ひょうごクリスマス・ジャズ・フェスティバル2012 山下洋輔スペシャル・ビッグバンド ボレロ&展覧会の絵


      
2012年12月15日(土)17:00開演
兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

山下洋輔(ピアノ)、金子健(ベース)、高橋信之介(ドラムス)、エリック宮城、佐々木史郎、木幡光邦、高瀬龍一(以上トランペット)、松本治、中川英二郎、片岡雄三、山城純子(以上トロンボーン)、池田篤、米田裕也、川嶋哲郎、竹野昌邦、小池修(以上サックス)

デューク・エリントン(松本治編曲)/ロッキン・イン・リズム
ジェローム・カーン(松本治編曲)/オール・ザ・シングス・ユー・アー
山下洋輔(松本治編曲)/メモリー・イズ・ア・ファニー・シング
山下洋輔(松本治編曲)/グルーヴィン・パレード
ラヴェル(松本治編曲)/ボレロ
ムソルグスキー(松本治編曲)/組曲「展覧会の絵」

座席:A席 1階F列17番


私の34歳の誕生日に、山下洋輔とスペシャル・ビッグバンドの共演を聴きました。兵庫県立芸術文化センターで6日間に渡って開催される「ひょうごクリスマス・ジャズ・フェスティバル2012」の2日目(2nd day)で、この日は「ボレロ」と「展覧会の絵」というクラシックの作品をアレンジして演奏する意欲的なコンサートです。山下洋輔を聴くのは京都市交響楽団大阪特別公演以来です。チケットは全席完売。

演奏会は2部構成で、第1部は5曲を演奏。編曲はすべて、トロンボーンを演奏する松本治によります。プログラム1曲目は、デューク・エリントン作曲(松本治編曲)/ロッキン・イン・リズム。照明が暗いステージに、メンバーが入場。ステージ配置は、向かって左から、ピアノ、ベース。中央にドラムス。向かって右がバンドで、前列からサックス5(左からテナー2、アルト2、バリトン1)、2列目にトロンボーン4、3列目にトランペット4が並びました。譜面台には「YOSUKE YAMASHITA SPECIAL BIG BAND」の文字が入っていました。衣装は黒の上下で統一されていました。全員揃ったところで、山下洋輔がスタンドマイクの前に立って短い挨拶。すぐにバンドに向かって合図を出して、ドラムソロから演奏がスタート。ソロはステージ前方に出てきて、スタンドマイクの前に立って演奏します。長いアルトサックスソロがありました。後半はトランペット(エリック宮城)が超高音でソロ。すごい。山下洋輔は楽譜を見ながら弾きます。両膝を揺らしながら弾くのが特徴的ですね。なお、ソロ以外にもマイクが設置されていて音量を増幅していました。

プログラム2曲目は、ジェローム・カーン作曲(松本治編曲)/オール・ザ・シングス・ユー・アー。山下のピアノソロからスタート。ゆっくりしたテンポの最初だけ松本治が前に出てきて指揮しました。

山下洋輔のMC。「このメンバーが全員そろうのは2年に1度くらい。なかなかそろわない」とのこと。全員のメンバー紹介。紹介されたメンバーが起立しました。ドラムスの高橋信之介はニューヨーク在住で、この演奏会のために来日したとのこと。
プログラム3曲目は、山下洋輔作曲(松本治編曲)/メモリー・イズ・ア・ファニー・シング。「思い出とは不思議なものという意味」と山下が紹介しました。アルトサックスにフィーチャーした協奏曲スタイルのオリジナルバラードです。松本治が指揮しました(指揮棒はなし)。

プログラム4曲目は、山下洋輔作曲(松本治編曲)/グルーヴィン・パレード。山下洋輔のMCが間違って次の「ボレロ」の紹介を始めたので、松本治がトロンボーンでメロディーを吹いたところ、山下が気がついて「曲順を間違えまして、このMCは次の次で話す内容でした」「いやー、今日はとんでます」と笑って話しました。バンドのメンバーが減って、コンボでの演奏。ピアノ、ベース、ドラムス、サックス2(テナー1、アルト1)、トロンボーン1での演奏。ノリノリのテンポで楽しい。客席からの手拍子も起こりました。アルトサックスがものすごくうまい。すばやい運指で短時間に多くの音を演奏します。ブラボー。

メンバーが再入場して、プログラム5曲目は、ラヴェル作曲(松本治編曲)/ボレロ。山下は「先ほどのスピーチは繰り返しませんが」と話しつつも、「筒井康隆さんが「脱臼したボレロ」と表現してくださった。大変な褒め言葉だと思っている」と話しました。筒井康隆のブログ「笑犬楼大通り 偽文士日碌」の2008年7月16日(土)の記事に「なるほどこれは脱臼された「ボレロ」だった。」と書かれています。
松本治が指揮。冒頭からフルートのメロディーが聴こえてきたので驚きましたが、テナーサックス奏者が持ち替えでフルートを演奏しました。フルート、アルトサックス、バリトンサックス、ソプラノサックスとメロディーが受け渡されました。自由なテンポで吹きますが、メロディーラインは原曲からほとんど変えていません。
ラヴェルの原曲と大きく異なるところは、リズムセクション(ピアノ、ベース、ドラムス)がジャズ風に演奏されます。原曲は小太鼓によってリズム音型が終始一定に刻まれますが、この編曲ではドラムスはリズムを刻みません。クレシェンド・デクレシェンドでトレモロしたり、テンポやリズムにとらわれずにアドリブで演奏しているようでした。ピアノとベースとドラムスは、メロディーの3拍子を乱すような微妙な乱打が続きます。このテンポのずれやバンドとリズムセクションがかみ合わない様子を筒井康隆は「脱臼」と表現したのかもしれません。
指揮の松本治は3拍子を振り続けました。後半はメロディーが金管楽器に移り、ピアノとベースとドラムスの乱打も激しさを増しました。山下洋輔の顔もイッています。転調したところで、初めてピアノとベースとドラムスがボレロのリズムをバンドと演奏。バンドと一体になって、クライマックスを築きました。

