピアノが会話するシーンもあるため、楽器を乱暴に扱えないということでしょう。 |
|
2009年8月3日 |
|
|
| 映画「劔岳 点の記」（2009年/日本）を見ました。原作は新田次郎著『劒岳 点の記』。監督・撮影は木村大作。カメラマン木村大作の初監督作品です。観客動員が100万人を突破するなど好調のようです。 明治時代に日本地図を完成させるため、陸軍陸地測量部が未踏峰の剣岳の登頂に挑戦します。立山信仰により「登ってはいけない死の山」とされていました。同じく初登頂を目指す日本山岳会との競争も描かれます。冒頭に「点の記」の説明（＝三角点設定の記録）が字幕で表示されます。三角点を設置するだけでなく、櫓を設営して測量します。 撮影は原作どおりほぼ順撮りで行なわれたようです。季節を変えて何回か撮影して、撮影期間は延べ200日以上にも及ぶとのこと。周囲の山々などいろんな場所から剣岳を見ることができます。日没の風景がすばらしくきれい。遠くは富士山も見えます。ヘリコプターからの空撮はなく、出演者は本当に荷物を背負って登山したとのこと。テント生活をしながらの撮影で、頂上の撮影は天候のため４日待ったり、朝３時に山小屋を出発したりしています。吹雪や豪雨や雷鳴など大自然をリアルに描いていて、大雨のシーンなどは演技どころではない状況でほとんどドキュメンタリーに近いですが、パニックにならず冷静に撮影されています。撮影機材を運びながらよく登ったものです。よく大事故が起こらなかったものだと感心します（落石事故でスタッフが怪我したみたいですが）。 ただ、残念なのは、同じ風景が続くので少し飽きてしまうこと。また、編集はもっと余韻を残して次のシーンに行ってほしいです。最後は唐突に終わりますが、エンドクレジットはキャストもスタッフも「仲間たち」として表示されます。木村は黒澤明の作品が本物の映画作りと語っていて、少し古風な感じがする映画です。 俳優では、測量隊案内人の宇治長次郎役の香川照之がまさに山男になりきっています。「トウキョウソナタ」でスーツを着ていたとは思えません。柴崎芳太郎役の浅野忠信は表情をあまり表に出しません。柴崎の妻の葉津よ役の宮崎あおいは和服がよく似合います。かわいい。こうして見ると「少年メリケンサック」のぶっ飛びぶりは本当にすごかったと感じます。 ＢＧＭはクラシック音楽。木村監督がヴィヴァルディ「四季」やバッハ「Ｇ線上のアリア」など選曲しています。しかも既存音源ではなく、池辺晋一郎指揮／仙台フィルハーモニー管弦楽団にわざわざ録音させるこだわりです。エンディングは池辺晋一郎作曲の力強く雄大な音楽が流れます。和音の使い方が秀逸。 映画を見た後に、原作を読みました。新田は柴崎が記録した点の記を読んで、測量隊の行動を分析しています。登頂した日も公式記録に残っていませんが、新田は7月12日と断定しています。登場人物の経歴も詳しく書かれています。立山信仰が確立される前の奈良時代に開山されたことや、かつて登頂に成功したという快天や増崎藤左衛門が暗殺されたことも書かれています。柴崎は登頂後も10月まで観測を続けたようです。天幕が熊に襲われたことも書かれています。登場人物の心情は（）書きで書かれています。 |
|
2009年7月15日 |
|
|
| 映画「いけちゃんとぼく」（2009年/日本）を見ました。原作は、西原（さいばら）理恵子の絵本『いけちゃんとぼく』（2006年）。脚本・監督は大岡俊彦。長編映画の監督デビュー作とのこと。 今年見た映画の中では、「おくりびと」に次いで２番目によかった。涙が出るほど感動しました。原作は「絶対泣ける本 第１位」にランクされたようですが、まさにその通りですね。もう１回見たいです。 謎の生物「いけちゃん」は、すべてＣＧで製作されています。実写とあわせても違和感がなく、よくできています。体は普段は緑色ですが、変色します。またサイズも大きくなったり小さくなったり。眉毛や手は必要なときだけ出てきたり。大きな目がかわいい。愛嬌があって、表情も多彩です。水道の蛇口やひまわりから姿を現したりしてびっくり。なぜこんな姿なのかは触れられませんでした。ヨシオ（ぼく）の幼いときからそばにいますが、他の人には見えません。ぼくが成長するにつれて、姿が見えなくなってしまいます。後半になっていけちゃんの正体が明かされます。夢があるストーリーです。「あなたの子供の頃に会いたい」「愛してる」というセリフが素敵な言葉でした。ラストシーンの大学生のヨシオはなくてもよかったかもしれません。 脚本もよくできていて、自分の幼いときを思い出すようでした。ロケは高知で行なわれたようです。ロケ地の選定もよかった。港が見える広場も印象に残りました。 いけちゃんの声を吹き込んだ蒼井優が抜群。声だけで十分演技できています。ちょっと見直しました。最初は低い声も使いますが、徐々に女性的でやさしい声に変わっていくのも聴きものです。池子役の吉行和子もすばらしい。ヨシオ役の深澤嵐が熱演。目力があるので、将来も有望でしょう。その他の子役がすばらしく自然体の演技でキャラクターもよく出ています。ともさかりえは、私よりも年下なのに母親役を演じています。モト冬樹が演じる清じいはこういうオヤジが近所にいたことを思い出しました。あずき洗い役の岡村隆史はメイクがすごくて気がつきませんでした。西原理恵子も親戚のおばさん２役で出演しています。 |
|
2009年7月5日 |
|
|
| 映画「クローンは故郷をめざす」（2008年/日本）を、永作博美目当てで見ました。監督・脚本は中嶋莞爾。今作がメジャーデビュー作とのこと。 事故で死亡した宇宙飛行士・高原耕平（及川光博）を、生前の遺伝情報をもとにクローンとして再生させます。１体目は失敗作だったので、続けて２体目のクローンが製作されます。クローンは宇宙服を着た本物の遺体を抱えて、生まれ故郷である実家に帰ります。ストーリーは非現実的ですが、映像が神秘的なので違和感なく受け入れられました。クローンに魂はあるか、生前の記憶が完全に再現できるか、死んだオリジナルの魂がクローンを呼ぶ共鳴現象は実際に起こるのか、など、クローン製作の生命科学的な視点も描かれます。また、双子の兄弟（高原耕平・高原昇）の幼少期が長い時間をとって描かれます。失敗した１体目のクローンの記憶とリンクさせます。 画面は暗く、音声も静か。セリフも少なく、直接的に表現した映像なく間接的に理解させようとします。母の高原洋子（石田えり）が死んだ昇を抱えて泣き叫ぶシーンもあえて無音にしているのが実に効果的。美術監修の木村威男は一目置かれている人物のようで、確かに印象に残るセットでした。山下雄太の音楽も雰囲気が出ています。 高原耕平役の及川光博が好演しています。意外にも今作が映画初主演とのこと。本物、記憶が少年時代のままの失敗したクローン１体目、記憶が継続した成功したクローン２体目、の３役を１人で演じ分けます。過去の回想に苦しむクローン１体目では、人間らしくないを表情見せます。淡々と進行するストーリーのなかで、妻の時枝役の永作博美だけが長いセリフで状況を説明させてクローン製作に対して反発します。号泣するなど感情の起伏も激しい。 映画を見た後、『シナリオ』誌（2009年２月号）に掲載されているシナリオを読みました。映画で疑問に感じたことが解決されました。１体目のクローンは本物の遺体を見て弟と錯覚した、１体目のクローンは科学者によって殺されたという設定が映画では分かりにくい。左手の甲の傷跡も細かく書かれていますが、映画ではよく分かりませんでした。宇宙服を着た本物の遺体が、顔が見えるときと見えないときがあるのはなぜか分かりませんでしたが、耕平１の死体を「霊体」と表記していて、魂が浮遊しているという発想でしょうか。ラストシーンでクローンは一体どこへ向かったのか気になりましたが、シナリオには「やがて霧の中に見えなくなってゆく」と書かれているだけです。観客に想像させているようです。 |
|
2009年7月1日 |
|
|
| 映画「天使と悪魔（原題：ANGELS&DEMONS）」（2009年/アメリカ）を見ました。原作はダン・ブラウン著『天使と悪魔（原題：Angels & Demons）』（2000年）。監督はロン・ハワード。大ヒットした「ダ・ヴィンチ・コード」（2006年）のシリーズ第２作です。トム・ハンクスがふたたびラングドン教授を演じます。映画としては第２作ですが、原作は「ダ・ヴィンチ・コード」よりも前に書かれています。 エンドクレジットで「フィクションです」という注記が字幕で表示されますが、どこからどこまでがフィクションなのかよく分かりません。それほどストーリーに説得力とリアリティがあります。ガリレオ・ガリレイなどの科学者による秘密結社「イルミナティ」が復活して、ヴァチカンに復讐するストーリーです。イルミナティは過去に実在したものの17世紀に解散させられて消滅したとのことですが、今も存在していると主張する者もいるとのこと。また、セルン（欧州原子核研究機構）で生成した「反物質」を絡ませて、科学と宗教の対立について迫ります。反物質はノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏による「小林・益川理論」がベースになっていて、ビッグバンの再現は、映画「神様のパズル」でも題材になっていました。 前作「ダ・ヴィンチ・コード」のほうがキリスト教の教義の本質を描いていたので衝撃的で、ストーリーも分かりやすかったです。展開が速く、慌ただしく進むのでよく分からない部分がありました。上映時間２時間では短いですね。コンクラーベ（教皇選挙）などの基礎知識を知っておくか、原作をあらかじめ読んでおいたほうがいいかもしれません。コンクラーベによって2005年にベネディクト16世が新しい教皇に選ばれたので、タイムリーな状況設定ですが、上述したように原作は2000年に書かれているので、直接的に関係ありません。 撮影は、教会で枢機卿が殺されるという設定が看過できないのか、各教会から撮影許可が下りなかったとのこと。コンクラーベが行なわれるシスティナ礼拝堂はセットで撮影されたとのこと。サン・ピエトロ広場に集まる民衆のシーンはヴァチカンは許可しなかったもののサン・ピエトロ広場で撮影したらしいです。イルミナティの隠れ家「啓示の教会」という設定のカステル・サンタンジェロ（サンタンジェロ城）は２日間夜間の撮影が許可されたようです。心が広い。また、枢機卿が火で焼き殺されるシーンなどのＣＧがよくできています。 音楽は「パイレーツ・オブ・カリビアン」のハンス・ジマー 。緊迫感のある音楽です。 映画を見た後に原作を読みました。コンクラーベの伝統などキリスト教に関する知識がたくさん盛り込まれていて興味深いです。１ページ目に書かれた「事実」のページに、スイスのセルンが反物質粒子の生成に成功したことが書かれています。しかし、実際に生成できた反物質はごく少量で大爆発を起こすようなエネルギーはないようです。つづく「著者注記」には、ローマの美術品、墓所、地下道、建築物、イルミナティに関する記述はすべて事実に基づくと書かれています。 以下は雑多なコメント。 |
|
2009年6月16日 |
|
|
| 映画「禅 ＺＥＮ」（2008年/日本）を見ました。原作は、大谷哲夫著『永平の風 道元の生涯』。大谷は駒澤大学総長で、製作総指揮も務めています。監督・脚本は、高橋伴明。曹洞宗の開祖である道元が宋に渡っての修行から亡くなるまでを描いています。 曹洞宗がどういう宗教か詳しい説明はありません。ただ座るだけという「只管打坐（しかんたざ）」の精神が繰り返し強調されます。小学校の道徳の時間に、座禅したことを思い出しました。宗教用語は意味が把握しにくいですが、パンフレットの用語集で漢字を確認するとよく分かります。中国でもロケを行なって、セリフも一部は中国語です。源公暁が登場する理由はよく分かりませんでした。 道元役は映画初主演の中村勘太郎。中村勘三郎の息子で、歌舞伎調で特徴のある話し方です。永平寺で体験修行をしたようです。おりん役の内田有紀はノーメイクのシーンがありますが、すっぴんでもきれいです。友情出演の藤原竜也も狂気の執権北条時頼を好演。宇崎竜童の音楽も重厚です。 |
|
2009年6月14日 |
|
|
| 映画「重力ピエロ」（2009年/日本）を見ました。「蛇にピアス」で強烈な印象を残した吉高由里子がお目当てです。原作は伊坂幸太郎著『重力ピエロ』（2003年）。 落書き（グラフィティアート）が書かれた場所の近くで連続放火事件が起こります。落書きに書かれた文字が、頭文字が遺伝子の配列に基づいた暗号であり、落書きが書かれている場所は24年前の連続レイプ事件と一致することを、奥野泉水（加瀬亮）が突き止めます。泉水の弟の奥野春（岡田将生）が、自分で落書きを書いて消して火をつけているという展開は驚きました。後述するように、原作と設定を少し変えていますが、原作が持つ世界感は変わっていません。相沢友子の脚本がよくできているからでしょう。ただ、春がなぜ血縁上の父である葛城由紀夫（渡部篤郎）を殺そうと思ったかの心理描写がやや粗いです。 俳優では、岡田将生が弟の春を鋭い目線で知的に演じます。加瀬亮は頼りない兄を自然体に見せます。小日向文世も父親を好演。吉高由里子は整形したストーカー夏子役で、ストーリー展開上重要な役です。渡部篤郎が演じる葛城由紀夫は罪悪感のない悪役ですが、「愛のむきだし」では神父役を演じていたため、まったく正反対の役柄に違和感を持ってしまいました。 ロケは原作の設定どおり仙台市周辺で行なわれたようです。ちなみに、グラフィティアートは森淳一監督が自ら製作したもので、すべてを組み合わせると人間の体になるとのこと。 映画を見た後、原作を読みました。原作者の伊坂幸太郎にとって「一番思い入れがある作品」のようですが、映画化について「とてもいい映画」というメッセージを寄せていて、好感を持っているようです。章に分かれて構成されていますが、「ミステリにおける退屈な手続き�機丙�までのあらすじ）」など、章のタイトルがユニークでおもしろい。ストーリー展開では映画よりも原作のほうが伏線が多く用意されています。映画では「春が二階から落ちてきた」という泉水のナレーションが最初と最後に３回も出てきて不思議に感じましたが、これは原作にその通り書かれているので、映画でも尊重したのでしょう。 |
|
2009年6月7日 |
|
|
| 映画「GOEMON」（2009年/日本）を、戸田恵梨香目当てで見ました。紀里谷和明監督の第２作です。今年見た映画でもベスト３に入ります。こんなに個性的な映画を見たのは久しぶりです。 映像表現に独自の個性があり、安土桃山時代を絢爛豪華に描きます。ＣＧを多用して、人工的な映像に仕上がっています。映像の細部まで紀里谷監督のこだわりを感じます。弓矢が飛んでくる映像は、映画館の座席に座りながらよけたくなるほどリアルです。アクションシーンはあまりにもスピードが速すぎて、動きがよく分かりません。もっとスローで見せてほしいです。 脚本も紀里谷監督が担当。ストーリーが奇想天外です。史実を無視したフィクションですが、けっこう楽しめました。石川五右衛門は盗賊というよりも、豊かな者から金銭を盗み民衆に分け与えるヒーローとして描かれています。石川五右衛門は織田信長に育てられたとか、本能寺の変は明智光秀と豊臣秀吉が共謀して信長を殺害したとか、浅井茶々と徳川家康と石川五右衛門が協力して秀吉を殺そうとするなど、自由なストーリー展開が楽しい。豊臣秀頼が出てこなかったり、セリフも現代語で話されたりしますが、あまり難しいことを考えずに見たほうがいいでしょう。ただし、ストーリーが長く、後半は少しだれました。ちなみに、石川五右衛門は実在した人物ですが、雲隠才蔵や猿飛佐助は架空の人物とのことです。 美術や衣装も実にユニーク。美術監督は林田裕至。衣装デザインはオーストラリア出身の外国人が担当しています。大坂城は外見が要塞で、内装は高級ホテルの洋室です。着ている衣装も和服ではなくて、完全に洋服です。誰もちょんまげをしていない、靴を脱がない、畳がなくベッドで寝るなど、完全に洋式の生活です。足軽はみんな同じヨーロッパ風の甲冑を着ていて、テレビゲームに出てきそうなほど外見が整然としています。連射砲などの武器も当時はないでしょう。時代考証は無視していますが、美術的には評価できます。 俳優陣も豪華。奥田瑛二の豊臣秀吉がものすごい怪演。エゴの塊のような天下人を演じます。平幹二朗（千利休）や中村橋之助（織田信長）など大物も多数出演しています。紀里谷監督は芸能界に人脈があるのでしょうか。広末涼子の浅井茶々はあまり気が強くありません。猿飛佐助役のゴリも真摯な演技で印象に残りました。戸田恵梨香が演じる夕霧太夫は遊女でチョイ役。小平太の母役の鶴田真由も出てきてすぐに死にます。紀里谷監督も明智光秀役で出演しています。ウド鈴木と蛭子能収は別にいらないですが。撮影は背景をＣＧで製作するため、グリーンバックでの撮影が多かったようです。体育館を貸し切って撮影され、紀里谷監督自ら演技指導もしたようです。 松本晃彦の音楽もすばらしい。ちょっと音楽を使いすぎているように感じなくもないですが、合唱が勇壮に歌われ、音楽効果が抜群です。サウンドトラック買おうかな。 海外での配給も決定したようですが、日本の時代劇という先入観で見られると、外国人はびっくりするでしょう。驚きを超えて、誤解されるかもしれません。紀里谷和明監督の次回作にも大いに期待します。 |
|
2009年6月4日 |
|
|
| 映画「レッドクリフ Part�� -未来への最終決戦-（原題：赤壁 決戦天下）」（2009年/アメリカ・中国・日本・台湾・韓国）を見ました。2008年11月に公開された「レッドクリフ Part�機廚慮緤圓任后�Part�気蓮�観客動員数400万人、興行収入49億円の大ヒットを記録しました。Part�兇盥ツ瓦里茲Δ任后�Part�兇任呂い茲い萓嵎匹寮錣い�開戦しますが、Part�気派舛�れたキャラクターがPart�兇任發靴辰�り生きています。渡邉義浩氏がPart�気髻崛埖腓瞥醜霾圈廚班召靴討い泙垢�、まさに同感です。ただ、「未来への最終決戦」のサブタイトルは、この先に続く中国の歴史を考えると大げさです。 船が爆破炎上するシーンが迫力満点です。逆に少し爆発が派手すぎるほどです。ジョン・ウー監督らしいハリウッド仕込みの表現です。エキストラの数も多い。ＣＧも多数使用しているようで、多額の経費を投じていることが分かる映像です。スケールの大きさで、中国映画の歴史を変えたのではないでしょうか。 俳優では、曹操役のチャン・フォンイーが風格漂う演技。敵役ですが憎めないキャラクターです。甘興役の中村獅童（特別出演）は、爆弾の試作シーンで笑わせるシーンがあります。劉備（ヨウ・ヨン）は軍を一時撤退させるなど人望があまりない主君として描かれています。主君や大将が戦線の最前線で先頭に立って突撃するのはありえないので、演出とはいえさすがに違和感があります。Part�気曚匹任呂△蠅泙擦鵑�、アフレコと口の動きがズレるのが少し気になります。 大学で中国史を学んだ者にとっては、どこまで史実なのかが気になります。Part�菊瑛諭∪技法愡姐饂屐戮茲蠅癲⇒經喘翆�『三国志演義』もとにして、映画オリジナルのフィクションを加えています。尚香が曹操陣でスパイしたり、小喬が曹操に茶を入れたりするのはフィクションです。案山子を載せた船で矢を獲得したエピソードは『三国志演義』に書かれているようです。武田信玄で有名な「孫子」の風林火山も登場します。 |
|
2009年5月16日 |
|
|
| 映画「鴨川ホルモー」（2009年/日本）を見ました。監督は本木克英。第１回沖縄国際映画祭コンペティション部門でゴールデンシーサー賞を受賞しました。原作は、万城目学（まきめまなぶ）のデビュー作『鴨川ホルモー』（2006年）。 「ホルモー」とは京都に千年以上続く神事で、京都市内の４大学が「オニ」と呼ばれる式神を操って対戦する競技です。京都大学青竜会、龍谷大学フェニックス、京都産業大学玄武組、立命館大学白虎隊、の４チームは、陰陽道で東西南北に位置する四神に基づいて名付けられています。架空の設定ですが、実際に行われているのかと思うほど構想がしっかりしています。「オニ」も鬼から受ける恐いイメージはまったくなく、小さくてかわいいです。レーズンを補給すると、生き返るという設定もおもしろい。対戦のテレビ中継も行なわれますが、オニは一般人には見えないはずなので、少し矛盾しているように感じました。オニはＣＧを多数使用していますが、実写とうまく合成されていてとてもリアルです。俳優にとってはオニなしの撮影は大変だったでしょう。最後に現れる巨大な黒オニも迫力があります。エンドクレジットの後に、青竜会のメンバーが八坂神社前の横断歩道を渡る映像がわざわざ流れます。ビートルズのアルバム「アビイ・ロード」のジャケット写真のマネですが、これは原作本の表紙に描かれているので実写で再現したとのこと。 「ゲロンチョリー」「アイギュウ・ピッピキピー」など、オニを指示するときに話す「オニ語」がおもしろい。語源に興味を持ちましたが、原作には具体的なオニ語はほとんど書かれていないので、大半が映画のオリジナルです。「オニ語創作 佐々江智明」とクレジットされているだけでこれ以上詳しくわかりませんが、佐々江氏の功績はきわめて大きいでしょう。また、オニ語を話しながら取る妙なポーズも映画オリジナル。パパイヤ鈴木が振り付けを考案しています。「吉田代替りの儀」で歌われる「レナウン娘」（小林亜星作曲）は、私は知りませんでしたが、かつてレナウンのＣＭソングとして流れていたようです。 ロケ地は、立命館大学衣笠キャンパスをはじめ、清水寺、新風館、叡山電鉄出町柳駅、先斗町など、京都の観光名所が多数登場します。「四条烏丸交差点の会」で登場する宵山の四条烏丸交差点はさすがにＣＧでしょうか。京都大学百万遍寮として登場する京都大学吉田寮は、寮生全員の合意を得て初めて撮影許可されたとのこと。 登場人物は、安倍晴明や菅原道真など歴史上の人物を似せた人名です。主演の安倍明役の山田孝之は笑わせる演技。栗山千明は大木凡人のような変わった髪型で、黒縁メガネをかけています。地毛ではなくカツラのようですが、ずいぶんイメチェンを図ったと言えるでしょう。早良京子役の芦名星は「シルク」で見ましたが、声は初めて聞きました。高村幸一役の濱田岳のちょんまげが笑えます。カツラらしいですが、本物かと思うほどよくできています。菅原真役の荒川良々もまさに適役。脇役ですが、龍谷大学フェニックス会長立花美伽役の佐藤めぐみも目立ちました。 映画を見た後、原作を読みました。陰陽道にヒントを得て、ホルモーを創作した万城目の発想力のすごさを改めて実感しました。また、映画化は大成功で、文字ではイメージしにくいオニを映像化した功績は大きいです。映画で青竜会に部室があるという設定も、伝統が感じられていい。原作にほぼ忠実に映画化されています。万城目学は京都大学出身ということもあってか、京都の地名が多数登場します。べろべろばあの店長が八坂神社にホルモーについての日程を告げに行くなど、ホルモーに関して細かく書かれています。楠木ふみのホルモーでの活躍が詳しく書かれています。また、「十七条ホルモー」の後、安倍が500代目の会長に就任します。上述したように、オニ語を話すときのポーズはまったく書かれていません。原作ではオニには目や鼻や口はなく「絞り」があるだけという設定ですが、映画ではこれらを加えてより人間に近づけています。また、オニが死ぬと、原作では地面に消えますが、映画では白い魂が昇天するように見せていました。 舞台「鴨川ホルモー」京都公演（2009.6.24 京都芸術劇場春秋座）を見ました。企画・製作は、アトリエ・ダンカン。脚本・演出は鄭義信。映画で芦屋満を演じた石田卓也が安倍学を、芦名星が引き続き早良京子を演じます。メインキャスト４人以外はオーディションで選ばれたとのこと。プログラムを1500円で購入しました。客席は８割程度の入り。 |
|
2009年5月7日記、2009年6月28日更新 |
|
|
| 映画「マリア・カラスの真実（原題：CALLAS ASSOLUTA）」（2007年/フランス）を見ました。マリア・カラス没後30年を記念して製作されたドキュメンタリー映画です。マリア・カラスの数あるドキュメンタリー映画の中でも良質という評価を得ているようですが、どうでしょうか。 マリア・カラスの一生を98分で概観します。男性のナレーションで進行しますが、速くてついていけなくなりそうでした。カラスについてあまり詳しく知らなかったのですが、予備知識があったほうがいいでしょう。初めて知ったことが多かったですが、１回見ただけで理解するのは難しいでしょう。カラスはかつては体重100キロ以上で太った体型でしたが、急激なダイエットに成功したようです。別人のような体型でびっくりしました。 全部で27曲が断片的に流れます。私が知っている有名なアリアは少なかったです。貴重な映像や録音が含まれますが、カラスが歌っている映像があまり残っていないのか、録音を流しながら、映像は写真や舞台衣装が映し出されることが多いです。映像を見る限りではカラスが歌うときはあまり口を大きく開けないようですね。声量があるからでしょうか。テレビのインタビュー映像も収録されています。女優としての映画出演や歌唱教室での指導など、後年の活動も収録されています。ステファノとのデュオ・リサイタルは評価が散々だったようですが、部分的に聴くと張りのある声は健在で、そんなに悪いようには思えませんでした。私生活も取り上げられています。母との確執、メネギーニとの結婚、オナシスとの不倫、妊娠、死産など、当時のマスコミも注目していたようです。公演をキャンセルしたことは後年まで言われ続けていたようで、生前は賛辞と非難が同じくらい多かったと堀内修氏の寄稿に書かれています。晩年は孤独で、没後も遺族が遺品を売却してしまったため、記念館が建てられないと嘆いています。遺灰もエーゲ海にまかれたようです。録音と映像しか残っていないのは残念ですね。 |
|
2009年5月1日 |
|
|
| 映画「buy a suit スーツを買う」（2008年/日本）を見ました。脚本・監督は市川準。市川は編集を終えた後に急逝したため、今作が遺作となりました。第21回東京国際映画祭の「日本映画・ある視点」部門で作品賞を受賞しました。上映時間47分の短い作品です。 タイトルだけではまったくストーリーが予測できない作品ですが、蒸発したホームレスの兄を妹が訪ねるストーリーでした。セリフが自然体で日常会話のようです。脚本なしでアドリヴで話しているのかと思うほどです。兄（ヒサシ）の「東京はもうみんな自分のことしか関心がない」というセリフは、日本の現状をうまく言い当てています。山口からヒサシへの手紙を読んで泣きますが、映画では内容が明かされません。パンフレットには全文が掲載されています。最後に妹（ユキ）が兄のスーツを買おうとしますが、元妻（トモ子）が男に刺されて倒れます。クラリネットのＢＧＭが悲しく聴こえます。結局スーツは買っていませんが、なぜこのタイトルにしたのでしょうか。 遠くから距離を置いて撮影していて、顔はあまり見えません。主演のユキ役の砂原由起子がきれいな声です。鯖吉もホームレス役を好演。 同じ市川準監督の「TOKYO レンダリング 詞集」（2009年/日本）が同時上映。25分の短編です。固定カメラで東京の風景を１コマ映した後、詩が字幕でゆっくり表示されます。市川準が書いた詞なのでしょうか。セリフもナレーションもなく、街の騒音が聞こえるだけです。これが延々と続きます。個性的な映像表現ですが、表示される詞が「でんでら波」「安保理」「三年待て」など意味がよく分からない言葉もありました。映像と詞が一致しているようにも思えません。詞の前後に関連性も感じられません。ちなみに「レンダリング」とは完成予想図という意味らしいです。いろいろ謎が多い作品です。 |
|
2009年4月30日 |
|
|
| 映画「遭難フリーター」（2007年/日本）を見ました。派遣社員の生活の春夏秋冬を映したドキュメンタリー映画です。キャノンの工場で派遣社員として働く岩淵弘樹（23歳）が監督・主演を務めています。低予算の作品ですが、東北芸術工科大学出身だけあって、しっかりした撮影技術で、見せる作品に仕上がっています。土屋トカチ監督の「フツーの仕事がしたい」と比べると、自分で歩き回りながら撮影し、ナレーションも自分で務めているので、よりストレートな声が聞けます。 借金返済のために派遣社員として働き始めましたが、仕事の内容が単調でモチベーションが上がりません。派遣社員は社内のゴミ箱も使わせてもらえない（これはひどい）など、正社員と差別されています（この映画には正社員は登場しません）。週末はわざわざ憧れの東京に出てきて働き、マンガ喫茶や野宿などで一夜を明かします。マスコミが派遣社員を「負け組」「奴隷」と報道することに疑問を感じています。デモにも参加しましたが、デモでは状況は変わらないと考えています。大学を卒業してもフリーターしかなれないのでは、少子化がますます進行してしまいます。何とかならないものでしょうか。 実名で出演していて、テレビ局の取材もわざわざ知らない街で撮影するほどだったので、この作品が公開された後もまだ働き続けているのか心配になりましたが、現在はキャノンを辞めて東京で派遣社員として働いているようです。続編にも期待したいです。 |
|
2009年4月29日 |
|
|
| 映画「スラムドッグ＄ミリオネア（原題：SLUMDOG MILLIONAIRE）」（2008年/イギリス）を見ました。第81回（2008年）アカデミー賞で最多８部門を受賞しました（作品賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、編集賞、録音賞、作曲賞、主題歌賞）。監督は、イギリスのダニー・ボイル。原作は、インド出身のヴィカス・スワラップ著『ぼくと１ルピーの神様（原題：Q and A）』。PG‐12指定なのは、暴力シーンが含まれるからでしょう。 インドが舞台です。テレビ番組「クイズ＄ミリオネア」に出演した教育を受けていない少年（ジャマール）が、不正の疑いをかけられて逮捕されます。昨日のテレビ録画を見ながら警察で取り調べが行なわれますが、クイズの出題がこれまでの人生を振り返らせる（回想シーンを挿入する）という巧みな構成がすばらしい。最後の「ライフライン」でテレフォンを残すのも心憎い。兄弟関係や幼なじみとの純愛もよく描かれています。また、宗教紛争、貧富の格差、治安悪化、人口増加、交通渋滞、急速な都市開発など、現代インドが抱える諸問題を的確に映し出していてメッセージ性が感じられます。まさに映画の醍醐味といえるでしょう。インドではテレビは一家に１台ないことが分かります。会話は英語かインドの公用語ヒンディー語で話されます。タージ・マハルでもロケしています。 「クイズ＄ミリオネア」は、日本ではみのもんたが出演していますが、元祖はイギリスです。世界80ヵ国以上で放送されていて、インドでも2001年から実際に放送されているようでびっくり。ルールやスタジオセットは世界共通のようですね。億万長者の夢はインドでは日本以上のようですね。 俳優はいずれも熱演。子役もすばらしく、ドキュメンタリー映画を見ているようで、演じていることを忘れさせるほどです。ジャマール、ラティカ、サリームの主要３役は、子役２人を含めて３人で分担して演じています。途中で俳優が入れ替わったことに気づかないほど違和感がありません。 撮影も逃げるシーンなどスピード感満点の映像です。A・R・ラフマーンの打楽器のビート効いた音楽もすばらしい。アカデミー賞の評価がじゅうぶんうなづける映画でした。 |
|
2009年4月27日 |
|
|
| 映画「ニセ札」（2009年/日本）を見ました。「キム兄」こと木村祐一が長編映画監督に初挑戦です。 同じ吉本興業所属の松本人志が監督した「大日本人」は強烈なインパクトを与えましたが、今作は正統派のいたってまじめな作品です。撮影は早いペースで進んだようです。カメラアングルなどで個性を出そうとしていますが、違和感がありいまひとつ効果をあげていません。戦後すぐの時代設定にしては、きれいに映りすぎています。陽気な音楽が印象に残りました。 木村祐一も自ら花村典兵衛役として出演していますが、「少年メリケンサック」と比べると地味な役柄です。配役が決まらなかったので自分で出演したとのこと。戸浦文夫役の段田安則が好演。島本みさ子役の西方凌は、オーディションで選ばれて映画初出演。元左官職人で芸名は木村が命名したとのこと。映画公開にあわせて（？）、木村との交際が報じられました。吉本興業に所属する芸人も多数出演しています。 ストーリーは山梨県で起こったニセ札事件「チー５号事件」をモデルにしているようですが、ややありきたり。聖徳太子の千円札ですが、すでに透かし技術を採用していたとは日本の紙幣は優秀ですね。 木村は京都出身ということで、美山町でロケが行なわれています。また、私の母校の立命館大学が撮影協力としてクレジットされていて、裁判所のシーンを撮影したとのこと。びっくり。 モントリオール世界映画祭に正式招待されることになりましたが、海外の反応はどうでしょうか。 |
|
2009年4月17日 |
|
|
| 映画「消えたフェルメールを探して 絵画探偵ハロルド・スミス（原題：STOLEN）」（1995年/アメリカ）を見ました。フェルメールの名画「合奏」など全13点が盗まれたボストンのイザベラ・スチュワート・ガートナー美術館の盗難事件の犯人を、絵画探偵ハロルド・スミスが追跡するドキュメンタリー映画です。興味深い内容ですが、単調な構成なので眠くなりました。 盗難事件があったのは1990年3月18日なので、意外にも最近の出来事です。盗難事件では過去最高額の被害です。とても小さな美術館で警備が手薄だったようです。ガードナー夫人は、遺言で貸し出しを含めて館内にある作品の移動を禁じたたため、現在では額だけが残っています。ＦＢＩも捜査し、500万ドルという高額の懸賞金が用意されているにもかかわらず現在までのところ手掛かりはありません。通報用の専用フリーダイヤルにはふざけたメッセージが残されています。 関係者のインタビューでは、当時の警備員は「防犯意識が低くかった」と語り、新聞記者は「盗難作品のひとつであるレンブラント作「ガリラヤの海の嵐」を見た」と語り、美術品泥棒のコナーは「友人の犯行」と語ります。スミスは犯人らしき人物と接触を図りますが、約束したメトロポリタン美術館前に姿を見せませんでした。スミスは「詐欺師にだまされた」と語ります。その他にも犯人らしい怪しい人物が登場しますが、本当のことを言っているのは誰なのか真偽のほどが分かりません。スミスが終盤で会った人物から貴重な情報をつかんだようですが、カメラの前では言えないとして内容は語られません。この映画ではアイルランドのテロ組織が作品を所持していると推測しています。いずれ発見されると信じたいです。スミスは2005年に癌で死去したとのことです。 また、ガートナー夫人と美術品ディーラーのバーナード・ベレンソンの書簡のやりとりがナレーションで紹介されます。「合奏」は1892年にオークションで29000フランで購入しましたが、密かに蒐集を進めたようです。 この映画で字幕監修を務めている朽木ゆり子の著書『盗まれたフェルメール』（2000年）は参考になります。映画は登場人物が多いので、この本で予習したほうがいいかもしれません。「合奏」はルーブル美術館とロンドン・ナショナル・ギャラリーとの競り合いに勝ったこと、予算がなかったため盗難保険に加入していなかったことなどが記載されています。また、世界各国で発生した美術品盗難事件が詳述されています。フェルメールは、過去に「恋文」「ギターを弾く女」「手紙を書く女と召使い」も盗難に遭っています。 |
|
2009年4月12日 |
|
|
| 映画「ヤッターマン」（2009年/日本）を見ました。ＴＶアニメの実写映画化です。興行収入で４週連続で１位を記録する大ヒットとなりました。監督は三池崇史。ＴＶアニメは1978年から２年間放送されました。私も幼いときに少し見た記憶がありますが、どうやら再放送だったようですね。もっともＴＶアニメを知らない世代でもじゅうぶん楽しめる映画です。 冒頭からいきなり戦闘シーンで開始。一気に引き込まれます。アニメを忠実に再現していて、なつかしく感じます。撮影技術がすばらしい。感電したときに骨が光る絵もアニメそっくり。セットもすばらしい出来で、渋山駅前と最終決戦地のドクロ要塞のセットは見ごたえ十分です。約９割がＣＧを使用したカットとのことですが、あまり人工的な感じはしません。ヤッターワンの色は映画では赤一色でメカニックな感じに変更されています。アニメのほうが犬っぽくて愛嬌がありました。 登場する地名にシャレが効いていて笑えます。渋山駅前（渋谷駅前）、ハッチ公（ハチ公）、107（109）、MMV（HMV）、ナルウェーの森（ノルウェーの森）、オジプト（エジプト）、南ハルプス（南アルプス）など。ヤッターマン１号が暮らす高田玩具店は、高田つながりで高田馬場駅前にあるという設定になっています。 ヤッターマン１号（高田ガン）役の櫻井翔は、何の違和感もなく見れます。ヤッターマン２号（上成愛）役の福田沙紀はいまいちですが、うれしそうにヤッターワンに乗ります。セクシーな衣装が大きな話題を集めたドロンジョ役の深田恭子は、声に色っぽさがないのが残念ですが、揺れる恋心をうまく表現しています。ボヤッキー役の生瀬勝久は、まさにアニメ的な表情。海江田博士役の阿部サダヲは純粋に怖い。ＴＶアニメの声優もワンシーン出演しています。ドロンジョと野比のび太（小原乃梨子）と、トンズラーとジャイアン（たてかべ和也）は同じ声優だったんですね。「ヤッターマンの歌」と「天才ドロンボー」（ともに山本正之作曲）はひさびさに聴きましたが名曲ですね。 エンドクレジットの後に予告編が流れます。ＴＶアニメを意識して作られたと思われますが、ぜひ第２弾を製作してほしいです。 |
|
2009年4月9日 |
|
|
| 映画「愛のむきだし」（2008年/日本）を見ました。上映時間237分の大作です。原案・脚本・監督は園子温。第59回ベルリン国際映画祭で、国際批評家連盟賞とカリガリ賞の２部門を受賞しました。R15指定です。実話をベースしていることが冒頭に字幕で表示されますが、園子温の友人の話にヒントを得ているようです。 約４時間の作品ということでダラダラと長いかと思いましたが、むしろ早い展開。質より量の映画ではないので、そんなに長く感じませんでした。４つのチャプター（章）に分かれていて、ユウ、コイケ、ヨーコ、サソリの順に、徐々に登場人物の全貌が明らかになります。ナレーションに沿っていいテンポで進みます。キリスト教の神父、マリア様、結婚離婚、レズビアン、女装、新興宗教、罪、懺悔、盗撮など、奥深いテーマが盛りだくさん。登場人物の心情が深く描かれます。犯罪行為である盗撮をネタにしているなど題材があまり健全ではありませんが、笑えるシーンも用意されています。ゼロ教会が爆破された後の展開が少し荒いのが残念。コイケが血まみれで自殺するシーンがエグい。最後はハッピーエンドでよかった。途中で10分間の休憩があります。 俳優は喜怒哀楽の感情移入がものすごく、演じているということを忘れさせるほどです。いずれも体当たりの演技で、はまり役。ユウ役の西島隆弘は今作が映画初出演で初主演。女装と制服がお似合いです。ヨーコ役の満島ひかりがかわいい。聖書を長々と絶叫するシーンは目が怖い。今後要注目の女優です。コイケ役の安藤サクラは、奥田瑛二の娘とのこと。体がデカい。笑顔が不気味。神父である父の渡部篤朗も表情をうまく切り替えます。 ラヴェル「ボレロ」、ベートーヴェン「交響曲第７番第２楽章」、エルガー「エニグマ変奏曲」など、ＢＧＭも効果的です。 |
|
