佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ2023


  2023年8月27日(日)15:00開演
兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

佐渡裕指揮/スーパーキッズ・オーケストラ

ホルスト/セント・ポール組曲より第1楽章「ジーグ」
モリコーネ(池田明子編)/ニュー・シネマ・パラダイス
ウィーラン(池田明子編)/1B~アパラチアン・ジャーニー~
イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番より第4楽章「復讐の女神たち」
ラ・トンベル/3台のチェロのための組曲より第3楽章「スケルツァンド・プレスト」、第5楽章「終曲、アレグロ」
レスピーギ/リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲
芥川也寸志/弦楽のための三楽章ートリプティークーより第1楽章「アレグロ」
伝承音楽(池田明子編)/ミシルルー
モンティ(池田明子編)/チャールダーシュ
イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番
チャイコフスキー/弦楽セレナード

座席:A席 1階M列31番


佐渡裕が芸術監督を務めるスーパー・キッズオーケストラ(SKO)を初めて聴きました。2003年に結成されて、今年が創立20周年です。兵庫県立芸術文化センターが開館するよりも前に結成されたのは知りませんでした。「オーケストラ」という名称ですが、弦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)のみで、管楽器や打楽器はいないので、弦楽オーケストラです。メンバーは小学生から高校生までで、2020年にはデビューアルバム「TEENAGERS(佐渡裕&スーパーキッズ・オーケストラの奇跡)」をリリースしました。

年間活動の流れは、4月にオーディション、5月にアンサンブル形成、8月にミュージックキャンプ(合宿)と成果披露公演(つまり本公演)、9月は各種演奏活動です。2023年度のメンバー募集概要によると、応募条件は小学1年生から高校3年生まで。練習や演奏会の参加にかかわる交通費や宿泊費は自己負担で、演奏会の出演料もなし。審査方法は、第1次審査(動画審査)を経て、第2次審査(実技審査)は佐渡裕が審査しました。運営は、兵庫県立芸術文化センター楽団部が担っているようです。練習は週末に毎月2~3回程度とのこと。

佐渡裕は、ウィーンのトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督、兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウィンド・オーケストラ首席指揮者に加えて、2023年4月から新日本フィルハーモニー交響楽団の第5代音楽監督に就任しました。スーパーキッズ・オーケストラのためによく時間を割けるものだと感心を超えて、尊敬します。また「特別指導」として、小野明子(メニューイン音楽院、ギルドホール音楽院教授)が参画しています。さらに「ОBコーチ(指揮)」として、京都市ジュニアオーケストラで副指揮者を務めた岡本陸が名を連ねています。ちなみに、OBOGオーケストラとして「スーパーストリングスコーベ」(SSK)が2017年に設立されました。佐渡裕は関わっていないようですが、今年12月には第6回定期公演を開催します。

本公演は、SKO初めての日曜日2回公演とのこと。これまでは土曜と日曜の2日公演だったようです。1回目の公演は10:30開演で、あまりにも朝が早すぎるので、15:00開演の2回目の公演に行きました。芸術文化センター先行販売で購入しましたが、あまりいい席がなく1階席にしました。「予定されるプログラム」は発表されていましたが、曲目が決定したのは本番直前の8月23日と遅い。おそらく合宿での練習を経て決定したのでしょう。ちなみに、A席が3000円、B席が1000円でした(京都市ジュニアオーケストラよりも高額です)。

プログラムには、「SKO MEMBERS INTRODUCTION」として、メンバーがカラーの顔写真入りで紹介。現在のメンバーは、第1ヴァイオリンが10名、第2ヴァイオリンが10名、ヴィオラが5名、チェロが8名、コントラバスが1名の34名のようです。学年順では、小学5年が1名、小学6年が1名、中学1年が7名、中学2年が6名、中学3年が2名、高校1年が8名、高校2年が4名、高校3年が5名です。男子より女子のほうが多い。入団時期はまちまちですが、高校3年で卒業になります。また、賛助メンバーとして14名(ヴァイオリン5名、ヴィオラ4名、コントラバス5名)が出演しました。総勢で48名です。なお、7月30日(日)から8月1日(火)まで洲本市(淡路島)で2泊3日の合宿を実施しました。佐渡も参加して、洲本市文化体育館での合奏練習のあと、最終日には洲本市内の3ヶ所で成果披露のアウトリーチ演奏会を開催しました。