休憩後の第2部(プログラム6曲目)は、ムソルグスキー作曲(松本治編曲)/組曲「展覧会の絵」。山下洋輔がMCで「全曲やります」と力を込めて話し、「テレビ好きの人が聴いたらあっと驚くメロディーが最後のほうに出てくる」と話しました。
松本治の編曲は、ラヴェルのオーケストラ編曲を参考にしながら、ジャズバンドに置き換えたようなアレンジでした。ムソルグスキーの原曲はピアノ独奏曲ですが、ピアノはあまり使わないアレンジでした。山下洋輔の存在感が薄れるほど、バンドの演奏が強烈でした。どの楽器にも見せ場があり、演奏者も楽しめるでしょう。
ただ、ひとつの曲でテンポが変わることが多く(「こびと」「古城」など。緩−急−緩のパターンが多い)、作品全体としては統一感や流れが悪い。組曲というより小品の集まりといった感じでした。テンポアップしたアレンジも多かったですが、ラヴェルの編曲よりもかなり短く感じました。これが世界に通用するアレンジなのか分かりませんが、原曲が好きな人なら一度聴いておいたほうがいいでしょう。
冒頭の「プロムナード」は、ラヴェルの編曲と同じトランペットソロから始まり、途中でピアノソロを挟みました。「こびと」は、ドラムスが八分音符のリズムを刻みました。一気にジャズの雰囲気が出ました。中間部はテンポアップしてピアノソロへ。ステージの照明が緑色に変わって、2回目の「プロムナード」は、トロンボーンソロ(ラヴェルの編曲ではホルン)から始まり、フルート2本へ受け継がれました。フルートはテナーサックス奏者2名が持ち替えで演奏。「古城」は速めのテンポ。バリトンサックスがソロ(ラヴェルの編曲ではアルトサックスとファゴット)。中間部はドラムが加わってさらにテンポアップ。最後はトロンボーンがデクレシェンドしたあと音符を一発。「テュイルリーの庭」は、ドラムスとピアノが活躍。中間部はゆったりしたテンポから徐々にアッチェレランド。「ビドロ」は3拍子(原曲およびラヴェル編曲は2/4拍子)。トロンボーンソロ(ラヴェル編はテューバソロ)で演奏され、トロンボーンソロのカデンツァが入った後、トランペットとトロンボーンにメロディーが受け継がれました。最後にもトロンボーンソロが追加されました。4回目の「プロムナード」は、山下洋輔のピアノソロのみで演奏。「殻をつけたひなどりの踊り」は、トランペットとトロンボーンの掛け合い。中間部はドラムスが加わって、ピアノがメロディー。途中でなぜかガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」が挿入されました。山下洋輔のお気に入りでしょうか。後半は速いテンポに戻りました。「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ」は、アルトサックスのソロがすごい。ラヴェル編曲でのトランペットソロの代わりなのか、高音でアドリブ。サックスでこんな音が出るとは驚きです。「リモージュの市場」は、トランペットソロがメロディー。エリック宮城の高音ソロがすごい。プロムナードのメロディーを2オクターヴ上げて演奏しました。「カタコンブ」は、金管楽器がラヴェル編曲通り演奏してもジャズらしく聴こえるから不思議。ピアノソロがいくつか追加されました。「バーバ・ヤーガの小屋」は、照明が赤に変わりました。アーティキュレーションがジャズ風。トランペットがメロディーを演奏。山下洋輔は立ち上がって演奏。激しく鍵盤を叩くように押さえます。ピアノとドラムスにスポットライトが当たり、ドラムスが大乱打のまま、「キエフの大門」へ。金管楽器がメロディー。ピアノとベースが受け継ぎます。テンポアップしてドラムスが伴奏。ラヴェル編曲で木管楽器が演奏する部分をアルトサックスソロが演奏。バンドがメロディーを演奏するなか、ピアノ、ベース、ドラムスが大乱打。すごい乱れ打ち。山下が演奏前に話した「あっと驚くメロディー」とは、テレビ朝日で放送中の「ナニコレ珍百景」で使われている音楽が流れたことらしいです。

熱狂的な拍手に応えてアンコール。ドラムソロから始まって、デューク・エリントン作曲(松本治編曲)/スイングしなけりゃ意味がない。パートごとに立奏。バンドが強力ですばらしい。
メンバー全員が一列に整列して礼。手を振って退場しました。もっと聴きたかったですが、メンバーはもうお疲れかもしれません。

山下洋輔は今年でなんと70歳ですが、演奏している姿からはまだ50代といった感じです。テクニックも衰えはなく、強奏では両手を速く激しく動かします。激しい演奏とは対照的に、トークはいたって普通で、難しい専門用語も使いません。態度も紳士的でした。山下洋輔の演奏もすばらしかったですが、バンドの演奏がハイクオリティーでした。このメンバーで他のクラシック音楽のアレンジも聴いてみたいです。

高松公園

(2012.12.24記)


京都市交響楽団第563回定期演奏会 京都市交響楽団スプリング・コンサート