2009年4月7日 |
|
|
| 映画「恋極星」（2008年/日本）を、戸田恵梨香目当てで見ました。監督は、人気女性写真家のAMIY MORI。映画監督初挑戦とのこと。原作は、ミツヤオミの読み切りコミック「君に光を」（2005年）。知的障害の弟がいる柏木菜月（戸田恵梨香）と11年ぶりに再会した幼なじみの舟曳颯太（加藤和樹）とのラブストーリーです。婚約指輪と結婚指輪のエピソードにうるっとくるかもしれません。みずがめ座イータ流星群を見るシーンも素敵。北海道の雪景色がきれいですが、春に見るのは妙な感じです。 作品の世界観に共感したアーティストの新曲が随所で挿入されますが、音楽がうるさく感じました。また、表情を見れば分かるような余計なセリフがあるので、少しくどく感じます。 戸田恵梨香は恋愛映画初主演で、泣くのを初めて見ました。20歳に見えない落ち着いた演技です。「デスノート」と比べると、ちょっと太ったかもしれません。加藤和樹はダルビッシュ有に似ているイケメンです。演技力もなかなか。若葉竜也が知的障害のある弟役を好演しています。 |
|
2009年4月3日 |
|
|
| 映画「昴‐スバル‐」（2009年/日本・中国・シンガポール・韓国）を見ました。原作は曽田正人の漫画『昴‐スバル‐』（2000年〜2002年）。日本だけでなくアジアやヨーロッパでも人気の漫画とのこと。監督・脚本は、香港出身のリー・チーガイ（李志穀）。 天才バレエダンサーの宮本すばる（黒木メイサ）の幼少期から上海バレエコンクールで優勝するまでを描いています。登場人物が必要以上に多い。原作に合わせるためかも知れませんが、双子の姉弟、幼なじみのライバル、離婚した夫婦など、人間関係も複雑。ストーリーの流れも悪い。すばるが本番前に腕が痛くなったり、突然キスされたり。黒猫も最後までひっぱりすぎ。すばるはストリートダンスを踊ったり、空気を読んで周りと合わせる力を習得するために、目隠しして街を歩いたりします。バレエを習得するために本当に有効なのかは分かりませんが。 主演の黒木メイサはバレエ未経験なので猛特訓を受けたとのこと。トゥシューズで立つだけでも大変らしいです。バレエを踊るシーンはカメラアングルが切り替わりすぎ。もう少し落ち着いて見たいです。宮本すばる役は当初オーディションで募集しましたが、見つからなかったとのこと。キャバレーのオーナー役の桃井かおりは、イギリスバレエ団への入団経験があるとのこと。激やせするシーンはびっくりしました。リズ・パーク役のAraは韓国出身。日本語が少したどたどしいですが、存在感ある演技です。 キャバレー「パレ・ガルニエ」の内部は上海で撮影されています。いい雰囲気の劇場ですが、これが最後の撮影で取り壊されるとのこと。もったいない。 |
|
2009年3月22日 |
|
|
| 映画「少年メリケンサック」（2009年/日本）を見ました。監督・脚本は宮藤官九郎。監督第２作です。 レコード会社の新人発掘部に勤める栗田かんな（宮崎あおい）が、パンクバンド「少年メリケンサック」のライヴ動画をインターネットで発見。すでに25年前に解散していたバンドが再結成されて、全国ライヴツアーを行なうストーリーです。過去の回想映像や当時のマネージャー（ピエール瀧）のインタビューが挿入されます。 ストーリー展開が早い。行間が多く細かな経緯は省略されます。笑えるポイントが多く用意されているのですが、展開が早すぎてついていけないことがありました。怪獣のアニメーションはなくてもよかったでしょう。飽きずに見られて、上映時間が短く感じました。ライヴハウスのシーンは熱気があり、本当に演奏しているようです。宮藤自らがバンド「グループ魂」に参加していることもあって、臨場感たっぷりに描写されています。 俳優も勢いがあります。なかでも主演の栗田かんな役宮崎あおいの弾けっぷりがすごい。終始ハイテンションで、今までのキャラクターが変わるほどの体当たりの演技です。こんなかわいくて一生懸命な部下がいたら楽しいでしょう。宮崎あおいのファンになりそうです。ＮＨＫ大河ドラマ「篤姫」と並行して撮影したというのも驚きです。 バンドメンバーも個性豊か。ベースの佐藤浩市はヒゲぼうぼう、髪の毛爆発のメイクにびっくり。ギターの木村祐一が存在感ある好演。兄佐藤浩市との焼き飯とチャーハンの兄弟げんかなどおもしろい。ヴォーカルの田口トモロヲも奇抜なメイクで、「プロジェクトＸ」のナレーションとはまったく違う声です。障害を持っている感じもうまい。 音楽はZAZEN BOYSの向井秀徳が担当。勝地涼が歌う「さくららら」「自信」を含めて作曲しています（作詞は宮藤）。銀杏BOYZが演奏する劇中歌「ニューヨークマラソン」（作詞：宮藤 作曲：峯田和伸）もインパクトが強く、耳に残って離れません。 エンディングテーマは松任谷由実の名曲「守ってあげたい」。向井と峯田が「はねらわれた学園」名義でカバーしています。意表を突く選曲です。 |
|
2009年3月16日 |
|
|
| 映画「誰も守ってくれない」（2009年/日本）を、主題歌の合唱曲に惹かれて見ました。監督・脚本は君塚良一。第32回モントリオール世界映画祭で、最優秀脚本賞を受賞しました。実話ではないようですが、よく練れたストーリーです。君塚が発案したとのこと。 殺人犯の妹の船村沙織（志田未来）を守る刑事の勝浦卓美（佐藤浩市）が主人公。警察が加害者家族を保護するとは意外ですが、マスコミや世間から守るためとのこと。もっとも国民の税金を使っていることになるので、公式には認めていないようです。 冒頭は主題歌のＢＧＭが流れる中、セリフなしで映像だけで進行します。わずか数分のオープニングで本論に入る斬新な演出です。すぐに、両親の離婚・再結婚が行なわれて改姓、就学義務免除の手続きがされます。三島省吾（松田龍平）の運転でマスコミから車で逃げるシーンは手に汗握ります。携帯電話やインターネット、盗撮カメラなどが登場する現代感覚のあるストーリーで、被害者の家族や刑事の個人情報まで知ろうとする世間の不気味さや危険性をうまく表現しています。勝浦刑事は、殺人犯を逮捕できなかった過去があり、今でも手が振るえます。沙織との感情のすれ違いにも苦慮します。また、別居中家族との家族旅行が中止になってしまい、家族崩壊の危機にもさらされます。加害者の母が自殺するなど加害者家族の精神的打撃や、被害者家族の憎しみの感情など、犯罪後の人間関係について考えさせられます。最後まで息もつかせずに見せます。 志田未来の演技は初めて見ました。まったく笑わない役ですが、孤独に沈む少女を好演しています。大勢のマスコミに取り巻かれて驚いた表情などもうまい。被害者の父親である本庄圭介役の柳葉敏郎がいい。勝浦に対して複雑な心情を明かします。坂本一郎役の佐野史郎も冷酷な刑事を好演。沙織の恋人で園部達郎役の冨浦智嗣は、一見女のように見えますが男です。 撮影はセミ・ドキュメンタリー方式で行なわれたようで、リハーサルからカメラ２台で撮影して、編集でつなぎあわせたとのこと。役者は緊張を持続しなければいけないので大変だったようです。 柳葉敏郎が経営するペンションは、西伊豆町にある「サンセットリゾート」で撮影されました。海を望む景色がきれいです。 主題歌「あなたがいるから YOU WERE THERE」を歌っている「LIBERA（リベラ）」は、イギリスのボーイ・ソプラノのユニット。女声ではなくて男声でした。この主題歌が重厚な演出効果に大きく貢献しています。作曲は、村松崇継。教会音楽のような厳かな音楽なので、日本人が作曲したとは意外でした。 |
|
2009年3月7日 |
|
|
| 映画「ヘブンズ・ドア」（2009年/日本）を、福田麻由子目当てで見ました。監督はアメリカ出身のマイケル・アリアス。初の実写映画作品とのこと。余命数日で天国一歩手前の男女２人が、病院を抜け出して一緒に海を見に行くストーリーです。都内で強盗したり、車の盗難がばれたり、病気が再発したりと、緊迫感あるストーリー展開です。パトカーや救急車を運転して逃げるなど、あまりにもうまく逃げられすぎです。日本の警察はもっと優秀でしょう。 外国人が映画監督を務めているので、日本人とは違う感性がおもしろい。照明の色彩、画面を揺らしながら撮影するカメラワーク、レモンやテキーラのビンなどの静物の配置など、ユニークな映像表現は参考になります。なお、冒頭のキャスト字幕はローマ字で表示されます。 白石春海役の福田麻由子は、オーディションで選ばれました。「L change the WorLd」で好演しましたが、今回も喜怒哀楽を表情豊かに演じています。ホテルのスイートルームで髪を切るシーンがあります。主演の青山勝人役の長瀬智也も自然体の演技。脇役も充実していて、K3ホールディングス社長小久保役の長塚圭史が謎めいたキャラクターをうまく演じています。PUFFYの吉村由美（ショップ店員）や土屋アンナ（ホストクラブの客）は、エンドクレジットを見るまで分かりませんでした。 ロケ地は、原宿の竹下通りで長い時間撮影されていてびっくり。２人が小久保に銃を向けられる場所は静岡県の井川ダム、ラストシーンの海岸は静岡県御前崎で撮影されたとのこと。 原案となった映画は、1997年のドイツ映画「Knockin' on heaven's door（ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア）」。ボブ・ディランの名曲「Knockin' on Heaven's Door（邦題：天国への扉）」の影響を受けて作られた映画のようです。今作では、主題歌として、「Knockin' on Heaven's Door」をアンジェラ・アキが日本語訳でカバーしています。有名な曲らしいですが、初めて聴きました。なお、原案の映画では、主人公は男２人の設定でしたが、大森美香の脚本で青年と少女に変更されています。 |
|
2009年3月4日 |
|
|
| 映画「ノン子36歳（家事手伝い）」（2008年/日本）を見ました。主演は坂井真紀。 「家事手伝い」とタイトルにありますが、家事をするシーンはありません。バツイチ出戻りのパラサイトで、親からも見放されています。化粧をほとんどしないで、たばこを吸ったり、下駄を履いたり、女を捨てたような生活で、精神的に病んでいるようです。行動に一貫性がないので、ストーリーに共感できませんでした。出店でひよこを売ろうとしたマサル（星野源）が神社でチェーンソーをふりまわすなど、あまり健全ではありません。ノン子の実家が神社という設定がユニーク。巫女の衣装がよく似合っています。セックスシーンがあるためR15指定ですが、性描写がかなりリアル。大胆な脱ぎっぷりです。 撮影は埼玉県の寄居町と秩父市で行なわれました。橋を渡って単線の線路を走る電車など、景色がきれいです。 |
|
2009年3月3日 |
|
|
| 映画「フツーの仕事がしたい」（2008年/日本）を見ました。監督は龍谷大学出身の土屋トカチ。自ら撮影・編集・ナレーションも務めています。 １人のトラック運転手を追ったドキュメンタリー映画で、ハンディカメラで撮影されています。「普通の仕事」と異なるところは、超長時間労働であること。ビルの建設工事は昼夜問わず行なわれるため、トラックによるセメントの継続的な供給が不可欠とのこと。給与体系もオール歩合制で、セメントを運送した量に給与が完全に連動する劣悪な労働環境とのこと。月500時間以上の苛酷労働で、入院してしまいます。顔色も悪いです。 状況を打開するため、組合に加入しましたが、社長や幹部などから脅しや暴力を受けます。組合の幹部と、工場に出向いて過積載を摘発したり、親会社や子会社前で演説したり、社外に向けてアピールします。関係者もすべて実名で登場するのがリアルです。その結果、親会社に改善指導をさせたり、子会社との契約関係を打ち切らせたり、目に見える成果を上げました。労働者が団結して勝利したので、現代版の「蟹工船」と例えられています。派遣切りが進む中で、あきらめずに会社と戦った例として、参考になるところが多いでしょう。組合の力は大きいと感じます。 エンドクレジットで、労働組合法が紹介されます。２名以上で労働組合が結成できるという世界でも稀な法律とのこと。組合離れが進む昨今ですが、意外に簡単に作れるのですね。 |
|
2009年3月1日 |
|
|
| 映画「魔法遣いに大切なこと」（2008年/日本）を、永作博美目当てで見ました。監督は中原俊。脚本は山田典枝。すでに漫画化やアニメ化がされているようですが、もともとの脚本は2000年に映画のために書かれています。今作は中原監督の意見を取り入れたオリジナルストーリーとのこと。 「魔法士」の血縁を持つ人間が、東京の魔法局で国家公務員になるための研修を受けます。魔法は依頼者からの依頼にもとづいて使うとか、使ってはいけない魔法があるとか、魔法士の伝染病にかかると１ヶ月で死ぬとか、設定がぶっとんでいますが、気楽に見れました。 鈴木ソラ役の山下リオは、映画初出演で初主演。オーディションで選ばれたようです。第12代リハウスガールとして「三井のリハウス」のテレビＣＭに出演しているようですが、見たことがありませんでした。演技はちょっとうそくさい感じであまりうまくありません。緑川豪太役の岡田将生が好演。川田女史役の余貴美子や白石沙織役の木野花も魔女的な存在ではまり役。ソラの母役を演じた永作博美は北海道弁を自然に話しました。 羽毛田丈史の音楽と主題歌「愛する人」（THYME）も、さわやかな印象を与えます。 |
|
2009年2月28日 |
|
|
| 映画「帝国オーケストラ（原題：The “Reichsorchester” The Berlin Philharmonic and the Third Reich ）」（2008年/ドイツ）を見ました。ナチスに支配されていた時代のベルリン・フィルを追ったドキュメンタリー映画で、当時所属していた団員や団員の子息のインタビューが挿入されます。監督は「ベルリン・フィルと子どもたち」（2004年）のエンリケ・サンチェス＝ランチ。2007年に行なわれたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団125周年式典で上映されたようです。 当時の映像はもちろん白黒です。ナチスの鉤十字マークが演奏会のステージに掲げられたり、演奏会前に宣伝大臣のゲッベルスが演説したり、客席最前列に軍人が座ったり、戦時中の政治色が強い演奏会の様子が収録されています。フルトヴェングラーの指揮姿が見られるのが貴重で、その後もクナッパーツブッシュ、レオ・ボルヒャルト、チェリビダッケ、カラヤンの順に登場し、ベルリン・フィルの歴史を概観します。 インタビュー映像は、当時ベルリン・フィルに所属していた団員が証言します。現在存命しているのは２名のみとのこと。「ナチスのオーケストラではない」と語りますが、上述した演奏会の映像を見ると、現代人がその言葉を理解するには無理があるでしょう。ユダヤ人の団員が楽団を去ったこと、生活のことを考えると退団できなかったこと、ナチス党員の団員が所属していて目を光らせていたこと、兵役を免除されて優遇されていることの葛藤、軍に召集された団員やソ連攻撃前に自殺した団員がいたこと、ユダヤ人のメンデルスゾーンや、敵国のチャイコフスキーの作品は演奏できなくなったことを語ります。オーケストラも心穏やかではなく、内部の人間関係がギスギスしていたようです。 編集が雑な感じでいまいち。なお、「ディレクターズカット版」での上映でしたが、どこが削除されたのか特に説明はありませんでした。 |
|
2009年2月22日 |
|
|
| 映画「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて（原題：TRIP TO ASIA The Quest For Harmony）」（2008年/ドイツ）を見ました。ベルリン・フィル創立125周年記念作品です。監督は「ベルリン・フィルと子どもたち」（2004年）のトマス・グルベ。 ベルリン・フィルが芸術監督サイモン・ラトルと2005年秋に行なったアジアツアーの模様と、団員のインタビューで構成されています。北京→ソウル→上海→香港→台北→東京の順に、６都市12公演３週間に渡るツアーです。団員には少しお疲れの様子も見えます。台北では演奏が野外に生中継されていて、数万人の観客によって熱狂的な大歓迎を受けています。日本では考えられない盛り上がりです。 演奏曲は、ベートーヴェン／交響曲第３番「英雄」、トーマス・アデス／アサイラ、Ｒ．シュトラウス／交響詩「英雄の生涯」の３曲。リハーサルと本番の演奏が部分的に収録されています。「英雄の生涯」は低音がよく利いています。アサイラは、イギリスの現代作曲家トーマス・アデスが1997年に作曲したバーミンガム市交響楽団委嘱作品。複雑なリズムにラトルもオーケストラも苦戦しています。 団員のインタビューでは、ステージでの演奏では決して感じることができない団員の本音を聞くことができます。ベルリンフィルが培ってきた伝統や、一流演奏家としての苦悩、自分との葛藤を語ります。団員が子どものときから超エリートだったわけではないことが分かります。コンサートマスターの安永徹や首席ヴィオラ奏者の清水直子もインタビューに答えています。また、候補生が４名登場します。ベルリン・フィルに候補生の制度があることを初めて知りました。入団試験を経て試用期間中ですが、その後３名は合格しますが、１名は不合格で楽団を去ったようです。 編集に２年かかったため、公開が遅くなったようです。シモン・シュトックハウゼン（カールハインツ・シュトックハウゼンの息子）の音楽も聴きもの。 |
|
2009年2月21日 |
|
|
| 映画「地球が静止する日（原題：THE DAY THE EARTH STOOD STILL）」（2008年/アメリカ）を見ました。1951年に公開された映画「地球の静止する日」のリメイクです。基本的なストーリーは同じとのこと。大げさなタイトルですが、地球の自転や公転が止まるわけではありません。ストーリーの流れが雑で、疑問点が多いです。観客に何を伝えたいのか分からない作品で、期待外れでした。 宇宙から来た小惑星がマンハッタンに飛来し、球体の中からクラトゥ（キアヌ・リーブス）が姿を現します。金属でできた巨大ロボット（ゴート）も現れますが、クラトゥとゴートの関連性がよく分かりません。ゴートは誰が操っているのでしょうか。クラトゥは「人類が滅亡すれば地球は生き残れる」と言いますが、「何が地球を傷つけているのか」や「地球が滅びるとなぜ困るのか」など、具体的な説明はまったくなし。ヘレン（ジェニファー・コネリー）も「私たちは変えられる」と語りますが、具体性や説得性に欠けます。球体が世界各地にいくつも現れたり、ゴートから羽根のついた虫が大量発生したり、クラトゥはクリームを塗ると電気を操れたり、駅のトイレで突然倒れたり、最後は宇宙に帰ったり、分からないことだらけ。疑問が解決されないまま終わります。英語だけでなく、すでに送り込まれた別の使者と中国系の老人とは中国語も話します。ノーベル賞学者の家でバッハの「ゴルトベルク変奏曲」を聴いて、クラトゥが「美しい」と話すシーンは興味深かったです。 地上のあらゆるものが破壊されていく映像効果はリアルです。上述したようなストーリー上の問題点を気にしなければ楽しめるかもしれません。 1951年公開「地球の静止する日」の原作、ハリイ・ベイツ著「Farewell to the Master（邦題：主人への告別）」（1940年）を読みました。映画と原作はストーリーが大違いでびっくり。宇宙船が出現する以外はまったくストーリーが異なります。原作では、クラトゥは狙撃されて死亡。巨大ロボットヌートは博物館に展示されていますが、夜に動き出すところをカメラマンが目撃します。宇宙船のなかでコピー人間を作るという設定は、当時にしては斬新でしょう。ヌートをブロックで封じ込めたり攻撃するのは映画に似ています。 |
|
2009年2月13日 |
|
|
| 映画「ザ・ムーン（原題：IN THE SHADOW OF THE MOON）」（2007年/イギリス）を見ました。人類史上初めて月面に着陸したアポロ11号の映像と、宇宙飛行士のインタビューで構成されたドキュメンタリー映画です。 NASA蔵出しの映像は、初めて公開されるものもあって、とても貴重です。宇宙船内や管制センター、テレビ中継など多くの映像が使用されていて、当時の撮影技術に感嘆します。アメリカはすごい。よく撮影できたものです。当時いかに注目されていたかよく分かります。また今まで残されていたことにも感謝です。初めて月面に降り立ったニール・アームストロングは、着陸船「イーグル」のはしごをゆっくり降りてすぐに、有名な「That's one small step for a man, one giant leap for mankind.（一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ）」を話したことも分かります。アポロ11号には３人が搭乗しましたが、月面に降り立ったのは２人で、マイケル・コリンズは司令船にいたんですね。月の表面は砂で覆われているとか、平坦ではなく山があるとか、見慣れている月について知らなかったことが多いことに気づかされます。月面車を運転する映像など、見ていておもしろいです。また、ケネディ大統領が議会演説で月への有人探査の実現を語る映像や、地上訓練で飛行士３人が死亡したアポロ１号の映像、事故により失敗したアポロ13号の映像もあります。アポロ11号以降も12人が月を歩きましたが、1972年のアポロ17号が最後です。 アポロ計画で月へ旅立った宇宙飛行士は多くが存命です。インタビューを聞くと、月に行って地球に帰ってくるのはやはり大変なことだと感じました。地球を思いやる気持ちや地球に生まれたことへの感謝を語っています。アポロ計画捏造説は笑って一蹴しています。 ニール・アームストロングも存命ですが、インタビューに同意しなかったようで登場しません。 日本版の主題歌として、平井堅が「Moon River」を歌っています。 |
|
2009年1月26日 |
|
|
| 映画「おくりびと」（2008年/日本）をようやく見ました。監督は滝田洋二郎。脚本は小山薫堂。第32回モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞しました。第32回日本アカデミー賞では、実に13部門で優秀賞を受賞しました。異例のロングランで、興行収入30億円を超えるヒットとなりました。 日本映画史に残る名作でしょう。私がこれまでに見た映画の中でもベスト３には入ります。生きる意味や命の尊さを考えさせられました。死生観や人生観が変わる方も多いでしょう。自殺が増えている現代社会ですが、ぜひ多くの人に見てほしいと思います。 遺体を棺に納める納棺師が主人公です。ほとんど知られていないマイナーな職業ですが、納棺の知識が自然と理解できるストーリーになっています。死体を扱うため嫌われる仕事なのか、給料が高額なようですね。納棺は宗派を問わないようで、病院で亡くなったときも登場するようです。所作の美しさが重要とのこと。また、火葬炉は全自動のような印象がありますが、裏で点火ボタンを押す火葬場長がおられるようです。 ＴＶ放送作家として活躍してきた小山薫堂は映画初脚本とのことですが、すばらしいシナリオです。ストーリーが自然でに作為的なものを感じません。シナハン（シナリオハンティング）を敢行して取材した成果でしょう。石文（いしぶみ）のエピソードも効果的。次回作ができればぜひ見たいです。 死者と対面するシーンが多い映画ですが、重苦しい雰囲気がずっと続くわけではなく、ところどころ笑えるシーンも用意されています。『シナリオ』2008年10月号に掲載された脚本を読む限りでは、笑わせるような文章表現ではないので、これは滝田洋二郎の手腕でしょう。ちなみに、滝田洋二郎は成人映画から監督のキャリアが始まったようです。上述したシナリオは、映画とは微妙に異なります。滝田監督の意見をもとに省略してもいいようなシーンやセリフがカットされていて、総じて映画のほうが完成度が高いです。美香の「汚らわしい」という重要なセリフは、シナリオでは「気持ち悪い」でした。また、佐々木が話す「困ったことに」「これもご遺体だ」というセリフは、シナリオにはありません。また、平田がツヤ子に話しかけるセリフも、シナリオは「さようなら」ですが、映画では「また会おう」に変更されています。 俳優も、はまり役そろい。主演の小林大悟役の本木雅弘が真摯な演技。本当にチェロを演奏してるように見えます。もともと納棺に興味持っていたようで、本木のアイデアによるところが大きいとのことです。妻の小林美香役の広末涼子も好演。広末の演技を初めて映画で見ました。離婚後初の映画出演でしたが、奇行騒動を完全に吹き飛ばしてくれました。ウェブデザイナーの仕事は少なく、家事のシーンがほとんどです。佐々木生栄役の山崎努も味わい深い名演。余貴美子、笹野高史、山田辰夫などの脇役陣もすばらしい。山田辰夫（富樫家喪主役）の「あいつ今までで一番きれいでした」のセリフには泣けました。先日亡くなった峰岸徹が大悟の父親（小林淑希）役で出演しています。セリフはありませんが、回想シーンで石文を渡す笑顔が印象的でした。 ベートーヴェン「第九」の演奏で、山形交響楽団と常任指揮者の飯森範親が出演しています。久石譲の音楽もすばらしい。すべてがチェロアンサンブルで演奏されています。山形の自然も美しく撮影されています。 なお、ノベライズとして、百瀬しのぶ著『おくりびと』が出版されています。シナリオにはなかったエピソードが追加されています。 |
|
2009年1月18日 |
|
|
| 映画「レッドクリフ Part�機文饗蝓Ю嵎鼻法廖�2008年/アメリカ・中国・日本・台湾・韓国）を見ました。監督は、中国人のジョン・ウー（呉宇森）。セリフは中国語です。 中国古代史『三国志』の映画化で、1800年前に当たる西暦208年の「赤壁の戦い」を描く２部作の前編です。新野の戦いに敗れた劉備軍が孫権軍と同盟を結び、赤壁で曹操軍と戦う前までを描いています。制作費はアジア映画史上最高額となる100億円。さらにジョン・ウーが私財10億円を投じています。 何と言っても戦争シーンでのエキストラの数がすごい。中国政府がわざわざ現役人民軍兵士を1000人派遣したとのこと。広大な国土もまさに壮観。ＣＧも見事。血があまりにも鮮やかに吹き出すのが演出過剰にも思えますが、新時代のアクション映画と言えるでしょう。145分の上映時間はそんなに長く感じません。 曹操が悪者に描かれているので、蜀漢を正統とする『三国志演義』の立場に近いでしょう。描かれているエピソードがどこまで史実なのか気になりますが、俳優に合わせて脚本を書き直すなどフィクションが多く含まれているようです。泥棒の靴に付いた泥、鞋の藁が切れないというエピソードはフィクションでしょう。戦場で「曹」「劉」「孫」と書かれた旗を立てるのは史実でしょうか。なお、「九官八卦の陣」が赤壁の戦いで採用されたという記述はないようです。俳優には、三国志や三国志演義とは異なる人物を演じるに求めたとのことです。 キャストには日本人が２人参加しています。準主役の諸葛孔明役の金城武はいまいち。存在感が薄く知的な感じがしないので軍師らしくありません。キャスティングしたのは日本市場目当てでしょうか。中村獅童は特別出演待遇。周瑜に仕える甘興を好演しています。中国人の俳優も祖国の英雄を熱演しています。曹操役のチャン・フォンイーが堂々とした演技を見せます。絶世の美女とされる小喬役を演じるリン・チーリンは映画初出演とのこと。ただ、劉備役のヨウ・ヨンはカリスマ性が感じられなくていまいち。笛の音やセリフをアフレコ（アフター・レコーディング）で撮っていますが、動作と合ってないのでけっこう目立って気になりました。 音楽は岩代太郎。東京都交響楽団が演奏しています。勇壮ですが、中国人が作曲したらどんな音楽になったか聴いてみたかったです。 冒頭に日本オリジナルと思われる時代背景を紹介する導入映像が挿入されています。また、ジョン・ウーは「愛、友情、勇気」がテーマと語っていて、中国史にあまり関心がなくても楽しめるでしょう。この映画で中国史ファンが増えればうれしいです。大学で中国史を勉強した私はひさびさに勉強したくなりました。国内興行も50億円を見込めるほどヒットしているようです。Part�兇錬慣遒妨�開されます。 |
|
2009年1月2日 |
|
|
| 映画「おいしいコーヒーの真実（原題：BLACK GOLD）」（2006年/イギリス・アメリカ）を見ました。全世界で１日に20億杯飲まれるコーヒーがどのような過程で売られるかを描いています。 コーヒー原産国のエチオピアはコーヒー産業で潤っているかと思いきや、飢餓貧困にあえいでいる実態に驚きました。理由は、コーヒー農家の取り分が少なすぎるから。コーヒーの販売価格の0.1％しかコーヒー農家に入りません。多くの業者が介在するためと、国際価格が安いためと、不公正な取引によって安く売られるためのようです。コーヒー豆を選別する女性の給料も、日給0.5ドルという考えられない安さ。コーヒーでは生計が立てていけないということで、チャット（麻薬）を栽培する農家も増えているようです。映画では企業の利益を優先するアメリカを厳しく批判しています。有名コーヒー企業は取材を拒否したようです。 日本は世界第３位の輸入国とのこと。消費者の一人としては、コーヒー農家が利益が入るような仕組みに変えてほしいと思います。 |
|
2008年12月22日 |
|
|
| 映画「まぼろしの邪馬台国」（2008年/日本）を見ました。原案は宮崎康平著『新装版 まぼろしの邪馬台国』。監督は「20世紀少年」の堤幸彦。脚本は大石静。吉永小百合ファンなのか、客席の年齢層が高かったです。 盲目の文学者宮崎康平とその妻和子が、邪馬台国がどこにあったかを探すストーリーです。宮崎夫妻はさだまさしの「関白宣言」のモデルになった夫婦のようです。宮崎和子はご存命で「スペシャルサンクス」としてクレジットされています。実話にもとづくフィクションということで、創作も含まれています。 竹中直人が宮崎康平役をハイテンションで好演。大河ドラマ「秀吉」を思い起こさせました。映画では島原鉄道の社長という設定でしたが、実際は常務取締役だったようです。また映画では最初から失明していましたが、失明したのは33歳のとき、過労が原因だったようです。生前の写真を見ると、恰幅のある方だったようですね。和子役の吉永小百合は、卑弥呼も演じています。邪馬台国が噴火で滅亡したような映像でしたが、誰の説なのでしょう。卑弥呼のテーマとして、セリーヌ・ディオンの「A WORLD TO BELIEVE IN 〜ヒミコ・ファンタジア〜」が流れます。窪塚洋介の柳原可奈子とのキスシーンはファンには衝撃的かもしれません。草野仁が司会者という超脇役で出演しています。ロケ地は、雲仙岳や吉野ヶ里遺跡などで撮影されています。島原駅の設定は、大井川鉄道のようで、本当にＳＬを走らせています。 映画を見た後、『新版 まぼろしの邪馬臺國』を読みました。昭和40年代に邪馬台国ブームを巻き起こし、第１回吉川英治文化賞を受賞しました。第１部「白い杖の視点」では自伝的回想も含まれます。「魏志倭人伝」（正確には『三国志』魏書烏丸鮮卑東夷伝倭人条）は、邪馬台国について約2000字の記述があります。意外に字数が多いですね。全文を初めて読みましたが、日本人なら一度は読んでおくべきでしょう。 |
|
2008年12月21日 |
|
|
| 映画「その日のまえに」（2008年/日本）を見ました。原作は重松清著『その日のまえに』（2005年）。監督は大林宣彦。脚本は市川森一。永作博美目当てで見ました。 余命少ない妻の「その日」（＝亡くなる日）の前に、夫婦が新婚時代の思い出の場所を訪れるストーリーです。回想シーンが頻繁に挿入され、過去の自分と現在の自分が交錯するので画面展開が忙しいです。また、同じシーンが何回も出てくるので少しくどく感じました。登場人物も多めです。原作のエピソードを多く盛り込んだためですが、川田孝子（柴田理恵）のエピソードは割愛してもよかったでしょう。事前に原作を読むと分かりますが、「駅長くん」が何者なのかもう少し説明が必要でしょう。原作には駅員のように電車の発着を確認していたと書かれていますが、映画ではあまり触れられていません。また、映画では日野原とし子（永作博美）の病気が何なのかも描かれていません。監督曰く「死ではなく、死に囲まれて生きている人たちを描いてみたかった」ためにあえて伏せたようですが、明らかにしないのは少し不自然です。大林監督は南原清隆を「南ちゃん」、永作博美を「ひろべえ」と呼んだようです。撮影現場で突然セリフが増えたりして大変だったようです。 主演の日野原健大役の南原清隆は、夫婦として永作博美と対等に演技してほしかったです。プロデューサーによれば、「意外性と新鮮さを打ち出せるキャスティング」を狙ったようですが、弱い。10月に亡くなった峰岸徹が、数秒間出演しています。今作が遺作となりました。また、ヒロシが本名の斎藤健一で出演しています。 音楽が使われすぎでうるさい。もっとセリフを大切にしてほしいです。 ロケ地はどこで撮影されたのか興味惹かれます。浜風駅は関東鉄道の下妻駅。浜風リリィ・アベニューは亀有商店街とのこと。 宮澤賢治の詩『永訣の朝』は、原作では少し登場するだけですが、映画では大きくふくらませています。詩集をとし子が持っている。チェロを弾きながら歌う「くらむぼん君」にバンド「クラムボン」が作曲した主題歌「永訣の朝 抄」を歌わせています。なお、原作ではギターを弾くカオルくん（女の子）です。名前を「くらむぼん君」に変えたのは、宮澤賢治の『やまなし』に登場する「クラムボン」を流用しています。ギターをチェロに変えたのも『セロ弾きのゴーシュ』を意識してのことでしょう。また、宮澤賢治の妹のトシにあわせて、原作の和美から名前をとし子に変更しています。さらに、和美は原作では春に亡くなりますが、映画では『永訣の朝』の「あめゆじゅとてちてけんじゃ」にあわせて冬に変更されています。 原作は７つの章（「ひこうき雲」「朝日のあたる家」「潮騒」「ヒア・カムズ・ザ・サン」「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」）からなる連作短編集です。生死に関する別々の人物によるストーリーが、最後に結びつくように構成されています。やさしいタッチの文章に目頭が熱くなることがありました。最後の手紙に「忘れてもいいよ」はなかなか書けない言葉ですね。原作では別々の場所で起こった出来事ですが、映画では「松風駅」周辺の出来事に変えたのが大きな変更点です。この原作を映画化するとこうなるかもと思います。映画で日野原健大（南原清隆）が鉛筆を机から落とすシーンが何回も出てきますが、原作では勉が鉛筆を落としたときに岩本隆子が死んだのではないか示唆する意味で書かれています。原作の「朝日のあたる家」では、福田（ぷくさん）が主人公ですが、映画では登場しません。夫の昌史が亡くなる話が書かれています。原作では和美は病院で一時帰宅してフグ鍋を食べた設定ですが、映画では子供が入院した母親と長い間会っていない設定になっています。 |
|
2008年12月10日 |
|
|
| 映画「LOOK（原題：LOOK）」（2007年/アメリカ）を見ました。監督は、アダム・リフキン。史上初めて監視カメラの映像のみで構成された映画です。Ｒ１５指定です。 バス、パトカー、エレベータ、倉庫、学校、マンション、コンビニ、刑務所、更衣室、警察、喫茶店など、多くの場所に監視カメラが設置されていて、監視カメラの映像だけでストーリーになるのがすごい。これだけ行動が監視されているとは驚きです。アメリカ国内には3000万台以上の監視カメラが週40億時間の映像を記録しているとのこと。１人１日200回撮影されるようです。監視カメラは固定カメラですが多く設置されているため、違うアングルから撮影することもできます。監視カメラは音声も記録できるのですね。初めて知りました。普段から監視カメラに見られていることに気をつけて行動しないといけないかもしれません。 注意すべき点は、実際に監視カメラで撮影された映像が使われているわけではないこと。どうやって監視カメラの映像を入手できたのか、プライバシー保護の観点から上映しても問題ないのか気になりましたが、アダム・リフキンの脚本にもとづいて、俳優が監視カメラの前で演技して撮影されています。ドキュメンタリー映像ではないことに注意が必要でしょう。演技にしてはよくできていますが、実際の映像ではないことを知ってしまうとしらけるかもしれません。 |
|
2008年12月7日 |
|
|
| 映画「櫻の園-さくらのその-」（2008年/日本）を見ました。中原俊監督が1990年に撮影した同名映画のリメイクです。今作とはストーリーは異なるとのこと。原作は、吉田秋生の漫画『櫻の園』（1985〜86年）。 女子高校の櫻花学園演劇部が毎年伝統的に上演してきたチェーホフの演劇「桜の園」を、久しぶりに上演しようと練習するストーリーです。本番の演劇シーンはなく、上演までの過程に焦点が当てられています。メンバーはセリフを覚えるだけでなく、運動したりするシーンもあります。実際の演劇部も走ったりするのでしょうか。 結城桃（福田沙紀）に敵対していた赤星真由子（寺島咲）が急に親友になったり、担任の坂野佳代（菊川怜）が急に協力的になったり、登場人物の心境変化の描写が粗いです。福田沙紀は映画初出演にして初主演ですが、主役にしては存在感が軽い。福田以外のキャストはオーディションで決められたようですが、セリフの言い回しがうまく、「桜の園」の登場人物になりきって演技していて好感が持てます。特に、小笠原葵役の杏（渡辺謙の娘）が映画初出演ながら存在感がいい。ファッションモデルの活躍で「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれたとのこと。 福田の所属事務所オスカープロモーションが製作委員会に名前を連ねていて、米倉涼子、菊川怜、上戸彩が特別出演で出演しています。上戸彩が歌った曲は、自分の曲らしいですね。 満開の桜がきれいに撮影されています。なかなか散らないので不自然に思えてしまいますが、開花時期にあわせて東北３県を移動してロケしたようです。主題歌のスピッツ「若葉」もさわやか。 チェーホフの戯曲「桜の園」（1904年）は、チェーホフ最後の作品。体調が悪化していたなか書かれたとのこと。登場人物は映画では９人でしたが、実際には16人が登場します。「四幕の喜劇」と記されていますが、どこが喜劇なのか分かりませんでした。むしろ悲劇と言ったほうがいいでしょう。主役のラネーフスカヤは40歳頃の設定のようです。内容も古臭いので、高校生が上演するのは難しいでしょう。鑑賞してもおもしろいと感じるかどうか疑問です。 |
|
2008年11月25日 |
|
|
| 映画「トウキョウソナタ」（2008年/日本・オランダ・香港）を見ました。2008年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で、審査員賞を受賞しました。監督は黒沢清。 日本の家族がテーマですが、ひとことで言い表せないようないろいろなメッセージが詰まっています。父のリストラ、兄の米軍入隊、弟のピアノ教室など、家族が崩壊していくさまが描かれますが、最後はハッピーエンドです。「ソナタ」と名付けたのは、家族それぞれが独奏曲のように自らの意思を持って自立して過ごしているという意味でしょう。 脚本原案は、かつて日本に住んでいたオーストラリア出身のマックス・マニックス。とても分かりやすいストーリーで、セリフの量も適切です。現代の東京がリアルに描写されています。リストラの話は親近感を持って見ました。黒須（津田寛治）が無理心中したのはショックでした。必要以上に重くならず、笑えるシーンもあって好感が持てます。最後のドビュッシー「月の光」の演奏は、なぜかノイズが混じっているのが残念。 キャストでは、佐々木家４人が本当の家族のように感じられました。特に父役の香川照之の表情豊かな演技に共感が持てました。母役の小泉今日子は、「空中庭園」（2005年/日本）の母親役とかぶってしまって、あまり怖さが際立ちませんでした。オーディションで選ばれた兄役の小柳友と、弟役の井之脇海も好演。 |