開場は14:15でしたが、 開演30分前の14:30からステージでウェルカム演奏。プログラムにも演奏者と演奏曲が掲載されています。開場中ですが、一人でステージで登場して立奏。パガニーニ作曲/24のカプリースより第18番。中学2年生の男子で背は小さいですが、演奏は堂々として本格的。続いて、モーツァルト作曲/ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲第1番より第3楽章を、中学生の女子2人が演奏。開演なのでしゃべっている人も多くいので、BGMのような扱いです。演奏者はどんな気分なのでしょうか。プログラムを見て初めて分かりましたが、10:30公演と15:00公演では、弦楽オーケストラで演奏される曲は共通ですが、ウェルカム演奏やソロやアンサンブルは演奏者や演奏曲が異なります。

ほぼ満席で、15:00に開演。メンバーが堂々と入場。スーツのような揃いの衣装です。左から、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの順で、コントラバスは後ろに1列で並びました。マスクなしで演奏。佐渡が最後に入場して、チューニングなしで、プログラム1曲目は、ホルスト作曲/セント・ポール組曲より第1楽章「ジーグ」。上記のデビューアルバム「TEENAGERS」には全楽章が収録されています。石田組(石田組2023/2024アルバム発売記念ツアー)などで聴いていますが、テンポが速い。メンバーの気持ちが前のめりで、ロックのグルーヴ感と言ってもいいような高揚感があります。全楽章聴いてみたいですね。なお、ステージ後方にテレビカメラがあって、カメラマンが左右に移動させました。映像はMBSテレビで9月18日に放送されました(詳細は後述)。

佐渡がマイクで挨拶。「SKOは一番最初に依頼があった仕事で、明石市から花火大会の事故の後に子どもが元気がでるものをと頼まれた。明石市立市民会館がスーパーキッズ・オーケストラの初めての公演だった」と創設時の思い出を語りました。「2回公演する日が来るとは思わなかった。午前中にじゅうぶん練習ができている」と話して笑わせましたが、「奇跡が起こせる年齢」と話し、若い子供たちの可能性を伸ばしたい気持ちが伝わりました。
プログラム2曲目は、モリコーネ作曲(池田明子編)/ニュー・シネマ・パラダイス。デビューアルバム「TEENAGERS」に収録されています。この映画の主人公は男の子らしいですが、それに近い年齢の子が弾くと気持ちが高まりますね。いいメロディーです。
プログラム3曲目は、ウィーラン作曲(池田明子編)/1B~アパラチアン・ジャーニー~。ここで初めてチューニングしたと思ったら、そのまま曲が始まりました。SKOでよく演奏されている曲とのことで、デビューアルバム「TEENAGERS」にも収録されています。第1ヴァイオリントップと第2ヴァイオリントップが立奏して、ラストはヴァイオリンとヴィオラが立奏。

女子メンバー二人によるMC。原稿なしでよく話します。本公演の練習は春から始まったとのことで、合宿では佐渡監督とバーベキューと花火をしたとのこと。なお、佐渡のことをメンバーは「佐渡監督」と呼びます。ここからは、団内オーディションで選ばれたソロとアンサンブルの発表で、プログラム4曲目は、イザイ作曲/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番より第4楽章「復讐の女神たち」。ヴァイオリンソロで、重音で「怒りの日」の旋律が出てくるなど難曲です。暗譜で立奏しましたが、なんと中学1年生の男子。すごいレベルです。
プログラム5曲目は、ラ・トンベル作曲/3台のチェロのための組曲より第3楽章「スケルツァンド・プレスト」、第5楽章「終曲、アレグロ」。男子高校生3名によるチェロ三重奏で、なめらかに響きました。

佐渡は「団内オーディションをするのは、競争的な環境に身を置くため」と解説。今後の活動を考えて、実力を重視しているようです。「3回くらい入団オーディションに落ちた子もいる」と語りました。続いて、SKOの20年間の歩みを仮想空間(メタバース)で作成したことの宣伝(https://superkids-orchestra.com/mpWZZgh/sko-school)。20年分の写真や映像が楽しめるようですが、重すぎて使いにくいのが残念すぎます。「20年間の取組で、印象深いのは東日本大震災後の被災地の訪問」と語って、東日本大震災復興支援チャリティー販売の「チャリティーTシャツ」の宣伝。セーラー服みたいなデザインで、数量限定で佐渡のサイン入りとのこと。値段が3800円と聞いて「意外に高いな」とボソリ。佐渡も原稿なしで告知事項をすらすらと話します。

