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監督:蜷川実花 原作:安野モヨコ 脚本:タナダユキ 音楽:椎名林檎 出演:土屋アンナ(きよ葉・日暮) 制作データ:2007年 アスミック・エース |
映画「さくらん」(2007年/日本)を見ました。原作は、安野モヨコの漫画「さくらん」。椎名林檎が初めて音楽監督を務めた映画ということで、首を長くして公開を待っていました。
蜷川実花の監督、安野モヨコの原作、タナダユキの脚本、椎名林檎の音楽、土屋アンナの主演という顔ぶれで、「いま最高にかっこいい女たちが、この映画で勝負する」というコピーが使われました。写真家である蜷川実花は映画監督初挑戦です。2007年2月24日に関東ロードショー、3月3日から全国拡大公開されました。かなりの人気で、満席続きでした。ちなみに、第57回ベルリン国際映画祭正式出品(特別招待作品)、第31回香港国際映画祭正式出品(特別招待作品)として海外でも上映されました。
パンフレットに掲載されたプロダクションノートによると、蜷川実花に映画監督の話が持ちかけられたのは、2002年頃とのこと。2004年に「さくらん」の映画化を決定。2005年秋には、椎名林檎に音楽のオファーがあったようです。クランクインは2006年3月15日。約60日間の撮影と1ヶ月のフィルム編集の後、椎名林檎が3ヶ月の音楽製作に入ったようです。椎名林檎が音楽監督を務めることが発表されたのは2006年11月1日でしたが、ずいぶん前から進められていたようです。
DVD「さくらん 特別版」が発売されたので、いくつか付け足しました。
ストーリー
江戸・吉原の遊郭、玉菊屋に身売りされた少女が花魁として成長し、最後は身請けされる前に店番の清次と逃げ出すまでを描いています。ストーリーとしては平凡な展開です。キャストが充実しているだけに、もっと複雑なストーリーにしてもよかったと思います。主役のきよ葉(のちの日暮)が、蹴ったり叫んだりキセルを吸ったり、従来の花魁像を打ち破り荒々しい女性として自由奔放に描かれているのが斬新です。
コマ数が多く、展開が速いです。ストーリーについていけない部分もありました。また、日暮と清次が玉菊屋を逃げ出すまでの経過は、伏線が少なく急展開で、やや唐突に感じます。
スタッフ
蜷川実花は写真家だけあって、画面が鮮やか。色彩感がすばらしい。まさに動く写真という感じで、ワンショットづつ丁寧に撮影されています。映画はショットの積み重ねであることを実感させられました。初監督とは思えないほどの素晴らしい出来で、次回作にも大いに期待が持てます。
美術は岩城南海子。「金魚はびいどろのなかでしか生きられない」という粧ひの言葉をもとに、いたるところに金魚を使った幻想的な映像が現われます。セットも素晴らしい。
スタイリストは伊賀大介と杉山優子。椎名林檎のDVD「百色眼鏡」で、それぞれ「洋装」「和装」とクレジットされています。
俳優
主演の土屋アンナのことは、この映画を見るまでまったく知りませんでした。ハーフでファッションモデル、女優、歌手と幅広く活躍しているそうですね。まさにはまり役で、型破りの花魁役にぴったり。ハスキーな声もいい。蜷川実花は、「平均点を取ってくる女じゃない」「ほんとに変わった生き物」「演技じゃない」「本物の感情なんだよね」と土屋アンナの演技を評価しています(公開直前ナビゲートDVD「さくらん〜花魁音楽画巻〜」)。
PG-12指定の映画で、女性の肌の露出がかなり多くてびっくりしました。風呂場や床入りのシーンなど、かなり刺激が強いです。土屋アンナ、木村佳乃、菅野美穂も大胆な演技を披露。木村佳乃は「あそこまでのラブシーンを演じるのは初めて」と話しています(公開直前ナビゲートDVD「さくらん〜花魁音楽画巻〜」)。
対する男性役者は、ちょっと頼りない印象。女性が製作した映画だからでしょうか。どの役もあまり個性を感じませんでした。清次役の安藤政信もちょっと弱々しいです。
脇役が異常に充実しているのも特徴です。お蘭役の小泉今日子、花屋役の小栗旬、俺達役の忌野清志郎、ゴリ(ガレッジセール)など、エンドクレジットを見るまで出演していたことに気づきませんでした。
椎名林檎の音楽