|
2008年11月15日 |
|
|
| 映画「20世紀少年 第１章」（2008年/日本）を常盤貴子目当てで見ました。制作費総額60億円を投じた全３部作の第１作です。「本格科学冒険映画」の副題がつけられています。原作は、浦沢直樹の漫画『20世紀少年』全24巻（1999年〜2007年）。浦沢自らが映画の脚本に名前を連ねています。 ケンヂ（唐沢寿明）が少年時代に書いた「よげんの書」の人類滅亡の空想が、教祖「ともだち」によって現実になるストーリーです。細菌兵器はオウム真理教のサリン事件を思わせますし、巨大ロボットはゴジラの現代版で、発想そのものは少し稚拙な感じがします。「ともだち」は「忍者ハットリくん」のお面をかぶっていて、正体は明かされません。登場人物が多いですが、脇役も含めて豪華キャストが出演。よくこれだけ集められましたね。少年時代の回想シーンが随所に挿入されますが、子役の演技がうまい。成人俳優の幼少期が違和感なく見れました。ちなみに、双子の兄弟ヤン坊とマー坊は一人二役でした。二人が演技しているようにしか見えませんが、現代の撮影技術はすごいですね。 「血のおおみそか」と呼ばれる20世紀最後の日（2000年12月31日）のストーリー進行が雑。それまではじっくり進められますが、肝心のクライマックスが手抜きで残念。結局おおみそかに何が起こったのかよく分かりませんでした。巨大ロボットのリモコンを操作していた男が屋上から転落して、太陽の塔のロボット（？）が出現して、ケンヂが仕掛けたダイナマイトが爆発して、地表が大きく盛り上がったようです。詳しくは第２章のお楽しみということでしょうか。 小学校の頃の空想をどうして詳しく覚えているのか、細菌兵器は人間同士では感染しないのか、失踪したキリコ（黒木瞳）は夫である教祖「ともだち」と一緒に暮らしているのか、渋谷の地下に隠れていた７人がどうやって警察から逃げたのか、 巨大ロボットはどこから現れたのか、など漫画らしい都合のいい設定がありますが、緊迫感あふれる展開でそんなに気になりません。 堤幸彦監督が「原作原理主義」と言うように、撮影は漫画に忠実に再現したとのこと。立ち位置やアングルに時間をかけてこだわったようです。漫画を読んでいない者にとっては、そこまで厳密じゃなくてもいいのではないかと思ってしまいます。 主題歌はT.REX「20th Century Boy」。この映画のために書き下ろされた曲かと思いましたが、なんと1972年に作曲された曲とのこと。まったく古さを感じません。名曲ですね。 「第２章」は、2009年1月に公開されます。撮影は第１章と並行して行なわれたようです。「運命の子」カンナ（平愛梨）が登場します。第１章で2015年のオッチョ（豊川悦司）の海ほたる独房のシーンが出てきましたが、どうつながるのか楽しみです。 |
|
2008年11月9日 |
|
|
| 「山桜」に続いて、映画「蝉しぐれ」（2005年/日本）を見ました。原作は、藤沢周平著『蝉しぐれ』(1988年)。「蝉しぐれ」とは、蝉が多く鳴きたてる様子をしぐれの音に例えていう言葉とのこと。自由に恋愛ができなかった不条理な時代に、好きな人と結婚できない無情さを描いています。 原作が長編小説（文庫本で460ページ）なので、ストーリーのタイムスパンが長いです。監督の黒土三男が15年の構想を経て映画化したようですが、原作から削った部分はあるものの、映画にしてはいろいろなエピソードを盛り込みすぎです。登場人物も多いので、大河ドラマのような長い時間をかけて描かれたほうがいいでしょう。 幼少期は子役が演じていて、主演の市川染五郎（牧文四郎）と木村佳乃（ふく）はなかなか登場しません。文四郎の子役（石田卓也）の演技が下手なのが残念。市川染五郎とは別人物に見えてしまいます。逆に、ふくの子役の佐津川愛美は今作が映画デビューでしたが、セリフが少ないにもかかわらずなかなかの演技。「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」（2007年）で和合清深役を演じた彼女ですが、すでに役者としての素質を感じさせます。先日亡くなった緒形拳が、文四郎の父の牧助左衛門役を好演しています。このときすでに肝臓ガンに冒されていたようです。この他、脇役で蛭子能収がクレジットされていましたが、どこで出演していたのかまったく分かりませんでした。岩代太郎の音楽は哀愁を帯びた重厚な旋律です。 映画を見た後に、原作を読みました。風景を緻密に色彩感豊かに描いています。映画と原作の違いをいくつか挙げます。 |
|
2008年10月29日 |
|
|
| 映画「山桜」（2008年/日本）を見ました。原作は、藤沢周平著の短編小説『山桜』（1980年）。主演の田中麗奈目当てで見ました。京都で上映されたときは見逃していましたが、東京の映画館（上野スタームービー）で、同じ藤沢周平原作の「蝉しぐれ」との２本立てで1300円で見れました。入替制ではなかったので２回見ました。映画を見た後に、原作を読みました。 江戸時代後期の庄内が舞台です。山桜の下で、主人公の磯野野江（田中麗奈）と手塚弥一郎（東山紀之）が出会います。簡潔で分かりやすいストーリーで、とてもゆっくりしたテンポで流れます。 セリフも少ないので間延びするかと思いましたが、田中麗奈の演技に見入ってしまいました。セリフがなくても、顔の表情で演技できています。初の時代劇出演とのことですが、所作がしっかりしていて、着物もよく似合います。セリフの言い回しもいい。気品のある落ち着いた女性を好演しています。昔は未亡人の扱いが冷たかったようですね。また、羽織りを落とすと「家紋を汚した」という理由で追放されるのも現代では考えられません。監督の篠原哲雄も時代劇初挑戦とのことですが、庄内の四季の風景を美しく撮影しています。 原作は文庫本で20ページほどの短さで、映画とは違って展開が速いです。原作で「舅は磯村庄左衛門に家督を譲った」「野江は庄左衛門と同衾することを拒んでいる」「（野江は）今朝家にもどったときは（母と）ろくに口もきかなかった」「今日の（弥一郎との）出会いが、しばらくは自分をはげましてくれるだろう」と書かれているシーンは、映画では間接的にそれとなく示しています。また、弥一郎と野江のかつての縁談話を野江の弟の新之助に話させたり、諏訪の屋敷が新築された噂を新之助の友達に話させたり、脚本がうまく作られています。原作にはないエピソードも原作の世界観を自然に膨らませた内容のいい名脚本です。藤沢周平の長女が脚本に関わった効果があったかもしれません。農民の「ごすけ」のエピソードは、原作にない映画オリジナルです。農民の窮状を原作よりも詳しくもしっかり描いているところに好感が持てます。原作は、弥一郎の母のセリフで終わっています。ものすごい余韻を含ませた終わり方です。原作も映画も弥一郎の処分がどうなったかは描かれていません。野江と再会できたのかどうなのか。たとえ再会できずに処刑されたとしても、暮らせる家が見つかったことで野江は幸せなのかもしれません。 |
|
2008年10月19日 |
|
|
| 映画「R246 STORY」（2008年/日本）を見ました。６人の監督によるオムニバス映画です。永作博美目当てで見ました。 東京都千代田区と静岡県沼津市を結ぶ「国道246号線（通称：ルートにーよんろく）」を舞台にした映画のようですが、６本の映画に一貫したテーマは感じられません。渋谷や青山の音楽や文化などに主眼を置いている作品が多かったですが、１本の映画作品として見せることに無理があるように思います。147分続けて見るのはきついでしょう。浅野忠信を除く５人は、今作が映画初監督とのこと。全体的に不出来な作品が多く、映画監督は簡単にはなれないということが分かりました。ILMARI以外の作品は、監督自らが主演もしています。 「JIROル‐伝説のYO・NA・O・SHI」（監督：中村獅童） 「ありふれた帰省」（監督：須藤元気） 「「DEAD NOISE」（監督：VERBAL） 「CLUB246」（監督：ILMARI） 「224466」（監督：浅野忠信） 「弁当夫婦」（監督：ユースケ・サンタマリア） |
|
2008年10月12日 |
|
|
| 映画「蛇にピアス」（2008年/日本）を見ました。原作は、金原ひとみ著『蛇にピアス』（2003年）。史上最年少で芥川賞を受賞し、大きな話題となりました。作品全文が掲載された『文藝春秋』2004年３月号は品切れが相次いで、同誌過去最高の発行部数を記録。私もなんとか手に入れて読むことができました。ラストまで一気に読ませて、驚くべき結末。同じく受賞した綿矢りさ「蹴りたい背中」よりもずっと感銘を受けました。 映画監督は、舞台演出家の蜷川幸雄。今年で72歳です。映画化にあたっては金原ひとみから直々のラブコールを受けたとのこと。登場人物が若く、蜷川とはかなりの年齢差があるので大丈夫なのかという思いがありましたが杞憂でした。原作の世界観をうまく映像化したといえるでしょう。性的描写が含まれるため、R-15指定です。 まず何といっても賞賛すべきは、ルイ役の吉高由里子の名演技。撮影当時19歳で、オーディションによって選ばれました。今作が映画初主演ですが、存在感がすごい。感情移入できていて、目でも演技しています。かなりのインパクトを受けました。ファンになりそうです。ただ、ナレーション（シナリオには「ルイの心の声」と書かれている）は、棒読みで無表情でした。これは蜷川の演出でしょうか。素質がある女優だと思うので、次回作に期待したいです。なお、井出らっきょ、小栗旬、藤原竜也などの蜷川ファミリーが「特別出演」として出演していますが超脇役で、パンフレットで確認するまで全然分かりませんでした。 舌ピアスや入れ墨の手術シーンの描写もかなりリアル。おそらくＣＧを使っていると思いますが、痛々しくて見てられません。なぜ身体改造するか、外見がよくなるのかという原作で提示されている疑問を再認識しました。また、シバさんのＳっぷりも映像化するとこうなるのかと感心しました。ちなみに、蜷川曰く、性描写は蜷川実花監督の「さくらん」を意識対抗したようです。 映画のセリフやナレーションは原作の文章をそのまま使っています。原作は「スプリットタンって知ってる？」というアマの言葉から始まりますが、映画も原作を意識した始め方です。渋谷駅前の風景が無音で映し出されますが、ルイがイヤホンをつけていたので雑踏が聞こえなかったという演出がうまい。また、原作には「新宿の路上」で暴力団員が撲殺されたこと以外に地名は登場しませんが、映画は渋谷で撮影されています。シナリオにも「渋谷」の地名が明記されていました。渋谷で撮影したことについて、『シナリオ』2008年11月号掲載のインタビュー記事で宮脇卓也は、蜷川がBunkamuraシアターコクーンの芸術監督を務めているので、渋谷を映したかったのではないかと語っています。なるほど。 映画を見た後、ひさしぶりに原作を読みました。原作には、ルイの感情の揺れや葛藤や自問自答が詳しく書き込まれています。やっぱりよく書けた作品だと感じました。また、原作では血について描写がありますが、映画では血はあまり流れませんでした。痛々しすぎるからでしょうか。ちなみに、芥川賞を受賞した『文藝春秋』2004年３月号と、集英社文庫では、物語の結末が異なります。私は『文藝春秋』版のほうが緊張感や切迫感を持たせて終わるので好きです。集英社文庫版では、ルイとシバのセリフが少し続き、「私の中に川ができた」とルイが語ります。ちなみに、映画化では集英社文庫版をベースにしています。 上述したように『シナリオ』2008年11月号に、脚本が掲載されています。「決定稿」ですが、映画ではカットされたシーンがいくつかありました。入れ墨を彫るときは、シナリオではルイは寝台に寝ると書かれていますが、映画ではイスに座っていました。撮影段階で変更されたのでしょう。映画のラストシーンで、なぜルイが渋谷駅前のスクランブル交差点でしゃがんだのか分かりませんでしたが、シナリオには「決して希望を語らないラスト」と書かれていました。ちょっと分かりにくい終わり方ですね。 |
|
2008年10月10日 |
|
|
| 映画「TOKYO!」（2008年/フランス・日本・韓国）を見ました。ニューヨーク、パリ、ソウルで活躍する外国人監督による、東京をテーマにしたオムニバス映画です。蒼井優目当てで見ました。 ３作とも東京の街を美しく描いてはいません。むしろグロテスクと言ったほうがいいほどです。登場人物も健全でない。これが外国人が見た日本観なのかとがっかりしました。海外で上映されれば、日本に対する変なイメージを与えるのではないでしょうか。セリフは日本語です。 「インテリア・デザイン」（ミシェル・ゴンドリー監督） 「メルド」（レオス・カラックス監督） 「シェイキング東京」（ポン・ジュノ監督） エンディングテーマは、HASYMO（ハシモ）が演奏。坂本龍一をはじめとする元YMOのメンバーとのこと。 |
|
2008年10月5日 |
|
|
| 映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」（2008年/日本）を見ました。押井守監督のアニメーション映画です。原作は、森博嗣著の小説『スカイ・クロラ』（2001年）。全５巻からなる「スカイ・クロラ」シリーズの最終巻に当たります。 第65回ヴェネチア国際映画祭に出品されました。主要各賞は逃しましたが、「実写とアニメーションを見事に融合させた芸術」と評価されて、「デジタルアワード賞」を受賞しました。 大人に成長することなく永遠に生き続ける「キルドレ」が、戦闘機に乗って終わらない戦争を戦うストーリーです。国家の委託を受けた戦争請負会社（日系企業vs欧州系企業）が、「大人」たちが平和を実感するために、「ショーとしての戦争」を続けます。そのため、戦争を終わらせないことが大前提とのこと。この状況設定がすごい。生死の根源にかかわる問題をテーマにしていて、普段あまり考えないことを意識させられます。ただし、あまりにも現実離れしすぎていて、私には難解に思いました。一番理解できなかったのは、キルドレは死ぬと名前を変えて別人に生まれ変わるということ。私は宗教や哲学に疎いのでよく分かりませんが、輪廻転生やキリスト教の復活思想などに詳しい方は感銘を受けるかもしれません。クサナギ・スイトたちがカンナミ・ユーイチの帰りを滑走路で長い間待つラストシーンにはやられました。「スカイ・クロラ」シリーズの他の４作品の映画化も期待したいです。 ストーリーは、全体の構成が明かされないで、キーワードが断片的に示されます。そのため、ある程度予備知識がないとちんぷんかんぷんでしょう。セリフも少ない。脚本の伊藤ちひろは「クローズド・ノート」（2007年/日本）も手がけていましたが、推理小説を読むようなストーリー展開に仕上げています。 アニメーションは一部で３Ｄを使用しているようで、とても写実的です。美しく描かれた風景が心に残りました。 声優では、菊地凜子（クサナギ・スイト）、栗山千明（ミツヤ・ミドリ）、谷原章介（トキノ・ナオフミ）がいい声です。川井憲次の音楽も重厚。メインテーマは変拍子で進行しますがいいメロディーです。 映画を見終わってから、原作を読みました。カンナミ・ユーヒチを「僕」とする一人称で書かれています。各章の冒頭に、サリンジャー著『ナイン・ストーリーズ』の一節が掲載されています。なぜこんな構成にしたのかよく分かりませんでしたが。 |
|
2008年9月8日 |
|
|
| 映画「クライマーズ・ハイ」（2008年/日本）を見ました。原作は、横山秀夫著『クライマーズ・ハイ』（2003年）。北関東新聞の記者の悠木和雅（堤真一）が、1985年8月12日に起こった日航ジャンボ機墜落事故の全権デスクを任されて、新聞紙面作りと格闘するストーリーです。横山は事故当時に上毛新聞社に勤めていたため、実体験に基づく部分が多く含まれているようです。監督は、「魍魎の匣」の原田眞人。タイトルの「クライマーズ・ハイ」とは、登山時に興奮が極限に達して恐怖感がなくなってしまう状態のことを言うそうです。 私は事故当時まだ小学生でしたが、大きなニュースになったことを覚えています。ボイスレコーダーの録音をインターネットで聴くことができますが、機長の会話など聴くと怖くなります。それだけが理由ではありませんが、私は一度も飛行機に乗ったことがありません。 新聞社の編集局の忙しい様子がリアルに再現されていておもしろい。当時は携帯電話やワープロやパソコンがないので、今よりも新聞製作は大変です。原稿は手書き。連絡も民家の電話を借りたり、ポケットベルで呼び出したりしています。無線は全国紙記者は持っていたようです。 また、新聞社内の人間関係も見どころ。編集局長室で紙面会議が毎日開かれます。他部局とのどなりあいや乱闘、共同通信から配信された記事を使うかどうか（館内放送で送稿連絡のチャイムが鳴る）、中曽根首相靖国参拝など他記事との紙面の取り合いや、他紙とのスクープ競争、紙面のために広告を外したり、降版が遅れて販売店から苦情が来たり、地方紙の存在意義をかけた新聞社全体の様子が分かります。 登場人物もキャラクターがしっかり描かれています。キャスティングも見事。遠藤憲一（社会部長等々力）、蛍雪次郎（編集局次長追村）、でんでん（整理部長亀嶋）など、まさにはまり役。 この年優勝した阪神タイガースのグッズがなにげなく置かれているのも心憎い演出です。 一方で、61歳になった現在の悠木が、谷川岳衝立岩を登る様子が随時挿入されます。新聞製作時の「クライマーズ・ハイ」状態を重ねて表現しています。一緒に登っているのは、同僚の安西耿一郎（高嶋政宏）の息子燐太郎（小澤征悦）ですが、耿一郎が亡くなるシーンがないので分かりにくいです。もぐら駅として有名なＪＲ上越線土合駅の階段を上るシーンもあります。最後は、息子の淳に会いにニュージーランドに向かいます。淳の顔をあえて見せないのは賛否両論あるでしょうか。 原田監督は、「魍魎の匣」同様、スピード感ある画面展開でスリリングに見せます。2541カットは自身最高とのこと。 脚本が『シナリオ』誌2008年８月号に掲載されています。カメラワークまで細かく書き込まれていて、映画本編では気がつかなかった細かい演出が分かります。「アンザイレン」の話も文字にすると分かりやすいです。頻繁に出てきた「おおくぼれんせき」とは「大久保連赤＝大久保清事件と連合赤軍事件」のことだと分かります。なお、御巣鷹山は後からつけられた名前で、事故当時は名前がなかったはずです。多用されるのでちょっと違和感がありました。 さらに、原作を読みました。文庫本で460ページのボリュームですが、読みやすくてあっという間に読めました。山登りシーンと並行して進む構成は映画と同じです。新聞製作の描写は、映画以上に詳しく書き込まれています。また、「社長派」と「専務派」の社内の権力闘争も書かれています。「長野側であれば五百人死のうが千人死のうがどうでもよかった」「世界最大の事故を、あの御巣鷹山が引き受けたのだ」「ただのもらい事故」「日航もちょっと食傷気味」など、事故の関係者が読めば不快になるであろう記述もあります。 |
|
2008年8月11日 |
|
|
| 映画「闘茶 tea fight（原題同じ）」（2008年/日本＋台湾）を見ました。監督は台湾のワン・イェミン（王也民）。今作が監督デビュー作とのことです。お目当ては「デスノート」で弥海砂役を好演した戸田恵梨香。 「闘茶」とは「料理の鉄人」のお茶版のようなもので、どの茶が優れているか飲み比べて勝敗をつけます。宋代に大流行した伝統競技とのことで、現在でも続いているようです。 映画は冒頭に、唐代に「茶経」を著した世界最初の茶道家とされる陸羽が登場。続いて、アニメでかつて中国で「雄黒金茶」の一族が「雌黒金茶」の一族を滅ぼしたこと。また、雄黒金茶と雌黒金茶を混ぜて飲んだ子供が龍になったこと。さらに、雌黒金茶の芽を八木宗右衛門が日本に持ち帰ったことが説明されます。いいテンポで進むのでてっきり実話だと思いましたが、どうやらアニメのストーリーはすべてフィクションのようです。「雄黒金茶を飲むと暴力的になる」とか「黒金茶の呪い」とか実際にありそうな話なので、本気にしてしまいました。なかなかよくできたストーリーですね。 雌黒金茶を探しに台湾に来た八木美希子（戸田恵梨香）と父の圭（香川照之）とルーファ（チャン・チュンニン）、雄黒金茶を保有するヤン（ヴィック・チョウ）の４人が台湾市内をさまよいます。雄黒金茶と雌黒金茶が混ざったら悪いことが起こるのではないかと少しドキドキしました。最後は３人で闘茶を繰り広げますが、ストーリー展開がかなり強引。闘茶のシーンも、スローや照明効果がおおげさ。闘茶はもっと静謐な雰囲気で行なわれるべきだと思いますが、視覚的な工夫が欲しかったのでしょう。闘茶は「己との戦い」というナレーションにはなるほどと思いましたが、最後に「茶はただの茶だ」というナレーションもあって、結局この映画で何が伝えたかったのかよく分かりませんでした。ちなみに、お茶をたてるときは最初に茶臼をひくんですね。知りませんでした。セリフは日本語と中国語で、中国語は字幕付きです。戸田恵梨香は神戸出身ということで、京都弁を上手に話します。 撮影は京都と台北で行なわれました。京都のロケでは、加茂川と高野川が合流する加茂大橋や、光明寺（長岡京市）が登場します。八木茶舗付近の町並みは、滋賀県五個荘で行なわれたとのことです。 |
|
2008年8月10日 |
|
|
| 映画「百万円と苦虫女」（2008年/日本）を見ました。監督・脚本はタナダユキ。蒼井優の主演は３年ぶりの映画主演です。さわやかな気持ちになれる映画でした。 ルームシェアの相手の持ち物を捨てて器物損壊の罰金刑を受けた佐藤鈴子（蒼井優）が、前科から逃げるように百万円が貯まるごとに日本各地の放浪を続けるストーリーです。海、山、町と転々とするので、登場人物が多彩です。上映時間が121分とやや長めで、町でのエピソードはもう少し短くしてもよかったように感じました。鈴子のキャラクターは、タナダユキが蒼井優にあて書きしたとのこと。蒼井優は、シャイな鈴子の感情をうまく表現しています。蒼井優らしさがよく出た映画と言えるでしょう。中島みゆきの「ファイト！」がこの映画にピッタリと言うコメントも面白い。タナダユキの脚本もたまにどきっとするセリフがあって楽しめました。効果音が鮮明に収録されているのも印象に残りました。 |
|
2008年7月23日 |
|
|
| 短編オムニバス映画「The ショートフィルムズ」（2008年/日本）を見ました。大阪朝日放送の新社屋完成記念事業の一環で製作された作品で、劇場公開用に製作された映画ではありません。テレビ局の引越し記念にしては、監督も俳優も充実した顔ぶれです。５人の監督に「子供」をテーマに、自由にメガホンを取ってもらったという企画で、全編で92分。一作あたりは約20分の短編映画です。「ショートフィルムフェスティバル」と題して、朝日放送の新社屋で上映されました。入場は無料ですが事前申し込み制で、ホームページから申し込んだところ、運よく招待状が送られてきました。新社屋１階の新ＡＢＣホールで上映されました。
「展望台」（監督：阪本順治） 「TO THE FUTURE」（監督：井筒和幸） 男性担任（光石研）と小学校の児童のストーリー。光石研はハイテンションでアブノーマルな教師役を好演。ただ、ちょっと暴力的なシーンもあるので、好きにはなれません。井筒監督は「モンスターティーチャーやモンスターペアレンツに囲まれて育つ子供たちのブラックユーモア」と語っています。 「イエスタデイワンスモア」（監督：大森一樹） 「タガタメ」（監督：李相日） 「ダイコン〜ダイニングテーブルのコンテンポラリー」（監督：崔洋一） 映画上映後に、「イエスタデイワンスモア」の監督大森一樹と、主演の高岡早紀が舞台挨拶。高岡早紀は、白のノースリーブのシャツに、黒のベスト、紺のパンツという涼しげな衣装でした。手足が細くすらっとしています。 |
|
2008年7月21日 |
|
|
| 映画「靖国 YASUKUNI（原題：靖国神社）」（2007年/日本・中国）を見ました。国会議員などの外部圧力によって一時上映中止になり、ニュースでも大きく取り上げられました。監督は、日本在住の中国人監督の李纓（リ・イン）。スタッフには多くの日本人がかかわっています。日本人は取り上げられないであろうテーマを映画化した点は評価しますが、少し期待外れでした。 映画は、終戦記念日である８月１５日の靖国神社の様子と、「靖国刀」の現役最後の刀匠の鋳造シーンとインタビューで構成されています。刀匠は、李纓監督のインタビューにはあまり語りません。話したくないことがあるのでしょう。また、浄土真宗の遺族は、父が戦死後に勲八等に叙せられたが、「戦死者は遺族のものでなく国のもの」という考え方に疑問を呈します。一方的に合祠するという方法はおかしいと感じました。 終戦記念日の靖国神社参拝は、小泉首相（当時）以来、大きな注目を集めました。軍隊ラッパなどを吹きながら軍服姿で、拝殿に参拝する団体が多数登場します。前時代的な光景に驚きました。星条旗を持って「小泉総理を支援します」と書かれたプラカードを持ったアメリカ人男性が警官によって退去させられたり、追悼集会に乱入した若者が袋叩きにされてパトカーに連行されたり、境内では小競り合いが絶えません。日本人のなかでも靖国神社についてさまざまな意見があることが分かります。このような風景をよく撮影できたものだと思いますが、他にもカメラで撮影している人が多いので、遠慮せずに撮影できたのでしょう。しかし、撮影された人の許諾を得たわけではないので、肖像権侵害として問題になっているようです。配慮に欠ける面はあるでしょう。 映画のスタンスとしては、靖国神社の存在や価値に懐疑的な態度から撮影されています。純粋なドキュメンタリー映画ではありません。最後のほうで、特攻隊や原爆の写真が登場しますが、靖国神社と直接的に結びつけるのには、やや恣意的に感じました。上映中止騒動に発展した理由は分からなくはないです。「良質」なドキュメンタリー映画とは言いがたいでしょう。少なくとも靖国神社にとってはイメージダウンでしょう。台湾の遺族に「神道はクソ」などと言われています。 ちなみに、靖国神社の御神体は、映画では「天皇のための聖戦で亡くなった約246万人の軍人の魂が移された一振の刀」と紹介されていますが、靖国神社側は「神剣及び神鏡」であると反論しています。 音楽は、グレツキ作曲／交響曲第３番「悲歌のシンフォニー」。女声が悲しいメロディーを歌います。 今年の３月に靖国神社に初めて行きました。すでにこの映画のことが知られていたためか、花見前の時期なのに境内は少しピリピリした雰囲気がありました。かつては同じ場所に多くの軍人が集結していたとは思えません。昭和天皇が参拝した映像も流されます。明治２年に「東京招魂社」として創建された靖国神社が今も存在していることが一番不思議ですね。 |
|
2008年7月12日 |
|
|
| 映画「神様のパズル」（2008年/日本）を見ました。原作は機本伸司著『神様のパズル』（2002年）。天文学に興味があるので、ずいぶん前から注目していました。17歳の天才少女ホミズサラカ（谷村美月）が、宇宙を人工的に作ろうとするストーリーです。非現実的で強引な展開もありますが、まあ許容範囲でしょうか。宇宙の始まりについて、「対称性の破れ」「宇宙の晴れ上がり」「物質・反物質」といったキーワードを用いて、綿貫基一（市原隼人）のセリフで説明されます。本当はもっと複雑な学問なのでしょうが、聞いていると分かった気になります。「無」から宇宙が出来上がったなんて不思議ですね。ちなみに、基一のシャツに書かれていた「E=MC2」の公式は、アインシュタインが発表した特殊相対性理論の有名な関係式とのこと。知りませんでした。 随所にベートーヴェンの作品が使われているのには驚きました。「運命」第１楽章冒頭の八分休符が、宇宙のインフレーションが発生した一瞬という説明に用いられます。「田園」は田園風景のＢＧＭで使用。「合唱」は、市原隼人の歌で「よろこびの歌」（訳詞：岩佐東一郎 編曲・演奏：JESSE from RIZE）として演奏されます。ストーリーのクライマックスにふさわしい音楽です。 谷村美月のジャージ姿がいい。露出も多くて見とれてしまいました。ホミズサラカは非人間的な性格なのでほとんど笑いません。市原隼人は綿貫基一と喜一の双子の兄弟を一人二役で演じます。インドに行った喜一のエピソードはなくてもいいかなと思いました。なぜか岩尾望（フットボールアワー）と小島よしおのお笑い芸人がキャスティングされています。ちなみに、∞型巨大加速器「むげん」はＣＧとのこと。なかなかよくできています。 パンフレットに主題歌「神様のパズル」（作詞：松本隆 作曲：マシコタツロウ 歌：ASKA）のＤＶＤがついています。珍しい。普通のプロモーションビデオで、映画の映像は使われていません。 |
|
2008年6月18日 |
|
|
| 映画「ラフマニノフ ある愛の調べ（原題：LILACS）」（2007年/ロシア）を見ました。ロシアの作曲家ラフマニノフのアメリカでの生活を、ロシア時代の回想をまじえながら描いています。ロシアで製作された映画ですが、ラフマニノフを英雄らしく描いてはいません。怒りっぽくて奇人のような描かれ方です。特に焦点もないので、ラフマニノフの生涯を予習してから見たほうがいいでしょう。構成が悪く時間軸が前後するので、初心者には難しいかもしれません。ロシア革命のシーンもないので、なぜラフマニノフが出国したのかも分かりにくいです。 エンドクレジットに「本作は芸術的創作であり、史実と異なる表現も含まれる」と断り書きが表示されます。いろいろなエピソードが登場しますが、どこまでが史実なのか、クラシック音楽ファンとしては気になります。少し検証してみましょう。 ・ラフマニノフがスタンウェイ社のピアノを演奏。 → アメリカに移住して以降、フレデリック（フレッド）・スタインウェイと親交を結んだのは史実です。 ・初めてのカーネギーホールでの演奏会で、客席にいたソ連大使を追放。 → おそらくフィクションと思われます。 ・ズヴェレフに師事 → 史実です。1885年〜1889年の間、ズヴェレフの家に寄宿していました。 ・チャイコフスキーがラフマニノフに会いに来る。 → チャイコフスキーとラフマニノフはお互いに面識はあったようですが、チャイコフスキーがわざわざラフマニノフが住むズヴェレフの家に足を運んだかどうかは不明です。 ・交響曲第１番を「A.L.」に捧げる。 → パンフレットに掲載されている沼野恭子氏の解説によれば、アンナ・ロディジェンスカヤという人妻が実在したようです。 ・交響曲第１番の初演で、指揮者のグラズノフがスコアを落とす。 → 初演の失敗は、グラズノフの作品に対する無理解が原因のようです。スコアを落としたというのはフィクションでしょう。 ・ダール医師とラフマニノフの従妹ナターシャが婚約。 → この設定には驚きました。ダール医師はラフマニノフを語るのに欠かせない人物ですが、おそらくフィクションでしょう。 ・従妹のナターシャと結婚。 → 史実です。長女イリーナと次女ターニャが産まれています。 ラフマニノフ役を演じるのは、エフゲニー・ツィガノフ。まだ20代ですが、熱演です。顔がラフマニノフにとてもよく似ています。ただ、ラフマニノフは身長2メートルに近い大男だったことを考えると、ちょっと小柄なのが残念。 |
|
2008年6月16日 |
|
|
| 映画「アフタースクール」（2007年/日本）を見ました。監督・脚本は内田けんじ。「甘くみてると、ダマされちゃいますよ」というキャッチコピーの通り、人間関係がかなり分かりにくい。見終わった直後は、さっぱり分かりませんでした。 冒頭に出てきた中学校での告白シーンと朝食のシーンを見れば、木村一樹（堺雅人）と佐野美紀（常盤貴子）が夫婦だと誰でも思います。木村を探しに来た探偵の北沢（佐々木蔵之介）と中学校教師の神野（大泉洋）との会話でも、「（木村の）子供生まれたんだよ、今朝」「佐野さんがお母さん」というセリフがありますが、木村と佐野が夫婦ではないことに気づかなくてはなりません。種明かしは、神野と木村と郷田（山本圭）は刑事で、佐野をヤクザの片岡（伊武雅刀）からかくまうために、木村と佐野は夫婦を偽装しているという設定です。北沢をダマすために、神野はウソをつきまくっています。佐野が産んだ子の父親は片岡。写真に写っている女性（田畑智子）があゆみちゃんと思わせますが、あゆみちゃんの正体は佐野美紀のクラブでの呼び名です。さらに、木村と神野久美子（田畑智子）を夫婦に見せているのもダミー。車の中に置いてあった指輪は、神野が佐野にプロポーズすることを予感させます。 とにかく映画は１回しか見れないのに難しすぎて、頭が整理できません。回想シーンも頻繁に挿入されます。最初から最後までまともに見ていると混乱してきます。映画のストーリーや見せ方はもっとシンプルであるべきでしょう。脚本は内田けんじが２年かけてまとめたようですが凝りすぎです。ヤクザやドラッグなど、あまり健全なストーリーではありません。なお、パンフレットは映画鑑賞後に読んでもらうために、売店に見本が置いてありませんでした。また、シナリオが掲載されていますが、マル秘マークのシールが貼ってあって袋綴じされています。シナリオを読めば、ストーリーがいくぶん整理できるでしょう。 |
|
2008年6月8日 |
|
|
| 映画「モレク神（原題：Moloch）」（1999年/ロシア・ドイツ・日本）を見ました。アレクサンドル・ソクーロフ監督の「20世紀の権力者を描く四部作」シリーズ第一作で、ヒトラーが題材です。ヒトラーが愛人（後に妻となる）エヴァ・ブラウンの山荘に来てから去るまでを描いています。いつごろの時代設定なのか分かりませんが、史実によれば、1936年〜1945年の間、ヒトラーとエヴァが山荘で暮らすことがあったようです。ベルヒテスガルテンの山荘はかなり高い場所に建てられているようで、まるで山城のようです。山荘内のヒトラーは独裁者の威厳はなく、甘えたがりの男として描かれています。映画を見たり、食事したり、ピクニックに行ったりなど、日常生活が描かれます。戦況はまったく話題に出てきませんし、銃声も遠くから聞こえるだけなので、ヒトラー映画としては異質と言えるでしょう。アウシュビッツについてエヴァがヒトラーに話したところ、部下がそれを遮るシーンがあります。こんなシーンを用意した意図がよく分かりませんでした。ロシア人ソクーロフのヒトラーに対する微妙な感情があったのかもしれません。会話はドイツ語で話されます。画面は常に暗く、間がすごく長い。第３作の「太陽」（2005年）によく似ています。ちなみに、「モレク神」とは、古代セム族に国の繁栄を約束する代わりに王の初子を焼いて生け贄に捧げることを要求した神の名前で、旧約聖書には悲惨な災い、戦火のシンボルと記されているとのことです。
「ヒトラーのためのソナタ（原題：СОНАТА ДЛЯ ГИТЛЕРА）」（1979年/ソビエト）が同時上映。約10分の短編です。実写の白黒映像で、ヒトラーとスターリンを比較する趣向とのことですが、ほとんどヒトラーが映っています。画面の右上と左下に数字が表示されますが、何を意味しているのか分かりませんでした。会話などの音声はまったくありませんが、ＢＧＭでバッハの無伴奏フルートソナタが使われているのが実に効果的です。 |
|
2008年5月31日 |
|
|
| 映画「いのちの食べかた（原題：OUR DAILY BREAD）」（2005年/オーストリア・ドイツ）を見ました。動植物がどのように収穫されて食材に加工されるのかその過程を追ったドキュメンタリー映画です。ナレーションも字幕もＢＧＭもありません。静かに淡々と映されます。カメラアングルが工夫されているので、映像だけでじゅうぶん理解できるでしょう。PG-12指定です。 監督の意向で撮影されている工場や従業員は匿名ですが、おそらくアメリカで撮影されていると思われます。多くの過程が機械化されていることが分かります。大量生産のために扱い方が大雑把。愛情は感じられず完全にモノ扱いです。たくさんの量をさばかないと、人間の食欲が満たされないということでしょう。従業員は動物に対して感情を移入せずに無表情で働いています。女性が多く働いていて驚きました。豚や牛は頭部に衝撃を与えて殺します。切断されて加工されていく映像が残酷でエグい。鳥や魚は機械で吸い取って捕獲します。ひよこはベルトコンベアーで運ばれます。アーモンドは機械で木を揺らして実を落とします。岩塩はエレベータで深い地下に降りて、ブルドーザーで切り崩します。大胆な収穫方法に驚きの連続です。植物の場合は、人間が収穫することが多いようです。従業員の食事シーンも収録されています。 動物を殺す「屠畜」は普段目にすることができません。人間のために動物が殺されたことを考えたくないので、ある意味タブー視されていると思われます。生命をいただきますという精神が大切だと実感しました。また、人間に産まれてよかったと思いました。 ＢＳＥ、鳥インフルエンザ、食べ残しの使い回しなど、食品への関心が高まっている現在、食品生産の裏側を知ることができる映画です。ぜひ見ておくべきでしょう。 |
|
2008年5月30日 |
|
|
| 映画「エアギター エピソード ゼロ（原題：AIR GUITAR NATION）」（2006年/アメリカ）を見ました。2003年にフィンランドで行なわれた「エアギター世界選手権」（Air Guitar World ChampionShip）とアメリカ予選を追ったドキュメンタリー映画です。エアギターの存在は知っていましたが、世界選手権があるなんてびっくりです。採点基準は、オリジナリティ、リズム感、カリスマ性、テクニック、芸術性とエアーな感じの５点。観客の盛り上がりも重要とのことです。60秒の自由曲のほかに、当日発表される曲に即興でパフォーマンスします。 優勝したアメリカ人Ｃ・ディディは、顔立ちが東洋人的です。キティちゃんのプレートを胸にかけて、モーツァルトのトルコ行進曲のアレンジを演技します。腕や手だけでなく、顔でも表現していて、見事なパフォーマンスを見せてくれます。エアギターもここまでくると、単なるまねごとではなく、芸術性を持った身体表現の域に達しています。出演者の多くは本業が別にあって、本名とは別名で参加しているようです。 エアギター世界選手権は、1996年に第１回大会が開催されました。世界平和をテーマにしているようです。期間中は現地でトレーニングキャンプも行なわれます。現在は17ヵ国で予選が行なわれているとのこと。ちなみに、優勝商品は本物のエアギターとのこと。笑えます。日本での予選は2005年から始まり、2006年と2007年は、日本人の大地洋輔が世界チャンピオンになったそうです。日本もなかなかハイレベルです。８月のサマーソニックでジャパンファイナル（日本最終予選）が行なわれているようです。 |
|
2008年5月29日 |
|
|
