清水靖晃&サキソフォネッツ「J.S.バッハ/ゴルトベルク変奏曲」


   
   2010年2月27日(土)18:00開演
すみだトリフォニーホール大ホール

清水靖晃(テナーサキソフォン)
江川良子(ソプラノ、アルトサキソフォン)、林田祐和(ソプラノ、アルトサキソフォン)、東良太(バリトンサキソフォン)、鈴木広志(アルト、テナー、バリトンサキソフォン)
佐々木大輔、倉持敦、大石健治、木村将之(コントラバス)

清水靖晃/インプロヴィゼーション
J.S.バッハ(清水靖晃編曲)/5本のサキソフォンと4本のコントラバスによる「ゴルトベルク変奏曲」

座席:S席 1階8列19番


バッハのゴルトベルク変奏曲を、サックス5本+コントラバス4本の編成で演奏する意欲的なコンサートが行われました。今回が世界初演です。編曲者はテナーサキソフォン奏者の清水靖晃。清水靖晃は1996年から1999年にかけて「J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲」をテナーサキソフォンのために編曲し、CD化(CELLO SUITES)されています。最近では、松本人志監督の映画「しんぼる」で、音楽を担当しました。エンディングテーマが名曲で印象に残りました。
演奏する「サキソフォネッツ」は、清水とともにサックス5重奏を行なっています。2006年に結成されたようです。
なお、すみだトリフォニーホールでは継続的にゴルトベルク変奏曲を取り上げる「トリフォニーホール「ゴルトベルク変奏曲」シリーズ」が行われていて、今回の演奏会が第7回となりました。すみだトリフォニーホールのホームページに、リハーサルの動画を掲載するなど、なかなかの力の入れようでした。

ロビーに松本人志から花が届いていてびっくり。さすがに松本人志ご本人は見かけませんでしたが。座席はかなり前の1階席8列目にしました。客席に何台かカメラが入っていました。客席は9割ほどの入り。ステージは青い光で照らされていました。

プログラム1曲目は、清水靖晃作曲/インプロヴィゼーション。清水が1人でテナーサキソフォンを持って登場。青いシャツに黒の革ジャンの衣装でした。立って演奏しました。間のある曲で、音符単位で楽器を上下左右に動かしながら演奏しました。高音も楽々と演奏。旋律は日本的で、尺八のような息遣いもありました。5分ほどで終わりました。「インプロヴィゼーション」とは即興演奏という意味なので、もともと楽譜がないのかもしれません。

プログラム2曲目は、J.S.バッハ作曲(清水靖晃編曲)/5本のサキソフォンと4本のコントラバスによる「ゴルトベルク変奏曲」。コントラバス4本が後列の雛壇に並び、清水がその前で演奏しました。最初の「アリア(主題)」は、清水とコントラバス4本だけで演奏。装飾音を省略するなど、原曲通りの主題ではありません。反復記号は繰り返しました。後半の16分音符が連続する部分は、息継ぎのためフレーズが途切れてしまうのが残念。管楽器の宿命ですが。
拍手に迎えられて、サキソフォネッツのメンバー4人が登場。清水とコントラバスの間に立ちました。配置は、左から、林田祐和(ソプラノ、アルトサキソフォン)、東良太(バリトンサキソフォン)、鈴木広志(アルト、テナー、バリトンサキソフォン)、江川良子(ソプラノ、アルトサキソフォン)の順。普段からこの並びで演奏しているようです。衣装は黒で統一していました。「第1変奏」からは9人全員で演奏しました。全員が立奏です。
清水の編曲は、原曲にかなり忠実です。原曲と同じ調性を維持し、テンポもほぼ原曲通り。反復は変奏によってしたりしなかったり。同じサキソフォンの編曲でも、トルヴェールの「惑星」の長生淳編曲のようなぶっ飛んだことはしません。もっと奇抜な編曲を予想していましたが、誠実なアレンジでした。サキソフォンで演奏するには、運指が難しい調性もあったようで、技術的には難曲といえるでしょう。
主旋律を演奏するソプラノサキソフォンを左右に配置しているので、カノンの部分では左右の掛け合いが楽しい。林田祐和と江川良子のソプラノサックスも上手。軽やかに演奏します。特に林田は速いパッセージも落ち着いて演奏しました。バリトンサックス2本は音量が小さいのかあまりよく聴こえません。バランスを考えても、もう少しがんばって欲しかったです。
清水は主旋律から音符を抽出して、別のオリジナルのメロディーを作っていました。繰り返しがある変奏では、1回目と2回目で演奏を変えているようです。プログラムに掲載されたインタビュー記事では「バッハとは完璧に異なる、ぼく自身の旋律も入れています」と語っています。前半のどこかの変奏では、最初にバッハの原曲にはないメロディーをソロで挿入しました。ただ、他のサキソフォンと同化して、清水のパートはあまり浮き上がって聴こえません。超絶技巧のソロがあるわけでもなく地味な感じ。静かな変奏では清水がメロディーを担当しました。4本のコントラバスは、左右で2声に分かれているようです。
第15変奏まで終わると、20分間の休憩。後半は第16変奏から再開しました。第25変奏は清水とコントラバス4本のみで演奏。サキソフォネッツのメンバーはコントラバスが見えるように、その場を外してステージの脇に散らばりました。最後の「アリア、曲頭への回帰」は、反復からサックス4本も背景として加わりました。

残念ながら、ミスがいくつか聴かれて、演奏の精度がいまひとつだったのが惜しまれます。一発勝負のライヴでこの大曲を演奏するのは大変なようです。また、声部が多すぎてごちゃごちゃしてしまった部分がありました。速いテンポの変奏よりも、ゆっくりした変奏のほうが似合っていたかもしれません。全体的に気になったのは、楽器の音色以外の音が聴こえること。息漏れのシューという音や、指を押さえるフィンガリングのガチャガチャという音が大きく、気になってしまいました。
演奏者にとっておそらく誤算だったのは、各変奏が終わるごとに客席から拍手が起こったこと。次の変奏に行く前に、楽器を持ち替えたり、譜面をめくったりするので、どうしても間ができてしまうのですが、私は拍手が邪魔に思えました。原曲は続けて演奏されるので、あまりブチブチと切れないほうが望ましいでしょう。原曲を聴いたことがある人なら変奏ごとに拍手はしないと思うのですが、どうなのでしょうか。清水は写真を見た感じではちょっと怖そうな印象でしたが、ニコニコ笑って拍手に応えていました。変奏によって、照明効果を変えて、ステージを明るくしたり暗くしたりしました。

拍手に応えて、アンコール。清水靖晃作曲/インプロヴィゼーション〜J.S.バッハ作曲(清水靖晃編曲)/無伴奏チェロ組曲?1より「ジーグ」。「インプロヴィゼーション」は清水のソロ。同じ曲名でも、プログラム1曲目とは違う曲でした。ソロが盛り上がって、5重奏に発展。サキソフォネッツの4人も加わって、ステージの前に5人が一列で並んで、バッハになだれ込みました。「ジーグ」は各フレーズが終わる4分音符で、フェルマータにして音を割りました。続いてアンコール2曲目は、J.S.バッハ作曲(清水靖晃編曲)/フーガの技法より「コントラプンクトゥス1」。静かな曲で、清水がメロディーを演奏しました。

(2010.3.8記)


すみだトリフォニーホール大ホール 松本人志からの花



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