2007年2月21日に発売されたアルバム「平成風俗」を先に聴いていたので、どういうふうに映画で使われるのか気になっていました。『Rockin' on Japan』2006年1月号のインタビューでは、椎名林檎のプロモーションビデオっぽいような印象を受けましたが、予想に反して断片的に使われていました。歌を消して伴奏だけ使ったり場面に応じていろいろ工夫がされていました。全体的には、大成功といえるでしょう。椎名林檎はいろんなジャンルに応用できるアーティストだと改めて実感しました。特にオープニングテーマ「迷彩」にはゾクッときました。この作品の雰囲気にぴったりです。ただ、「花魁」など歌詞が英語の曲には映画の設定から考えてちょっと違和感がありました。
公開直前ナビゲートDVD「さくらん〜花魁音楽画巻〜」に椎名林檎のインタビューが収録されています。オーケストラで使用した理由について「アンナちゃんがあのお顔であのスタイルのよさで着物を着てしまわれると、もうそれだけでロックを感じたので、ツーマッチになっちゃうと思って」とコメントしています。また、映画で使われた「錯乱」と「花魁」についてのエピソードを語っています。「タイトルつけられるときに、confusionという意味の錯乱と、花魁を掛けた言葉として、(「さくらん」と)ひらがな表記されたっていうのを小耳に挟んだもんですから、「あ、絶対にいい」って思ってたんですね。だからそれと対になるように、アレンジしようと思って。「花魁」っていう曲は、女性が小気味よく生きているさま、その軽やかさを表現する曲にしたい。「錯乱」は、ドロドロした主観的なさくらんの曲っていうのを書こうと思って、錯乱を書き下ろしたんですが、いろんなアレンジで録ってますけど、あちこちにパーツで持っていっても大丈夫なように作っとこうと思った」と話しています。
主題歌「カリソメ乙女」 作詞・作曲:椎名林檎 編曲:斎藤ネコ 演奏:カリソメオーケストラ
オープニングテーマ「迷彩」 作詞・作曲:椎名林檎 唄:椎名林檎 編曲・指揮:斎藤ネコ 演奏:マタタビオーケストラ
エンディングテーマ「この世の限り」 作詞・作曲:椎名林檎 唄:椎名林檎・椎名純平 編曲・指揮:斎藤ネコ 演奏:マタタビオーケストラ
「錯乱」 作詞・作曲:椎名林檎 唄:椎名林檎 編曲・指揮:斎藤ネコ 演奏:マタタビオーケストラ
「ギャンブル」 作詞・作曲:椎名林檎 唄:椎名林檎 編曲・指揮:斎藤ネコ 演奏:コマエノオーケストラ
「花魁」 作詞・作曲:浮雲 英訳:椎名林檎 唄:椎名林檎 打込:椎名林檎 弦楽編曲・指揮:斎藤ネコ
「茎」 作詞・作曲:椎名林檎 唄:椎名林檎 編曲・指揮:斎藤ネコ 演奏:マタタビオーケストラ
「夢のあと」 作詞・作曲:椎名林檎 唄:椎名林檎 編曲・指揮:斎藤ネコ 演奏:マタタビオーケストラ
「錯乱」 作曲:椎名林檎 演奏:斎藤ネコ・長谷川きよし
「粧ひのテーマ」 演奏:斎藤ネコ
「夢のあと」 演奏:伊澤一葉
「濡れ場」 演奏:マタタビオーケストラ 打込:椎名林檎・井上雨迩
「ポルターガイスト」 演奏:椎名林檎
「子供部屋」 演奏:椎名林檎
「la salle de bain」 作曲:椎名林檎 編曲・指揮:斎藤ネコ 演奏:マタタビオーケストラ
「パパイヤマンゴー」(「MANGOS」) 作詞・作曲:SID WAYNE、DEE LIBBEY 編曲・指揮:斎藤ネコ 演奏:マタタビオーケストラ
関連商品
映画公開前から関連商品が発売されるなど、盛り上がりを見せました。私が購入したアイテムを紹介します。
・極彩色ミュージックDVD(2006年11月11日発売)
公開映画館で前売券ペア券(3,000円)を購入すると、「極彩色ミュージックDVD」2枚が特典でついてきました。10,000名限定発売でした。DVDの内容は、「其の一 特報」は、映画館で上映されたと思われる約40秒の「特報」映像。「其の二 極彩色ミュージックPV」は映画本編映像からの抜粋。BGMは「カリソメ乙女(DEATH JAZZ ver.)」で、約1分半の映像。収録時間が予想外に短くてがっかり。
・続・極彩色ミュージックDVD(2006年12月12日発売)