| 映画「少林少女」（2008年/日本）を見ました。主演の柴咲コウがお目当てです。中国で少林拳の修行を終えた桜沢凛（柴咲コウ）が、日本で少林拳を広めるというストーリーです。かなり粗いストーリー展開で、深い心理描写がありません。少林拳とラクロスを両立するのは唐突。サッカーでチームワークを養ったという流れも大雑把すぎ。編集に頼りすぎでストーリーが支離滅裂です。今作では「総監督システム」を導入して、助監督が分担して撮影したとのこと。責任は監督の本広克行が持ったとのことですが、明らかな失敗です。道場を放火するのも悪質で、本広監督は「ターゲットはファミリー層」と語っているのに不健全です。田村龍司役の岡村隆史のギャグも冴えません。ＣＧをかなり多用しています。桜沢凛と大場雄一郎（仲村トオル）達との戦いは、完全にゲーム感覚のストーリー構成です。映画もここまで来たかという感じです。アフレコ（録音別撮り）がありますが、映像と大きくズレているのはいただけません。菅野祐吾の音楽はスケールが大きくて気に入りました。 柴咲コウは１年間トレーニングを重ねたとのこと。アクションシーンでは健闘しています。少林拳もラクロスもスタントマンは１割とのことで、かなりがんばったと言えるでしょう。顔面を足で蹴られるシーンもあります。 ちなみに、少林拳と少林寺拳法（香川県発祥の日本古道）とは、名前はよく似ていますが別物とのこと。知りませんでした。 |
|
2008年5月26日 |
|
|
| 「永作博美 Beautiful ナイト」３本目は、「空中庭園」（2005年/日本）。原作は角田光代著『空中庭園』（2002年）。第128回直木賞候補作です。監督・脚本は豊田利晃。映画公開直前に覚醒剤所持で逮捕されたそうです。永作博美は、京橋絵里子（小泉今日子）の夫、京橋貴史（板尾創路）の愛人飯塚麻子役で出演しています。「特別出演」待遇ですが、出番は少ないです。 隠し事や秘密のない理想的な家族を表向きは装っている京橋家で、不登校や愛人など家族に隠していることが次第に明らかになります。最後はハッピーエンドですが、現代社会における家族のあり方について考えさせられます。小泉今日子が怪演。母の木ノ崎さと子（大楠道代）に向かって言い放つ「死んで」というセリフなど本当に怖い。家の鍵を母しか持っていないという設定には驚きました（映画だけですが）。 カメラが左右に揺れる演出がありますが、家族の心の揺れを表現したようです。結構長いので酔いそうでした。上部から撮影された映像も多いです。終わりのほうで、小泉今日子が血の雨を浴びるシーンがありますが、「生まれ変わる」ことを表現したようです。大胆な演出です。ロケ地は、グランドアーバンメゾンがある団地は幕張で、観覧車はモザイクモール港北で撮影されています。ＢＧＭでブラームスの交響曲第３番第３楽章がピアノで流れたときは少しびっくりしました。 パンフレットには、監督以外のスタッフのインタビューが掲載されています。撮影時の苦労話が語られていて興味深い。映画は多くのスタッフのチームプレーで成り立つことを改めて実感します。豊田利晃によるシナリオ決定稿も掲載されていますが、映画本編とは少し異なる部分があります。かなり細かく書き込まれていて、映像では分からなかった内容もあります。 映画を見てから原作を読みました。６つの章からなりますが、章によって主格が異なるという凝った構成です。「ラブリー・ホーム」はマナ、「チョロＱ」は貴史、「空中庭園」は絵里子、「キルト」は木ノ崎さと子、「鍵つきドア」はミーナ、「光の、闇の」はコウの目線で書かれています。マナがホテル野猿の机の引き出しに入れたテディちゃんは、自らの分身を意味したことが分かりました。コウは原作では学校でいじめにあっているという設定です。また、飯塚と貴史は高３でクラスメイトだったと書かれていますが、映画では触れられていません。 また、映画パンフレットに、『空中庭園』の続篇として角田光代が書き下ろした「夜道の家族」が掲載されています。３年が経過して、木ノ崎さと子が永眠したというファックスがミーナに届いて、通夜でひさしぶりに京橋家と再会するストーリーです。ミーナは貴史と別れて、マナは妊娠しています。母を亡くした絵里子は母との生活は楽しかったと振り返り、ミーナは京橋家をうらやましく感じます。家族のよさを感じさせます。 |
|
2008年5月25日 |
|
|
| 「永作博美 Beautiful ナイト」２本目は、「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」（2007年/日本）。原作は本谷有希子著『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』（2005年）。演劇の戯曲を小説化した作品です。監督・脚本は、吉田大八。テレビＣＭを手がける吉田にとって、今作が監督デビューとのこと。 女優を目指す姉の和合澄伽（佐藤江梨子）、漫画家を目指す妹の清深（佐津川愛美）、兄の宍道（永瀬正敏）と嫁の待子（永作博美）の４人が登場人物です。それぞれ複雑な人間関係が過去の経緯を含めて描かれます。清深が郵便局でバイトしていたというオチは見事。澄伽と清深がバスに乗るラストシーンは、原作と異なるようです。映画化にあたって、笑えるものにしてほしいというリクエストが本谷からあったようですが、全体的にやや重いので笑えないでしょう。「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」というタイトルは映画本編ではまったく触れられませんが、腑抜けども（澄伽と清深）に対する誰のメッセージなのでしょうか。 俳優は４人とも適役で好演。永作博美はおばさん臭い衣装で、従順すぎる嫁を演じます。ロケ地は、石川県輪島市。自然が美しい。 『シナリオ』2007年８月号に脚本が掲載されています。準備稿なので、本編と少し異なる部分があります。 |
|
2008年5月4日 |
|
|
| 主要助演女優賞５冠達成を記念して「永作博美 Beautiful ナイト」が京都みなみ会館で行われました。オールナイトで３本上映されました。上映順に感想を書きます。 １本目は、「気球クラブ、その後」（2006年/日本）。監督・脚本は、園子温。学生サークル「気球クラブ」のリーダー村上（長谷川朝晴）が事故死し、当時のメンバーが久々に再会します。一夜の宴会の後、携帯電話に登録されている互いの連絡先を消去して解散します。せっかく再会したのにもったいない。ちょっと切なくなりました。村上は生前、彼女の美津子（永作博美）のために書いた手紙を小さな気球に結び付けました。その内容を後輩の二郎（深水元基）が読むところで終わります。何が書いてあったかは明かされません。 メンバー同士の携帯電話の会話では、細かくコマ撮りして画面を頻繁に切り替えます。現代映画の演出方法と言えるでしょうか。また、二郎のナレーションを字幕でも表示させる演出も珍しい。気球を飛ばして乗るシーンも撮影されています。ロマンチックです。パンフレットを読んだところでは、気球を飛ばすには免許がいるようですね。 俳優では、みどり役の川村ゆきえが存在感のある演技。彼女は今作で女優デビューしたようです。村上役の長谷川朝晴も気球に熱中する役柄を好演。美津子役の永作博美は、気球を見つめる笑顔が素敵。「風船おじさんを信じますか」という滑稽なセリフもあります。 テーマソングは、荒井由実作詞・作曲の「翳りゆく部屋」。畠山美由紀がカバーしています。この曲は椎名林檎もカバーしています。 |
|
2008年4月29日 |
|
|
| 映画「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程（みち）」（2007年/日本）を見ました。監督は若松孝二。上映時間190分の大作です。 1960年の安保闘争から、1971年の連合赤軍結成、1972年のあさま山荘事件終結まで、当時の白黒映像を挿入しながら壮大に描かれます。「実録」と題しているだけあって、とても詳しい。連合赤軍といえばあさま山荘事件が突出して有名ですが、なぜこの事件が起こったのかその経緯を明らかにしようとしています。映画化する強烈なパワーなければ作れない映画です。若松監督の情熱に圧倒されます。 1960年代は、何に対しても阻止闘争が繰り広げられていたことを知りました。インターネットがなかった時代に、よくこれだけ多くの学生が集まったものです。突入や占拠を繰り返すたびに多数の逮捕者が出ました。大学だけではなく、高校も封鎖されたのですね。 「総括」（山岳ベース事件）も再現されています。森恒夫が独走し、短期間に12名も殺害しています。「赤軍派」と「革命左派」の政治理念が大きく異なることが矛盾が原因と思われますが、究極のマイナス思考ですね。大量リンチ殺人は実際はもっとすごかったようです。赤軍メンバーは、革命兵士として自分はどう行動すべきかを常に考える必要がありました。現代人は日々何を目的にして生きるかなんて意識しないので、いろいろ考えさせられます。 出演者のオーディションには1000人が応募したとのこと。出演している若手俳優は、もちろん当時を知らない世代ですが、時代背景をよく理解して演じています。特に森恒夫役の地曵豪が快演。また、登場人物が多いですが、赤軍メンバーの個人のキャラクターがしっかり描かれています。資金集めのために上京した森と永田が、ラブホテルで過ごしているシーンもあります（事実かな）。妙義山ベースから逃亡した後、残ったメンバーはラジオで森と永田の逮捕を知ります。ここで映画が終わったとしても十分よかったと思いますが、最後にあさま山荘での銃撃戦が行われます。あさま山荘のシーンは、若松監督の自分の別荘を破壊して撮影したとのこと。あくまでも山荘に立てこもったメンバーに焦点を当てて撮影されています。実際は10日間続きましたが、映画では意外にあっという間です。加藤元久の「勇気がなかったんだよ！」というセリフが印象的です。 ジム・オルークの音楽がＢＧＭで使われますが、少し音楽を使いすぎた感はあります。映像だけだと重すぎるので、音楽を加えたかったのかもしれません。 市販もされているパンフレットはさながら膨大な資料集です。関係者からの手記や完成台本も掲載されていて読み応えがあります。 なお、2008年ベルリン国際映画祭で、最優秀アジア映画賞と国際芸術映画評論連盟賞を受賞しましたが、この映画が日本以外の国で評価されるとは意外です。 |
|
2008年4月25日 |
|
|
| 映画「L change the WorLd」（2008年/日本）を見ました。「デスノート」「デスノート the Last name」に続く、スピンオフ作品です。年齢性別非公開の著名作家「M」が「プロジェクトメンバーズ」として参加しています。 夜神月とのキラ対決で、デスノートに自分の名前を書いたLの最期の23日間を描いています。今作の時間軸は、キラ事件と同時並行で進んでいたという設定で、前２作の登場人物も出てきます。 人類を減らすことを目的とする環境保護団体「ブルーシップ」と、致死性のあるウイルスをめぐるストーリーです。L（松山ケンイチ）も息切らして走るなど今までにない表情を見せます。また、Lはワタリ（藤村俊二）が設立した養護施設「ワイミーズハウス」の出身であることが明かされます。同じ出身者のFとK（久條希実子）が登場します。ちなみに、Lの本名はLawlietだったことも今作ではじめて分かります。 冒頭で二階堂公彦（鶴見辰吾）が、研究室の中でウイルスを自ら打って死ぬシーンがエグい。特殊メイクがリアルすぎる。まばゆい光線も強烈。ホラー映画も手掛ける中田秀夫監督ならではの演出です。その後もスリル満載のストーリー展開でドキドキの連続です。川井憲次の音楽も緊迫感を与えています。「アウトブレイク」（1995年/アメリカ）に似ています。松戸浩一（平泉成）がすぐに抗ウイルス薬を開発できたのでよかったですが、実際の鳥インフルエンザなどでは難しいでしょう。ウイルスは目に見えないだけに怖いですね。最後は、エンドクレジットの後に、「L Lawliet 安らかに眠る」という字幕が現れますが、実際にLが亡くなるシーンはありません。 俳優では、二階堂真希役の福田麻由子が超好演。ファンになりそうです。駿河秀明役の南原清隆は、FBIの捜査官に見えませんでした。BOY（ニア）役の福田響志は、タイ人ではなく日本人でした。 |
|
2008年4月6日 |
|
|
| 映画「チーム・バチスタの栄光」（2008年/日本）を見ました。原作は海堂尊著『チーム・バチスタの栄光』（2005年）。 大学病院で桐生恭一（吉川晃司）をチーフとする「チーム・バチスタ」が行なったバチスタ手術（左心室縮小形成術）で術死が発生。厚生労働省から派遣された白鳥圭輔（阿部寛）が殺人事件として調査するというストーリーです。バチスタ手術は心臓を停止させるということですが、こんな手術方法があったとは驚きです。手術シーンがリアルに撮影されています。心臓がエグい。手術時間もけっこう長いですが、本当の手術では３時間ぐらいかかるらしいです。医者が手術中に患者を殺すという結末には驚きました。密室での手術は怖いですね。テーマがあまりにも重いので、笑えるシーンを盛り込んでコントラストを図っています。 俳優では、氷室貢一郎役のココリコ田中直樹が好演。白鳥圭輔役の阿部寛もハマリ役。田口公子役の竹内結子はやや疲れた表情をしています。佐野史郎、池内博之、玉山鉄二など個性派俳優がそろっています。 映画を見た後に、『シナリオ』誌2008年４月号に掲載された脚本を読みました。カルテやパソコンの画面など細かく書かれています。 原作も読みました。第４回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しました。作者の海堂尊は現役の病理医とのこと。副業とは思えないほど巧みな文章表現で書かれています。 すでに続編（第２作「ナイチンゲールの沈黙」、第３作「ジェネラル・ルージュの凱旋」）が書かれています。続編も映画化されるでしょうか。 |
|
2008年3月22日 |
|
|
| 映画「人のセックスを笑うな」（2007年/日本）を見ました。永作博美初の主演映画です。原作は、山崎ナオコーラ著『人のセックスを笑うな』（2004年）。監督・脚本は、井口奈己。 ユリ（永作博美）と磯貝みるめ（松山ケンイチ）が不倫するストーリーですが、ドロドロした描き方ではなく、むしろ爽快感すら感じさせます。セックスシーンもないので、Ｒ指定もありません。永作と松山のセリフが日常会話のように自然で、演技とは思えません。パンフレットに掲載されているシナリオ決定稿を見たところ、脚本には詳しいセリフは書かれていませんでした。リトグラフ教室での「触らない」、「ちょっとずれたね」、服を脱いだときの「オーイエス」、エアマットを膨らませるときの会話や信玄餅の会話は、アドリブだと思われます。 ユリ役の永作博美は、自由奔放なキャラクターを存在感大きく演じています。とても映画初主演とは思えません。また、磯貝みるめよりも20歳年上という設定ですが、まったく年齢差を感じさせません。若い。かわいすぎる。露出の多い服でも肌がプリプリしていて女性でも見とれるでしょう。ユリが結婚していたことを知ったときはショックでした。ユリが作ったリトグラフが個展でもまったく映らないのがちょっと残念。 えんちゃん役の蒼井優は、最初はあまり表情を出しませんが、徐々に感情を加えていくのがいい。クスクス笑える部分もあって、好演です。 ロケ地もいい。関東圏の各所で撮影されています。冒頭に登場するトンネルは入口と出口が別々の場所で撮影されているとのこと。桐生の自然も美しい。撮影はアップが少なく、遠くから長回しで撮影されています。 永作博美が歌う挿入歌「ANGEL」は洋楽をイメージさせますが、なんとオリジナル曲とのこと。「HAKASE-SUN」が作曲しています。 短所を挙げるとすると、照明が暗いこと。またセリフもやや聞き取りにくいです。演出だと思われますが、効果的かどうか少し疑問です。 なお、シナリオ決定稿には露天風呂のシーンが書かれていますが、本編ではありませんでした。えんちゃんが歌うピンクレディーの「ＵＦＯ」もカットされました。 映画を見た後に、原作を読みました。山崎ナオコーラのデビュー作にで、2004年の芥川賞候補作となりました。磯貝みるめを「オレ」とする一人称で書かれています。原作と映画ではストーリーがかなり違います。原作ではみるめが明らかにユリと失恋して終わりますが、映画では余韻を残す終わり方でした。エンディングに出る字幕「会えなければ終わるなんて、そんなものじゃないだろう」は、原作のみるめの最後のセリフを転用しています。また、原作ではみるめは最初からユリが結婚していることを知っています。途中で、みるめがユリの話が自己中心的だと不満を感じるようになります。また、原作ではあまり書かれていないえんちゃんとの三角関係も映画では重視しています。映画のほうがストーリーとしてさわやかでおもしろくできていると感じました。脚本がよくできています。原作では性描写が少しリアルです。 |
|
2008年3月12日 |
|
|
| 映画「シルク（原題：SILK）」（2007年/日本=カナダ=イタリア）を見ました。原作はアレッサンドロ・バリッコ著『絹（原題：Seta）』（1996年）。製糸場の蚕の卵を求めるため、日本まで旅をするエルヴェ（マイケル・ピット）が主人公です。 エルヴェのナレーションで進行します。エルヴェは幕末の鎖国中の日本に密入国し、原十兵衛（役所広司）を訪れます。船や馬車などを乗り継いで、３ヶ月もかかったようです。この時代に日本に行くのはとても大変だったんですね。そこで原十兵衛の妻と思われる少女（芦名星）に出会い、手紙を渡されます。エルヴェは３回日本を訪れますが、明治維新になって原十兵衛と少女は戊辰戦争から避けるように姿を消します。エルヴェの家に届いた手紙を書いたのは、エルヴェの妻のエレーヌ（キーラ・ナイトレイ）だったという結末には驚きました。セリフは英語と日本語で話されます。幕末は密入国したり、日本人が英語を話したり、時代考証的にはどうなのでしょうか。 少女役の芦名星は新人です。まったくセリフがありません。着物がよく似合いますが、それほど美人ではありません。エルヴェとのセックスシーンの相手は、芦名星ではなく、渡辺奈緒子。パンフレットに名前が載っていません。扱い方が低いですね。マダム・ブランシュ役の中谷美紀も好演です。 音楽は坂本龍一。明確な主題はあまりなく、幻想的でゆったりした音楽です。 原十兵衛が住む村のセットは、長野県松本市に建設したようです。 映画の公開期間は１ヶ月ほどで、意外にも早く終わりました。興行収入がいまいちだったのでしょうか。 映画を見た後に、原作を読みました。65章から構成されています。１章あたりの文章量は２ページほどで少ないです。原作者のアレッサンドロ・バリッコは音楽学者でもあるとのこと。『絹』について、「ベネデッティ・ミケランジェリがガルッピのソナタを弾いたときのタッチ」にたとえています。 |
|
2008年2月24日 |
|
|
| 山村浩二監督作品「カフカ 田舎医者」（2007年/日本）を見ました。アニメーション映画です。原作はフランツ・カフカ著『田舎医者』（1919年）。21分の作品ですが、原作も文庫本で10ページ程度の超短篇小説です。カフカの作品は没後に発表されたものが多いですが、『田舎医者』は生前に発表されました。映画を見た後に、原作を読みましたが、映画は原作のストーリーに忠実に作られています。 アニメーションは細かな線で描かれています。頭を極端に大きく描くなど、アニメーションの長所を用いて、感情を巧みに表現しています。声の出演は、狂言師の茂山一家。田舎医者の「心の声」として、茂山茂と茂山童司の２人の声を重ねさせて、田舎医者を重々しく見せます。また、『蛇にピアス』（2003年）で芥川賞を受賞した金原ひとみが女中ローザの声を担当。彼女の声はあまり個性的ではありませんでした。 音楽は、オンド・マルトノで演奏されています。吹雪や心情の揺れをうまく表現しています。山村浩二はアニメーションを描くだけにとどまらず、音楽や声を効果的に使って、映画作品として総合的に見せる方法に優れていてすばらしい。 なお、冒頭に登場する文章「本当の道は、一本の綱の上を通っているのだが、綱が張られているのは高い所ではなく、地面すれすれである。それは歩かせるためというよりむしろ、つまずかせる為のものの様に見える。」は、原作にはありませんが、田舎医者のストーリーに相通じるところがあるでしょう。 同時上映で４作品が上映されました。 |
|
2008年2月4日 |
|
|
| 映画「椿三十郎」（2007年/日本）を見ました。原作は、山本周五郎著『日日平安（にちにちへいあん）』（1954年）。 1962年に黒澤明監督、三船敏郎主演で公開されました。今作はそのリメイクで、ほとんど脚本を変えずに作られているというのが注目を集めました。製作総指揮の角川春樹がリメイク権を取得し、森田芳光に監督を打診。豊川悦司と松山ケンイチのキャスティングも角川が行なったようです。角川は「時代劇というジャンルの枠を超えた子供から大人まで楽しめるエンタテインメント」として製作したようです。時代劇としては、かなり軽いタッチで描かれています。 ストーリーは単純明快です。森田監督は「完璧なシナリオだから（黒澤作品から）変える必要はない」と語っていますが、先が見えてしまうので、現代には物足りなく感じてしまいます。最後の椿三十郎と室戸半兵衛の対決シーンでは、黒澤作品では血がすごい勢いで噴出したらしいですが、今作ではあえて血は流れません。 椿三十郎役の織田裕二は、声色を変えています。三船敏郎の演技に影響されているようです。睦田夫人役の中村玉緒が適役。松山ケンイチ以外の若侍役８人は、オーディションで選ばれたようですが、素人くさくて頼りない。 音楽も黒澤作品と同じかと思いましたが、新たに大島ミチルが作曲しています。エンドクレジットで勇壮なテーマ音楽が流れます。 映画を見た後に、原作『日日平安』を読みました。文庫本で60ページほどの短篇小説です。映画はかなり脚色されていて驚きます。主人公の菅田平野は、礼金や仕官が目当てで、黒藤邸にかくまわれた城代家老の陸田精兵衛を救出します。原作には、椿の花は出てきません。また、菅田は「人を傷害しない」「殺さない」と常に話すなど、映画とは異なります。最後は脱走しますが、井坂十郎太に説得されて藩に戻ります。 |
|
2008年1月27日 |
|
|
| 映画「ミッドナイトイーグル」（2007年/日本）を見ました。原作は高嶋哲夫著『ミッドナイトイーグル』（2000年）。 北アルプス見岳沢に墜落した米軍ステルス型戦略爆撃機「ミッドナイトイーグル」に搭載された核爆弾をめぐって、ストーリーが展開されます。事件の全体像はなかなか明らかにされません。少しずつ状況が分かってきます。最後は犠牲者が出るので、『アルマゲドン』（1998年/アメリカ）とそっくりです。ただ、なぜ核兵器を搭載していたかや某国工作員の意図は何なのかなど事件の背景が明らかにされません。ストーリーは非現実的でリアリティに欠けます。 防衛省と自衛隊の全面協力の下に撮影されています。自衛隊がかっこよく見えない物語なのに、よく協力したものです。新潟県津南町で撮影されたという山岳ロケも、厳しい条件のなかでよく撮影されています。パンフレットを読むと、実際には雪不足で大変だったようです。 大沢たかお（西崎優二）、竹内結子（有沢慶子）、玉木宏（落合信一郎）、吉田栄作（佐伯昭彦）など出演者はいずれも好演です。 音楽は小林武史。ちょっと音楽を使いすぎでしょうか。 映画を見た後に、原作を読みました。文庫本で500ページを超えるボリュームです。西崎と慶子の状況が交互に書かれ、同時進行で進みます。山行の知識が具体的に書かれています。 |
|
2008年1月20日 |
|
|
| 映画「魍魎の匣」（2007年/日本）を見ました。原作は京極夏彦著『魍魎の匣』（1995年）。監督・脚本は、原田眞人。 エンディングテーマに、東京事変の「金魚の箱」（作詞・作曲：伊澤一葉）が使われています。原曲より短縮されて、エンドクレジットの途中から流れます。映画のパンフレットに掲載された伊澤一葉のコメント「「金魚の箱」制作にあたって」によると、伊澤は事前に映画を見たようですね。また、椎名林檎のコメント「京極文学との出会い」によると、椎名林檎は京極夏彦の大ファンということ。また、『姑獲鳥（うぶめ）の夏』のカバーデザインは、椎名の叔父である故・辰巳四郎が手がけているとのこと。ちなみに、私が読んだ『魍魎の匣』新書版のブックデザインにも辰巳四郎の名前が印刷されています。 『魍魎の匣』は、京極夏彦の「京極堂（百鬼夜行）シリーズ」第２作です。とにかく長い。２段組で約700ページというすごいボリュームです。この原作を約２時間の映画にしたわけですが、無理して縮めた感は否めません。それでも登場人物はじゅうぶん多いです。出演者は豪華キャストで、いずれもはまり役です。なかでも、中禅寺秋彦（京極堂）役の堤真一、木場修太郎役の宮迫博之、柚木陽子役の黒木瞳、久保竣公役の宮藤官九郎、美馬坂幸四郎役の柄本明はまさに適役。なお、堤真一、阿部寛、椎名桔平の３人は同い年とのこと。 セリフはかなり早口で話されます。また、カット数も2300とかなり多い。ビラに「超高速展開サスペンス」と書いてあるので、この映画の売りなのでしょうが、ちょっとせわしない。さらに、時間軸がバラバラになっているので、頭の中で整理していく必要があります。展開が速いのでストーリーについていくのが大変です。前半に出てくる柚木陽子（黒木瞳）の長いセリフで、いきなりついていけなくなりました。戦時中のエピソードや新興宗教「穢れ封じ御筥様」の話が入ってきて、さらに複雑になります。 ロケは原作の世界観をよく表現しています。1952年の東京を再現するために、２週間の上海ロケを行なっています。中国で撮影したとは思えないほどよくできています。パンフレットに上海ロケの苦労話が掲載されていて面白く読めます。美馬坂近代医学研究所（箱館）のロケは圧巻です。１つのセットかと思いましたが、実際は６箇所のロケ地で撮影してつなぎ合わせているようです。ただし、箱館の爆発・崩壊のシーンがないので物足りないです。 村松崇継の音楽はなかなかいいですが、ちょっとＢＧＭを使いすぎです。セリフの重みが減ってしまいます。 映画を見た後に、原作を読みました。上述したようにものすごいボリュームですが、文章は意外に読みやすかったです。登場人物の家族構成などが実に細かく描写されています。また、「超能力は脱オカルト、占いは準オカルト、霊能は真オカルト、宗教は超オカルト」といった予備知識や、東京警察庁と国警神奈川県本部の管轄範囲の問題など映画化されていない部分にも多くの紙数を割いています。そもそも箱館（＝人工の人体）の着想だけでもすごい。よく考えたものです。久保竣公の新作小説『匣の中の娘』が旧字体で挿入されます。また、関口巽が「私」で書かれた文章が各章ごとに現れます。６章の最後にある「お詫び状」は、楠本頼子が君枝に宛てた手紙と考えてしまいますが、最後まで読めば、柚木陽子が美馬坂絹子に宛てた手紙であることが分かります。構成も巧みです。さらに、最後には久保竣公を「私」とする文章があり、「私は、魍魎の匣だ。」という一文があります。「魍魎」や「匣（箱・匣）」という単語が何回も使われます。また、伏線が多いので、映画を見た後に読めば、理解しやすいでしょう。登場人物の血縁関係（柚木陽子は美馬坂幸四郎の娘、柚木加菜子は柚木陽子と美馬坂幸四郎の間にできた子、久保竣公は寺田兵衛の子）も次第に明らかにされます。 ラストに「柚木加菜子殺害未遂事件」（犯人：楠本頼子）、「柚木加菜子誘拐未遂事件」（犯人：須崎太郎）、「須崎太郎殺害・柚木加菜子誘拐事件」（犯人：雨宮典匡）、「連続バラバラ死体遺棄事件」（犯人：久保竣公）、「久保竣公生体実験」（犯人：美馬坂幸四郎）の経緯が京極堂によって明かされます。読後感はあまり気持ちよくありません。むしろ何かが取り付いたみたいに気持ち悪くなりました。生命とは何か、人間の本体は脳なのか、といろいろ考えさせられます。 この映画は、原作を読んだ人が楽しむ映画と言えるでしょう。原作を読まずに映画を理解できた人は映画リテラシー能力がかなりあると言っていいでしょう。 |
|
2008年1月7日 |
|
|
| 映画「サディスティック・ミカ・バンド」（2007年/日本）を見ました。1972年にデビューし1975年に解散した、日本のロック史に偉大な足跡を残したロックバンド「サディスティック・ミカ・バンド」が、2007年3月8日にＮＨＫホールで行なった一夜限りの再結成ライブを追ったドキュメンタリー映画です。加藤和彦（ギター＆ヴォーカル）、高橋幸宏（ドラムス＆ヴォーカル）、小原礼（ベース＆ヴォーカル）、高中正義（ギター）に加えて、ゲストヴォーカルに木村カエラ、ゲストヴォーカル＆ギターに奥田民生が参加しています。再結成のタイムスパンを感じさせない完成度が高い演奏が聴けます。演奏している姿もかっこいい。そして、何よりも楽しそうです。なお、当時ヴォーカルを務めていた加藤ミカ（現：福井ミカ）は登場しません。 上述のライブ映像のほかに、軽井沢でのレコーディング風景や、メンバー４人へのインタビュー映像が挿入されます。インタビューで話される言葉は重みがあって、いろいろ考えさせられます。現役で活動していたときを知らない世代でもじゅうぶん楽しめますし、メンバーにも親近感が持てるでしょう。 |
|
2008年1月3日 |
|
|
| 映画「グレン・グールド 27歳の記憶（原題：Glenn Gould Off the Record/On the Record）」（1959年/カナダ）を見ました。不世出のピアニスト、グレン・グールド（1932年〜1982年）の27歳を収録したドキュメンタリー映画です。前篇「Glenn Gould Off the Record」と後篇「Glenn Gould On the Record」の２部構成で、58分です。白黒映画でモノラル音声です。 27歳のグールドは、すでにデビュー録音「ゴルトベルク変奏曲」（1955年）が発売した後なので、かなり注目されていたのでしょう。 グールドは32歳（1964年）で演奏会活動から引退しますが、かなり密着した映像でびっくりしました。後年のグールドなら断ったと思われるので、よく撮れたものです。このような貴重な映像が残されたことに感謝しなくてはいけません。 スタンウェイのショー・ルームで、ピアノを選定するシーンから始まります。ピアノを演奏するシーンが多く収録されています。グールドはピアノを弾きながらハミングすることが録音でも確認できますが、ハミングよりも歌声と言ったほうがいいほど大きな声で歌っているシーンがあります。また足を組んで演奏しています。トロントのアブターグローヴにある別荘では、Ｊ．Ｓ．バッハの「パルティータ第２番」第１番シンフォニアを演奏。名演です。また、ヴェーベルンの作品は内向的か議論します。後篇ではニューヨークにあるコロンビアレコードのスタジオでＪ．Ｓ．バッハの「イタリア協奏曲」の録音風景が収録されています。録音は予想以上に和やかな雰囲気で行なわれています。調整室で録音スタッフが「あの指揮ぶりは最高だな」などと、グールドの演奏している姿を見て笑っています。また、グールドがプレイバックを聴いて自分の演奏にコメントしているのが貴重です。写真撮影のシーンではグールドは当初拒否しますが、しぶしぶ了承。ドビュッシーの「月の光」をジャズ風にやる気がない感じで即興演奏します。 インタビューでは雄弁に語ります。「人込みが少々苦手で、大ホールでは閉所恐怖症気味になる」とか「（作曲家として）作品を書くのに非常に苦労している」などと本音を語っています。 プレスシートには、宮澤淳一氏の詳細な解説と、朝比奈隆がグールドとベートーヴェンのピアノ協奏曲第２番で共演した際の印象が掲載されています。 クラシックファンは必見の映画です。ＤＶＤが発売されたら買うでしょう。 |
|
2007年12月22日 |
|
|
| 映画「長江哀歌（ちょうこうエレジー）（原題：三峡好人）」（2006年/中国）を見ました。2006年ベネチア国際映画祭金獅子賞グランプリを受賞しました。監督・脚本は、ジャ・ジャンクー（賈樟柯）。 長江流域に建設中の三峡ダムによって沈む古都、奉節（フォンジェ）が舞台です。三峡ダムは、2009年完成予定の世界最大のダムで、流域に住む約130万人が移住させられます。発案は孫文が行なったようで、歴史的で国家的なプロジェクトです。 映画では、立ち退いた後の建物を、機械ではなく、人の手によって解体していてびっくりしました。働いている男性も上半身は裸やランニング姿で、近代化された美しい中国を描いた映画ではありません。ただし、携帯電話がちゃんとつながって、着信音に着うたを使っていてびっくりしました。ちなみに出演者の大半は、奉節でスカウトしたアマチュアとのことです。 ストーリーは少し分かりにくいです。解説がないと理解しにくいでしょう。別れた夫婦を探すために山西省から奉節に来た２人の夫婦が主人公です。ハン・サンミン（男性）が登場した後、シェン・ホン（女性）が現れるので、この２人が夫婦なのかと錯覚しますが、別々の夫婦なので、少し紛らわしい。パンフレットの解説を読むと、シェン・ホンが夫に話した「好きな人ができたので別れたい」という話は嘘だったという設定らしいですが、分かりませんでした。また、建物が突如ロケットのように飛んでいくシーンがありますが、あまりにも唐突で関連性もないので理解できませんでした。ジャ・ジャンクーへのインタビューによれば、これは建設途中で放置された建物で、三峡の光景には非現実的なので飛ばしてしまおうと思ったから撮影したらしいです。ラストシーンも綱渡りする男性が現れて終わります。なお、全体は「烟（タバコ）」「酒」「茶」「糖（アメ）」の４つのパートで構成されていて、字幕で表示されます。 映像も小型カメラで撮影されていることもあってか、あまり美しくありません。 なぜこの作品が、金獅子賞グランプリに選ばれたのかよく分かりませんでした。 |
|
2007年11月23日 |
|
|
| 映画「クワイエットルームにようこそ」（2007年/日本）を見ました。原作は松尾スズキ著『クワイエットルームにようこそ』（2005年）。第134回芥川賞の候補作となりました。松尾スズキが自ら脚本と監督を務め映画化されました。松尾スズキにとっては長編映画の第２作です。 主人公の佐倉明日香（内田有紀）が、オーバードーズ（睡眠薬の過剰摂取）で緊急入院させられます。精神科病院の閉鎖病棟（クワイエットルーム）で目を覚ました後、患者たちと過ごした非日常的な14日間の入院生活が描かれます。入院の経過など時系列が前後しながら次第に明らかにされますが、ストーリーとしてはシンプルです。笑える部分もあるので、あまり重苦しい雰囲気はありません。入院中の患者がとても個性的に描かれています。 豪華なキャスティングがすばらしい。主演の内田有紀は９年ぶりの映画主演とのこと。ミキ役の蒼井優が強烈なインパクトを残します。彼女の演技を見たのは「星になった少年」（2005年）以来でしたが、目がいいですね。焼畑鉄雄役の宮藤官九郎とコモノ役の妻夫木聡は、超ハイテンションの演技。西野役の大竹しのぶも怪演。ナース江口役のりょうとナース山岸役の平岩紙もはまり役。俵万智や平田満など脇役も充実しています。 映画を見てから原作を読みました。佐倉明日香を「わたし」とする一人称で書かれています。文章のタッチからすれば、男性が書いたとは思えません。括弧を多用しているのがユニークで、（ではないことが後でわかるが）、（よくわかんないけど）、（以降こう呼ぶ）、（もちろんズルズル飯）などのように書かれています。また、一文が長いのも特徴ですが、少し読みにくいです。ストーリーや登場人物は映画とほぼ同じで、忠実に映画化されているといえるでしょう。章のタイトルが人名（「わたし」「ナース江口」「鉄ちゃん」「栗田さん」「ミキ」「西野さん」「サエちゃん」「コモノ君」「わたし」）になっているのがおもしろい。冒頭は幻覚症状の記述から始まっています。ちなみに、ミキやサエは原作ではもっとやせている設定です。コモノ君は100キロの巨体で柔道二段という設定です。 |
|
2007年11月18日 |
|
|
| 映画「未来予想図〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜」（2007年/日本）を見ました。主演は松下奈緒。東京音楽大学ピアノ科に在学中で、ピアニストとして日本フィルハーモニー交響楽団と共演した彼女の演技力がどれほどのものか知りたくて見ました。 映画の原案は、DREAMS COME TRUEの名曲「未来予想図」(1991年)と「未来予想図�供�(1989年)（ともに、作詞・作曲：吉田美和）。曲の世界観を元に映画化されています。「未来予想図�供廚浪薪戮�聴いたことがありましたが、「未来予想図」は「未来予想図�供廚箸浪了譴皀瓮蹈妊�ーもまったく違う曲だったのですね。また、新たに作曲した「ア・イ・シ・テ・ルのサイン 〜わたしたちの未来予想図〜」（作詞・作曲：吉田美和）が主題歌として使われています。 いかにも映画らしい都合のいいストーリー展開ですが、同年代の女性は共感できるかもしれません。時系列が長いので、ストーリーが表面的です。携帯電話の番号まで変えてしまう女心は私には理解できませんでした。ガウディが建築したサグラダ・ファミリアは実在します。壮大なスケールの教会ですね。まだ完成されていませんが、世界遺産に登録されています。 松下奈緒の演技は予想以上にうまく、安心して見ていられました。松坂慶子の博多弁がかなり不自然で笑えました。 |
|
2007年11月9日 |
|
|
| 映画「クローズド・ノート」（2007年/日本）を見ました。原作は、雫井脩介著『クローズド・ノート』（2006年）。私が好きな永作博美と竹内結子が出演しているので注目していましたが、初日舞台挨拶での沢尻エリカの超不機嫌な姿が大きく取り上げられました。沢尻エリカはそれまでは名前しか知りませんでしたが、一躍有名になりましたね。知名度アップに大いに貢献したでしょう。 予想以上に完成度高い映画でした。原作は読んでいませんが、ストーリーの構成力がすばらしい。2時間18分と上映時間はやや長めですが、長く感じることはないでしょう。堀井香恵（沢尻エリカ）が引っ越してきたアパートで、前の住人の真野伊吹（竹内結子）のノートを見つけます。香恵が伊吹のノートを読み進めながらストーリーが進行します。石飛リュウ（伊勢谷友介）のアトリエで山田一平のテスト用紙を見つけたシーンから、石飛リュウと隆が同一人物だったいう展開にはやられました。フラッシュバックで回想される映像効果も見事です。香恵がノートを読むスピードが遅すぎるとか、伊吹の事故後に誰がどうやってノートを置いたのかとかちょっと不自然な点がないわけではありませんが、大きな減点対象にはならないでしょう。 沢尻エリカの演技は今回初めて見ましたが、存在感のある名演です。声もいいし、セリフも感情が入っています。騒動の責任を取って謹慎する噂がありますが、許してあげて欲しいです。結構好きなタイプの女優です。今後も沢尻が出演する映画は必ず見るでしょう。竹内結子も名演技で泣けます。「サイドカーと犬」の自由奔放なヨーコさんよりも、先生役のほうが似合っています。瀬川（指揮者）役の篠井英介が個性的に演じています。マンドリンで演奏する「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」も映画の雰囲気に合っています。 原作は東京を舞台にしているそうですが、ロケは主に京都で行われています。ロケ地の選定がすばらしい。どうやって選んだのでしょうか。行定監督のこだわりなのか、センスがすごくいい。イマヰ萬年筆は、寺町二条近くの村上開新堂で撮影されています。万年筆店ではなく、京都最古の洋菓子屋とのこと。その他には、南禅寺水路閣、河合橋、出町橋 、賀茂大橋、銀月アパートなどで撮影されています。香恵のアパートが特に気に入りましたが、どこにあるのでしょうか。ぜひロケ地巡りをしたいです。 YUIの主題歌「LOVE&TRUTH」もいい。エンドクレジットで流れますが、少しうるっときました。弦楽器のスケールがいいですね。歌詞も映画にマッチした内容です。 パンフレットは、「このパンフレットは映画ご鑑賞後、お読みください。」という帯がかけられています。リュウと隆が同一人物だと分かってしまうと面白くないからでしょう。写真がたくさん掲載されているのが特徴です。写真を見ているだけでも美しいです。沢尻エリカのインタニュー記事が掲載されていますが、舞台挨拶のときと違って、しっかり答えています。 映画を見た後に、『シナリオ』2007年11月号に掲載されたシナリオを読みました。香恵のアパートが「蔦の這うアパート」と書かれていますが実際の映画で蔦はなかったとか、香恵が出席していた授業は「教育原論」だったとか、映画の細かな設定がよく分かりました。 ＤＶＤが発売されたら買うかもしれません。それほどハマった映画でした。 |