プログラム6曲目は、レスピーギ作曲/リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲。佐渡がユネスコ本部やノートルダム大聖堂のミサで演奏した思い出を語りました。第1楽章は軽やかな響き。第2楽章はAndante cantabileをたっぷり歌います。第3楽章は音量をセーブしないので音量過多。第4楽章は24小節(Energico e più animato)からがロックのようなノリ。

休憩後のプログラム7曲目は、芥川也寸志作曲/弦楽のための三楽章ートリプティークーより第1楽章「アレグロ」。チューニングなしですぐに指揮。テンポが速い。1953年の作品ですが、昔の曲に思えないほどフレッシュな演奏でした。

ヴィオラとチェロ二人の男子メンバーのMCで、今年入団したメンバー4名の紹介。前に出てきて名前が呼ばれました。次に演奏する2曲は今年からのレパートリーとのことで、 プログラム8曲目は、伝承音楽(池田明子編)/ミシルルー。ディック・デイル&ヒズ・デルトーンズの「ミザルー」(1962年)が有名ですが、まったく別の曲のようなアレンジ。チェロのソロから静かに始まって、じっくり遅いテンポで進められ、後半は開放的に盛り上げます。イケイケどんどんの作品が多い中、違う表情を聴かせてくれるいい編曲です。

プログラム9曲目は、モンティ作曲(池田明子編)/チャールダーシュ。冒頭は第1ヴァイオリントップと第2ヴァイオリントップの掛け合い。速いテンポからのメロディーも、この2人が演奏するのかと思いきや、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンから一人づつ代わる代わる立って披露して、楽しく聴けました。ラストはヴァイオリンが立奏しました。

佐渡は「コロナの間も休まずに、夏の演奏会はやっていたが、Zoomでレッスンしたり大変だった。ブラボーも解禁なので遠慮なく。終演後の写真撮影も可能になった」と話しました。ふたたびソロの披露。プログラム10曲目は、イザイ作曲/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番。高校2年生の垣内絵実梨のヴァイオリンソロで、佐渡は「入団オーディションに3回落ちたが、急成長した。海外に留学することが決まっている」とのこと。登場してもすぐに弾かずに、気持ちを落ち着けてから弾きます。単一楽章の作品で、繊細な表現力と体を動かしたり立ち位置を変えるなど気持ちの入った魅せる演奏で、プロの風格です。

佐渡は「20周年の企画で、来年3月にフェスティバルホールとサントリーホールで特別演奏会を開催する」と話しました。予告チラシに入場料は書いてありませんでしたが、佐渡は「無料」と話しました(本当でしょうか)。また、正月にはベトナムに演奏旅行を行なうとのこと。SKO出身者の活躍については、「1期生の立上舞が新日本フィルハーモニー交響楽団のアシスタント・コンサートマスターに就任した。僕のコネとかは関係ない」と話して笑わせました。立上舞は「ОBコーチ(ヴァイオリン)」として、SKOのスタッフに名を連ねています。また、「ヴィエニャフスキ国際コンクールで優勝した前田妃奈も卒業生」と話しましたが、「2人が亡くなった」とも話しました。「思いの入った音に、僕自身が育てられた」と語りました。「ホルストも芥川も全楽章練習したが、演奏会が長くなるので今日は演奏していない」とのこと。

プログラム11曲目は、チャイコフスキー作曲/弦楽セレナード。佐渡裕は「大曲」と話しました。メンバーの演奏に対する積極性がすごく、精一杯の演奏。ヴァイオリンの音量が大きくて、高音は少しキンキンしました。第2楽章は速めのテンポ。第3楽章はちょっと盛り上がりすぎ。つづけて第4楽章。TempoI(414小節)からが速い。

