日下部任良 巨大ダム堤体内ソロコンサート「幻想空間 an acoustic space」


  2024年6月29日(土)16:00開演
日吉ダム インフォギャラリー

日下部任良(サクソフォン)、明田泰史(音響)

グラス/サクソフォンのための旋律第6番
ベリオ/セクエンツァⅦb
グラス/サクソフォンのための旋律第8番
酒井健治/エーテル幻想Ⅱ
グラス/サクソフォンのための旋律第10番
ビーバー/パッサカリア
グラス/サクソフォンのための旋律第5番
田中カレン/ナイト・バード

座席:全席自由


ダムの内部でサクソフォンを演奏するという大変珍しいコンサートに行きました。京都新聞のネット記事で見つけて、「非常に長い残響のある場所の特性を生かし、響きに包まれる感覚になる趣向」に興味があったので聴きに行きました。主催は京都・森の音楽祭(音楽祭については後述)。予約不要で、入場無料でした。

演奏者は、サクソフォン奏者の日下部任良(くさかべただよし)。亀岡市出身で、現在は愛知県在住。広島ウインドオーケストラでテナーサクソフォンを担当していて、大阪フィルハーモニー交響楽団第575回定期演奏会のショスタコーヴィチ「ステージ・オーケストラのための組曲より」では、アルトサックスを演奏しました。京都女子大学でも非常勤講師を務めています。本公演について、日下部のInstagram(@tadayoshi.kusakabe)では「ダム内のナチュラルリバーブを存分に味わっていただけるであろう選曲をしました」と紹介しています。

演奏場所は、日吉ダムのインフォギャラリー。京都府南丹市日吉町にあります。JR山陰本線の園部駅から、単線で2両編成のワンマン電車に乗って、北に2駅の日吉駅が最寄り駅です。無人駅ですが、簡易型自動改札機が設置されているので、ICOCAが使用できます。日吉駅から、1日3往復の南丹市営バスに乗って、ひよし温泉のバス停で下車(5分で運賃は300円)。徒歩でも30分ほどの距離なので、帰路は歩きました。

日吉ダムは1997年に完成。ダムの高さは約70メートル、長さは約440メートル。この日も水が勢いよく放出されていて、大きな音がしました。ダムを流れるのは桂川で、京都市内を流れる桂川がこんなに北から始まるとは知りませんでした。この地区にはかつて200戸以上の集落がありましたが、ダム建設にあたって移転し、ダムの底に沈みました。ダム湖の天若湖(あまわかこ)は、甲子園球場の約70個分の広さがあります。
ダムの周辺は「地域に開かれたダム」施策として、温泉複合施設の「スプリングひよし」があり、温泉(露天風呂もあって本格的)やプールがあり、キャンプ場にはテントがたくさん張られていました。レストラン桂川では、ひよしダムカレー(980円)が食べられます。その他のメニューもおいしかったです。

インフォギャラリーは、日本で初めてダム堤体内部が見学できるようになった施設で、見学は無料。1階がインフォギャラリー、2階は展望テラス、3階はダム堤頂で、エレベーターで移動できます。ダムの内部はとても涼しい。夏は涼しく、冬は暖かいそうです。インフォギャラリーはトンネルのように奥行きがあり細長い構造で、「日吉ダムのあゆみゾーン」「ダム建設ゾーン」「ダム管理ゾーン」「ゲート見学室」の4つのゾーンに分かれています。

インフォギャラリーの受付にプログラムが置かれていました。このコンサートは「幻想空間 an acoustic space」と名付けられました。プログラムには曲名が書いてあるだけで、作品解説などはなし。インフォギャラリーは16時閉館なので、それに合わせて開演。日下部は一番奥の「ゲート見学室」のゾーンで立って演奏しました。京都新聞の記事では「聴衆から見えない場所で演奏」と書かれていて、「ダム管理ゾーン」の長いトンネルにも響くので、残響を楽しむのはそちらで聴いたほうがよいのでしょうが、やはり演奏している姿を見たいということなのでしょう。80人ほどが集まりました。立って聴きます。

日下部は曲によってアルト・サクソフォンとソプラノ・サクソフォンを持ち替えて演奏しました。曲間でのトークや拍手はなし。プログラムは各曲をフィリップ・グラス「サクソフォンのための旋律」で挟み込む構成でした。1995年の作品で、13曲から成りますが、本公演ではそのうち4曲が演奏されました。