|
2007年10月22日 |
|
|
| 河�鹹照�監督の中編映画を２本見ました。
垂乳女〜TARACHIME〜（2006年/日本・フランス） 影 -Shadow-（2004年/日本） |
|
2007年10月20日 |
|
|
| 映画「殯の森」（2007年/日本・フランス）を見ました。監督・脚本は、河�鹹照�。2007年カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しました。日本人では17年ぶり、女性としては初めての受賞です。 舞台は、奈良市東部の田原地区。市内とは思えないほど自然が豊かです。田園風景や茶畑など美しく撮影されています。自然風景を見るだけでも、この映画を見る価値はあるでしょう。登場人物は、グループホームで生活しているしげき（うだしげき）と新任介護福祉士の真千子（尾野真千子）。しげきは軽度の認知症という設定ですが、会話や行動は比較的しっかりしていて元気です。二人はしげきの亡き妻の真子が眠る森に出かけます。この地域では、伝統的な土葬が行なわれているとのこと。骨だけしか残らない火葬よりも、土葬のほうが埋葬方法としてふさわしいのではないかと思っていましたが、日本で土葬が行なわれている地域があったことに驚きました。真子の墓は森の奥深くにあります。森というよりは山と言ったほうがふさわしく、急斜面で歩くのはなかなか大変です。カメラも二人と一緒に歩いているように上下に揺れます。 人間関係が希薄な時代に、愛情がある映画と言えるでしょう。真千子の献身的な態度に癒されます。こういう人が近くにいて欲しいですね。エンドクレジットを見て心が温まりました。映画評には「生と死」に関連づけて論じられているので、重く感じてしまいますが、難しいことを考える必要はないでしょう。 うだしげきは、古本屋を営んでいて、今作が役者初挑戦。プロ顔負けの名演技です。尾野真千子は「萌の朱雀」（1997年）以来の河瀬作品出演です。豪雨のシーンの「行かんといてー」という絶叫など、熱演を見せます。 音楽は、「萌の朱雀」と同じく茂野雅道。ピアノ音楽が心に残ります。演奏は、田原の森にピアノを持ち込んで行われたようです。 |
|
2007年10月14日 |
|
|
| 映画「萌の朱雀」（1997年/日本）を見ました。監督・脚本は、河瀬直美。河瀬の長編劇映画の第一作でした。第50回カンヌ国際映画祭で、カメラドール（新人監督賞）を史上最年少（27歳）で受賞しました。 舞台は、奈良県吉野郡西吉野村（現：奈良県五條市西吉野町）。タイトルにある「朱雀」とは、平城京時代に西吉野を守った中国の四神の朱雀のこと。「萌」とは山林の萌色のことです。 登場人物は、祖母、父、母、娘、父の姉の息子という５人家族。雰囲気が暗く、食事でも会話が少ないです。直接的な家族愛は感じられません。国鉄時代に計画された鉄道路線である五新線のトンネル工事に携わった田原孝三（國村隼）は、未成線となったあとは、家でぼんやりレコードを聴いたりして過ごしています。ある日、孝三はカメラを片手に家を出ますが、夜になって警察から亡くなったという電話が入ります。孝三が亡くなった前後の場面は描かれていないので、なぜ亡くなったのかは分かりません。孝三の死後、妻の泰代（神村泰代）と娘のみちる（尾野真千子）は、実家に帰ります。ラストシーンは、幸子（和泉幸子）が縁側で歌を歌いながら目を閉じます。私には永眠したように感じましたが、眠っただけでしょうか。。過疎のさびしさがストーリーの根底に描かれています全体的にセリフが少なく、断片的に映像を次々につなげてストーリーが進行します。ストーリーについていくのがけっこう難しいです。 出演者は、國村隼以外は全員素人。尾野真千子は、当時吉野中学校三年生で、河瀬監督が彼女の真っ直ぐな目の輝きを見て出演が決まったとのことです。演技経験がまったくなかったとのことですが、自然体で演じています。栄介役の柴田浩太郎も好演。ただ、エキストラのセリフがやや不明瞭で聞き取りにくい部分があります。 ロケ地もいい。西吉野の自然をきれいに撮らえています。５人が暮らす家は山の中腹にあるので、縁側から見える山々の風景がすばらしい。朝ごはんを釜で炊くシーンも印象的です。家の周囲にある畑は、映画のスタッフが撮影前に耕したそうです。みちるが乗降するバス停は、映画では「恋路」という名前でしたが、実際は賀名生（あのう）バス停で撮影されています。当時はＪＲバスが通っていますが、現在は廃止されて奈良交通が運行しているようです。みちると栄介がバイクで通る吊り橋も美しい。機会があれば、ロケ地巡りをしたいですね。レコードから流れるピアノ音楽は、茂野雅道が作曲したようです。 独自の感性で作られているので、ストーリー展開についていけるか、入り込めるかどうかが評価の分かれ目でしょう。映画を見る目が養われる映画といえます。よさが分からない人は、パンフレットに川本三郎と俵万智が絶賛のコメントを寄せているので読まれるといいでしょう。もう一回見たいですね。 |
|
2007年9月30日 |
|
|
| 映画「魔笛（原題：The Magic Flute）」（2006年/イギリス）を見ました。モーツァルトが最後に完成させたオペラ「魔笛」を完全映画化したオペラ映画です。全22曲をそのまま映画化しているので、上映時間は2時間を超えます。監督・脚本は、ケネス・ブラナー。私はこのオペラを通してみたのは今回が初めてだったので、映画ファンの観点で感想を述べます。 モーツァルトの「魔笛」は古代エジプトを舞台にしていますが、この映画では第一次世界大戦に置き換えています。登場人物も演出にあわせて、タミーノは王子から兵士に、パパゲーノも鳥刺しから兵士に、３人の侍女は従軍看護婦に置き換えられています。また、パパゲーノが持つ銀の鈴は、チャイムに置き換えています。ケネス・ブラナーは、「第一次世界大戦の叙事詩的なスケール、ロマンスやアドベンチャーなどが魔笛の音楽的な世界とマッチする」と述べていますが、なぜこの時代を選んだのかはよく分かりません。しかし、序曲から塹壕戦の見事な映像に引き込まれます。爆撃が音楽にあっていてすばらしい。序曲だけでもこの映画を見る価値はあります。 原作の歌詞はドイツ語ですが、映画ではイギリスで製作されたこともあってか英語で歌われます。また、歌詞を部分的に改変させています。歌詞を一部変更していることもあって、全体的に無理な演出だとは思いませんでした。ただ、気になったのは、楽器を演奏するシーンがないこと。タミーノの魔法の笛は手に持って掲げると鳴りますし、パパゲーノのチャイムはふたを開けると自動的に鳴ります。また、共同墓地の墓碑に漢字で日本人の名前が書かれているのが驚きました。どういう意図でしょうか。 ＣＧも効果的に使用しています。実際に舞台とは違って、舞台転換を気にせず映像化できるのが、映画のメリットです。全体的に演出は成功したといえるでしょう。オペラ初心者でもじゅうぶん楽しめます。本格的で完成度が高いオペラ映画です。 演奏は、ジェイムズ・コンロンが指揮するヨーロッパ室内管弦楽団。そんなに大きな編成のオーケストラではないですが、表情豊かにダイナミックに演奏していて好感が持てます。 「魔笛」を何回を観ておられるオペラファンなら、比較していろいろ感じられることがあるでしょう。シカネーダーが書いた魔笛の台本は、ストーリーの途中で善悪の価値観が逆転するので驚きますが、彼やモーツァルトが入会していたフリーメイソンの秘儀とされる内容（聖数とされる「３」や試練）が含まれているというのが定説となっているようです。台本の謎解きも面白いですね。 |
|
2007年9月21日 |
|
|
| 映画「カート・コバーン アバウト・ア・サン（原題：KURT COBAIN About a Son）」（2006年/アメリカ）を見ました。原作は、マイケル・アゼラッド著『病んだ魂（原題：Come as you are：The Story Of NIRVANA）』（1993年）。 なぜこの映画に興味を持ったかというと、カートの名前が椎名林檎の「ギブス」の歌詞に登場するからです。「だってカートみたいだから あたしがコートニーじゃない」という部分です。カートは、伝説的バンド「ニルヴァーナ」でボーカルとギターを担当しましたが、1994年4月5日に27歳で自殺しました。コートニーとは、カートの妻だったコートニー・ラヴのことです。 原作『病んだ魂』は、マイケル・アゼラッドがカートの自宅のキッチンで行なった25時間にもおよぶインタビューをもとに執筆されています。この映画はそのインタビュー音声で構成されていて、ほぼ全編でカートの肉声を聞くことができます。資料的価値が高いでしょう。カートははっきりした口調でインタビューに答えています。カートが活躍した街、アバディーン、オリンピア、シアトルの順に構成されていて、当時の心境や思い出が語られます。 この映画の最大の問題点は、カートのインタビューが音声のみで、映像がまったくないこと。カートに関係がある場所（育った家、父親の職場の材木所、バイトしていたリゾート、初めて一人暮らしした家、シアトルの家など）が映りますが、字幕や説明がないので、パンフレットを見るまで、カートに関係があった場所だったとは気がつきませんでした。それ以外は、再現ＶＴＲのようで、ちょっと時間を持て余したような映像もあります。また、ニルヴァーナやカートの音楽も流れません。カートのインタビューが延々と続くので、退屈してしまって寝そうになりました。 カートのファンが見るべき映画と言えます。カートの人生を紹介する入門映画ではないので、予備知識なしでこの映画を見ると退屈するでしょう。 |
|
2007年9月10日 |
|
|
| 映画「ショートバス（原題：SHORTBUS）」（2006年/アメリカ）の試写会に行きました。ウォーカープラスのホームページから応募したところ、当選しました。当日は100人が招待されました。年齢層は幅広かったです。 9.11後のニューヨークが舞台です。ショートバスとは、「短いバス」という意味ではなく、愛にあふれる「サロン」のこと。ショートバスに男女が集まり、開放的に交わります。あまり健全ではないですね。日本にはこういう施設はないでしょう。R-18指定作品なので、性的描写がものすごい。セックスシーンがたくさんあります。全シーンのオーガズムが本物（本番プレイ）というのが話題を集めましたが、そういうシーンが多いのでどうでもいいように感じました。監督と脚本を務めたジョン・キャメロン・ミッチェルが、「見終わる頃にはセックスの事なんてまったく考えなくなってる」「セックスは人が持つ「繋がりたい」という欲求を他者に伝える隠喩的言語に過ぎません。」という文章をパンフレットに寄せていますが、私にはインパクトが強すぎました。同性愛も描かれていますが、私には知識も理解もないので厳しかったです。 主な登場人物が８人と多くて、ストーリーを複雑にしています。夫婦関係や同性愛についていろいろ考えさせたいようですが、セリフはちょっと哲学的で難しいです。撮影前に出演者がワークショップを行なって、恋愛についての告白やディスカッションを積んだこともあって、自身の経験を生かしたリアルな演技になっています。日本では絶対に製作できない映画でしょう。最後にジャスティン・ボンドが歌う「IN THE END」など、音楽はなかなかいいです。 |
|
2007年9月9日 |
|
|
| 映画「舞妓Haaaan!!!」（2007年/日本）を見ました。脚本は宮藤官九郎。オリジナルの脚本で、笑いの要素が満載です。ストーリーがかなりぶっとんでいますが、細かいことを抜きにして楽しめました。突然ミュージカルが始まったりするのでびっくりしました。ストーリーを書くとキリがないので、詳細はパンフレットについている「お座敷すごろく」を見てください。主人公がラーメン会社の社員という設定もおもしろいです。ちなみに、「あんさんのラーメン」は、日清食品が実際に商品化して発売したらしいです。小道具や大道具などの美術が驚くほど細かく作り込まれています。妄想に満ちたストーリーが本物っぽく思えてきます。 京都に住んでいますが、舞妓のことはそんなに詳しく知りません。「一見さんお断り」など分かりやすい説明があります。靴を見ただけで客の健康状態が分かる下足番は実際におられるようです。野球拳で舞妓が負けた場合はお酒を飲むのは初めて知りました。 キャストが個性が強く、それぞれはまり役と言えるでしょう。あまり演技っぽく感じません。鬼塚公彦役の阿部サダヲは映画初主演。超ハイテンションで演じています。宮藤官九郎曰く「感情移入できない主人公」とのこと。パンツ１枚のときがよくあります。個性的な髪型はカツラとのこと。内藤貴一郎役の堤真一は、どんな仕事にしても様になっています。 大沢富士子（駒富士）役の柴咲コウは、紫色の着物がよく似合います。斉藤老人役の植木等は、今作が遺作となりました。エンドクレジットのあとに感謝のメッセージが表示されます。 京都で多くロケしています。京都駅、東寺、平安神宮、祗園交差点、寺町京極など。京都市長室のロケでは、龍谷大学大宮学舎が使われています。夢川町は実在しません。宮川町を文字ったようです。 主題歌は「グループ魂に柴咲コウが」が歌う「お・ま・え ローテンションガール」。柴咲コウのキレ気味の声が笑えます。 |
|
2007年8月20日 |
|
|
| 映画「ピアノの森」（2007年/日本）を見ました。原作は、一色まことの漫画『ピアノの森』（1998年〜）。アニメーション映画です。 ピアニストになることを断念した音楽教師の阿字野壮介のピアノが森の中に捨てられます。そのピアノは主人公の一ノ瀬海しか音が出せません。その後、海は阿字野の勧めで、転校してきたピアニストを目指す雨宮修平とともにコンクールに出場するというストーリーです。 ライバル同志の友情や心理描写がきっちり描かれています。また、演奏技術や個性の表現などコンクールで演奏する難しさを伝えます。メッセージ性もあってしっかりしたストーリーです。幅広い年齢層に楽しめるでしょう。 アニメーションでは、森のピアノに月の光が差し込む情景がとてもきれいです。 吹き替えは、一ノ瀬海役を上戸彩が担当。男っぽい声にしています。過激なセリフが注目されていましたが、大騒ぎするほどではないですね。雨宮修平役の神木隆之介は、「インストール」（2004年）からずいぶん声変わりしていてびっくり。ただ、２人ともややぎこちなさが残ります。阿字野壮介役の宮迫博之（雨上がり決死隊）がとてもいい声。他にも、高田純次、ウド鈴木・天野ひろゆき（キャイ〜ン）、黒沢かずこ（森三中）が出演していますが気づきませんでした。ちなみに高田純次は、原作漫画のファンとのこと。 ピアノ演奏とミュージックアドバイザーをヴラディーミル・アシュケナージが務めています。透明感あるピアノ演奏を聴かせます。冒頭に海が演奏する音楽は、印象主義的な和音の使い方からしてドビュッシーの作品かと思いましたが、この映画のために篠原敬介が作曲したオリジナル曲「Forest of the Piano」でした。オーケストラ編曲版は、マリオ・クレメンス指揮のチェコ・フィルハーモニー管弦楽団が演奏しています。ちなみに、篠原敬介はアシュケナージの推薦で、この映画の音楽を担当したとのことです。 コンクールの課題曲は、モーツァルト作曲／ピアノ・ソナタ第8番K.310と、Ｊ．Ｓ．バッハ作曲／イタリア協奏曲という設定。雨宮修平と丸山誉子のピアノ演奏は、それぞれ中学３年生、高校１年生が担当しています。 主題歌「Moonshine〜月あかり〜」の歌とピアノは、女優の松下奈緒が演奏しています。東京音楽大学出身の彼女は、日本フィルハーモニー交響楽団と共演して話題を集めましたが、今回は歌手デビューとのこと。芸が広いですね。 |
|
2007年8月18日 |
|
|
| 映画「サイドカーに犬」（2007年/日本）を見ました。原作は長嶋有著『サイドカーに犬』（2001年）。第92回文學界新人賞を受賞した短編小説です。 ストーリーは、家出した母に替わって突如やってきた父の愛人のヨーコさんと、妹弟とのひと夏の出来事を描いています。20年前の出来事の回想で、前後に現在の姉弟が登場します。 ヨーコを演じる竹内結子は、「春の雪」（2005年）以来の映画出演です。ヨーコは、前作で演じた「綾倉聡子」とは正反対の自由奔放な女性ですが、演技力はさすがですね。容姿も長髪パーマで、タバコを吸ったり、それぞれの動作がけっこう笑えます。喫茶店で「何もいらない」なんてなかなか言えません。この間の結婚・出産・離婚騒動で吹っ切れた部分もあるようです。 現在の薫を演じるのはミムラ。ナレーションも務めています。指揮者の金聖響と結婚した彼女ですが、ちょっと老けましたね。 映画を見終わった後に原作を読みました。原作の文章が映画のセリフでそのまま使われています。文章のタッチからして、著者は女性だと思っていましたが、なんと男性とのこと。びっくりしました。 しかし、どうして「サイドカーに犬」というタイトルをつけたのでしょうか。映画ではサイドカーに犬を乗せたバイクの映像が登場するくらいです。原作には「（麦チョコは）ドッグフードを思わせた」「自分が犬のようだという想像」「家にいたときに犬だった私が今度は保護者のようだ。」「自分がサイドカーに乗ってみると、またしても自分が飼われているという想像が頭を埋め尽くした。」という表現が見られますが、サイドカーや犬がこの作品の重要なキーワードだとは思えませんでした。 |
|
2007年8月15日 |
|
|
| 映画「コマンダンテ（原題：Comandante）」（2003年/アメリカ・スペイン）を見ました。キューバ共和国の国家評議委員会議長を務めるフィデル・カストロの素顔に迫ったドキュメンタリー映画です。監督はアメリカ人のオリバー・ストーン。自らインタビュアーも務めています。ちなみに「コマンダンテ」とはスペイン語で「司令官」を意味する単語です。 2002年2月にストーンがカストロに対して行なった30時間以上におよぶインタビュー映像で構成されています。カストロは「いつでも撮影をやめることができる」ことを撮影の条件として提示したらしいですが、一度もストップはかからなかったとのことです。 カストロは軍服を着てストーンのインタビューに答えています。ピリピリしたムードはなく、予想した以上に自由な雰囲気でインタビューが行なわれています。またカストロも雄弁に語ります。ストーンの質問は、あまり整理されていなかったり、愚問と思われる質問があったりしますが、カストロは率直に答えています。カストロも立ったままインタビューに応じるなど、かなり丁寧な対応です。ストーンもカストロの横に座ったり、あまり緊張せずインタビューに臨んでいます。これだけ密着したインタビューができたとは驚きです。カメラもカストロにかなり接近して撮影しています。 カストロはキューバ革命やキューバ危機など自らの体験について語っています。ゴルバチョフやフルシチョフ、チェ・ゲバラ、ケネディ暗殺などについてコメントしています。インタビュー内容に関連する、キューバ革命などのモノクロ映像などが挿入されます。私より世代が上の人は、特に興味深く見られるでしょう。また、「タイタニック」をビデオで見たことも明かします。ちなみに、キューバ革命以降、髯はまったく剃っていないらしいです。女性関係の質問は「プライベートは公表しない」と拒否しますが、少しは語っています。ちなみに、通訳の女性とは30年来の付き合いらしいです。 車に乗って学校訪問に出かけますが、集まった民衆から「フィデル」コールが巻き起こります。国民から支持されていることが分かります。カストロを警備するボディーガードはあまりいません。 アメリカと仲が悪いこともあって、キューバやカストロに対していいイメージがありませんでしたが、カストロはあまり独裁者らしくないですね。かなり寛容な人物だと感じました。また、キューバが魅力的に思えてきました。日本とキューバは国交があるようなので、興味を持った方は訪れてみてはいかがでしょうか。ちなみに、外国からの留学生は学費が無料らしいです。 しかし、こんなにおもしろい映画がアメリカでは上映禁止になっているとのこと。「不快」で「批判的」というのが理由らしいですが、心が狭いですね。 カストロは2006年7月に緊急手術を行なって、現在も病気療養中とのこと。早く元気になって欲しいですね。 惜しむらくは、日本語字幕が見にくいこと。画面右上に白字で表示されますが、バックが白のことが多くて字が読めませんでした。 |
|
2007年8月14日 |
|
|
| 映画「ブリッジ（原題：THE BRIDGE）」（2006年/アメリカ）を見ました。日本でもR-15指定ですが、全米では上映禁止になっているとのこと。それだけタブーに挑戦した映画と言えるでしょう。 「ブリッジ」とは、サンフランシスコにある観光名所ゴールデン・ゲート・ブリッジ（全長：2,790メートル）のこと。1937年に建設され、片側３車線の車道と歩道がありますが、世界一の自殺スポットとのこと。建設以来1,300人以上が命を落としているとのことです。このドキュメンタリー映画は、橋の上から飛び降り自殺を図る衝撃的な映像と、自殺者の家族や親友、目撃者のインタビューで構成されています。ナレーションはありません。 ゴールデン・ゲート・ブリッジは海までは66メートルの距離があります。橋の下は大きな船が行き交います。観光客が多く訪れている昼間から自殺を図ろうとする人がいて驚きました。 自殺という重いテーマを真剣に取り上げています。世界に向けて強烈な問題提起を行なっています。自殺者やその家族は実名で登場し、プライベートな内容も多く含まれるにもかかわらず、多くを語ってくれます。自殺者の自殺前の様子や思い出を振り返ります。意外にも冷静に語っています。自殺未遂者のインタビューもあって、当時の心理状態が詳細に語られます。感想を書くのはなかなか難しい映画です。そういう状況に置かれたことがない人には難しく感じるかもしれません。ただ、日本の自殺率はアメリカの２倍で、年間３万人以上と言われています。他人事では済まされない問題です。 監督/プロデューサーを務めたエリック・スティールによると、ゴールデン・ゲート・ブリッジを固定カメラ４台で撮影していますが、撮影中に６人の命を救ったことがパンフレットにインタビューに掲載されています。ちなみに、サンフランシスコ市議会は、自殺防止柵を設置する検討を行なっているとのことです。 アレックス・ヘフスの音楽が、神妙な音楽で印象に残りました。パンフレットは珍しく新聞スタイルになっています。 |
|
2007年8月13日 |
|
|
| 映画「選挙」（2007年/日本・アメリカ）を見ました。今年見た映画の中でも上位に評価できる作品で、かなり楽しめました。 2005年10月に行なわれた川崎市議会議員補欠選挙（宮前選挙区）に立候補した自由民主党公認の新人、山内和彦の選挙戦を追ったドキュメンタリー映画です。監督はニューヨーク在住の想田和弘。この映画を「観察映画シリーズ」第１弾として製作していて、ナレーションや音楽、特殊効果は一切使われていません。 山内氏はもともと東京で切手コイン商を営んでいたいわゆる落下傘候補です。組織型選挙にまったくなじめず、右往左往しながら選挙戦を戦う様子が詳細に描かれています。普段見られない選挙の舞台裏が描かれているのがとてもおもしろい。よくここまでカメラが入れたと思うシーンが多いです。普通はなかなか手の内を見せてくれないでしょう。出陣式での神主による必勝祈願は初めて見ました。想田監督と山内和彦が東京大学時代のクラスメートということで、かなり密着した映像を収録できています。 選挙活動といっても、街頭演説や選挙カーに乗るだけではなく、運動会でラジオ体操をしたり、お祭りでおみこしを担いだり、体力的にハードな毎日です。疲れが貯まって、ケンタッキーのカーネル・サンダース人形に握手したりします。昼食はコンビニ弁当で、住んでいるアパートもかなり狭いです。妻のさゆりも選挙カーに乗ったり、電話をかけたり、ともに選挙戦を戦います。奥さんも大変ですね。 同選挙区にはすでに自民党の現職が３人います。普通の選挙ならライバルになりますが、今回は補欠選挙なので各後援会に今回限りで支援をお願いに回ります。事務所に集まっている人も現職議員の支援者で構成されています。山内は「先生」と呼ばれる後援会の関係者などから、選挙の方法論を叩き込まれます。握手の仕方や、街頭演説の仕方など、見ていて参考になる部分もあります。候補者本人以外の支援体制が強力で、これまで何度も選挙を戦っているようで実に慣れています。こうして考えると、世襲議員が強い理由が分かります。選挙はノウハウですね。現職の挨拶はとても堂々としていて、うまいなあと感じ入ってしまいました。 選挙は人間関係が大変なようで、妻のさゆりの鬱憤が爆発したり、選挙関係者の本音が炸裂したり、率直な感情が収録されています。関係者が見たら気分を害すると思われるような発言もあって、見ているほうがビクビクします。だいじょうぶなのでしょうか。カメラが入ったから取り繕ったというところがなく、ウソっぽくない自然さを評価したいです。 ちなみに、この選挙区では同時に３つの選挙が行なわれています。参議院議員神奈川県選挙区補欠選挙（候補者：川口順子）、川崎市長選挙（候補者：阿部孝夫）に比べると、市議会議員補欠選挙はかなり地味な存在です。小泉純一郎首相（当時）が応援に駆けつけたときも、山内は選挙カーに上がれません。 山内陣営は当選できると思って戦っていますが、開票速報で民主党候補と接戦になっていることが伝わり、事務所は静まり返ります。最後は1,000票差でギリギリで当選します。 映画で映し出される山内氏は、魅力的な人物には見えませんでした。演説も具体的な施策に欠け、「改革」を連呼しています。当選確実が決まったときも、自宅にいたりして常識外れの行動が見られます。ちょっと頼りないですね。 ちなみに、英語の字幕が表示されます。日本の象徴とされるものすごい通勤ラッシュ風景（東急田園都市線溝の口駅）も収録されています。海外で上映してもかなり高い評価が得られるでしょう。 |
|
2007年7月18日 |
|
|
| 映画「ロストロポーヴィチ 人生の祭典（原題：Elegy of Life. Rostropovich. Vishnevskaya.）」（2006年/ロシア）を見ました。 チェリストのロストロポーヴィチの80歳を記念して製作されたドキュメンタリー映画ですが、2007年4月27日にロストロポーヴィチは亡くなってしまいました。監督は、アレクサンドル・ソクーロフ。脚本とナレーション、インタビュアーも務めています。２部構成になっていますが、あまり大きな意味はないでしょう。 ロストロポーヴィチと、彼の妻で元ソプラノ歌手のヴィシネフスカヤの結婚50周年式典（2005年）の映像から始まります。エリツィン元大統領をはじめ諸外国から国賓が多数出席しています。ロストロポーヴィチ夫妻へのインタビューは、ロストロポーヴィチの自宅で行なわれています。豪邸といっていいほどの立派な建物でびっくりしました。インタビュアーのソクーロフはほとんど画面に映らないので、誰がインタビューしているのか分かりませんでした。ロストロポーヴィチは、師事したショスタコーヴィチとプロコフィエフについてもコメントしています。ヴィシネフスカヤのインタビューでは18歳のときに亡くなった息子について語られますが、ロストロポーヴィチとの間にできた子ではなく、前の夫との子のようです。 ロストロポーヴィチが小澤征爾が指揮するウィーン・フィル共演した、ペンデレツキ作曲「チェロと管弦楽のためのラルゴ」の初演のリハーサル映像も登場します。難曲ですが、ロストロポーヴィチは力強く演奏しています。ペンデレツキが客席で聴いています。ロストロポーヴィチはこの演奏会を最後に、チェロを演奏していないとのことです。このときのロストロポーヴィチの足取りはしっかりしています。ただ、小澤征爾が「ロストロポーヴィチの弟子」と紹介されているのは少し違和感がありました。ヴィシネフスカヤは自らのオペラ学校で生徒に歌唱レッスンをしている映像が流れます。その他、ショスタコーヴィチがロストロポーヴィチについて語っている映像や、ロストロポーヴィチのピアノ伴奏でヴィシネフスカヤが歌っている映像、ショスタコーヴィチの映画「カテリーナ・イズマイロヴァ」のシーンなど、資料的な価値が高い映像も含まれます。 ロストロポーヴィチにソ連の市民権を剥奪された過去があることなどナレーションで説明されますが、あまり詳しい説明ではないので、クラシック音楽に詳しくない人には少し分かりにくいかもしれません。私は結局ロストロポーヴィチの演奏を実演で聴くことはできませんでしたが、彼の人生についてより知りたくなりました。市民権剥奪だけではなく、これまでの活動記録や録音まで抹消されたことは初めて知りました。 パンフレットには、映画の採録シナリオや、最後の来日となった昨年12月に新日本フィルハーモニー管弦楽団演奏会前のインタビュー記事が掲載されていて、充実した内容です。 |
|
2007年7月15日 |
|
|
| 公開中の映画「監督・ばんざい！」（2007年/日本）を見ました。北野武監督の第13作です。北野武監督の映画を見るのは今回が初めてでした。「ウルトラ・バラエティ・ムービー」というコピーで、北野武も「くだらない映画」と語っているように、笑いを意識した映画になっています。同じ日に公開された松本人志監督の「大日本人」と比較されることが多かったようです。ストーリーの意外性でいうと、「大日本人」のほうが楽しめました。 ビートたけし演じるキタノ・タケシが、得意とするギャング映画以外にどんな映画を撮ろうか模索します。小津安二郎風人情劇「定年」、ラブ・ストーリー「追憶の扉」、昭和30年代物語「コールタールの力道山」、時代劇「青い鴉 忍PART2」、ホラー映画「能楽堂」、ＳＦスペクタクル「約束の日」と次々に挑戦しますが、いずれも途中で挫折します。ここまでは伊武雅刀のナレーションで進行します。 後半は、「約束の日」で登場した小惑星と顔が似ていたというサギ師（高円寺久美子（岸本加世子）・高円寺喜美子（鈴木杏））がメインでストーリーが進行します。東大泉大善（江守徹）の演説シーン、ゴキブリでダシをとった蝶天ラーメン、六平直政演じる空手教室のシーンがベタですが笑えました。 ラストシーンは、小惑星が地球に激突して、すべてがぶっ飛んで、「GLORY TO THE FILM MAKER!（監督・ばんざい！）」の文字が現れていきなり終わります。 ビートたけしは、ほとんどセリフがありません。主役がしゃべらなくても、ストーリーが進行するのがなかなかすごいです。ところどころで、ビートたけしと同じ服を着た「タケシ人形」が登場します。最初のシーンがタケシ人形がＣＴスキャナを通っているシーンからはじまったので、なぜ人形が出てくるのか意味が分かりませんでした。どうやらタケシ人形はビートたけしの身代わりで、人形が登場しているときは、北野武が撮影しているというふうに考えられるようです。タケシ人形が、役者としての「ビートたけし」と、映画監督としての「北野武」を使い分ける役割を果たしているようです。 俳優は、ちょい役にもかかわらず豪華キャストです。江守徹、松坂慶子、吉行和子、木村佳乃、内田有紀など。他の映画に出演してもらったほうがよかったのではないかと思うような顔ぶれです。 音楽は池辺晋一郎が担当しています。初めて北野監督の映画音楽を担当したようですが、こんなにちゃらけた映画にまじめな音楽が流れるのでびっくりします。 公式ガイドブック（1,000円）が書店などで市販されているのも特徴です。インタビュー記事のほか、アイテム図鑑も掲載されています。 また、「素晴らしき休日」（2007年/日本）が緊急同時上映されました。2007年カンヌ国際映画祭の60回記念企画「To Each His Own Cinema」で上映された短編映画です。この企画は、「劇場で映画を観ることの醍醐味や大切さ」を映像で表現するというもので、世界で活躍する35人の映画監督が短編映画を制作。北野武は日本人で唯一選ばれました。わずか３分の超短編映画です。この作品は、主演が「ビートたけし」ではなく「北野武」名義になっています。 |
|
2007年6月25日 |
|
|
| 映画「バベル（原題：BABEL）」（2006年/メキシコ）を見ました。2006年カンヌ国際映画祭最優秀監督賞、第79回アカデミー賞最優秀作曲賞を受賞しました。 脚本の構成力がすばらしい。モロッコ、メキシコ、東京で別々のストーリーが同時進行し、画面が頻繁に切り替わります。最初のうちはこの３つのストーリーにどういうつながりがあるのかさっぱり分かりませんでしたが、次第に関連性が明らかになってきます。セリフはそれぞれ現地の言語が使われているのも特徴です。 日本人男性ヤスジロー（役所広司）がモロッコ人のハッサン（アブデルカデール・バラ）に譲ったライフル銃で、モロッコ人兄弟のアフメッド（サイード・タルカーニ）とユセフ（ブブケ・アイト・エル・カイド）がバスを銃撃。そのバスに乗っていたアメリカ人のスーザン（ケイト・ブランシェット）に命中し、夫のリチャード（ブラッド・ピット）がバスを途中下車させ、緊急治療をします。一方、アメリカ人夫妻の子どものデビー（エル・ファニング）とマイク（ネイサン・ギャンブル）は、乳母のアメリア（アドリアナ・バラッサ）と甥のサンチャゴ（ガエル・ガルシア・ベルナル）に連れられてメキシコに行きますが、砂漠をさまようことになります。 「バベル」とは『旧約聖書』の『創世記』11章に登場する「バベルの塔」のことですが、映画のストーリーとはまったく関係ありません。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督は「この映画の比喩として理にかなっている」とコメントしていますが、ちょっと大げさなタイトルです。『創世記』に書かれている「遠い昔、言葉はひとつだった。」を意識してつけたのでしょう。３つのストーリーとも疎遠な人間関係や人間不信を描いています。モロッコ人の兄と妹、アメリカ人の夫と妻、アメリカ人夫妻とバスの乗客、乳母と甥、乳母とアメリカ人の子ども、日本人の父と子など。ただ、単なる不運な人々の話で片付けづけられないこともないと感じました。銃撃された女性も砂漠でさまよった子どもたちも結局無事でした。困難を乗り越えて、人間関係も修復されてハッピーエンドで終わります。それだけに日本編のラストシーンは意外でした。チエコが刑事ケンジ（二階堂智）に渡した手紙の内容は明かされないままで、翌日ヤスジローが麻布署での事情聴取もまったく不明なので、ちょっと消化不良の終わり方です。 俳優は迫真の演技を見せます。ケイト・ブランシェット演じるスーザンが銃撃された傷口を縫われるシーンは本当に痛そう。チエコを演じた菊地凛子は、日本人女優として49年ぶりにアカデミー賞助演女優賞にノミネートされて話題を集めました。耳が聞こえない、言葉が話せないという設定のなかでの熱演で、世界は正しい評価をしていますね。モロッコ人兄弟を演じたサイードとブビケは素人とのこと。 ロケ地の選定もいい。モロッコやアメリカの砂漠は、雄大な自然が撮影されています。東京は大都会という描かれ方で、新宿や渋谷センター街などで撮影されていますが、撮影許可が下りなかったのでゲリラ的に撮影したようです。ラストシーンの高層マンションからの夜景がとても印象に残りますが、どうやら東京都中央区にある「ザ クレストタワー」で撮影されたようです。 音楽は、グスターボ・サンタオラヤ。ギターに似た音色がするアラブの楽器「ウード」で演奏されています。郷愁に満ちた音色がこの映画にはぴったりです。 ちなみに、日本公開後にこの映画を見て体調不良を訴えた観客が出たとニュースで報道されました。問題のチエコのディスコシーンを実際に見たところ、フラッシュの光がかなり強烈。確かにかなり刺激が強い映像効果でした。きつかったので目を手で覆って見ました。時間もけっこう長いので、まともに見ないほうがいいでしょう。 |
|
2007年6月10日 |
|
|
| 松本人志第１回監督作品「大日本人」（2007年/日本）を見ました。第60回カンヌ国際映画祭・監督週間の招待作品に選定され話題集めました。公開直後に見たこともあり、満席でした。 構想に５年、撮影に８ヶ月、制作費10億円を投じましたが、製作発表記者会見ではストーリーなどの内容は一切明かされず、試写会もなし。徹底的に極秘に製作されてきました。パンフレットも「映画鑑賞後、見よ！」と書かれた封筒に入っていて、わざわざシールが貼られています。松本人志としては自信作のようで、第一印象を楽しんで欲しい意図が伝わりました。 どんな映画なのかまったく分からないまま見ましたが、テレビで流れていた予告編からはまったく予測不能な作品で、見事に裏切られました。ストーリーがぶっとびすぎているので、ついていけない部分もありました。これほどアイデアのスケールが大きい映画も珍しいでしょう。発想が実に大胆でユニークで、松本人志が掲げた「誰も見たことがない映画」という目標は達成されたと言えるでしょう。笑いの要素が満載で、部分的にかなり笑えました。 ストーリーがすべて理解できたわけではありませんが、概略するとこんな感じです。松本人志演じる大佐藤大（だいさとうまさる）が、ＴＶのインタビューを受ける設定で始まります。松本人志は長髪のカツラをかぶって、標準語でゆっくりした口調でインタビューに答えます。その後、防衛庁から指令を受けて、電変所に向かい、強力な電流によって巨大化し、大日本人に変身します。秋葉原、新宿、後楽園などを舞台に、「獣（じゅう）」を退治する様子がＣＧで描かれます。奇抜な発想に度肝を抜かれました。ただ、被害を受けていると思われる一般住民はほとんど登場しないので、現実感が乏しい。また、巨大化した大日本人が小さくなる過程も不明です。 さらにややこしいのが、大日本人が戦っているシーンがＴＶ番組になっていること。視聴率などの言葉がたまに出てきます。街行く人にＴＶ番組の感想を聞いた映像がありますが、実際にどんな番組なのかは分からないままです。大日本人が獣と戦う設定にリアリティはないですが、ＴＶの視聴率などと言われると現実的に思えてきて、現実感と非現実感が混在して整理がつかなくなってきます。 最後はＣＧが実写（着ぐるみ）に変わります。獣を倒した後、大日本人が他から来た家族４人のヒーロー（？）と空を飛びます。そしていきなり「おしまい」とクレジットされて終わります。エンドロールでは、大日本人とヒーロー４人の会話が続きます。宮迫博之が思いっきり関西弁でしゃべります。ずいぶん力が抜けたエンディングですが、「ヒーローの表と裏」を描きたかったようです。 登場する獣はどれも個性的です。「締ルノ獣（海原はるか）」「跳ルノ獣（竹内力）」「睨ムノ獣」「童ノ獣（神木隆之介）」「匂ウノ獣（板尾創路・原西孝幸）」などまさに珍獣です。北朝鮮の金正日と思われる獣も出てきます。また、大日本人の体にスポンサーの広告を載せるという設定もおもしろい。確認できたのは「カトキチ」「白い恋人」「毎日香」「カバヤ ジューC」。実際に広告料をもらったのでしょうか。 パンフレットに掲載された長谷川朝二氏の「撮影日誌」によれば、映画は順撮りで撮影されたようです。ＴＶのドキュメンタリー番組を見るように自然なスタイルで撮影されていますが、中部地区電変所で大日本人が電流を浴びて変身するシーンで、電流の威力を表現する映像効果がすごい。また、大佐藤大のセリフで「折り畳み傘」「増えるワカメ」「ビッグボーイ (レストラン)」に触れられるのもおもしろいです。挿入歌の「ふれあい」も心に残りました。 しかし、松本人志はどこまで本気でこの映画を作ったのでしょうか。どこからどこまでがギャグなのか境界線がよく分かりませんでした。 カンヌで上映されることを松本人志は直前まで知らなかったようです。カンヌで上映されたときは、途中で客席を立った客がいたようですが、無理もありません。外国人には理解できないのではないでしょうか。 ひとつ気になったことは、「大日本人」の読み方について。映画のタイトルは「だいにっぽんじん」と書かれていますが、映画中や番線で出演したＴＶでは松本人志は「だいにほんじん」と読んでいます。なぜでしょうか。 |