拍手に応えてアンコール。アンダーソン作曲/フィドル・ファドルを演奏。デビューアルバム「TEENAGERS」にも収録されていて、体を左右に動かしたり、立ったり座ったり視覚的にも楽しめる演奏でした。京都橘高校吹奏楽部のようにステップしながらヴァイオリンを弾いてびっくり。これは大変。ラストは全員が立ち上がりました。

ここで、引退する6人の卒業式。佐渡が一人ずつ名前を呼んで花を渡し、佐渡と抱き合いました。リーダーのチェロが卒業生代表のあいさつ。佐渡の「努力と才能と運を足して、感謝力で掛けると奇跡が生まれるんだよ」という言葉を紹介、「奇跡を起こす方程式」と呼ばれているようで、感謝の重要性を説いていますが、いい言葉です。リーダーが指揮台に上がって、チャイコフスキー作曲/アンダンテ・カンタービレを指揮。前半だけでなく中間部も演奏したので、正確には「弦楽四重奏曲第1番第2楽章」を演奏。指揮棒は使わず両手で指揮して、佐渡はチェロの席で聴いています。

佐渡が「もう1曲」と言って、佐渡がウィーラン作曲/リバーダンスを指揮。デビューアルバム「TEENAGERS」にも収録されています。足踏みしたり立ったりして演奏。佐渡も指揮台から降りてメンバーの前で指揮しました。全員で一礼。カーテンコールでは全員が一列に並びました(下の写真)。18:00に終演。1日2回公演でしたが、疲れをまったく見せずに最後まで演奏してくれました。若いですね。

近畿圏のジュニアオーケストラには、京都市ジュニアオーケストラや、センチュリー・ユースオーケストラなどがありますが、佐渡ほどの世界的な指揮者が長期的に向き合って、合宿まで敢行して、本番も自分が指揮するオーケストラは少ないでしょう。メンバーが毎年入れ替わるオーケストラを20年も面倒を見るのは大変なことです。メンバーの名前をフルネームで覚えていて、よく子どもたちと向き合っています。バーンスタインゆずりの教育活動です。独特の音楽観があり、スラーやフレージングの波が目に見えるようで、オーケストラではなく弦楽アンサンブルでうるさく感じるのは稀な経験で若いパワーに圧倒されました。協賛しているスポンサーのチラシがたくさん入っていましたが、理解のある企業が支援していただけてうれしいです。大阪ガスとECCに拍手。石田組の松岡あさひと同じく、石田明子の魅力的な編曲も特筆すべきでしょう。SKOのこれからに期待しています。

本公演を収録したテレビ番組「佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ2023 結成20周年~受け継がれるバトン~」が、MBSテレビで9月18日に放送されました。35分間の番組で、滝藤賢一がナレーションを担当。5月の新メンバーオーディションから密着していて、本公演に至るまでの経過が分かります。新メンバーオーディションは5月6日に兵庫県立芸術文化センターのスタジオで行なわれ、書類とテープ審査を通過した9人が佐渡裕による最終審査を受けました。佐渡によると、毎年募集人数は決めていないが、自発的に自分が音楽をしているかどうかが審査基準とのこと。なお、これまでの合格者は174人で、最年少は小学3年生だったようです。5月21日に初練習。ОBコーチの立上舞(初代コンサートミストレス)が指導します。また、伊藤さくら(第4代コンサートミストレス、チェコ国立ブルノ・フィルハーモニーで活動中)は、休符を揃えるために歌ってみるように指導します。祇園祭中にウィングス京都の音楽室でも練習していて、第12代コンサートミストレスの落合真子が、佐渡監督の指揮を予想しながら指導します。7月30日から8月1日までの合宿を行ない、洲本市文化体育館で練習。第17代コンサートミストレスの井上愛悠奈(あゆな)の楽譜への書き込みがものすごい。
8月25日には、本番と同じ大ホールで最終練習。佐渡は「あまり練習しすぎないで。音楽は新鮮であることが大事。本当によくできている」と感激しました。8月27日の本番の演奏はオーケストラのみのダイジェストで、ソロステージや佐渡のMCはなし。最後にメンバー全員の名前がクレジットで出ます。佐渡は終演後に「僕自身がスーパーキッズで学んだことが非常に多い」と語ります。


芸術文化センター前交差点から望む カーテンコールの写真撮影

(2023.9.4記)
(2023.10.22更新)

 
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