京都市交響楽団第544回定期演奏会


   
      
2011年3月26日(土)14:30開演
京都コンサートホール大ホール

広上淳一指揮/京都市交響楽団
シン・ヒョンス(ヴァイオリン)

ショスタコーヴィチ/バレエ組曲第1番
ブルッフ/スコットランド幻想曲
ヒンデミット/交響曲「画家マティス」

座席:S席 3階C−3列13番


広上淳一の京都市交響楽団常任指揮者3年目の最後を飾る演奏会です。「オーケストラの日2011」のイベントとして、本番当日のゲネプロが公開されました。定員100名で、往復はがきで申し込みましたが、残念ながら落選しました。

プログラムに「ご来場の皆様へ」と書かれた紙が封入されていました。広上淳一と京都市交響楽団の連名で、「本日の演奏会について、中止も検討させていただきましたが、オーケストラ・音楽の力がご来場の皆様の心に力添えができればと思い演奏会をさせていただくことにいたしました。」「本日終演後ロビーにて予定しておりましたレセプションは中止とさせていただきます。」と演奏会開催とレセプション中止の経緯について記載されていました。レセプションで、シン・ヒョンスのサインをもらおうと思っていたのに残念。
チケットは全席完売にはならず、8割ほどの入り。京響の定期演奏会では珍しく空席が目立ちました。プログラムがマイナー作品だったからでしょうか。

14:10からプレトーク。広上淳一が登場して、来シーズンの定期演奏会プログラムを解説しました。4月の下野竜也は「すばらしい指揮者。メインのマーラー5番は、マーラーイヤーなのでお願いした。大阪公演もある」。5月の広上淳一が取り上げる尾高惇忠は「指揮者の尾高忠明のお兄さん。私の恩師なので、やっと恩返しできる。ご本人もいらしてくださる予定」。ヴァイオリニストのゲザ・ホッス=レゴツキとは初共演となるようで、「まだやったことない。すごいという前評判」と話しました。6月のラザレフは、「京響初登場。ロシア物の造詣が高い」。ピアニストのマルクス・グローは、「ドイツの優れたピアニスト」と紹介。7月の大野和士は「私の同僚」「マーラーの3番で、暑い夏を吹っ飛ばしていただきたい」。8月に広上淳一と共演する店村眞積と上村昇は「優れた弦楽器奏者2人」。9月の外山雄三は「私の先生」「先生のやりたい曲を選んでいただいた」「80歳になられるので、レセプションでお祝いする」。10月のナビル・シェハタは「もともとベルリンフィルのコントラバス奏者だった。京響初登場となる」。11月のギュンター・ノイホルトは、「オペラを得意とする。ブラームスの3番は、指揮者が一番やりたくない指揮するのが難しい作品」。1月のロベルト・ベンツィは「おなじみの巨匠」。2月の井上道義は「オール・ストラヴィンスキー・プログラム」。3月の広上淳一は「欲張ってプログラミングした。管弦楽のための協奏曲は普通はメインだが、前に持ってきた」と説明。
今日のプログラムについて、「ショスタコーヴィチもヒンデミットもどちらも不遇であったという作品の背景は共通点がある」「ショスタコーヴィチの作品は明るくて楽しいが、本人が生きているときには演奏されなかった。後年になって友人が編んだ」「ヒンデミットはナチスにいじめられた。オペラを短くして作曲された」と解説。ブルッフで共演するシン・ヒョンスはソウルに在住していることを紹介。

プログラム1曲目は、ショスタコーヴィチ作曲/バレエ組曲第1番。全6曲からなります。肩の力を入れずに軽快に流します。あまり大きな音を出しません。広上淳一の指揮テクニックが冴えました。

プログラム2曲目は、ブルッフ作曲/スコットランド幻想曲。ヴァイオリン独奏はシン・ヒョンス。ハープが指揮台の左前に運ばれました。シン・ヒョンスが、深緑のドレスで登場。入念にチューニングしました。あまり重くならない音色で、どちらかといえば線が細い。繊細な作品に合っています。オーケストラも弱奏で演奏。ハープはあまり聴こえません。第3楽章で独奏ヴァイオリンとフルートがずれたので、広上が大きく指揮して是正しました。変奏曲なので、独奏とオーケストラをあわせるのが難しいようです。第4楽章は独奏ヴァイオリンが細かいパッセージを力を入れて演奏しました。第4楽章のラストで、広上の腕がスコアに当たったようで、指揮台からスコアが落ちました。指揮者がスコアを落とすなんて珍しい。
拍手に応えて、シン・ヒョンスがアンコール。コンサートマスターの泉原隆志と何かを話した後、京響ヴァイオリンパートがアリペジオ風の伴奏音型を奏でる中、パガニーニ作曲/ヴェニスの謝肉祭変奏曲を演奏。えらい難しい曲ですが、正確なテクニックで聴かせました。なお、カーテンコールには広上淳一は一度も登場しませんでした。オーケストラの演奏に不満だったのでしょうか。オーケストラもシン・ヒョンスが起立させていました。

休憩後のプログラム3曲目は、ヒンデミット作曲/交響曲「画家マティス」。初めて聴きました。ナチスによって「退廃音楽」のレッテルを貼られましたが、確かにヒトラーが愛したワーグナーとは対極にある音楽と言えます。和音の響きなど今聴いても新しい。この作品をフルトヴェングラーが初演したとは意外です。聴かせどころが多いですが、オーケストラがうまくないと聴けない作品でしょう。広上淳一と団員が一体となって進化したアンサンブルを聴かせました。低音がしっかり効いていて、重厚感もありました。広上淳一の指揮もまさに力演。常任指揮者3年目を締めくくるにふさわしい文字通りの熱演になりました。CD化して聴きたいですね。ただ、第1楽章「天使の合奏」の終盤で、ホルン?が入りを間違えたのがけっこう目立ちました。

演奏終了後に、広上淳一がマイクを持って挨拶。3月で退団するトロンボーン奏者の間憲一と、京都市交響楽団副楽団長の山岸吉和京都市文化市民局長がステージ中央に呼ばれて花束贈呈。広上が「プレトークであえて話しませんでしたが、震災の後で自粛の気持ちは強い。今音楽かという気持ちもあるが、京都や大阪は元気でいたほうが、より一層の勇気を与えられる。満席御礼が続くことが日本の活性化のエネルギーになる」「今演奏したヒンデミットも生きている間は不遇だった。彼らの逆境を学びたい」「常任指揮者1期目3年間やらせていただいて、京響の優れた能力やまじめに取り組む姿勢によって、世界級のオーケストラになった」と話しました。関西は元気でありたいという考えは同感です。
「亡くなった方のためにバッハのアリアを演奏したい。あまりしんみりなさらずに。私もこの後、義援金箱を持って立ちます」と話し、J.S.バッハ作曲/アリアを演奏。速めのテンポで、積極的にオーケストラを動かしました。
終演後は、広上淳一が義援金箱を持ってお見送り。多くの人が集まっていました。

広上淳一は2008年4月に3年の任期で京都市交響楽団第12代常任指揮者に就任しました。2011年3月で任期満了となりましたが、契約が更新されたようです。新たに何年間の契約を結んだのかは明らかにされていません。「画家マティス」の熱演を聴いたところでは、京都市交響楽団のアンサンブルをさらに向上させてくれることは間違いないでしょう。来シーズンの演奏にも期待したいです。

(2011.3.31記)


芸術文化センター管弦楽団第41回定期演奏会「岩村力×林英哲 和洋の響宴」 京都市交響楽団スプリング・コンサート