|
2007年6月7日 |
|
|
| 映画「オーケストラ・リハーサル（原題：PROVA D'ORCHESTRA）」（1979年/イタリア・西ドイツ）を見ました。フェデリコ・フェリーニ監督作品で、ニーノ・ロータが音楽を担当しています。ロータの急死によって、フェリーニとロータのコンビで製作された映画では最後の作品となりました。配給期限切れの最終上映とのことでした。 オーケストラの練習風景をＴＶが取材に来たという設定でストーリーが進行します。ＴＶカメラが撮影した映像が、そのまま映画の映像として使用されています。フェリーニがインタビュアーを務めているという設定ですが、声や姿は見えません。 古い礼拝堂にオーケストラメンバーが集まってきます。オーケストラはプロという設定で、年輩の奏者が多いです。指揮者が登場して演奏が始まりますが、演奏が気に入らないようですぐに演奏を止めてメンバーに罵声を浴びせます。メンバーも私語をしたり、ラジオ中継を聞いたり、あまり演奏に集中していません。休憩時間では、メンバーは酒やタバコを楽しみます。 楽器紹介を兼ねたインタビューでは、カメラに向かってメンバーが一方的に話します。指揮者は、指揮者の地位が失墜し、団員に不信感を持つようになったことを語ります。休憩後に、指揮者が礼拝堂に戻ると、オーケストラメンバーが「指揮者をやめさせろ」とシュプレヒコールを上げます。礼拝堂の壁面はメンバーが書いた落書きだらけです。また、指揮者の代役で、巨大なメトロノームが指揮台に運ばれてきます。そして、誰の仕業か分かりませんが、あさま山荘事件で使用されたような鉄球が直撃して、礼拝堂の壁が崩壊します。静まり返ったなかで、指揮者がメンバーに語りかけ、立ったままで練習が再開されます。しかし、指揮者がまたキレて、説教が続くなかで、画面が暗くなって終わります。実に滑稽な作品でした。 気になったことは、オーケストラメンバーの演奏マネがひどい。実際に弾いていない吹いていないことが一目で分かってしまいます。楽器の構え方からして明らかにおかしい。もう少しうまいマネをして欲しいです。かなり興ざめしました。また、上映館の問題なのか、しゃべってる姿と声がずれて聴こえました。口が早く、音が遅く聞こえるので、口パクのように見えました。 イタリアで制作されていることもあって、指揮者トスカニーニがたまに引き合いに出されるのがおもしろかったです。 |
|
2007年6月2日 |
|
|
| 映画「神童」（2007年/日本）を見ました。原作は、さそうあきらの漫画「神童」。連載終了から約９年を経ての映画化です。「日本初の本格クラシック映画」という触れ込みでしたが、期待はずれでした。 言葉を覚えるよりも前に楽譜を読むことができたという「神童」中学生の成瀬うた（成海璃子）と、音大を目指す浪人生の菊名和音（ワオ）（松山ケンイチ）が主役です。最初は２人が兄妹なのかと思いました。 菊名和音は入学試験でベートーヴェン作曲／ピアノ・ソナタ第23番「熱情」を熱演しますが、入学後はショパン作曲／練習曲第１１番「木枯らし」がまったく弾けません。指導教授に見放されて、ピアノ独奏から声楽伴奏に降格させられてしまいます。 成瀬うたは、指を守るため手袋をはめたり、体育の授業を見学したり、特別扱いを受けています。途中から、耳鳴りや難聴の症状が現われます。パンフレットの説明によると「メニエール病」という耳の病気らしいです。ラストシーンでは母が売ってしまった父の形見のピアノを探しに行きます。 ストーリーは上述の通りですが、なんとも表面的で、結局のところこの映画で何を伝えたいのか分かりません。いろいろなエピソードを盛り込みすぎでしょう。 リヒテンシュタインが公演当日（しかも開場後）に演奏をキャンセルするのは現実的にまずありえないでしょう。また、菊名和音が演奏中にホールに入ってきますが、演奏中のホールの出入りは禁止されています。クラシック音楽業界は、映画で描かれているよりも節度のある世界だと思います。 映画初主演の成海璃子は、まだ15歳ですが、なかなか堂々とした演技。松山ケンイチは「デスノート」の「Ｌ」とはまったく別人です。「Ｌ」のインパクトが強すぎたので、今回の役柄は物足りなく感じました。 ピアノ演奏は吹き替えで、成海璃子演奏をウィーン在住の12歳の和久井冬麦、松山ケンイチを清塚信也が担当しています。映画出演にあたって、成瀬璃子は２ヶ月、松山ケンイチは５ヶ月のピアノ特訓を受けたこともあって、ピアノ演奏がけっこうさまになっています。あまり違和感がありませんでした。また、相原こずえ役としてピアニストの三浦友理枝も出演しています。 主題歌は、ミトが作曲した「リプルソング」。成瀬うたの父、光一郎が作曲したという設定ですが、なかなかいい曲です。 |
|
2007年5月29日 |
|
|
| 蔡明亮（ツァイ・ミンリャン）監督作品「西瓜（原題：天邊一朶雲）」（2005年/台湾）を見ました。台湾で2005年興行収入１位を記録しました。ＡＶ女優（夜桜すもも）とＡＶ男優（リー・カンション 李康生）と、同じマンションに住む女性（チェン・シャンチー 陳湘��）の人間関係を描いています。ストーリーとしては、短編映画「歩道橋」の続きです。 R-18指定なので、肌の露出がとにかく激しい。ＡＶの撮影現場のシーンや自慰など性的描写がかなり刺激的です。「楽日」と同じく、この作品でもセリフがほとんどありません。表情で見せる映画です。ユーモアな表現が特徴で、半分に切ったスイカを女性器に見立てたり、リー・カンションが頭にスイカの皮を被ったり、マンションの浄水槽で入浴したり、調理前のカニと格闘したり、スイカで陣痛を表現したり。笑える表現もありましたが、個性的すぎてついていけない部分がありました。 ラストシーンは、死んだように動かない（パンフレットの説明では「気絶している」）夜桜すももとリー・カンションがしているところを見たチェン・シャンチーが反応します。 スイカが使われた理由は、ＴＶから流れる旱魃のニュースと対比させて、水分が豊富な果物というためでしょう。 映画のストーリーの間に、歌謡曲のＰＶのような映像が挿入されます。この映像が意味不明で、映画のストーリーとはまったく関係がありません。蒋介石像の前や男子トイレで歌って踊ったり、スイカ模様の傘を振り回したりで、映画本編とは完全に別世界です。パンフレットでは「ミュージカル」と説明されていますが、ミュージカル映像を省いて、その分上映時間を短くして欲しいです。 チェン・シャンチーとリー・カンションは「楽日」にも出演していましたが、同一人物とは思えません。「西瓜」のほうが年齢がずっと若く見えます。 |
|
2007年5月27日 |
|
|
| 映画「楽日（原題：不散）」（2003年/台湾）を見ました。蔡明亮（ツァイ・ミンリャン）監督作品で、2003年ヴェネツィア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞しました。映画館で配布されていたビラに、全編を通じてセリフがなんと２ヶ所しかないと書いてあったので興味を惹かれて見ました。 台北にある古い映画館「福和大戯院」が閉館する最後の一日を描いています。1000席程度の大きな劇場なのに、客席はガラガラです。スクリーンには、キン・フー（胡金銓）監督の「龍門客棧」（1967年/台湾）が上映されています。映画館受付係のチェン・シャンチー（陳湘��）が映画館の廊下やトイレなど、館内を見回ります。足が不自由ですが、カメラは彼女が歩く様子をゆっくり撮影しています。上映終了後はチケット売り場を片付けて、「臨時閉館」という貼り紙をして去ります。カメラはほとんど固定で、ワンショットが長い。映画館の各施設を撮影しているので、画面は暗いです。 ２ヶ所しかないセリフですが、１つ目は、「この映画館 幽霊が出る」「幽霊が出るんだ」「幽霊だぞ」「僕日本人なんだ（我是日本人）」「（日本語で）さよなら」と三田村恭伸がリー・カンション（李康生）に話しかけます。もうひとつは、過去に出演した映画「龍門客棧」を見たミャオ・ティエン（苗天）とシー・チェン（石雋）が、映画館の出口で同じ映画を見ていたことに気づくシーンで、簡単な会話が交わされます。ミャオ・ティエンはこの作品が遺作になったとのこと。映画館受付係のチェン・シャンチーと、映写技師であるリー・カンションの主役２人は、まったく会話を交わしません。エンドロールでは服部良一作曲の楽しそうな歌が流れますが、この映画のエンディングとしてはちょっと不似合いです。 上映終了後に、「楽日」に出演した三田村恭伸と映画評論家ミルクマン斉藤によるスペシャルゲストトークがありました。三田村は、蔡明亮のデビュー作品「青春群話（原題：青少年??）」（1992年/台湾）を見て衝撃を受け、台湾まで蔡明亮に会いに行ったとのこと。蔡明亮監督の作品について、「一般的に受け入れられるのは難しい」「台湾でも客の来ない映画」「イカれてる」とコメント。「楽日」は蔡明亮の作品のなかでも異色とのことです。 ゲストトーク終了後、蔡明亮監督の短編映画「歩道橋（原題：天橋不見了）」（2002年/台湾）が上映されました。約20分の映画ですが、蔡明亮は「映画は90分って誰が決めた」ということで、通常の入場料金を取ったらしいです。「「西瓜」につながるサイドストーリー」と紹介されましたが、ストーリーがまったく完結しないまま終わります。後で「西瓜」を見たのでストーリーがつながりましたが、「歩道橋」だけ見るとさっぱり意味不明でしょう。 |
|
2007年5月27日 |
|
|
| 映画「SMILE 人が人を愛する旅」（2007年/日本）を見ました。東京スカパラダイスオーケストラの2006年のヨーロッパツアーに密着したドキュメンタリー映画です。ツアーに同行した映画監督牧野耕一が、自らカメラを回しています。オフショットが満載で、メンバーにかなり密着した映像を撮影していて驚きました。ライヴ本番ではステージから撮影していますし、ライヴ前後の楽屋でのメンバーの会話、移動中のバスでの会話など、プライベートな映像が収録されています。また、牧野とメンバーとの１：１のインタビューも収録しています。半年で70回というハードなツアーだったようですが、メンバーは疲れた表情を見せることはありません。ところで、ツアーの移動手段はバスなんですね。知りませんでした。 牧野は一台のカメラであれこれ撮影しているので、画面展開が速くて忙しい。目が回りそうです。編集もつぎはぎが多くて、ちょっと見づらいです。また、画面の照明が全体的に暗いのも残念。 東京スカパラダイスオーケストラのライヴは、COUNTDOWN JAPAN 06/07-WEST-ではじめて参加しました。すごい盛り上がりでびっくりしましたが、この映画を見る限りでは、どの国でも同じように大盛り上がりです（どの国なのか分からないのが残念）。ステージと客席が近いので、観客がステージに上ってきて踊ったりもします。音楽に国境はないと言いますが、世界中で通用する演奏はすばらしいですね。 |
|
2007年4月30日 |
|
|
| 椎名林檎研究をご覧ください。 |
|
|
| 映画「不都合な真実（原題：An Inconvenient Truth）」（2006年/アメリカ）を見ました。2007年アカデミー賞のドキュメンタリー長編賞と歌曲賞を受賞しました。 元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏のスライド講演を収録したドキュメンタリー映画です。ゴアは地球温暖化の危機について原稿も持たずに熱心に説明しています。具体的な数値を挙げながら、ここ数年の地球環境がいかに異常であるかについて科学的に説明します。地球温暖化による氷河の後退やハリケーン「カトリーナ」の被害、新型ウィルスの感染など多くの事例を挙げて、人類はこれからも地球に住み続けることができるかという今まで考えたことがなかった鋭い問題提起をしています。ゴアは長年環境問題に取り組んできたので、とても説得力があります。ＣＯ２の排出量も世界的規模で見れば日本はそんなに高くないことが分かります。一番の環境後進国はアメリカのようです。 衝撃的な事実を次々に知るので、退屈することはありませんでした。たまにジョークを交えながらの講演なので、堅苦しい雰囲気もあまりしません。エンドクレジットの最中に、「ten things to do（私にできる10の事）」というメッセージが流れます。地球温暖化防止のために、自分でできることがいくつか見つけられるでしょう。人類は環境問題についてもっと意識を高める必要があることを痛感しました。 講演を聞いたスタッフが映画化を思い立ち、ゴアも快諾したとのこと。ゴアは世界各国で講演しているようですが、こうして講演が映画化されることによって、より多くの人に伝えられることが可能になりました。映画というメディアを効果的に利用しています。多くの人に勧めたい映画です。 |
|
2007年3月21日 |
|
|
| 映画「合唱ができるまで（原題：Les metamorphoses du choeur）」（2004年/フランス）を見ました。フランスのアマチュア合唱団「モーリス・ラヴェル音楽院合唱団」の総勢100名が、合唱指揮者のクレール・マルシャンの指導で、練習から演奏会本番を迎えるまでの過程を撮影したドキュメンタリー映画です。演奏曲は、マルカントワーヌ・シャルパンティエ作曲「真夜中のミサ曲」と、ミヒャエル・ハイドン作曲「メメント（主よ、御心に留めて下さい）」。 合唱団は子どもから老人まで幅広い構成ですが、マルシャンはエネルギッシュな指揮で見事に合唱団をまとめていきます。パート別に練習したり少しづつ段階を踏んで練習を進めます。最初は音名（ドレミ）で少しづつ歌って、歌詞をつけ、徐々にテンポを速くして、最後は発音を整えます。基礎練習はバリエーションに富んでいて、楽しみながら練習に取り組めるように工夫されています。歌いながら手や体を動かして、音楽の方向性を統一する指導法も興味深いです。高校の音楽の授業を思い出しました。 練習開始から本番までどれだけの日数があったのかはよく分かりません。練習が行なわれているのはほとんど夜のようです。アマチュアということもあってか、練習に必要以上にピリピリした雰囲気は感じられません。むしろリラックスした態度で練習に臨んでいる団員が多いようです。マルシャンをはじめとする合唱指導者も、下手でもあまり怒ったりはしません。歌った後に「いいですよ」という言葉が多く聞かれます。子どもたちの練習シーンでは、歌うときの姿勢や目線について注意が飛びます。子どもたちの練習では、最初は楽譜を持たせていないようで、マルシャンが実際に歌って子どもたちがマネすることで練習を進めます。マルシャンは合唱指揮者という肩書きですが、独唱者やオーケストラも指揮し、演奏会本番も指揮しています。 この映画の問題点は、演奏会本番の様子を途中までしか収録していないこと。演奏会の途中でエンドクレジットが表示されてしばらくするといきなり終わります。アマチュアにしてはなかなかのレベルの演奏だっただけに、本番の演奏をもっと見たかったです。また、限られた条件で撮影されたとはいえ、全体的に録音があまりよくないのも残念です。 |
|
2007年3月18日 |
|
|
| 映画「墨攻（原題：A BATTLE OF WITS）」（2006年/中国・日本・香港・韓国）を見ました。映画では中国語が使われています。原作は、森秀樹作の漫画『墨攻』。香港と台湾で漫画の翻訳が出版されていて、香港版を読んだジェイコブ・チャン監督が映画化を思い立ったとのことです。実話だと思って見ていましたが、なんとまったくのフィクションとのこと。梁城も革離も実在しません。 中国の戦国時代に活躍した諸子百家のひとつである墨家をテーマにした物語です。趙から侵攻を受けた小国の梁に、墨者である革離が訪れます。映画では「10万の敵にたった一人で挑む」というコピーが使われていましたが、実際には梁城の人と協力して趙軍を撃退します。裏切り者が出てきて複雑な展開になります。また、画面展開が早くて少しついていけない部分がありました。映画のエンディングは、「非攻兼愛」を説く墨子の思想は、戦国時代には生かされなかったという終わり方です。秦が中国を統一する頃には墨者は姿を消してしまいますが、ちょっとはかないですね。 莫大なスケールで撮影されていて、エキストラの多さにはびっくりします。実話でない映画に、エネルギーをこれだけ注入するなんてすごい。梁城への攻撃シーンも、トンネルを掘ったり熱気球に乗ったり多様な攻め方が見られて、視覚的に楽しめます。革離役のアンディ・ラウは、死んでいる逸悦を見つけたときも泣かなかったので冷徹な人間に思えましたが、墨者は泣いてはいけないとのこと。逸悦役の范冰冰がなかなかの美人。 原作の漫画『墨攻』のベースとなったのが、酒見賢一著の小説『墨攻』です。直木賞の候補作品にもなりました。映画を見た後に読みました。墨子について詳しく書かれていて、中国史についてあまり知らない人でも楽しんで読めるでしょう。 |
|
2007年3月11日 |
|
|
| 映画「となり町戦争」（2006年/日本）を見ました。原作は、三崎亜記著『となり町戦争』（2005年）。主人公の北原修路（江口洋介）が住む舞坂町と、となり町の森見町が戦争するという実に変わった物語です。現代日本において、自治体同士が戦争するという設定がユニークです。一方で、大規模な戦争シーンはほとんどありません。随分手を抜いて作られていると思って見ていましたが、後になってそれが狙いであることに気づきました。前半では戦争が行われている実感がないにもかかわらず戦死者は増えていくので違和感がありますが、後半で北原が森見町の分室から脱出するシーンで一気に戦争らしくなります。下水道を歩いて脱出するシーンや、主任と戦闘するシーンはスリル満点です。香西瑞希役の原田知世は、役所人間っぽさがうまく表現されています。 ロケは愛媛県で行なわれています。東温市や伊予桜井駅（ＪＲ予讃線）などとてもいい風景です。 映画を見た後に、原作を読みました。原作は、第17回小説すばる新人賞を受賞し、直木賞の候補にもなりました。文体からして著者は女性かと思っていましたが、男性とのこと。「僕」という一人称で書かれています。原作は映画よりもさらに戦争の実感がないように書かれていて、北原は終戦まで銃声を聞くことがありません。原作には、戦争についてより詳細に書かれています。「日本国内で停戦状態も含めて13箇所で戦争が行なわれている」「となり町と協力して戦争事業を遂行」「戦争業務はコンサルティング会社に外部委託している」「戦闘の場所と時間を町長の決済が必要で、最短でも10日かかる」「今回の戦争による町民の犠牲者が250人に上った」などと書かれていて現実離れしています。読み進めるうちに理解できなくなります。 映画も原作もなぜ戦争をするのかというところがよく分からないまま進んでいくのがすごいところです。第二次世界大戦が終わった今でも、世界中で内戦や紛争が続いていますが、日本人にとっては遠い場所で行なわれていることもあってあまり意識していません。この作品が伝えたかったことは、戦争に対する現実感や自覚がなければ戦争が起こっているとは感じない、存在が意識を決定するということでしょう。平和ボケした日本人に警鐘を鳴らす作品です。 ちなみに、原作と映画で異なる設定は以下の通りです。 |
|
2007年3月4日 |
|
|
| 公開中の映画「長い散歩」（2006年/日本）を見ました。奥田瑛二監督の第３作で、2006年モントリオール世界映画祭でグランプリをはじめ三冠を受賞しました。 元高校校長の安田松太郎（緒方拳）が、アパートの隣人の幼児虐待を解決しようとして、横山幸（杉浦花菜）を連れ出すというストーリー。家族崩壊がテーマになっていますが、そういう状況に遭遇したことがないので、あまりストーリーにのめりこめませんでした。「長い散歩」とは、当てのない旅という意味でしょう。全体的にセリフが少なく、視覚的に表現することが多い映画です。 ロケ地の選定がいい。美しい風景で、とても風情があります。愛知県と岐阜県で撮影されていますが、奥田瑛二の地元であるとのことです。 俳優では、主役の緒方拳もいいですが、幸役の杉浦花菜が好演。なんと2000年生まれ。撮影時は５歳で、本作が映画デビューというのも驚きです。横山真由美役の高岡早紀も母親失格の名演技ですが、ちょっと出番が少なくて残念。監督の奥田瑛二も刑事役で出演しています。 |
|
2007年2月13日 |
|
|
| 映画「デスノート the Last name」（2006年/日本）を今頃見ました。昨年11月3日に公開されてから、２ヶ月経ってもまだ上映されているなんてすごい。昨年6月17日に公開されて大ヒットを記録した「デスノート 前編」の後編です。前編を上回るすばらしい出来でした。こんなに緊張して映画を見たのは初めての経験でした。 夜神月（藤原竜也）が持っている「デスノート」とは別の、死神レムの「デスノート」を弥海砂（戸田恵理香）が拾うところからスタートします。また、夜神月とＬ（松山ケンイチ）は、「キラ対策室」でキラ探しを始めます。前編の最後で、南空ナオミ（瀬戸朝香）が本当に自殺したのかどうか（銃弾が頭に当たらずに床に落ちた）が疑問でしたが、後編ではまったく登場しません。ちょっと意外でした。 夜神月は、デスノートのルールにある「デスノートの所有権を放棄したら、デスノートにまつわる記憶を失う。」と「だが、デスノートの一部にでも触れれば、記憶はすべてよみがえる。」を利用して、さらに巧妙な展開を仕掛けます。ちなみに、この２つのルールは、前編のデスノートでは紹介されませんでした。後編で新たに追加されたようです。 死神レムに弥海砂の寿命を延長させて砂にさせてしまうなど、月の頭のよさにはびっくりします。最後は夜神月が死神リュークに見捨てられる意外な結末でびっくりしました。原作とはストーリーが異なるようですが、とても完成度の高いストーリーです。「第３のキラ」となるキャスター高田清美（片瀬那奈）も登場しますが、夜神月と弥海砂と同様、人を殺せる武器を持つと人格が変わってしまうことを実感します。もっとも「死神の目」を持つために、寿命の半分を代償にするなんて信じられませんが。 俳優はいずれも熱演で、ストーリーにリアリティを持たせています。なかでも夜神月役の藤原竜也がすばらしい演技。特に、一度デスノートを埋めて記憶を失う時期と、再びデスノートに触れて記憶を取り戻す時期で、人格が変わったような表情の切り替えがすばらしい。ラストシーンの銃撃戦での高笑いなど、怪演と言っていいでしょう。Ｌ役の松山ケンイチも、携帯電話の取り方やお菓子の食べ方から独特の演技を見せます。 撮影も、カメラアングルやズームインなど、緊迫感を高める工夫がされています。夜神月と弥海砂がデスノートに再び触れて記憶を取り戻す映像表現がすばらしい。ＣＧで作られた死神との演技も違和感がありませんが、撮影では等身大の人形が使われたようです。 １年後にリュークが東京タワーを飛び回る映像があります。エンドクレジットの最後で「Ｌ再起動 主演：松山ケンイチ」という映像が現われます。さらに続編が制作されるようです。Ｌの本名は、弥海砂が「死神の目」でＬを見たときと、Ｌがデスノートに自分の名前を書いたときに分かるチャンスがありましたが、今回も結局明かされませんでしたね。 ところで、２冊目のデスノートの表紙の文字はなんて読むのでしょうか。アルファベットには見えませんでしたが。 |
|
2007年1月15日 |
|
|
| サントリーアイマックスシアターで上映中の映画「ブルーオアシス�� ３Ｄ（原題：DEEP SEA 3D）」（2006年/アメリカ）を見ました。40分ほどの作品でしたが、そこそこ楽しめました。日本語吹替版での上映でした。 サントリーアイマックスシアターは、高さ20メートル×幅28メートルの巨大スクリーンで上映されます。３Ｄ映像作品なので、メガネをかけて見ます。３Ｄ映像の効果で立体的に浮き上がって見えるのでとても臨場感があって、映像が手でつかめるような身近な距離に感じました。 主にアメリカの海で撮影されているようですが、魚の表情がうまくとらえられています。人間やマイク、カメラなどの存在をまったく感じさせません。どうやって撮影しているのでしょうか。魚の動きなどの効果音が大きめに聴こえて、録音も優秀です。 食物連鎖によって海の中の生態系がうまく維持されていることが随所で紹介されます。サンゴの一斉産卵や、タコがカニを食べる映像など、珍しい映像もありました。また、オニヒトデを食べる貝（トリトントランペットスネール）がいることを初めて知りました。日本で大量発生しているオニヒトデの駆除に役立たないものでしょうか。 |
|
2007年1月10日 |
|
|
| 公開中の映画「大奥」（2006年/日本）を見ました。ストーリーは、徳川７代将軍徳川家継時代の1714年に起きた大奥史上最大のスキャンダル「絵島生島事件」をベースにしています。２時間程度の映画ですが、ストーリーが簡単すぎて見ごたえがないのが残念。もうひとひねり欲しいです。脚本の浅野妙子が「構造は「ローマの休日」に似ている」と述べているように、江戸時代は歌舞伎役者と大奥総取締という身分の差が厳しいかったことを実感させます。ちなみに、映画では生島新五郎は死罪となっていましたが、史実では三宅島へ流罪だったようです。 キャストは、テレビドラマ「大奥」シリーズに出演した俳優が多数出演しています。なかでも天英院役の高島礼子が存在感ある演技を見せます。 セットですが、東映太秦映画村で昨年11月に公開されていた芝居小屋「山村座」のセットが重要なシーンで使われていました。見に行ったときには撮影は行なわれてませんでしたが、実際に歌舞伎役者と観客を入れて撮影された映像を見ると、雰囲気がまったく違って見えました。江戸の街並などは滋賀県高島市の琵琶湖畔に１億円をかけてオープンセットを作ったとのこと。よくできています。 |
|
2007年1月7日 |
|
|
| 公開中の映画「敬愛なるベートーヴェン（原題：Copying Beethoven）」（2006年/イギリス・ハンガリー）を見ました。ベートーヴェンの交響曲第９番「合唱」のスコアを写譜するために訪れたアンナ・ホルツと、ベートーヴェンの恋愛ストーリーです。クラシック音楽に詳しくない方でも十分楽しめます。 まず、気になるのが、アンナ・ホルツは実在する人物なのかということですが、架空の設定でそのような女性の存在は確認されていないようです。しかし、映画監督を務めたアニエスカ・ホランドによると、フランス人の女性作曲家ルイーズ・ファランク（1804-1875）がモデルになっているようです。なお、アンナ・ホルツが作曲してベートーヴェンが演奏するピアノ曲は、この映画のために映画音楽作曲家が作曲したとのことです。 その他のシーンも、どこまで実話なのか気になりますが、私が気づいただけでも以下の４点は史実と異なります。もっとも、映画のストーリーとしてはしっかり完成されているので、あまり気にすることはないでしょう。 ベートーヴェンの聴力ですが、「第九」初演時にはまったく耳が聴こえなかったというのが定説のようですが、映画ではアンナ・ホルツとあまり支障なく会話しています。その一方で、「第九」の初演では演奏が聴こえなかったりするので、ベートーヴェンの聴力をこの映画ではどのように捉えているのか少し不明確と言えるでしょう。 |
|
2006年12月30日 |
|
|
| 映画「ＴＡＮＮＫＡ 短歌」（2006年/日本）を見ました。原作は俵万智著『トリアングル』。歌人俵万智の初めての長編小説です。映画監督は初監督の阿木燿子。 主人公の薫里と、ヴァイオリン奏者の圭、フリーカメラマンのＭの三角関係を中心にストーリーが展開します。各シーンの途中で薫里が詠む短歌が、薫里役の黒谷友香のナレーションで朗読されます。画面に出る短歌が達筆すぎて字が読めないのと、ナレーションによって映画のストーリーの流れがブチブチと切れてしまうのが残念。映画を見たあとに原作を読みましたが、むしろ映画に出てこない短歌のほうがいいと思いました。「イオカードに刻印された駅名が確かにあった昨日を告げる」と「言葉ではなくて事実をかさねゆくずるさを君と分かちあう春」が好きです。ちなみに、短歌は必ずしも「五・七・五・七・七」の３１音で作られているとは限りません。 原作で描かれている人物像と映画のキャストは、うまく一致しています。映画初主演の黒谷友香はセリフが棒読みで、滑舌もいまひとつ。圭役の黄川田将也が好演。年下の彼役にぴったりです。 原作は俵万智が書いた長編小説ということで、どんな小説なのか興味を持って読みましたが、文章表現を含めてあまりおもしろくありませんでした。文庫本で300ページ程度の分量が長く感じました。文字数の短い短歌で勝負しているせいか、小説は冗長に感じました。原作でも、映画と同じように途中で短歌が出てきます。ただ、映画と違って、原作のほうが小説と短歌の一体感があります。文字表現と映像表現の違いでしょうか。 原作と映画ではいくつか設定が違います。大きく異なるのはラストシーンで、映画では薫里が誰かの子を妊娠したように終わりますが、原作には「いつかやっぱり、この人（＝Ｍ）の子どもを生んでみたい」と書いてあるだけです。また、原作では薫里の前の彼氏の「アイツ」が登場しますが、映画では登場しません。逆に、映画で薫里が踊るベリーダンスは原作には出てきません。また、圭は原作ではバンド（ギター）をやっているという設定ですが、映画ではヴァイオリン奏者です。映画では、セレブっぽい雰囲気を出したかったように感じました。 |
|
2006年12月25日 |
|
|
| 映画「地下鉄（メトロ）に乗って」（2006年/日本）を見ました。原作は、浅田次郎の自伝的小説『地下鉄（メトロ）に乗って』（1995年）。 東京地下鉄の永田町駅の階段を上ると、昭和39年の新中野駅にタイムスリップした設定で始まります。その後も地下鉄がタイムマシーンのように、現在と過去を行き来します。ありえない設定ですが、セットがよくできているのと出演者の熱演で、あまりウソっぽく感じません。さすがに、戦時中の満州にタイムスリップするのは、ちょっと違和感がありましたが。撮影は実際に地下鉄を走らせて行なわれています。プラットホームの撮影が行なわれたのは、東京地下鉄東西線の竹橋駅とのこと。 この映画の一番のポイントは、時間軸や登場人物の人間関係や生い立ちが複雑で、ストーリーが理解しにくいこと。はっきり言って、ついていけませんでした。常盤貴子（お時）と吉行和子（長谷部民枝）は別人だということが理解できないとつらいでしょう。人間関係を整理しておくと、主人公の長谷部真次（堤真一）の父が、小沼佐吉（大沢たかお）、母が長谷部民枝（吉行和子）。真次が小沼姓でないのは、父と絶縁したから。真次と同じ職場で働く軽部みち子（岡本綾）は、真次と不倫関係で、佐吉とお時（常盤貴子）の間に生まれた子です。なかなか頭を使う映画です。 ラストで岡本綾が常盤貴子と階段から転がり落ちて消えます。このシーンで過去によって現在が変わる劇的な変化を経験します。ドラえもんでよく出てきますが、ファンタジーとしてはおもしろい展開です。 タイムスリップするシーンは、地下鉄の運転席の車窓が早送りで映し出されます。何回も出てくるので少し飽きましたが、原作ではタイムスリップをどういう文章で表現しているのか気になりました。 |
|
2006年12月13日 |
|
|
東映太秦映画村に行きました。京都に住んでいながら一度も行ったことがなかったのですが、12月公開の映画「大奥」が撮影されているということで行ってきました。 
事前の告知では「東映京都撮影所スタジオ特別公開」が行なわれる予定でしたが、撮影の都合で中止になりました。ちょっと残念。この日は撮影は行なっていませんでしたが、全国各地から多くの人が来場していました。写真撮影は自由はなので、いろいろ撮ってきました。行なわれていたイベントを紹介しましょう。 ＜大江戸大道芸「南京玉すだれ」＞ ＜ちゃんばら辻指南＞ ＜おいらん道中＞ ＜映画のヒ・ミ・ツ うそ・ほんとう＞ ＜ガラス張りスタジオＡ・Ｂ＞ ＜大奥の館＞ ＜大奥「山村座」セット公開＞ ＜憑神「別所家」セット公開＞ ＜映画村の学習館 寺子屋＞時代劇に出てくる小道具の説明。テレビに出てくる千両箱は偽物で、本物っぽく見せるのはカメラと照明の技術によるとのこと。また、撮影で使われる刀は卵白に銀紙を貼っているとのこと。映画のロケでは特別手当がつくことがある。ただし安い（水濡れ手当：300円、危険手当500円）。その他に、火打ち石の実演とかつらの説明がありました。 ＜東映城大手門＞ ＜忍び櫓＞ ＜日本橋＞ ＜映画文化館＞ 出演者は笑わせるのがうまくて、おもしろかったです。最後には自分が出ているテレビの紹介をしてましたが、脇役であってもテレビで活躍することはすばらしいことです。 帰り際には、「遠山の金さん」の撮影準備をしていました。夜に撮影するそうです。松平健主演で、第１話に登場するシーンとのこと。 |
|
2006年11月12日 |
|
|
| 公開中の映画「太陽（原題：The Sun）」（2005年/ロシア・イタリア・フランス・スイス）を見ました。ロシアのアレクサンドル・ソクーロフの監督作品で、昭和天皇裕仁を描いた映画です。第55回ベルリン国際映画祭に出品されて話題を呼びました。日本での公開は不可能と考えられていたので、まさかこんなにも早い時期に公開されるとは思いませんでした。靖国神社参拝に関する昭和天皇の意見を書き記したとされる「富田メモ」が発見された時期に、よく公開できたものです。 ストーリーは終戦前後の昭和天皇に焦点を絞っていて、それ以外の登場人物は脇役に等しい扱いです。画面が常に暗く、ゆっくりした動作をずっと映したシーンもありますが、まったく退屈しませんでした。ロシア映画ですが、セリフは日本語と英語なのでびっくりしました。皇居地下の退避壕と隣接した研究室、それにマッカーサー司令官との会談を行なったアメリカ大使館が舞台です。ちなみに、「太陽」という言葉は、「闇に包まれた国民の前に、太陽はやって来るだろうから。」という昭和天皇のセリフの中に出てきます。この映画はどこまで史実に沿っているのかということが関心の対象となりますが、私にはよく分かりません。ただ言えることは、終戦の日（＝1945年8月15日）がいつなのかはっきりと描かれていないということです。あえて時間軸をあいまいにしています。 昭和天皇の描かれ方ですが、「朕深ク世界ノ大勢ト帝國ノ現状トニ鑑ミ〜」で始まる玉音放送から受けるイメージからすると、ずいぶん弱々しく感じられました。自分は神ではなく人間と同じ体であるというセリフがありますし、大東亜戦争が始まった原因について口述筆記させて戦争を後悔するような表情を見せます。また、口パクで独り言を言ったり、「あっそう」（「あっそ」に聞こえる）という力のない返事をします。付き人も多くありません。マッカーサーとの会談では、英語を話しています。また、海洋水棲生物学の研究をするシーンでは、専門的な用語を話すなど違った表情を見せます。エンドクレジットでは、雲の隙間から太陽の光が差し込む映像とともに、玉音放送と思われる人声がエコーをともなって遠くから聞こえてきます。 出演者では、昭和天皇を演じるイッセー尾形の演技がすごい。まさに昭和天皇になりきっています。彼の演技力がなければ、この映画は成立しなかったでしょう。日本からは、香淳皇后役で桃井かおり、侍従長役で佐野史郎などが出演しています。マッカーサー役のロバート・ドーソンは、写真とあまり似ていないので、パンフレットを見るまでマッカーサーだと気づきませんでした。 音楽は、Ｊ．Ｓ．バッハ作曲「無伴奏チェロ組曲第５番」。ロストロポーヴィチの演奏ですが、ステレオではなくあえてモノラルで聴かせているのが実に効果的。バッハがこれほど不気味に聴こえるとは驚きです。 こんな映画を見れるなんて日本は平和な国だと思いました。米軍の写真撮影に応じてポーズを取るシーンでは「チャップリン」と呼ばわれするので、数十年前なら暴動が起こっていたでしょう。アレクサンドル・ソクーロフ監督は、この映画を権力者４部作の３作目として制作しています。第１作「モレク神」（1999年）ではヒトラーを、第２作「牡牛座」（2001年）ではレーニンを取り上げていて、４作目は「ファウスト」とのこと。これらの映画もぜひ見たいです。 パンフレットにシナリオ採録が掲載されていて、とても参考になります。田原総一朗氏のインタビュー記事もおもしろく読めます。 |
|
2006年10月22日 |
|
|
| 公開中の映画「旅の贈りもの 0：00発」（2006年/日本）を見ました。ひさしぶりにいい映画を見ました。 偶数月の第３金曜日の深夜０時に、夜行列車がＪＲ大阪駅を出発します（架空の設定）。行き先は不明ですが、いろいろな思いを持った人が乗車します。翌朝に終点「風町駅」で降りた人々が、帰るまでの数日間、この町で過ごします。 由香（櫻井淳子）、華子（多岐川華子）、ミチル（黒坂真美）、若林（大平シロー）、網干（細川俊之）の５人の旅人のキャラクターがはっきりしているのがいい。人生模様が鮮やかに描かれています。それぞれがはまり役です。電車に乗った動機もしっかり描かれていて、ストーリーが全然ウソっぽくない。真鍋島（岡山県）、大崎下島（広島県）、島根県江津市などで撮影されていて、昔ながらの美しい田舎の街並みが撮られています。��永英明が歌う「時代」や、エンドクレジットで流れる中森明菜の「いい日旅立ち」のＢＧＭも、この映画の雰囲気にふさわしい。 鉄道旅行ファンの観点でこの映画を見ると、いくつか指摘したいことがあります。まず、夜行列車がどの路線を通ったかですが、パンフレットにも書かれているように、ＪＲ伯備線を通っています。サンライズ出雲と同じルートですね。途中で停車する「玉造温泉駅」は実在する駅で、今年の夏にＪＲ山陰本線完乗の旅で通りました。 終点の「風町駅」はもちろん架空の駅で、ロケが行なわれたのはＪＲ山陰本線の飯浦（いいのうら）駅（島根県）。秘境駅として知られていて、なかなかいい雰囲気です。ちなみに、この駅は非電化なので、電気機関車でこの駅に乗り入れることは不可能です。また、帰りの電車で車掌が登場しますが、この区間はワンマン運転なので通常は車掌は乗っていません。 減点の対象になる要素がまったくなく、とてもすがすがしい気持ちになりました。見るとほっとする映画です。また旅に出たくなりました。 |