タワーレコードで5,000セット限定販売。前売券ペア券(3,000円)を購入すると、「続・極彩色ミュージックDVD」2枚がついてきました。12月5日から@TOWER.JPで予約販売が受け付けられました。「其の一 特報」は、上記の「極彩色ミュージックDVD」とまったく同じ。なんじゃこりゃ。「其の二 続・極彩色ミュージックPV」は、「カリソメ乙女(HITOKUCHIZAKA ver.)」をBGMに、抜粋映像が流れますが、使われている映像は「極彩色ミュージックPV」とほとんど同じ。「続」となっていますが、関連性はありません。わざわざペア券を2枚買ったのに、お目当てのDVDが期待はずれでした。
・公開直前ナビゲートDVD「さくらん〜花魁音楽画巻〜」(2007年2月21日発売)
公開を記念して、角川エンタテインメントから1,980円で発売されました。約23分の「花魁音楽画巻」では、出演者と蜷川実花、椎名林檎のインタビュー映像と、撮影風景が収録されています。映画を見た後にこのDVDを見ましたが、十分楽しめました。椎名林檎は黒の短髪、黒い衣装で、セットをバックに畳に座って答えています。また、「予告編集」では、「特報1」「特報2」「特報3」「予告編」の映像が見られます。
・さくらん特別版(2007年8月3日発売)
公開後にDVDさくらん 特別版」(初回生産限定 2枚組)が発売されました。何回も見ることができるようになったのでうれしいです。DVD用に蜷川実花が色をやり直したそうで、色彩がとても鮮やかです。日本語と英語の字幕機能がついています。セリフに禿(かむろ)や昼三(ちゅうさん)など専門用語が多いので、字幕で文字で見ると分かりやすいです。
また、コメンタリーも収録されています。土屋アンナ、安藤政信、蜷川実花、プロデューサーの宇田充の4人が映画本編を見ながら、撮影時の裏話や思い出話を話します。酒を飲んでタバコを吸いながら話しているようで、素のトークになっています。土屋アンナのトークが脱線しまくりで、役とのギャップがすごいです。このシーンは合成かどうかとか、隣で「どろろ」を撮っていて妻夫木聡が見に来たとか、石橋蓮司の眉毛はつけ眉毛とか、本編を見ただけでは分からない知識が得られます。「風呂場のシーンは男子受けが悪い」と蜷川実花が話しています。椎名林檎の音楽は高く評価されています。
Disc2は、特典ディスク。メイキング「さくらん撮影日記」〜密着三ヶ月!花魁たちの支度部屋〜は、2006年3月15日のクランクインから5月11日のクランクアップまでのNGシーンを含むメイキング映像です。大勢のスタッフで撮影が行なわれていて、映画は総合芸術だと実感します。どういう順番で撮影されたかが分かります。ただし、風呂場や濡れ場などデリケートな場面のメイキングは撮影されていません。撮休も意外にあります。土屋アンナの花魁のカツラは3キロもあって途中で体調が悪くなったとか、蜷川実花も落ち込んだ時期があったとか、撮影の秘話も明かされます。また主要スタッフのコメントも収録されています。照明、録音、美術、スタイリストのスタッフが、こだわりのシーンについてコメントしています。蜷川実花は「私が一番経験値がない状態で監督なわけじゃない。いろんな人がこういう風にしたほうがいいよ、こうがいいよって教えてくれて、その中の何を聞いて何を聞かないか。安定感のある映画が撮りたければ私に話は来ないわけで、蜷川実花であることの必要性ってすごくあって、自分の中の何を守り通して、何を教えてもらうかっていうバランスが一番難しかったかな」と話しました。助監督の山本透は、蜷川実花について「割り切りも早い。右がダメなら左っていうのを即言える人。右左ダメだったら、真ん中突っ切っちゃうみたいなことがすぐ言える人」とコメントしています。照明の熊谷秀夫のコメントも勉強になります。
未使用シーン集〜切って切なく〜は、本編で使用されなかった未使用シーン集。けっこう多いです。前後関係でなくても分かるので、カットされたのでしょう。
イベント桜前線!宣伝道中〜2006春−2007春〜は、記者会見や舞台挨拶の映像を集めています。吉原神社参り・プロジェクト発表記者会見(2006.4.1)、クランクアップ記者会見(2006.5.14)、ベルリン国際映画祭出陣記者会見・完成披露試写会(2007.1.30)、名古屋「御園座」完成披露試写会(2007.2.19)、初日記者会見(タワーレコード渋谷店)・初日舞台挨拶(2007.2.24)を収録しています。土屋アンナは2006年は黒髪ですが、2007年は金髪です。金髪だと外人のように見えます。舞台挨拶では意外にもあまりしゃべりません。