プログラム1曲目は、グラス作曲/サクソフォンのための旋律第6番。アルト・サクソフォンで演奏。ゆったりした短い曲。

曲間でトークなどはなく、プログラム2曲目は、ベリオ作曲/セクエンツァⅦb。1969年の作曲で、原曲はオーボエで演奏されます。ソプラノ・サクソフォンに持ち替えて演奏。日下部が自ら装置を使って冒頭の音を伸ばして聴かせて、残響と呼応させます。長めの曲で、アルトサックスを尺八のように強い息を吹き込む奏法や、タンギングで音を割る奏法など今聴いても現代的です。鳥の鳴き声のような部分もあって多彩な奏法が楽しめました。

プログラム3曲目は、グラス作曲/サクソフォンのための旋律第8番。アルト・サクソフォンで演奏。和風の旋律が意外でしたが、サックスによく似合います。

プログラム4曲目は、酒井健治作曲/エーテル幻想Ⅱ。酒井健治は京都市立芸術大学音楽学部作曲専攻で准教授を務めています。2019年に初演されて、初演した上野耕平に献呈されました。アルト・サクソフォンで演奏。 動と静、急と緩の対比がはっきりしていて、高音でキュイというサックスとは思えない音もありました。音を割る奏法もあって、表情の切り替えが忙しい作品。

プログラム5曲目は、グラス作曲/サクソフォンのための旋律第10番。ソプラノ・サクソフォンでゆっくり演奏。

プログラム6曲目は、ビーバー作曲/パッサカリア。ソプラノ・サクソフォンで演奏。もともとヴァイオリンのための作品で、1674年頃の作曲。バロック風の美しいメロディーが奏でられました。豊かな残響によって作品の魅力も増幅します。後述のYouTubeで聴くと、高音の運指やタンギングなど、もう少し演奏の完成度は上げられそうですね。

プログラム7曲目は、グラス作曲/サクソフォンのための旋律第5番。ソプラノ・サクソフォンで演奏。トレモロだけで演奏されました。

プログラム8曲目は、田中カレン作曲/ナイト・バード。アルト・サクソフォンとエレクトロニクスのための作品で、1997年の作曲。演奏前に日下部がトーク。「この曲はダムで演奏するために選んだ」と紹介。音響と合わせるために、分数を計って演奏するとのこと。音響は明田泰史が機器を操作しました。スピーカーはトンネルの方に向いていて、効果音が流れました。せっかくなのでトンネル(ダム管理ゾーン)に移動して聴きました。息が長いメロディーで、サクソフォンの響きは伸びがあってよく響きました。不思議な音響空間です。後述のYouTubeで聴いても最も完成度が高い演奏です。

演奏後に、日下部は「ここに集まった人は、京都新聞を見て来てくれたアンテナが鋭い人」と賞賛。最後に8月に開催される「ヨアール・サクソフォン・カルテット 南丹市コンサート」の宣伝。南丹市国際交流協会の主催で、京都・森の音楽祭として開催されます。日下部は「北欧からやってくる」と紹介。初来日で、8月5日から7日に南丹市内の4会場で開催されます。8月6日(火)のアスエルそのべ(南丹市園部文化会館)の公演には、日下部もゲストで出演します。要事前予約ですが、なんと入場無料なので聴きに行きたいですが、平日の公演で、会場がJRの駅から離れていて、京都市内からだと開演に間に合わないので断念。無料で聴けるのはうらやましいです。50分ほどで終了しました。

なお、7月11日にYouTubeに「ダム堤体内「技術ミュージアム」コンサート」のタイトルで演奏動画が掲載されました。@sonysat20rのアカウントからの投稿で、曲間をたまにカットして、約41分の動画です。日下部の右横に置かれた固定カメラでの撮影で、運指はよく見れますが、残念ながらダムの音響の伸びやかさはあまり感じられません。

ダムの内部という独特のクローズドな空間で、豊かな残響の中で演奏が楽しめました。ぜひ毎年開催して欲しいです。

普通胡麻行き(園部駅) 日吉駅ホーム 日吉駅 南丹市営バス(ひよし温泉行き) 連絡路から日吉ダムを望む ふれあい橋から日吉ダムを望む 日吉ダム堤頂からスプリングスひよしを望む インフォギャラリー入口 日吉ダムのあゆみゾーン ダム管理ゾーン 日下部任良(ゲート見学室)

 

(2024.7.11記)
(2024.9.30更新)

 

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