|
2006年10月16日 |
|
|
| 公開中の映画「ゲド戦記」（2006年/日本）を観ました。宮崎駿監督の長男の宮崎吾朗の監督第一作です。原作はル＝グウィン著の『ゲド戦記』（1968年〜2001年）。全６巻のなかから第３巻『さいはての島へ』（1972年）を中心に描いています。 長編小説を抜粋して映画化したために、ストーリーがやや分かりにくいのが難点。原作を読んでおけば、物語の全体像を把握できるのかもしれませんが、この映画では第３巻に至る前後関係は説明されていません。予備知識がないと、いくつかの疑問点を持つことになるでしょう。 たとえば、�〆能蕕暴个討�る共食いする２匹の竜と最後に出てくる竜は何の意味があるのか、�▲▲譽鵑呂覆蕊秧討旅餡Δ鮖Τ欧靴燭里�、��２つある名前のうちどうして本当の名前を教えてはダメなのか、など。ちなみに、答は、�＼こΔ龍儿佞�崩れつつあることを表す事例のひとつ、��原作にない設定なので詳細な動機は不明、��「真（まこと）の名前」を知れば従わせることができるから、とのこと（主にインターネットで収集した情報による）。広告媒体で使われていた「見えぬものこそ。」というコピーも、あまり映画の内容と関係がないように思いました。 映画の主題としては、「限りある命を大切に生きる」というシンプルなものです。テルーがアレンに語りかけるセリフの中に出てきます。 作画は、宮崎駿作品を比べると、タッチが簡単で、多くの線を書き込んだ感じがしません。それほど緻密な絵ではないので、少しちゃっちく見えたりもします。 声優陣はしっかりしていて、特にクモ役の田中裕子がすごい（ちなみに、クモは男性です）。テルー役の手嶌葵（てしまあおい）は新人ですが、堂々としていてまったく新人らしさを感じません。挿入歌の「テルーの唄」も名曲です。 |
|
2006年10月12日 |
|
|
| 公開中の映画「日本沈没」(2006年/日本)を見ました。原作は小松左京著『日本沈没』（1973年）。すでに1973年に映画化されていて、今回はリメイク。 ストーリーは、地下のバクテリアの活動によって、太平洋プレートの沈降が活発化。わずか１年で日本列島が沈没することが判明し、地震や噴火、津波が多発するという内容。原作を読んでいませんが、今回の映画化では、ラストシーンを大きく変更しているとのこと。パンフレットの解説文に、原作、映画（1973年）、テレビドラマ（1974年）、映画（2006年）の比較が掲載されていて、興味深いです。全体的にストーリーはちょっとありきたり。オープニングはすごくいい感じでかっこよく始まりましたが、ラストは「アルマゲドン」(1998年/アメリカ)にそっくりで、非現実的すぎる設定にがっかり。太平洋プレートを切断する爆発を起こせば、日本に大津波がやってくるように思うのですが。 大きな地震が多い昨今、日本が沈没するという設定も現実味を帯びてきましたが、映像を見ていても不思議にもリアリティを感じませんでした。その原因を考えましたが、災害から逃げる人々の行動が冷静なことが挙げられるでしょう。きちんと整列して歩いていますが、実際に起こればもっとパニックになるでしょう。もっとも本当にパニックになっては困るという教育的配慮があったのかもしれません。その点では「ゴジラ」のほうが真実らしく見えました。 出演者では、阿部玲子役の柴咲コウが熱演。表情豊かに演じていて引き込まれます。ハイパーレスキュー隊員のオレンジ色のユニフォームもお似合い。深海潜水艇パイロット小野寺俊夫を演じる草��剛は、声も表情も軽い。危機に立ち向かう役にしては弱すぎ。柴咲コウが彼のどこを好きになったのかも不明。山本尚之総理大臣役の石坂浩二も威厳がなくて頼りない。野崎亨介内閣官房長官役の國村隼が好演で、理想的な悪役ぶりです。 特撮はよくできています。セットやＣＧを多用して、どうやって撮影したのか分からないほどです。ただ、衝撃はあまりありません。実際の津波や洪水や地震の映像に見慣れているからでしょうか。 ちなみに、日本列島が１年で沈没することは科学的にはありえないとのこと。実際に危機に陥ったときに、国民はどう行動するのか考えさせられました。 |
|
2006年9月17日 |
|
|
| 映画「死者の書」（2005年/日本）を見ました。人形アニメーション作家の川本喜八郎が監督と脚本を担当。発案以来30年の構想を経て制作したとのことです。川本喜八郎は、かつて放送されたＮＨＫ「人形劇 三国志」で人形美術を担当していました。 「人形アニメーション映画」の名の通り、人形を少しづつ動かして１コマ１コマ撮影しています。ものすごい手間がかかる気が遠くなるような作業をやりとげたエネルギーがまずすごい。この人形がどれも精巧に作られていて、服のしわや目線などが実にリアル。動きが機械的でなく、人形が意思を持って自然に動いているかのようで、人形であることを忘れる瞬間がありました。 原作は、折口信夫著『死者の書』（1947年）。映画では、まずこの物語の歴史的背景や舞台となる二上山について寺田農のナレーションで説明されます。ちょっと長いですが、導入としては成功しています。本編のストーリーは、謀反の疑いで殺された大津皇子が、斬首される直前に見た耳面刀自（みみものとじ）と勘違いして、藤原南家郎女の前に現れるという内容。仏教に関する内容も含まれていて格調が高く、一般受けするストーリーではありません。ラストシーンはちょっと意味不明でした。川本喜八郎によるシナリオ（脚本）の全文が、パンフレットに掲載されています。 声の出演も豪華キャストで、何と言っても「當麻の語部の媼」役の黒柳徹子の裏声がすごい。まさに一聴の価値あり。主役の「藤原南家郎女」役の宮沢りえも、いつもと違う声質です。 映画を見てから原作（中公文庫）を読みました。旧仮名遣いで書かれているので、大変読みにくい。また、映画と違って原作は時系列に沿って書かれていないので、相当の読解力が必要です。映画を見てから読まれたほうがいいでしょう。 |
|
2006年8月6日 |
|
|
| 公開中の映画「バルトの楽園（がくえん）」(2006年/日本)を見ました。第一次世界大戦の青島攻防戦で日本との戦いに敗れたドイツ兵捕虜が、徳島県鳴門市の板東俘虜収容所に収容されます。収容所所長の松江豊寿（松平健）は、捕虜を泳ぎに行かせるなど自由な扱いを認め、捕虜は実にいきいきとした収容生活を送ります。周辺の住民も「ドイツさん」と呼んで親しみを込めて接します。敗戦後、これまでのお礼にハインリッヒ総督（ブルーノ・ガンツ）のアイデアで、ベートーヴェンの交響曲第９番を捕虜たちが演奏します。 途中で、松江豊寿の幼少期の記憶が回想されます。明治維新後の戊辰戦争で会津藩士として戦ったようです。ちなみに、「バルト」とはドイツ語で「ヒゲ」の意味。もちろん松平健演じる松江豊寿所長のことを指します。 「歴史的事実」にもとづいたストーリーとのことですが、第一次世界大戦の捕虜が日本に連行された事実を知りませんでした。また、捕虜が異国の地であまりにもいきいきとしすぎているのに違和感を覚えました。イラク戦争の捕虜たちは、このような扱いは受けていないでしょう。 「第九」の演奏ですが、映画では、捕虜に女性がいないので独唱と合唱は全員が男声、ファゴットがなかったのでオルガンで代用して演奏しています。パンフレットに掲載された情報によると、実際には「お別れコンサート」が「第九」の日本初演ではなく、１年前に「第九」は演奏されたようです（1918年6月1日）。日本の「第九」の歴史が、ここから始まったというのは感慨深い。ちなみに、混声合唱による日本初演は、1924年11月24日に東京音楽学校のメンバーにより奏楽堂で行なわれています。 エンディングでは、カラヤンがベルリンフィルを指揮して第九を演奏する映像が流れます。 キャスティングで注目は、クルト・ハインリッヒ役を演じるブルーノ・ガンツ。「ヒトラー 〜最期の12日間〜」（2004年/ドイツ）でアドルフ・ヒトラーを演じたとは思えないほど、まるで別人。松平健もドイツ語のセリフで健闘しています。久留米俘虜収容所所長役の板東英二の滑舌の悪さに笑いました。また、泉谷しげる、市原悦子、平田満も出番は少ないですが、印象に残る演技でした。 |
|
2006年7月9日 |
|
|
| 公開中の映画「初恋」（2006年/日本）を見ました。中原みすず著の『初恋』が原作で、1968年（昭和43年）12月10日に東京都府中市の府中刑務所北側路上で発生した三億円事件の犯人が女子高生だったという今までにない設定で書かれています。映画のパンフレットに、三億円事件の第一報を伝える事件当日の朝日新聞の夕刊１面のコピーがはさみこまれていました。 実在したという新宿のジャズ喫茶「Ｂ」に、高校生のみすず（宮��あおい）が立ち寄るところからはじまります。ここで三億円事件の共犯者となる東大生の岸（小出恵介）と知り合います。他にも５人ほどの学生が登場します。全員が実在したようですが、登場人物が多く、それぞれのキャラクターの描き方が雑で、存在感が薄い。また、このジャズ喫茶の溜まり場のシーンがやけに長い。学生運動が盛んだった時代に生きた若者像を描き出したかったのかもしれませんが、退屈しました。ちなみに、亮役の宮��将は、宮��あおいの兄だそうです。 中盤からいよいよ三億円事件に移ります。岸がみすずにラブホテルで犯行計画を打ち明けるという唐突な展開。みすずを選んだ理由は、無免許で車を運転できるということ。２ヶ月以上前に、みすずに現金輸送車が通るルートや車のナンバーなどを確認させています。しかし、なぜ犯行を計画したのか、岸が語るのは「権力に対して頭で勝負したい」という程度で、詳しい動機はほとんど描かれていません。また、岸がなぜ現金輸送車のルートを知っていたのかも不明です。 映画の後半は、みすずと岸が別荘などでデートするシーンがありますが、盗んだ３億円の使途について何も触れられないのが不満。岸は警察官の息子だったという設定のようで、誰かにとがめられるシーンがあります。最後は、みすずが岸の『ランボー詩集』に書かれた書き込みを見て涙するシーンで終わります。「心の傷に時効はない」というみすずのナレーションがありますが、みすずは現在何をしているのかは最後まで明かされません。 という感じで、この映画は何をメインに描きたかったのか（前半のジャズ喫茶、中盤の三億円事件、後半のデートシーン）が分かりません。ストーリーとして、どれも中途半端な描かれ方です。原作はどのような書かれているのでしょうか。 評価すべきは、車や街頭の様子などが昭和40年代の雰囲気を思わせました。北九州市で撮影したようですが、この時代を生きておられた方は懐かしく感じられたのではないでしょうか。 三億円事件については、映画を見たあとで一橋文哉著『三億円事件』（新潮文庫）を読みました。捜査資料をもとに、事件の事実経過についてかなり詳しく書かれていて楽しめました。2000年にこの本を原作としたテレビドラマ「三億円事件 20世紀最後の謎」がビートたけし主演で放送されたのをご記憶の方も多いでしょう。この本では、三億円事件の犯人は３人組の男で、そのうち２人はアメリカで生活しているという結論を導いています。川越市に住んでいた元警察官の松田誠一郎（仮名 当時34歳）が計画、「ロク」がオートバイを運転、「ジョー」が三億円を米軍横田基地に保管したという筋書きです。その他にも、警察が作成した犯人のモンタージュ写真は、事件の一年半ほど前に28歳で死亡した男と同一人物だったなど、読んでいて大変興味深い。 |
|
2006年7月2日 |
|
|
| 公開中の映画「アンリ・カルティエ＝ブレッソン 瞬間の記憶（原題：Henri Cartier-Bresson The Impassioned Eye）」（2003年/スイス＋フランス）を見ました。20世紀最大の写真家と称されるアンリ・カルティエ＝ブレッソン（1908〜2004）に迫ったドキュメンタリー映画で、2002年から2003年にかけて撮影されました。 カルティエ＝ブレッソンは90歳を超えているとは思えないほど元気で、自宅で自分の作品を次々とカメラに見せます。すべて白黒写真で戦前の写真もありますが、現像がいいためか保存状態は極めて良好です。中国やメキシコなど世界各国で撮影していて、日本で撮影した写真（阿蘇山、市川団十郎の葬儀）もありました。写真は被写体にポーズを取らせて撮影したものではないようで、偶然撮影できたとのこと。動いているものの一瞬の動きや表情がとらえられているのがすばらしい。人物の配置や全体の構図のバランスがまさに芸術的で、偶然撮影したのであればシャッターチャンスをかなり長い時間待っていたことになります。瞬間を逃さないように連写で撮影しているのでしょうか。白黒写真なのに色彩感も感じさせます。また、どの写真も人や動物が今にも動き出しそうで、笑い声や街の騒音が聞こえそうです。写真は、言葉も音声も含まないので、写真家が感じたことや伝えたいことを、１枚の写真のなかに収めなくてはなりません。デジタルカメラやカメラ付き携帯電話の普及にともなって、簡単に写真を撮ってデータ化できる時代になりましたが、写真が持つ表現力や芸術性を教えてくれます。また、レナード・バーンスタインやイゴール・ストラヴィンスキー、マリリン・モンローなど著名人を撮影した写真も紹介されました。 カルティエ＝ブレッソンと親交のある人のインタビューがところどころで挿入されます。カルティエ＝ブレッソンが撮った写真を見て、それぞれが自分なりのストーリーを作って語っています。女優イザベル・ユペールが「いい写真ほど音楽的」と語れば、編集者のロベール・デルピールは写真集に掲載するページ順の重要性について語っています。写真家の努力の側面が感じられました。 残念なのは、カルティエ＝ブレッソンが写真を撮影しているシーンがないこと。どうやって撮っているのか知りたいところですが、晩年はあまり写真を撮影しなかったようで絵を描くほうが興味があると語っています。または、映画に撮らせたくなかったのかもしれません。 ＢＧＭにはバッハのピアノ曲などが使用されています（演奏：アンジェラ・ヒューイット）。白黒写真を見ながらなので、ちょっと眠たくなりましたが、気楽に見れる癒し系の映画と言えるでしょう。 |
|
2006年6月26日 |
|
|
| 公開中の映画「デスノート 前編」(2006年/日本)を見ました。テレビで流れていた予告編に新宿駅が出ていたので興味を持って見ましたが、ものすごく楽しめました。ここ数年の邦画のなかでもトップランクに位置する完成度でしょう。『週刊少年ジャンプ』に連載されていた漫画「DEATH NOTE」（原作：大場つぐみ、作画：小畑健）が原作。単行本は1,500万部を売り上げる大ベストセラーだそうです。 名前を書くと心臓麻痺で人を殺せる「デスノート」を死神（リューク）が落とすところからはじまります。「デスノート」を拾った夜神月（やがみライト）は、犯罪のない理想の社会にするため、テレビや新聞で報道された犯罪者や容疑者の名前を「デスノート」に書いて殺害していきます。世間から「救世主キラ様」と騒がれますが、警察に身元を疑われだして、警視庁のデータベースに不正にアクセスして捜査情報を収集。自己防衛のためにＦＢＩ捜査官などを殺害します。「僕こそ正義」と過信するようになり、「デスノート」の書き方や殺人手段も巧妙化。最後には親友の秋野詩織（香椎由宇）まで殺害します。死神（リューク）までが「おまえは悪魔だ」とささやきますが、もっと責めて欲しいですね。人間の生死の扱いが少し軽い印象を受けました。犯罪は法によって裁かれるべきなのか、死刑廃止議論までに発展すればおもしろいのではないでしょうか。 ノートに名前を書いただけで死ぬというのは非現実的でありえない設定なのですが、「デスノート」のルール（How to use it）が細かく定められているのが、いいアイデア。書く人物の顔が頭に入っていないと効果はないので同姓同名の人物は死なないとか、詳しい死の状況を書きこめるとか、ルールがウソっぽくないところが魅力。ドラえもんの道具みたいな空想の世界ではなく、もっとリアリティがあります。ただ、ちょっと疑問に思ったのは、偽名を書いたとき。アナウンサーのLIND.L.TAILOR（Ｌの代役）は殺されましたが、南空ナオミ（瀬戸朝香）の偽名の名刺を見てノートに書いたときは何も起こりませんでした。ちょっと矛盾するように感じたのは私だけでしょうか。 ストーリーもいいですが、この映画をおもしろく見れるのは、キャストがいいからでしょう。ものすごく現実的に真剣に演じていて、見ている者を本気にさせます。特に、夜神月役の藤原竜也が好演。死神（リューク）のＣＧとの会話も違和感がなく、見事な演技。Ｌ（竜崎）役の松山ケンイチも独特の個性を感じさせながら、自然体の演技。夜神月を捜査している夜神聡一郎（鹿賀丈史）が父親という設定も緊張感を高めます。疲れ切った表情がいい。 ロケ地も、新宿アルタ前、神宮前交差点、 福岡市地下鉄空港線などで撮影し、日常的な感覚もあります。 エンドクレジットのあとに、死神（リューク）が出てきて、「夜神月の寿命もＬ（竜崎）の本名も知っている」と自慢げに話しました。後編は11月に上映予定です。前編のラストで、夜神月は夜神聡一郎に「キラ」捜査に参加したいと伝えました。また、夜神月とＬ（竜崎）が初めて対面しました。後編では全面対決になりそうです。前編の疑問点として、南空ナオミが本当に自殺したのかどうか（銃弾が頭に当たらずに床に落ちた）ということ、弥海砂（あまねミサ、戸田恵梨香）にも空から別の黒いノートが落ちてきたことがあるので、後編はこの辺りから話が始まりそうです。後編を首を長くして待ちたいと思います。 |
|
2006年6月24日 |
|
|
| 公開中の映画「ダ・ヴィンチ・コード（原題：THE DA VINCI CODE）」（2006年/アメリカ）を見ました。日本でも1,000万部を突破したベストセラー、ダン・ブラウン著『ダ・ヴィンチ・コード』の映画化で、中国やエジプトで上映禁止になるなど世界的に社会現象になっています。キリスト教という相当奥深い内容を逆説的に題材にしていて、見てはいけないものを見てしまったという大きな衝撃を受けました。 イエス・キリストに妻子がいて、その末裔が現在も生き延びているという設定にまず驚きました。「人類の歴史上最大の隠蔽」と語られますが、事実ならまさにその通りでしょう。ソフィー・ヌヴー（32）役のオドレイ・トトゥ（27）が本当にキリストの末裔ではないかと思わせるほどの説得力がありました。謎を解く鍵となっているのは、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「最後の晩餐」（1493-97）。イエスの右に座っている人物が、ヨハネではなくイエスの配偶者だったマグダラのマリアとしています。 マグダラのマリアの遺体と、その生涯を伝える文書が眠っているという「聖杯」の隠し場所を伝える「キー・ストーン」をめぐって物語は進行します。カトリック組織オプス・デイの動きと主人公ラングドンたちの動きが同時進行で進んでいくのでとてもスリリング。ラングドンとヌヴーに対する裏切り者（チューリッヒ保管銀行パリ支店長アンドレ・ヴェルネ、ティービング執事レミー・ルガリュデ、リー・ティービング）が出てきて予想外の展開を見せ、物語がさらに複雑になってきます。ピストルを使った銃撃もあるので、久しぶりに血が出る映画を観ましたね。それに、シラスが自らに鞭打つ姿は本当に痛々しかった。 この映画で語られるキリストについて要約しようとするとものすごい字数が必要なのと、原作を読んだほうがいいと思うのでやめときます。ただ、ひとつ言えることは、この映画は宗教に興味を持つ人や西洋史ファンを増やしまくることは間違いないということです。歴史のおもしろさを久しぶりに味わいました。 ちなみに、この映画のポスターには「モナ・リザ」（1500-10頃）が使われていますが、あまり関係ありません。ちょっとだまされた気分。 ＜映画と原作との違い＞ 原作と映画との主な相違点を時系列に沿って挙げると、 ＜ダ・ヴィンチ・コード展＞ |
|
2006年6月21日 |
|
|
| 公開中の映画「Touch the Sound」（2004年/ドイツ・イギリス）を観ました。8歳のときに聴覚障害に襲われた女性打楽器奏者エヴリン・グレニー（1965-）の音楽観に迫ったドキュメンタリー映画です。 グレニーは今でも聴覚に障害があるとのことですが、補聴器はつけていないようですし、言葉もはっきりしています。読唇術によって相手の話を理解しているようで、現在に至るまでものすごい努力があったはずですが、映画ではその克服の過程についてはあまり触れられていません。演奏シーンなど実に楽しそうで、耳が聴こえないという苦悩を感じさせません。 映画は、グレニーが世界を旅する「音の旅」（ニューヨーク、ケルン、スコットランド、日本）の映像に、グレニーの即興演奏の映像を挿入しながら進行します。この即興演奏がまさに一聴の価値ありで、特にケルンの工場跡でのギタリスト（フレッド・フリス）とのコラボレーションがすばらしい。もちろん楽譜なしで演奏していますが、実に息のあった演奏を聴かせます。フリスは、エレキギターをツィンバロンのように弦を叩いたり弾いたりして演奏するなど、奏法も斬新。不思議な音楽が作り出されます。グレニーも、廃材やおもちゃ、空き缶など何でも楽器にして演奏しています。固定観念にとらわれない演奏スタイルに好感を持ちました。打楽器についての興味が増すに違いありません。 また、演奏している場所も、ビルの屋上やニューヨークの空港、日本のバーなど実にさまざま。こんなところで演奏していいのか？と思う場所までありました。日本でもロケを行なっていて、富士市では鬼太鼓座（おんでこざ）と共演。ただ、和太鼓のリズムが比較的単調なので、グレニーの即興演奏があまり冴えないのが惜しい。龍安寺石庭の白砂を整備している様子をグレニーが眺めるシーンもあります。 インタビューを通して語られるグレニーの音楽観には説得力があります。裸足で演奏しているのは、聴覚以外の「第六感」を使って、音に「触れる」ため。「聴くというのは何かに触れること」「音は体で感じるもの」と語っています。音楽を勉強している人は必見です。「聴く」という行為がどういうものなのか考えさせられます。 録音も優秀。自然音や雑踏の騒音などがリアルに収録されています。即興演奏のカメラアングルも多彩で視覚的にも楽しめます。 映画のパンフレットに掲載されているグレニーのプロフィールを読んだところ、なんと私は彼女のＣＤを持っていたことに気がつきました。ドアティ作曲／パーカッション独奏と管弦楽のためのＵＦＯ（ナクソス 8.559165）で、2002年に録音されています。ＣＤ解説書には、グレニーの写真も掲載されていました。去年買ったＣＤですが、パンフレットを読むまでまったく気がつきませんでした。反省。この映画を観た後にＣＤを聴くと、演奏に対してさらに愛着が沸きました。 |
|
2006年5月15日 |
|
|
| 映画「シムソンズ」(2006年/日本)を見ました。2002年のソルトレークシティオリンピックにカーリング女子日本代表として出場した「シムソンズ」をモデルにした『シムソンズ』（森谷雄著）が原作。シムソンズのメンバー４人（加藤章子、林弓枝、小野寺歩、小仲美香）が「企画協力」としてエンドクレジットに名を連ねています。伊藤和子（加藤ローサ）のモデルが加藤章子、尾中美希（藤井美菜）のモデルが小仲美香、小野菜摘（高橋真唯）のモデルが小野寺歩、林田史江（星井七瀬）のモデルが林弓枝です。伊藤和子（加藤ローサ）が小野寺歩だと思っていましたが違うようです。「シムソンズ」というチーム名の由来は、アメリカのアニメ「シンプソンズ」の読み間違えたことで知られていますが、私は「シンプソンズ」を見たことも聞いたこともありません。有名なんですか？ 実に健全な映画で、ストーリーもシンプル。「チームワーク」と「ウソを言わないこと」の重要性を教えてくれます。星井七瀬と藤井美菜がいい表情をしています。４人のカーリングがどんどん上達していくのもすごい。エンディング（第18回北海道女子カーリング選手権大会決勝戦）はちょっと意外でした。 シムソンズ発祥の地である北海道常呂町(現北海道北見市)の全面協力を得て撮影されています。常呂の風景が多く撮られていますが、自然いっぱいのいい場所ですね。ぜひ行ってみたいですが、鉄道が通っていないのでかなり行きにくいのが残念（国鉄湧網線が1987年に廃止）。 トリノオリンピックで人気に火がついたカーリングですが、この映画が撮影されたのはオリンピックよりも前のこと。カーリングを映画の題材として取り上げたことは、先見の明があると言えるでしょう。カーリングホールに多くの人が詰めかけたり、ラジオで試合が中継されたりする設定は、オリンピック前ならありえなかったはずですが、今のカーリング人気を見ているとまったく違和感がありません。 主題歌にJUDY AND MARYの「BLUE TEARS」（1993年）が使われていたのでびっくり。「めちゃめちゃイケてるッ！」のエンディングで流れていましたが、まさかこんなところで聴けるとは。懐かしい。この映画の主題歌として見事な選曲です。 以下は余談。 |
|
2006年5月2日 |
|
|
| 公開中の映画「好きだ、」（2005年/日本）を見ました。石川寛監督の第２作で、2005年ニュー・モントリオール国際映画祭で最優秀監督賞を受賞。なかなか個性的な作品で、賛否両論がはっきり分かれるでしょう。私にとっては、今まで見たことがないタイプの映画でした。 17歳のユウとヨースケが、34歳になって東京で偶然再会するというストーリー。ユウを宮��あおい（17歳）と永作博美（34歳）が、ユースケを瑛太（17歳）と西島秀俊（34歳）が演じています。２人で１役ですが、違和感なく見れました。 この映画の特徴は、まずセリフが少ないこと。音楽（ＢＧＭ）もほとんどなく、ものすごく静か。屋外の自然音が聞こえるだけで、ときどきサイレント（まったくの無音）が挿入されます。画面が全体的に暗いので危うく寝そうになります。口パクで会話するシーンもあるなど、役者の表情や画面の意味を読み取って理解し、ストーリーとして自分で埋めていく必要があります。「分かる人だけついてきて」という態度で進んでいくので、途中でフォローはしてくれません。ただ、パンフレットにストーリーが詳しく書かれています。映画を見た後に読めば、そういう意味だったのかという感じで復習できます。 映像は、空を撮ったりすることがあるなど、なんともいえない独特の空気感があります。早く次のシーンへ進んで欲しいと思うことがあるので、関西人の多くはイライラすると思います。ちなみに、この映画のキャストは全員関東人で固められていました。 パンフレットに掲載されている「撮影日誌」を見れば分かりますが、石川監督が撮影以前の段階で綿密に段取りしています。例えば、宮��あおいと瑛太、永作博美と西島秀俊が初めて出会うシーンの撮影は、撮影中に初めて会った（それまでは楽屋で軟禁していた）ことが分かります。演技だけでは物足りないのでしょうか。また、撮影から公開までにかなりの時間を要しています。17歳の撮影は、秋田県大館市で2003年９月に行なわれました。34歳の撮影は、東京で2004年1月に行なわれています。それからかなり長い間編集作業をしていたようです。 上映した新京極シネラリーベは、２月に「京極弥生座」から改名しました。「弥生座」の内装を新しくしていましたが、座席数が少し減ったようです。 |
|
2006年4月23日 |
|
|
| 映画「ＳＡＹＵＲＩ（原題：Memoirs of a Geisha）」（2005年/アメリカ）を見ました。スティーブン・スピルバーグが製作総指揮。監督はロブ・マーシャル。第78回アカデミー賞で、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞を受賞しました。 アーサー・ゴールデン著のベストセラー『Memoirs of a Geisha』の映画化で、前評判どおりよくできた映画でした。映画を観たあとに、原作の日本語訳『さゆり』（文春文庫)を読みました。上下巻あわせて約700ページ。 まず、気になるのは、この物語はフィクションなのか、ノンフィクションなのかという点です。原作は、「私」（＝坂本千代、新田さゆり）を主語とした一人称で、京都弁で口述したように書かれています。また、上巻冒頭のヤーコプ・ハールホイス氏による「訳者覚書」を読むと、新田さゆりの十八ヶ月にわたる後述を筆記したとか、登場人物はできるだけ実名にしたとか、サユリが昨年亡くなったとか書いてあるので、実在した話だと信じきってしまうので注意。原作の訳者である小川高義氏の「あとがき」に、「まったくの創作である。モデルは存在しない。」と書いてあって、これが真実です。さゆりが実在したと思い込んで読んでしまうので、本当に紛らわしい。しかし、アーサー・ゴールデンが10年の研究を経て完成させただけあって、日本人の口述を記したように思えるほど描写が緻密です。フィクションとは思えないほどに現実味を帯びたストーリー展開にびっくり。ちなみに、原作では、映画のエンディング以降のストーリーがあって、会長さんがさゆりの旦那になって、ニューヨークでお茶屋を開きます。その後、おかあさんと会長さんが亡くなるところまで書かれています。 以下は、映画を観た人にしか分からないマニアックなネタ。原作と映画の違いをトピック的に取り上げてみました。 芸者と娼婦の違いを理解していないためなのか、中国では上映禁止になってしまいました。残念です。 |
|
2006年3月13日 |
|
|
| 映画「欲望」（2005年/日本)を見ました。小池真理子が1998年に著した『欲望』が原作です。小池真理子の作品を映画化したのは、『female』に収められた「玉虫」に続いて、２作目とのこと。映画監督は篠原哲雄。 映画を観てから、原作本を読みました。文庫本で500ページの長編小説で、読むのに３日かかりました。交通事故が原因で性的不能になった男を中心とした三角関係を描いたストーリーです。原作では「欲望」という言葉は何度も登場し、「性欲」とほぼ同じ意味で使われています。 原作を読んで気づいたのは、この映画は原作を忠実に再現していることです。原作で描かれた情景描写を見事に映像化しています。すばらしい。原作とまったく同じセリフが映画でいくつか使われています。原作にはあるが映画では描かれていない場面（東京回顧写真展、大学演劇部夏合宿）もありますが、物足りなさを感じることはありません。残念なのは、1970年代を感じさせる感覚がいまひとつなこと。20年に及ぶ時の流れがあまり意識されないのが惜しい。 キャスティングでは高岡早紀（袴田阿佐緒)と津川雅彦（袴田亮介）がまさに適役。原作の人物像にぴったりです。この２人の存在感でこの映画は成り立っていると言ってよいでしょう。 主役（青田類子）の板谷由夏は、激しいセックスシーンがあって、びっくりするほどの脱ぎっぷり。昼ドラで温泉旅館の女将役をやっていたとは思えません。ただ、それ以外ではちょっとインパクトが薄い。相手役（秋葉正巳）の村上淳は、セリフが棒読み。 三島由紀夫の作品が頻繁に登場することも特徴です。『豊饒の海』四部作の『春の雪』（松枝清顕が聡子と初めて接吻をし合う雪の日のシーン）と『天人五衰』（最後のページ)が効果的に引用されています。 布袋寅泰の主題歌も作品にマッチしています。阿佐緒が弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタ「熱情」も効果的な使われ方です。 |
|
2006年2月5日 |
|
|
| 公開中の映画「春の雪」（2005年/日本）を観ました。原作は、三島由紀夫の『春の雪』（『豊饒の海』第１巻）。映画を観てから原作を読んだので、両者を比較しながら感想を述べます。 映画全体はとてもゆったりとした流れで展開します。映画では原作にあるエピソードをいくつか省略して、とてもシンプルなストーリーになっています。逆に、映画で重要な役割を果たしていた百人一首「瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ」（崇徳院）の読み札と取り札の話は、原作にはなく映画で付け加えられたものでした。 三島の原作の最大の特徴は、心理や情景の描写が非常に細かいこと。「〜のように」といった表現で、やや難解な比喩を多用しながら、情景が目に浮かぶほど多くの情報を書き込んでいます。原作では、清顕の聡子に対する感情の変化が明確に描かれています。順に拾ってみると、「一途に聡子への復讐を考えた。」→「今夜清顕が要求しているのは聡子の美しさだけであって、こんなことは今までになかった。」→「聡子のいる東京をしばらくでも離れる気はしなかった。」→「急に一目でも聡子に会いたい気持にさせた」→「僕はあの人に恋している、それも狂おしいほどに恋している。」→「一日一日聡子の存在が自分から遠ざかり、やがて手も届かぬところへ去ってゆくという考えには、えもいわれぬ快感があった。」→「彼は聡子を喪った。それでよかった。」→「僕は聡子に恋している」→「ただ無言で泣いているほかはない今の聡子ほど、彼にとって望ましい姿の聡子はなかった。」→「清顕は、はじめて聡子のいざないのままに動くことのよろこびを知った。」→「この罪の思いは清顕の心に勇気を湧き立たせた。」→「清顕は悲劇へ向ってまっしぐらに進んでいる」→「僕たちが許された仲だったら、とてもこんなに大胆にはなれないだろう」→「あんまり好きだから、仕合せを通り過ぎてしまったのだ」→「勅許はあれほど狂おしく二人を結びつける力として働らいたのに、その延長にすぎない納采の官報は、今度はありありと、外部から二人を引き裂こうとしている力として感じられた。」→「もはや自分が聡子に恋しているということに疑いがなくなった。」→「今彼が抱いているのは本物の感情だった。」→「聡子はただ一時のがれに、宮家へのお輿入れを避けるために、つまりは僕のために、こんな思い切った芝居を打ったかもしれないのだ。」→「ただ一言であれ聡子の口から疑いようのない言葉をききたくなった。言葉が無理なら、ただ一目顔を見るだけでもよかった。」→「今日もし僕が雪を冒して来たら、聡子と一目なりとも会わせる手筈になっているかもしれないのだ。」という感じです。 その点で、松枝（まつがえ）清顕役の妻夫木聡の演技はいかにも物足りない。映画化にあたって、清顕の感情の変化を表に出さないという意図があったのかもしれませんが、妻夫木の演技ではこれらの心情の変化がとても平板に感じられてしまいました。映画の清顕はただのアホな男にしか見えません。 綾倉聡子役の竹内結子はすばらしい。特に目の表情がいい。こんなに演技力がある女優だとは知りませんでした。演劇を見るシーンで着ていたドレスが本当に美しかった。 ラストシーンは、映画ではなんとなくぼやかした終わらせ方でしたが、原作では、「帰京して二日のちに、松枝清顕は二十歳で死んだ。」とそっけなく書かれています。 ちなみに、「春の雪」という言葉は、「春の雪というにはあまりに淡くて、羽虫が飛ぶような降りざまであったが、〜」という２月２６日（清顕が最後に月修寺の玄関まで行った日）の朝の情景で１回登場するだけです。映画でもこのシーンは印象的に撮られていました。 岩代太郎の音楽は、なかなかよかった。清顕の夢のシーンでは武満徹に似た響きが聴かれました。また、洞院宮治典王殿下が聡子にレコードを聴かせるシーンで、マーラーの交響曲第５番第４楽章「アダージェット」が効果的に使われています。 エンドクレジットで主題歌の宇多田ヒカル「Be My Last」が流れますが、ものすごくミスマッチ。綾倉聡子のイメージとも一致しませんし、なぜこの映画の最後に英語の歌詞の歌を聴かされるのかさっぱり分かりません。 |
|
2005年12月2日 |
|
|
| 大阪都市協会他主催の「映画連続講座vol.3〜日本映画を関西から〜」に行きました。全５回シリーズの１回目。講師は映画評論家でフランス文学者でもある蓮實重彦氏。 蓮實氏は、映画評論史において「蓮實以前」「蓮實以後」という切り分けがされるほど、大きな影響を与えている人物です。蓮實氏がどういう文章を書いているのか気になって、著書『表層批評宣言』を借りて読みましたが、表現が難解すぎてまったく理解できませんでした。今回、蓮實氏が大阪で講演するということで、どんな話をするのか、果たして話についていけるのか関心があって聞きに行きました。定員は先着７０名で、事前に電話予約をして当日に参加費1,500円を支払いました。会場はほぼ満員。意外に若い人が多く見られました。 テーマは「日本映画の百年−成瀬巳喜男を中心に」でしたが、当日のレジュメには「女たちの葛藤−成瀬巳喜男を中心に−」と書かれていました。成瀬巳喜男をテーマにしたのは、成瀬が今年生誕100年を迎えたこともあるのでしょう。蓮實氏が登場。２時間原稿なしで話しました。 まず、「最近、自分がいかに愚かであるかが分かってきた」と語り、今日の講演準備について話しました。蓮實氏曰く、今日上映する20本のビデオを自宅から持って新幹線やタクシーに乗って大阪に来たことと、今日見せたい部分のビデオの頭出しに一日半かかったことが「愚か」であるのこと。しかし、「今はそれをなだめつつこころよく同居している」とも語りました。 また、「人生は短く、芸術は長し」という言葉を信じていたことも「愚か」であったとのこと。「映画は芸術ではなく、もっと粗雑な文化である。映画はいつ爆発するか分からない時限装置」であると定義。「成瀬巳喜男が今よみがえってきているのは芸術としての普遍性からではない」と語りました。 さらに、「人類はものを見るのが嫌いである。考えることが好き」なのだと語りました。なぜなら映画を観終わった人が「その映画のファーストショットを覚えていない」から。「映画は観るものなのに、物語は覚えていても画面を覚えていない」と指摘しました。 ここで、配布された新聞広告（８月２７日の朝日新聞に掲載された「映画祭 ドイツ時代のラングとムルナウ」）の紹介。蓮實氏が「映画・歴史の錯綜 見据える好機」と題する文章を寄せています。９月に東京で開催されますが、蓮實氏曰く、「１９２０年代のドイツ映画は人類が見損なってきた。すばらしい。これを見ないと映画好きとは言えない。２１世紀生きていけない。新幹線に乗って見に来て欲しい。」とアピール。 前置きはこの辺で終わり、本題へ。「私は成瀬巳喜男は世界一だと思う。ムルナウも世界一、ラングも世界一」。蓮實氏の「世界一」は１９〜２０人いるとのこと。では、成瀬はどの点で世界一か？「成瀬ほど男女関係を陰惨に残酷に描いた人はいない」とのこと。蓮實氏が持参したビデオをスクリーンで見ながら解説していきました。成瀬のことを「映画監督」ではなく「作家」と呼んだのも印象的でした。 まず、最初は「�� 別宅の死」としてまとめられた５本。成瀬巳喜男『女の歴史』(1962)は、ビデオが自宅で見つからなかったとのことで、解説のみ。「正妻と息子が心中した夫（父）の遺体を引き取りに行くシーンをじっくり撮っている。遺体は物理的に置かれているだけ。二度と見たくないシーンを普通に見せている」と解説。小津安二郎『小早川家の秋』(1960)も同様に「日本の大監督ほど男女関係を平気で撮る」とのこと。成瀬巳喜男『稲妻』(1952)は、正妻とめかけの対立。しかも子供までいる。蓮實氏は明るい光の中で撮っているむごさを指摘。「こんな場面を撮ったのは世界にいない。日本映画で一番不快」とのこと。吉田喜重『エロス+虐殺』(1969)は、時間の関係で割愛。神代辰巳『四畳半・襖の裏張り』(1974)は、正妻が人力車で追いかけてくる。「この種の陰惨さを最近の監督は撮らない。最近の映画には消えてしまった」と指摘。 続いて「�� 女の掟」。溝口健二『祇園囃子』(1953)で「女性が足袋を脱ぐシーンは、衝撃的だった」とのこと。「この間喩で女性の（男と寝る）覚悟が分かる。最近の映画は直喩ばかり」とのこと。成瀬巳喜男『流れる』(1956)は、蓮實氏おすすめの映画。男が出てこないで、出演が女優だけだが、「女優をうまく撮るのは成瀬が世界一」。「演技に対する絵の中のおさまり方がすばらしい」。また「あ、そう」などと話にのったフリをしているが、「女性のいじめ方がすばらしい」とのこと。ここでも「女性が最高の和服を着ていて覚悟が分かる」と指摘。内田吐夢『浪花の恋の物語』(1959)は割愛。 続いて「�� 女ふたり」。小津安二郎『非常線の女』(1933)は、サイレント。女性同士のキスシーンがあることで有名らしいですが、２人の足を見せて、キスされた女がほっぺたに手を当てるという撮り方でした。成瀬巳喜男『妻よ薔薇のやうに』(1953)は、「女声の入浴シーンで最も美しい」とのこと。映画に撮られた入浴シーンの中でも早い時期のものらしいです。本当に一瞬ですが、「風呂に入れてはいけない２人が無言で気まずい思いで風呂に入っている。成瀬は悪い人だ」。成瀬巳喜男『まごころ』(1939)は、子供がそれぞれの父母が昔愛し合っていたことを知るシーン。最後に子供の後姿を撮っているのがうまいとのこと。溝口健二『お遊さま』(1951)は割愛。成瀬巳喜男『晩菊』(1939)は、「映画史上、最も陰陰滅滅たる映画」とのこと。夫のいない女同士の会話が10分続くが、成瀬にとっては「これこそお手の物」。また、「成瀬は本気で撮るときは窓の外からのショットがある」とも指摘。 最後は「�� 正妻と愛人」。成瀬巳喜男『山の音』(1954)は、「川端康成の原作よりもいい」ということで先生とケンカしたことがあるらしいです。「成瀬は庶民的な作家と言われているがウソだ。狂気じみている。やっぱり成瀬は変だ」。成瀬巳喜男『浮雲』(1955)は、男が奥さんのいるところにわざわざ訪ねていく。「おつかい？」と聞かれるが、相手も違うと分かっている。成瀬巳喜男『女が階段を上る時』(1960)は、「結婚詐欺に似たもの」。一緒に寝てしまって女は正妻からそれを知らされる。成瀬巳喜男『妻として、女として』(1961)は、「女が金のこと（50万か300万か)を堂々と言っている」。成瀬巳喜男『妻』(1953)は、「有名でないが、女がやりあう緊張感が高い」。また、「画面の作り方も見事」で、「成瀬の映画には移動シーンが少ないというのはウソ。ロケが嫌いというのもウソ。これを見ればすぐに分かる」と話しました。確かに住宅地の路地を歩いているシーンで移動カメラを使って撮影していました。講演の最後に蓮實氏が「成瀬に拍手」と言って講演は終わりました。 この日の蓮實氏の講演は、成瀬巳喜男の作品を断片的に紹介しました。専門用語もほとんど用いず、出演している女優名を挙げながら日常語で説明していました。口調は断定的でしたが、高圧的とは感じませんでした。結論は特になかったので、自由に考えてもらって、成瀬の映画について考える契機にして欲しいということなのでしょう。蓮實氏の最新刊『成瀬巳喜男の世界へ』も読んでみようと思います。この頃の映画をまとめて観たのは初めてですが、今では考えられないほど男女関係を露骨に取り扱っていて驚きました。でも、音が悪いので、続けて観るのは少しきつかったです。さらに、会場施設が狭く、スクリーンがよく見えなかったのが残念でした。 |
