京都市交響楽団第577回定期演奏会


   
      
2014年3月14日(金)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

広上淳一指揮/京都市交響楽団
ニコライ・ルガンスキー(ピアノ)

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番
マーラー/交響曲第1番「巨人」

座席:A席 3階 C−4列28番


広上淳一が京都市交響楽団常任指揮者6年目のシーズンを締めくくります。2日後の3月16日(日)には同一プログラムによる4年ぶりの東京公演がサントリーホールで行なわれます。
チケットは、いつものように京都コンサートホールのホームページから購入しましたが、S席でいい席が残っていなかったので、A席を購入。2ヶ月も前の1月13日に早くも全席完売しました。この演奏会への期待の高さがうかがわれました。平日の夜にこれだけ多くの人がよく集まったものです。この日の演奏会は、NHK Eテレ「クラシック音楽館」(3月30日放送)の収録で、テレビカメラが数台入っていました。

18:40からプレトーク。広上とシニアマネージャーの岡田進司が登場。広上は岡田を「主幹」と呼んでいました。広上は「テレビが入ると緊張しますね」と話しました。「京響の団員にアトランダムに登場いただく」ということで、後藤良平(第2ヴァイオリン)、井谷昭彦(トロンボーン)、早坂宏明(トランペット)が登場。広上が「ラフマニノフとマーラーの思い出はありますか」と質問しました。佐藤功太郎(故人)の指揮で演奏したとか、小林研一郎(第8代常任指揮者)の指揮で演奏したとか、それぞれ思い出を語りました。マーラー1番は京響で演奏される頻度が多いようです。広上は小林研一郎のものまねも披露しました。広上は「東京で初めてとなる定期演奏会で指揮した」と語りました。この日の演奏会も完売で、定期演奏会チケット完売記録が第564回(2013年1月)から続いていると報告。広上は「感謝しています」と話しました。

プログラム1曲目は、ラフマニノフ作曲/ピアノ協奏曲第2番。ピアノ独奏はニコライ・ルガンスキー。プレトークで広上は「ルガンスキーさんは手が大きい。ラフマニノフと同じと思うほど」と話しました。
第1楽章冒頭はルガンスキーのアクションで見せました。次第にのけぞるように打鍵のアクションが大きくなりました。その後は淡々と弾きました。ルガンスキーのピアノは粒立ちがはっきりしているのが特徴です。71小節からティンパニが活躍。第1楽章の最後2小節はリタルタンドで締めくくりました。第2楽章は23小節からのヴァイオリンのピツィカートなどしっかり演奏。ルガンスキーも軽いタッチで聴かせました。147小節からのヴァイオリンもいい音色。最後の小節はピアノが余韻を聴かせました。第3楽章403小節からホルンがミュート音を聴かせました。431小節はティンパニが一撃。ルガンスキーも力強い打鍵。
ルガンスキーはテクニックに問題は感じませんでしたが、第2楽章の目立つところ(97小節)でミスタッチがありました。テレビ放送で見ると、鍵盤を押すというよりも撫でるような軽いタッチで弾いています。
広上は最近は指揮棒なしで振ることも多くなりましたが、この日は指揮棒を使って指揮。京響も広上の指揮によく反応しました。音色が融合されてひとつにまとまっています。広上とルガンスキーはあまりアイコンタクトを取りませんでしたが、タイミングがズレることはありませんでした。ピアノもオーケストラも重くなりません。
カーテンコールではルガンスキーが深々と礼。41歳ですが若く見えます。拍手に応えてアンコール。ラフマニノフ作曲/絵画的練習曲「音の絵」作品33-8を演奏。即興的で高音から低音まで使います。緩急をつけて演奏。いい選曲でした。もう一度聴きたかったですが、残念ながらテレビ放送では収録されていません。