「さくらん」極彩色絵巻〜スペシャル番組集〜は、映画公開前にテレビで放送された特別番組を収録しています。「さくらん 極彩色青春絵巻」は、3分30秒の特番が3バージョン収録されています。椎名林檎はインタビューで「非常に現代的に、若者の方々、そういう方々にとっつきやすく一生懸命工夫されたんじゃないかなとは思います。あまり花魁であることとかっていうことより、今にも通じる女性の生き方、あり方を提示されたんじゃないかなってみなさんのお芝居を拝見してて思います」と話しました。音楽監督を担当した経緯について「実花ちゃんが映画の監督をなさるかもしれないみたいなメールをくださったんですけど、やらしていただけたらそれは楽しみだなと」「何となく漠然とできるのかなあという思いを」と話しました。また、「サウンドトラックっていうものが嫌いなんですよ、私。非常に聴いてておもしろくない。歌が入ってなくて、何この音みたいなのがいっぱい入ってるっていうサウンドトラックっていうのはもともと作る気はなかったです」「「この世の限り」どエンディング。それはここにあるものが全部幻だったらどうしようとか考えるときに、一番いい方法で今を楽しく過ごすにはどうしたらいいかみたいなイメージで書き下ろしました」と話しました。お気に入りのシーンは、「左團次さんとアンナちゃんの水揚げの素敵なシーンがすごく好きです。セリフがもともとなくて、音楽(カリソメ乙女(HITOKUCHIZAKA ver.))で見せるシーンだってうかがってたので、すごく映像もきれいだし、赤いお部屋の。だから、すごくのびのびと作らせていただいたというのがあるので。そこから店のシーン(パパイヤマンゴー)に行くまで安心して見られる感じにできたんじゃないかなと自負しております」と話しました。蜷川監督との仕事については、「初監督っておっしゃるからそういうのもあるんだろうけど、まったく型破りだし、それがいいと思われる感覚っていうのは、ほら私は自分がいいか悪いかっていうことでしか商品を作ったことがないので、そこに応えていく作業っていうこと自体がもう新鮮で喜びに満ちたものでした」と話しました。
蜷川実花は「(椎名林檎の)大ファンで、彼女と一緒に仕事ができるってすっごくうれしい。全部CD持ってるし、本当に尊敬していて。アンナさんもそうだったけど、大好きな人とやるときってうまく作用しないと足し算にすらならないときがあって」と話しました。土屋アンナについては「野生動物みたいじゃない。すごい珍獣だよね。あんな生き物見たことないよって何度でも思うけど」とコメントしました。
「さくらん 極彩色ワンダーランドツアー」は、2月24日(土)26:00〜26:30(再放送は3月31日(土)26:00〜26:30)に朝日放送で放送されました。若菊役を務めた美波が、現代の花魁(イイ女)をめぐります。ナレーターは、SOIL&"PIMP"SESSIONSの社長が担当。美波と蜷川実花のトークでは、監督とカメラマンの違いについて、蜷川は「本当に違うことだらけで、普段はかわいいとかきれいとか思ったらそのままシャッターを押せるから、感情とすごく直結しやすいんだけど、(映画監督は)ほんといちいち全部言葉にして伝えるっていうことの大切さはコミュニケーション能力がすごくいるなってことをものすごい思ったね」と話しました。椎名林檎のインタビューもありますが、上述の「さくらん 極彩色青春絵巻」と同じでした。
THIS IS O-I-R-A-N〜「さくらん」海外出陣映像集〜は、第57回ベルリン国際映画祭(2007.2.9)と、第31回香港国際映画祭(2007.3.20)での舞台挨拶を収録。ベルリン国際映画祭のレッドカーペットは、蜷川実花は紫色の着物、土屋アンナは黒色の着物で登場します。土屋アンナの金髪が長髪になっていますが、おそらく付け毛でしょう。上映後の舞台挨拶では土屋アンナが「(監督と)何回かけんかしました」と話しました。また、「イギリスTV局による蜷川実花インタビュー」も収録。蜷川実花は「他の写真や映画は見ない。自分が作り出すものに似てるものからはなるべくインスピレーションを受けないようにしてる。例えば、舞台とか、道端に咲いてる花とか、空がきれいだなとか、マンガとか、小説とか、なるべく写真から遠いものからアイデアやインスピレーションを受けるように心がけてる」と話しました。
2007.5.1 記
2007.12.2 更新