|
2005年8月31日 |
|
|
| 公開中の映画「ヒトラー 〜最期の12日間〜（原題：Der Untergang）」（2004年/ドイツ）を観ました。上映時間155分という長い映画で、ドイツがついにヒトラーの映画を作ったということで注目を集めています。 まず、なんといってもセットが素晴らしい。戦時中にも使われていたのではないかと思うほどで、ヒトラーが住む地下要塞や市街の光景などリアリティーは抜群。これだけセットがいいと、映画全編を通して、作り話という感じがしません。 ストーリーは、ヒトラーの女性秘書を務めたユンゲの回想録をもとにしていますが、気になったのは、ヒトラーの人物像。足取りも弱々しく覇気がありません。戦況が悪化していることもあるのでしょうが、まったくオーラが感じられません。また、側近から撤退の進言をされたり、信頼していた部下が逃走したりで、軍の統括能力も破綻しています。テレビなどで当時のヒトラーの映像を見ると、群集を前にした演説や戦車に乗って颯爽と現れる姿など、力強いイメージがあったのですが、この映画では権力の支配者という側面がかなり抑えられていて、戦争を引き起こした人間に見えません。従来のヒトラー像と異なって、ヒトラーが「独裁者」というよりも、もっと人間的な「悲劇の英雄」に見えてしまうのが、この映画の最大の問題点です。女性秘書にはやさしく接した可能性は大きいですが、どうにも違和感がぬぐえません。この点は、パンフレットに掲載されている評論家の川本三郎氏の文章がずばり指摘しています。 また、もっぱらヒトラーの最期のみをクローズアップし、周辺諸国を次々と侵略していった頃の回想などもまったくなし。ユダヤ人虐殺についてもほとんど触れられずじまい。戦争責任はヒトラーを生んだドイツでは描きにくい問題なのでしょうか。側近などの登場人物も必要以上に多く、途中からなにがなんだか分からなくなってくるので、もっと整理したほうがよいでしょう。 ヒトラーの最期を描いた映画としては合格かもしれませんが、ヒトラーの人生や戦時中のドイツを描いた映画とすればあまりにも一面的すぎるでしょう。ヒトラーやナチスの歴史についてある程度予習してからこの映画を観られることをお勧めします。そうでないと、ヒトラーが偉大な人物に見えてしまう可能性があります。 |
|
2005年8月14日 |
|
|
| 映画「ＭＯＯＧ<モーグ>」（2004年/アメリカ）を観ました。シンセサイザーを開発したロバート・モーグ博士が出演し、関係者にインタビューしていくドキュメンタリー映画です。過去の映像を織り交ぜながら、シンセサイザー（ＭＯＯＧシンセサイザー）を開発した裏話が語られます。シンセサイザーの歴史や楽器の構造を分かりやすく解説していくわけではなく、専門的な用語が多く含まれるので、内容的にはかなり高度で難しい。また、多くのシーンをつなげて構成していますが、それぞれの映像が何を意味しているのか字幕も少なくいくぶん説明不足。パンフレットに掲載されている「『ＭＯＯＧ<モーグ>』サポートセンター 各シーンの補足説明」を事前に読んで、ある程度の予備知識を蓄えておくことをおすすめします。 モーグ博士の功績は音楽史的にはあまり知られていません。老紳士といった風貌で、複雑な回線から成るシンセサイザーを開発した人物には見えません。今では電子音楽を聴き慣れていますが、初めて耳にした人々の驚きは想像に難くありません。インタビューでは、シンセサイザーは機械であって楽器ではないとする当時の意見や、初期のシンセサイザーは運ぶごとにチューニングが必要だったこと、シンセサイザーに鍵盤が必要なのかどうかについて議論があったことなどが紹介されます。楽器開発の一端がうかがい知れて実に興味深い。楽器とは何か、これから楽器はどのように進化するのかなど、いろいろな問題提起をしてくれる映画です。ただ、モーグ博士のコメントは哲学的で非常に難解。よく理解できない部分がありました。 また、不満な点として、カメラの撮影方法がいかにもアマチュア的。画面が揺れたり、何を被写体にしたいのか分からない部分がありました。また、ＢＧＭで流れる音楽が必要以上に目立ちすぎてうるさいのも残念。 |
|
2005年7月27日 |
|
|
| 公開中の映画「星になった少年」（2005年/日本）を観ました。お目当ては、母親役に挑戦した常盤貴子と、坂本龍一の音楽。 坂本小百合著『ちび象ランディと星になった少年』の映画化で、夭折した日本で初めてのゾウ使い坂本哲夢の生涯を描いています。柳楽優弥のゾウつかいの修行（タイでのロケ）と、柳楽の家族関係の２点が描かれていますが、どちらかにウェイトを置いたほうがよかったかもしれません。この映画で何を訴えたかったのかがボケてしまった印象を受けました。ゾウに演技をさせるのは大変だと思いきや、ゾウはほとんどＮＧを出さなかったとか。よく訓練されています。 坂本龍一は「ラストエンペラー」（1987年/イタリア ・イギリス・中国）でアカデミー賞オリジナル作曲賞を受賞しています。映画音楽を全編にわたって担当するのは、６年ぶりのこと。７月１５日放送のフジテレビの番組「僕らの音楽」で映画音楽について語りました（インタビュアーの常盤貴子の質問の切り込みがよかった）。坂本が考えるには、「音楽は映画にとって脇役」なので、「ほとんど記憶に残らないくらいでもいい」とのこと。映画音楽は粗く編集されたフィルムを見ながら作曲するそうです。映画を見ながらオーケストラを指揮する姿が映っていました。この映画の音楽を担当するきっかけについて直接言及しませんでしたが、坂本がゾウに関心を持っていることが考えられます。ゾウが母系社会であることや徹底した民主主義社会であることについて熱く語っていました。 常盤貴子の演技はさすがでしたが、彼女は未婚なので母親役という設定が難しかったのかもしれません。いつもに比べると演技力が少し落ちるように感じました。 「誰も知らない」（2004年/日本）でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した柳楽優弥の演技はいまひとつ。声を表情によってもっと使い分けられて欲しいです。 |
|
2005年7月25日 |
|
|
| 公開中の映画「電車男」（2005年/日本）を観ました。話題作なので興味本位で観ましたが、大変よかった。予想以上の出来でした。最近の邦画のなかでも傑作と言ってよいでしょう。パンフレットに掲載されている撮影日誌を見ると、この映画はまさに超特急のスピードで撮影されたことが分かりますが、そう思えないほど完成度が高い。 電車男の原作（単行本）は、インターネット掲示板「２ちゃんねる」に書き込まれた書き込みをもとにしています。原作を読まずに映画を観ました。まず、登場人物の設定がよくできています。特に２ちゃんねらーが夫婦だったという設定はうまい。電車男（山田孝之）とエルメス（中谷美紀）も適役。また、画面を分割して、２ちゃんねらーがキーボードを叩いている様子を同時に見せたのがよかった。インターネットが持つ即時性・同時アクセス性をうまく表現しています。ただ、世界中からアクセスできる広域性について工夫が欲しいところ。２ちゃんねらー全員が都内に住んでいるような印象を受けたので。 クライマックスの告白シーンは感動的でしたが、ラストシーンが余計。電車男とエルメスが万世橋を渡るシーンで終わったほうがよかったです。 私は２ちゃんねるにはアクセスしません。殺人予告が行なわれたり、センター試験の問題が流出したりするのは気味が悪いですし、匿名掲示板というメディアが日常生活に必要ないからです。 単行本の『電車男』に収録されているのはスレッド全体の6.4％に過ぎないらしいです。ということは、実際のスレッドにはこの15倍の書き込みがあったということです。収録されていないのは、主に批判めいた書き込みや荒らしだったとか。なので、スレッドに書き込んだ人全員が電車男を応援していたわけではありません。映画では、書き込み（文字）がせりふ（言葉）に変わっていましたが、インターネットというキューレスメディアは真意が分かりませんし、人間味や温かみのあるものではありません。電車男のように、書き込みを読んで「みんなありがとう」という感謝の気持ちにはなかなかならないような気がします。匿名掲示板がすばらしいメディアであるような錯覚を与えてしまうのではないかと心配になりました。 この電車男とエルメスのラブストーリーが実話なのかどうかという議論があります。私としてはどちらでもいいです。パンフレットがとても充実していて、読み応えがあります。電車男と脚本の金子ありさのチャット対談が掲載されています。 ＴＯＨＯシネマズ二条で観たので映画館についてひとこと。ＴＯＨＯシネマズ二条は、二条駅近くの「BiVi二条」の４階に６月２３日にオープンしました。１１スクリーンを有するワンフロアの巨大シネコンです。駅から近いので大変便利。多くの人が来場していました。ロビーからスクリーンに向かう廊下の内装が竹薮や石庭など京都らしさを演出していました。座席も傾斜があってスクリーンが見やすい。ただ、隣のスクリーンの振動音が漏れてくるのが少し気になりました。 |
|
2005年7月8日 |
|
|
| 映画「female【フィーメイル】」（2005年/日本）を観ました。人気女性作家５名が書き下ろした同名の短編小説集を原作にした短編映画とダンスパートからなる作品です。小説は映画化されることを前提にして作品が書かれたとのこと。映画を観て原作が読みたくなったので、映画と原作（「female」新潮文庫）を比較しながら感想を書きます。
「桃」（原作：姫野カオルコ、監督：篠原哲雄、主演：長谷川京子）は、原作者の姫野が「すごく映像化しにくいものを書いて、監督や脚本の人を困らせてやろうと思いました。」と語っていましたが、原作を読んでびっくり。原作は桃を買ったことと中学生時代の回想が長々と書かれて終わっています。同級生の矢崎や中学時代の恩師の葬儀や帰りに立ち寄った桃畑のシーンなどは原作には一切なく、映画化する際に付け加えられた設定であることが分かります。また、原作では主人公の森岡淳子（長谷川京子）は週末にバドミントンの猛練習をすると書かれていますが、映画ではもっと落ち着いた女性として描いていたように思います。長谷川京子の桃のなめ方がかなりいやらしかったですが、桃はああいうふうにして食べる食べ物なのでしょうか。長谷川京子はセリフが無表情すぎて今ひとつ。中学生時代を演じた野村恵里が熱演。 「太陽のみえる場所まで」（原作：室井佑月、監督：廣木隆一、主演：大塚ちひろ）は、原作は強盗とタクシー運転手は男性で、乗客だけが女性という設定ですが、映画は３人とも女性に変更。この映画は初めがよかった。原作では運転手が非常ボタンを押すかどうか迷うシーンがありますが、映画ではどういうわけかカットされています。途中から出てくる浜辺で３人が踊るというのは映画のオリジナルで、ラストシーンは意味不明。原作は「とりあえず太陽がみえるところまでいきましょう」という一文で終わっているので、映画としてオチをつけるには、ああいう非現実的な要素を入れる必要があったのかもしれません。でも、緊迫したシーンからいきなりゆるい場面に変わるのでついていけないところがありました。また、この映画を観たときは、しばらく誰が主役なのか分かりませんでした。強盗の日出美（大塚ちひろ）が主役です。 「夜の舌先」（原作：唯川恵、監督：松尾スズキ、主演：高岡早紀）は、一番おもしろく観れました。ストーリーがシンプル。最後の夜に睡眠薬を大量に飲むシーンなどは最高。ただ、最後のシーンは少し意味が分かりませんでした。カラーではなくやや緑がかった幻想的な映像効果がすばらしい。カメラワークもおもしろかったです。松尾スズキ監督はこれからも注目です。原作と映画の違いは、高炉に入れる髪の毛は、映画では相手の浅山（近藤公園）の毛だけを入れていますが、原作では相手の毛と自分の毛を結んで高炉に入れることになっていること。自分の毛と結んで入れるというのは少しリアルすぎるので、映画化では変更されたのでしょう。浅山の転勤先もロンドンからニューヨークに変更。ニューヨークという言葉の響きがいいですね。なぜ「夜の舌先」というタイトルなのかよく分かりませんでしたが、原作の浅山の会話に「僕の舌先はどう？」という部分がありました。高岡早紀がなかなかいい演技。はまり役でした。声もナレーター向きのいい声ですね。 「女神のかかと」（原作：乃南アサ、監督：西川美和、主演：大塚寧々）は、原作のタイトルがすでに違います。原作は「僕が受験に成功したわけ」。原作では、小学生の水沼真吾（森田直幸）が森島の母さん（大塚寧々）の足だけに興味を持ったということでしたが、映画では足だけではなく体全体にという違いがあります。大塚寧々もはまり役。また、原作では、森島の母さんの誘惑ぶりがすごいですが、映画ではおとなしめ。また、原作では水沼家の会話が書かれていますが、映画では無言。映画では家族の違いを対比させたかったのでしょう。原作は、小学生が主人公になっている小説にしては筆致がやや硬くて少し違和感がありました。 「玉虫」（原作：小池真理子、監督：塚本晋也、主演：石田えり）は、いきなり雅楽のような音楽で始まったので、おおっと思いましたが、ストーリーがほとんど理解できませんでした。原作では、じじい（小林薫）や男（加瀬亮）の職業が書かれていますが、映画では伏せられていて、女（石田えり）も彼らの職業を知らないという設定になっています。なぜ伏せたのかよく分かりません。とりあえず登場人物やシーンについての情報量が少なすぎ。また、じじいがいきなり銃で撃たれるシーンも前後関係が明らかに説明不足。想像力を働かせるにしても少し限界があります。 このほかに「Dancing Erotic Female」と題されたダンスパートが３回挿入されます。このエアロビックスのようなダンスが映画の内容とどういう関係があるのか分かりませんでした。時間的にも長くて飽きました。 |
|
2005年6月27日 |
|
|
| 映画「ネオ・ファンタジア（原題：ALLEGRO NON TROPPO）」（1976年/イタリア）を観ました。 ディズニーのアニメーション映画「ファンタジア」（1940年/アメリカ）や「ファンタジア2000」（1999年/アメリカ）は有名ですが、イタリアでもクラシック音楽とアニメーションの融合を試みた映画が制作されていたとは知りませんでした。監督はアニメーション作家のブルーノ・ボツェット(1938-)。音楽はなんとヘルベルト・フォン・カラヤン指揮／ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団というから驚き。 作品は、６本のカラーアニメーションと、各曲の前後に白黒の実写映像が挿入されるのがユニーク。実写はオペラハウスで撮影されたもので、進行を取り仕切る司会者、婆さんを寄せ集めたオーケストラ、指揮者、アニメーションを描く作家が登場。オーケストラの演奏を聴きながら、作家がアニメーションを描いていくという設定です。途中で猿が乱入してきたり、婆さんが食事したり、指揮者と作家がケンカしたりと自由気ままな雰囲気。イタリアらしい陽気な演出がおもしろい。 第１話は「ドビュッシー作曲／牧神の午後のための前奏曲（牧神の午後への前奏曲）」。容姿の劣った老人（＝牧神？）が若い女性の気をひくため、あの手この手で近づくストーリー。ドビュッシーの落ち着いた音楽に比べて、アニメーションがごちゃごちゃしているのが残念。 第２話「ドヴォルザーク作曲／スラブ舞曲第７番」は、砂漠で一人の男が他の仲間を罠にはめようとして失敗する話。 第３話「ラヴェル作曲／ボレロ」は、アメーバのような生物が大きくなり、最後は恐竜が行進する様子を描いています。 第４話「シベリウス作曲／悲しみのワルツ（悲しきワルツ）」は、捨てられた黒猫がかつて飼い主の家族と一緒に暮らしていた時期を回想します。全編でこの作品が一番よくできています。音楽と映像がよく合っていて違和感がありません。ラストシーンも衝撃的。 第５話「ヴィヴァルディ作曲／バイオリン協奏曲ハ長調（２つのオーボエ、２つのクラリネット、弦楽と通奏低音のための協奏曲 第１楽章）」は、カラヤンではなくハンス・シュタットルマイア指揮／ミュンヘン室内管弦楽団による演奏。ミツバチが食事をしようとしていたところに、人間の男女がやってきて邪魔されるという話。 第６話「ストラヴィンスキー作曲／火の鳥（王女たちのロンド、カスチェイ王の魔の踊り」は、ロリン・マゼール指揮／ベルリン放送交響楽団の演奏。ヘビと裸の男女（アダムとイブらしい）が現れます。ヘビが男女にリンゴを食べさせようとしますが、拒否されたのでヘビが食べます。そのことによってヘビにいろいろな事件が起こります。しかし、ストーリーの展開が支離滅裂でついていけませんでした。 フィナーレは、作家とオーケストラが逃げ出してしまったために、司会者があわてて資料庫に連絡して、適当なものを探してもらいます。有名なクラシック作品のエンド５秒程度にアニメーションを付けた映像が連続して次々に流れます。司会者が指揮者と次回作の構想を話すところで幕を閉じます。あわただしいエンディングです。 「ファンタジア」と呼べるほど幻想的な映像は少なく、ディズニーの「ファンタジア」とくらべるとずいぶん不健全でアダルトなテイストが加わっています。子供が観ると刺激が強いシーンが多いでしょう。また、音楽作品とアニメーションの物語にほとんど関連性がないので、使われている音楽についての知識が多いと、この音楽でなぜこんな映像や物語が作り出せるのか疑問に思えますが、クラシック音楽初心者は楽しめるかもしれません。今観ても30年前の映画とは思えないほどアニメーションが新鮮である点は評価したいと思います。 カラヤン＆ベルリン・フィルの音楽は絶頂期の演奏だけあって、たいへん美しい。特に「ボレロ」は、こんなにいろいろな音がスコアに書き込まれていたのかと驚きます。それにしても、この映画の音楽として、カラヤンが演奏の使用をよく許可したと思います。カラヤンがこの映画を見たらがっかりする（おそらく笑えない）と思うのですが、カラヤンはこの映画を観たのでしょうか。 |
|
2005年5月29日 |
|
|
| ベルギーのダンスグループ「ローザス」が発表している映画作品を３作品鑑賞しました。ダンスグループが舞台公演だけでなく、映画作品を発表し続けているのは興味深いです。いずれも１時間程度の短い映画で、映画監督もコンセプトもバラバラでしたが、なかなか楽しめました。
最新作「Counter Phrases」（2004年/ベルギー）は、10人の現代作曲家（ジョルジュ・アペルギス、ティエリー・ドゥ・メイ、ロビン・ドゥ・ラーフ、ルカ・フランチェスコニ、ジョナサン・ハーヴェイ、細川俊夫、マグヌス・リンドベルイ、スティーブ・ライヒ、ファウスト・ロミテッリ、ステファン・ヴァン・エイケン）の音楽をＢＧＭに、10のシーンとその間に時折挿入される無音の「in silence」で踊られます。音楽はダンスにふさわしい拍感のある作品が選ばれています。 「Hoppla!」（1989年/ベルギー）は、ベラ・バルトークの音楽が使用されています。ゲント大学の図書館で撮影されたようですが、奥に書架が見える程度でした。 「Ottone partI」（1991年/ベルギー）は、クラウディオ・モンテヴェルディ作曲のオペラ「ポッペアの戴冠」（指揮：ニコラウス・アーノンクール）を、演劇形式で撮影しています。キャストが割り振られていて、オペラで歌手が歌うかわりにダンサーが踊りで表現する趣向。ただ、登場人物がそれぞれ誰なのか紹介がないので、オペラのストーリーを知っていないとなかなかつらいものがありました。集団での踊りは少なく、イスなどの小道具を使った個人の踊りが中心です。カメラワークもダンサーのアップが多く、一挙手一投足に注目した撮影でした。ただ、画面の切り替わりが忙しすぎてブツ切り状態でショットの関連性が不明。また、白黒とカラーの映像が混ざっていましたが、その使い分けにどういう意味があるのか理解できませんでした。撮影方法が凝りすぎです。また、ステージ全体を映さないので、全体像が見えてこないのが不満です。たまにダンサーがマイクを持ってセリフ（スコアにないオリジナル）を話したり叫んだりしましたが、字幕が出ないので何を言っているのか分かりません。また、音楽を２倍速で再生させるなどの試みも何を狙っているのか分かりませんでした。最後はエンドクレジットも表示されず何の前触れもなく終わり。残念ながら、なぜこれを映画にしようとしたのかその意図が理解できませんでした。 ３作品ともパンフレットがないので、詳細な作品分析はできませんが、映画・音楽・ダンスを融合させようとする試みは大変面白く観ることができました。よく言われることですが、聴覚（音楽）よりも視覚（映像）のほうが印象に残りました。ダンサーの動きが異なれば、音楽がまた違うように聴こえたことでしょう。音楽は視覚に影響されやすいことを改めて実感しました。今回の上映が関西初公開だったようですが、もっとたくさん上映して欲しいです。 |
|
2005年5月9日 |
|
|
| 第2721回立命館土曜講座に行きました。立命館大学衣笠キャンパスで毎週土曜日の午後に約２時間開催されている無料講演会で、今月の特集は「映画の想像力」。この日は、株式会社如月社代表取締役（京都シネマ代表）で立命館大学産業社会学部非常勤講師の神谷雅子氏の講演「映画館で映画を観る、ということ」でした。神谷氏は、「京都朝日シネマ」の支配人を務められ、閉館に伴って如月社を設立して独立。昨年12月に「京都シネマ」を開館させました。 映画館だけでなく、ＤＶＤやテレビなどで映画を観られるようになった現在にあって、映画館で映画を観る魅力について、神谷氏は、集中できること、ライブであること、映画の世界へより深いアプローチができることの３点を挙げました。100年前にパリで上映されていた映画も紹介されました。京都シネマでは、ハリウッド以外の多様な映画を紹介すること、京都にある映画館としての役割を果たすこと、視聴覚障害者のためのバリアフリー上映会（副音声や字幕を追加する）の試みを行なっているとのことです。 講演後のフロアからの質疑応答では、なかなか厳しい意見が出されました。映画と歌舞伎などとの決定的な違いは、フィルムを通していることで、ライブ感覚になってもライブにはならない、映画はもっとバーチャルなものではないかという複製芸術である映画の性質についての意見や、映画ファンを拡大させるために映画館の入場料金を値下げするべきではないかという意見がありました。映画の将来性や映画産業全般に関わる本質的な質問もありましたが、映画をビジネスとして捉えている映画館にとっては、答えにくい質問もあったようです。映画館では映画を創ることができないので、映画館の立場で映画産業育成への関与するという点では一定の限界も感じられました。音楽に例えれば、積極的に演奏会を企画できるコンサートホールと違って、すでに完成されたソフトをいろいろ用意して客を待っているＣＤショップに近いのではないでしょうか。 京都シネマは開館したばかりですが、シネマコンプレックスとの差異化をどう進めていくかが課題になるでしょう。京都では、ＭＯＶＩＸ京都の増スクリーン（４月）と、ＴＯＨＯシネマズ二条の開館（６月下旬頃）が控えています。単館ロードショー映画館としては、設備投資以外の斬新なアイデアが必要でしょう。 文化庁は「日本映画・映像」振興プランの推進」を打ち出しており、東京芸術大学や宝塚造形芸術大学では、映画監督を教授に迎えた教育が始まります。また、映画興行も回復傾向にあるので悲観することはありませんが、映画の未来について深く考えさせる講演会でした。 |
|
2005年3月27日 |
|
|
| 上戸彩主演「あずみ」の第２作「あずみ２ Death or Love」（2005年/日本）が公開されました。2003年公開の第１作は「いままでの時代劇の概念を覆した」との評価を受けたようですが、出会いは本当に偶然でした。昨年末、東京・上野に行ったときに、ラーメン屋にあるテレビでたまたま放映されていたのです。そのときはもちろん部分的に見ただけだったのですが、今月２日にＴＢＳ系でテレビ放映されました。戦闘シーンでの血の出方がリアルだったので驚きました。血が流れる映像は苦手なのですが、これがＰＧ−１２でいいのでしょうか。オダギリジョーの常人離れした演技と、ラストの200人斬りが印象に残りました。画面構成やＢＧＭの使い方など繰り返して見るとよくできています。 今回の第２作では、監督が北村龍平氏から金子修介氏に変わって登場人物も増えています。前作同様、カットが多く、めまぐるしく場面が変わるので、ついていくのが大変でした。第１作では「生命の尊さ」や「人生の目的（＝使命）」について深く考えさせられましたが、第２作はストーリーが複雑になった分、メッセージ性が薄くなった気がします。第１作のシンプルなストーリー展開のほうがメリハリもあってよかったです。ストーリーは前作以上に「？」という流れが多く、突っ込みどころ満載でちょっと興ざめしました。特にラストシーンはありえない終わり方で、「あずみ３」につなげたい意志が感じられました。また、作為的な演出が目立つのが気になるところ。史実に基づかないフィクションとはいえ度が過ぎるように感じましたが、原作が漫画なので許されるのかもしれません。もしくは上戸と同世代が分かるように工夫したのでしょうか。 カメラワークはよくできています。見たいところにカメラが寄っていく感じ。どうやって撮影したのか興味がわきました。メイキングシーンを見てみたいです。撮影技法を研究している人には参考になるでしょう。 上戸彩の殺陣は格段に上手になって自然に振舞っています。金子監督お気に入りの栗山千明も存在感ある演技。高島礼子があまり似合わない役をやっていてなんだか笑えます。 余談ですが、上戸彩が身に着けている黒のマント（第１作で大道芸人やえから受け取った異国のもの）が手に入れたいのですが、売ってないのでしょうか。すごく売れると思うのですが。 |
|
2005年3月22日 |
|
|
| 映画「ベルリン・フィルと子どもたち（原題：RHYTHM IS IT!）」（2004年/ドイツ）がようやく京都に上陸。昨年末に新しくオープンした京都シネマで観ました。京都シネマは初めて行きましたが、ホテルや美術館を思わせるような高級感のある映画館でした。 この映画は、ベルリン在住の約250人の子どもたちが、サイモン・ラトル指揮するベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏をバックに、ストラヴィスキー作曲／バレエ音楽「春の祭典」にあわせてダンスを踊る、そのリハーサルから本番までの過程を描いています。ラトルが発案した教育プログラムの一環で「ダンス・プロジェクト」と名づけられていますが、この「春の祭典」に続いて、2004年にはラヴェル作曲／バレエ音楽「ダフニスとクロエ」を取り上げ、2005年にはストラヴィンスキー作曲／バレエ音楽「火の鳥」が予定されているようです。 ストーリーは、６週間に渡る子どもたちのダンスの練習を時系列で追いかけています。音楽的・芸術的な表現内容に焦点を合わせたものではなく、子どもたちの成長や意識の変化を中心に描いています。芸術映画というよりは、教育映画の性格が強いです。子どもたちを指導した振付師のロイストン・マルドゥームは、クラシック音楽やダンスに関心がない子どもたちにやる気を起こさせようと必死です。なかでも苦労したのは「集中させること」。子どもたちの私語だけでなく指導方法の不満も出て、練習はなかなか進みません。それでも怒らずに「君たちにはパワーがある」「このダンスの授業で人生も変えられる」と言って励ましながら、子どもたちに接している姿が印象的です。 断片的に、ラトルとベルリン・フィルによる「春の祭典」のリハーサル風景（本拠地ベルリン・フィルハーモニーで収録）やラトルのインタビューが挿入されます。ラトルの音楽作りの指示が興味深く、ベルリン・フィルも色彩感にあふれたすばらしい演奏を聴かせます。ベルリン・フィルの音色も以前と比べるとずいぶん軽くなって、音色の情報量が増えています。 2003年1月28日の本番は、2,500人の観客を集めてベルリン・アリーナで行なわれました。残念ながら、肝心の本番の演技演奏は部分的にカットされていて、演奏にしてもダンスにしてもすべてが収録されていません。今まで練習をずっと観てきて、本番の映像があまりにも短い。残念。 あと気になったのは字幕の文字が見にくいこと。白字ですが、背景が白の映像と重なることが多く、字が読めませんでした。 プロが演奏する音楽と子どもたちのダンスを融合させるという興味深いテーマを扱った映画です。音楽や芸術に関心がある方はもちろんのこと、子供と接する機会がある方にもおすすめの映画です。 |
|
2005年3月13日 |
|
|
| 芸大課題編の「映画批評「ヴィデオは映画研究をどう変える？」」をご覧ください。 |
|
|
| 映画「インストール」（2004年/日本）を公開初日に見ました。綿矢りさ＆上戸彩ファンにとっては、絶対に見逃せない映画だったので…。 綿矢りさの原作はまだ読んでいません。ストーリーは変化に富むものではなく意外に単純でしたが、場面設定が女子高生が作ったものにしてはよくできていると思います。その点も評価されて「第38回文藝賞」を受賞したのだろうと推測しますが、彼女はいったいどうやってこれらの知識を身につけたのでしょうか。私はチャットや風俗についての予備知識をあまり持ち合わせていなかったので、後でパンフレットを読んでシーンの意味を理解しました。 上戸彩は不安げな暗い表情が多かったです。落ち着いた声もいいですね。それ以上に、神木隆之介の堂々とした演技がすばらしかった。ネット世界に生息する小学生を巧みに演じています。 残念だったのは全編を通じてＢＧＭや効果音が必要以上に多いこと。テレビドラマ風の演出でしたが、上戸彩と神木隆之介の演技をじっくり見たかった。ただ、Rita iota(リタ・アイオウタ) の音楽は一度聴くとハマります（特に主題歌の「記憶のカケラ」）。また、画面が比較的頻繁に切り替わるので、『蹴りたい背中』で見せた綿矢りさの筆致からすると、もう少し落ち着いた雰囲気で進行して欲しいと思います。さらに欲を言うと、最初の展開が少し唐突でした。野沢朝子（上戸彩）がなぜ不登校になったのか、その心理描写をもう少し詳しく描いて欲しいと感じました。 綿矢りさはこの映画のプロモーションに参加しませんでしたが、パンフレットにメッセージは載せてくれています。しかし、「作者というよりは一人の観客として」この映画を見たいようです。 ネット依存症の自覚がある方は見ておいたほうがいいでしょう。ただ、上戸彩ファンは、間違いなく神木隆之介をうらやましく思うでしょう。 |
|
2004年12月26日 |
|
|
| 映画「真珠の耳飾りの少女（原題：GIRL WITH A PEARL EARRING）」(2002年/イギリス)を観ました。すばらしい映画でとても感動しました。 フェルメールの名画「真珠の耳飾りの少女」をもとにしたフィクションですが、作り話とは思えないほどよくできたストーリーです。「真珠の耳飾りの少女」で描かれている少女が誰なのか諸説ありますが、この映画ではフェルメールの家に雇われた使用人グリートだったという設定で、彼女とフェルメール一家の人間関係を中心にストーリーが進んでいきます。なによりもすばらしいのが、映画全体にフェルメールへの敬意が強く感じられること。彼のアトリエなどが実に忠実に再現されています。「合奏」などフェルメールの作品も数点登場しますが、いずれも一瞬しか画面に現れません。物足りないと思わせる演出が逆にフェルメール絵画の存在感を高めています。フェルメールはボサボサの頭で少し奇人っぽい印象です。事実、フェルメール家は貧乏だったようですが、「画家のアトリエ」で見せている後ろ姿とはあまりにもイメージが異なっているので驚きました。ラストシーンも実に見事。この映画全体に奥行きや余韻を感じさせ、その後どうなったのか考えさせてくれる作品です。アカデミー賞の「最優秀撮影賞」「最優秀美術賞」「最優秀衣装デザイン賞」にノミネートされましたが、それにもうなづける美しい映像に圧倒されました。 ひとつ残念なのは、セリフが英語で話されていること。イギリス映画なので英語が使われているのでしょうが、やはりオランダ語を使って欲しかったです。ここまでよくできた作品なら、映像だけでなく言語にもこだわりたいです。 何度も観たくなる映画に初めて出会えたような気がします。同じ芸術を題材にした映画でも「真珠の耳飾りの少女」と「スウィングガールズ」ではまさに雲泥の差と言えるでしょう。 |
|
2004年10月20日 |
|
|
| 芸大課題編の「映画批評「東京原発」」をご覧ください。 |
|
|
| 公開中の映画「スウィングガールズ）」（2004年/日本）を見ました。吹奏楽部員以外で急遽結成されたジャズバンドが文化祭で演奏するまでの物語ですが、いろいろ突っ込みたいことがあるので書きます。 まず、一番気になったのが楽器の扱い方。机の上に平気で放ったりする。あまりにも乱暴すぎ。危なっかしくて見てられません。雪合戦をするシーンがありますが、楽器ケースのふたを開けっ放しにしたままなんて論外。音楽を演奏する者は愛情を持って楽器に接するものです。もっと楽器は大切に扱って欲しい。中古だからなんて理由になりません。そう言えば、楽器を手入れするシーンもありませんでした。 次に、楽器練習の過程がほとんど描かれていません。合奏のシーンばっかり。楽譜を一生懸命読んでるシーンすらない。楽器を演奏する苦労や挫折がこの映画からはさっぱり伝わりません。しかし、あとでパンフレットを読んでから知ったことですが、映画で使われている音楽は、なんと俳優たち本人による演奏のようです（なかなかいい演奏でした）。楽譜も読めない子がいたりして合宿を組んで猛練習をしたらしいですが、だったらなぜ映画の中でその努力を見せなかったのか。映画に入れるとストーリー的におもしろくないと判断したのでしょうか。とても残念です。補足すると、楽器の演奏はそんなに早く上達するものではありません。映画の設定のように、誰もがたった半年で演奏会レベルの演奏を聞かせられるものではありません。楽器は簡単に演奏できるという誤解を必要以上に与えてしまうように感じました。 フィクションといえども、音楽が軽く扱われているのがとても気になりました。映画の題材にするなら、もう少しちゃんと勉強して欲しいです。 |
|
2004年09月15日 |
|
|
| 引き続き映画の話を。映画は映画館で観るに限るなんてことをよく聞きます。でも、私は映画館に行くよりもＤＶＤで買って観たほうがメリットが多いと思っています。理由は３つ。 １）映画館で上映される期間は限られている（昔に作られた映画を観るならＤＶＤに頼るしかない）。 ２）何度でも観れる。 ３）特典映像などのおまけがある。 テレビでの放送が最も安上がりな楽しみ方ですが、吹き替えになったり、コマーシャルが入ったり、たまにカットされたりするのが難点ですね。 |
|
2004年06月28日 |
|
|
| １ヶ月以上更新していませんでしたが、いちおう資料収集はやってます。最近は週末に演奏会に出かけることが多かったので、７月以降は課題を提出していきたいです。 最近、四方田犬彦（明治学院大学文学部芸術学科教授）の映画批評に触れることがありました。著書『日本映画史100年』を読みましたが、これがなかなかおもしろい。もっとも私は映画館でもＤＶＤでも映画はほとんど見ません。そんな私でも映画に興味を持ってしまうような内容でした。感銘を受けたのは「映画の歴史はけっして名作の歴史ではない。」の書き出しから始まって、「名もないフィルムに言及してこそ、日本映画を理解することができる」というスタンスです。有名な作品もそうでない作品もほとんど同列に扱う斬新な態度で、各作品を短いながら端的に評価分析をしています。音楽批評では、このような個性的な視点は極めて少数派でしょう。音楽批評は固定観念にしばられているのかもしれません。あと感じたのは、ものすごい量の映画を見ているということ。やっぱり音楽も多くの作品・演奏を聴かないとダメだなと思いました。 |
|
2004年06月27日 |