休憩後のプログラム2曲目は、マーラー作曲/交響曲第1番「巨人」(作曲の経緯からすれば「巨人」の標題を付けるべきではないと考えていますが、プログラムの記載通りとします)。広上淳一が京都市交響楽団とマーラー全曲を演奏するのは今回が初めてです。第4楽章だけオーケストラ・ディスカバリー2012 〜こどものためのオーケストラ入門〜 「名曲のひ・み・つ」第1回「作曲家に隠された真実(作曲家編)」で演奏しましたが、待望の全曲演奏です。
大人数での演奏。第1楽章冒頭から本気モードの音。音響がまとまってクリアになりました。澄んだ音色で毒気がなく上品。22小節からの「In sehr weiter Entfernung aufgestellt.(非常に遠い距離で)」のトランペットのファンファーレは、ホールで聴いたよりもテレビ放送のほうがよく響いて聴こえます。162小節の反復記号を実行。第2楽章は遅めのテンポ。冒頭のコントラバスは、スタッカートをアクセントのように大げさに演奏。14小節からのホルン(ff)も大きめ。50小節からのホルンのgestopftも強調。第3楽章は同じメロディーが繰り返されますが、四分音符×2で走ってしまって、だんだんテンポが速くなってしまうのが残念。第4楽章はやや遅めのテンポ。金管楽器が全開で、打楽器が炸裂。血圧が上がる熱演でした。374小節のLuftpauseは長め。652小節からはホルン7名とトランペット1名が起立して演奏しました。
ただし、少しキズがあり、特に弱奏では技術的に弱さが見えました。さらにテレビ放送では、本番で気づかなかったようなミス(ヴァイオリンは連符が続くと音程が合わなかったり、クラリネットがリードミスしたり、ホルンが音を外したり)に耳が行ってしまいます。このような細かな部分が克服できれば、さらにレベルアップした演奏ができるでしょう。テレビ放送は広上淳一のショットが多め。ほとんど笑顔でにこやかに指揮しています。うまくいったときには左手の親指を立てています。

カーテンコールでは広上淳一がパートごとに団員を立たせました。小林研一郎流です。広上淳一が「満杯のお客様にお越しいただき、京響を代表して感謝申し上げます」と挨拶。アンコールは「花の章もあるのですが、マーラーのあとにマーラーはくどいので(笑)。マーラーの時代と同じ時代に活躍したがキャラクターは違うリヒャルト・シュトラウスのとても美しい曲をみなさまに捧げたい。マーラーも指揮したことがある」と話し、R.シュトラウス作曲/歌劇「カプリッチョ」から間奏曲「月光の音楽」を演奏しました。テレビ放送では広上の挨拶はカットされていました。

21:25に終演。この後、ホワイエでレセプションが行なわれましたが、時間が遅いため、残っている人は少数でした。私も帰りました。

4月から広上淳一は常任指揮者3期目(7年目)のシーズンに入り、ミュージック・アドヴァイザーを兼任しますが、定期演奏会を指揮する回数が3回から2回に減ってしまうのが残念です。

3月30日に放送されたNHK Eテレ「クラシック音楽館」では、「京響がかつてない人気を集めています」と紹介されました。また、「広上さんのリハーサルはあまり音楽用語を使いません。曲のイメージを身近な物事に例えるのです」と紹介され、京都市交響楽団練習場での練習で広上が「道路工事と同じですね」と団員に説明する様子が流れました。団員も「比喩がうまい」と話しました。
鉄道模型レストラン「デゴイチ」で、広上はNHKアナウンサー岩槻里子のインタビューを受けました。よく京響団員と来るとのこと。広上は「ミュージシャンというのは吹いたり弾いたりすることにものすごい時間をかけて練習してきている人生ですから、一番自分が分かっているわけですよ。失敗したとかうまくいっていないとか。それを改めて音を出していない指揮者に言われるほど不愉快なことはない。ネガティブにうまくいってない個所を攻め立てることはするまい。そうじゃないまったく違うところから入りこんでいく。いきなり音楽と違う話を持って行くようになったんですね。気が楽になるから力が抜けるんですよ。力が抜けてプレスがなくなるので次の音を出すときにリラックスして構えられる。間違ってもいいから思い切り音を出してみようという気持ちになる。それの積み重ねを心がけるようにはしたんですよ。僕は何もしていない。彼らがエネルギーと力を存分に出してきた結果が。皆さんがほめてくださるようなオーケストラになったということだと思うんですね」と話しました。今回の選曲については、「マーラーの場合は今の京響のいろんな意味でのよさ、例えば優しい音がしてみんながのびのびとしながらも音楽に真摯に取り組んでいて、その実力を十分に発揮できる作品だということもあって選びました」と話しました。
演奏会の収録は奏者がアップで撮られていて驚きました。カメラワークもいい。

(2014.5.7記)




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