京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター平成17年度第1回公開講座 「祇園囃子の世界」


   
      
2005年5月14日(土)14:00開演
京都芸術センターフリースペース

解説・司会:田井竜一(京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター助教授)
お話:木村幾次郎(長刀鉾祇園囃子保存会事務局長)
実演:長刀鉾祇園囃子保存会

解説「祇園囃子の特質」
実演その1
対談形式による解説
実演その2:通し演奏

座席:全席自由


京都市立芸術大学が開設している日本伝統音楽研究センターの公開講座に行きました。今回のテーマは祇園囃子。言うまでもなく祇園祭は京都の夏の風物詩で、宵山にはよく行きますし、山鉾巡行も過去一度見に行ったことがあります。祇園囃子の講座が開催されるというのは珍しく、とても興味があったので期待して行きました。入場無料ですが定員は当日受付順に先着200名。

会場は京都芸術センター。四条烏丸から徒歩数分の場所にあります。1993年まで京都市立明倫小学校の建物でしたが、小学校の統廃合による閉校にともなって2000年にオープンした施設です。昭和6年に建てられた明倫小学校の外観はそのまま残っていて、木造の廊下など独特の風情があります。
受付は13時30分からでしたが、行ったときにはかなりの行列ができていました。フリースペースは、以前は体育館だったようです。二足制なので靴を脱いで床に敷き詰められた座布団に座っての鑑賞。入場無料ということもあってか、立ち見が出るほどの客の入りでした。

司会の田井竜一氏が登場。配布されたレジュメをもとに、祇園囃子の特質について解説されました。祇園囃子のルーツとして、現行の祇園囃子は江戸時代初期からはじまった意外に新しいもので、それ以前の中世には金属製の楽器はなく現在とは違った性格の囃子であったとのこと。また、祇園囃子が直系として伝わったのは亀岡祭り(京都府亀岡市)、大津祭り(滋賀県大津市)、上野天神祭り(三重県伊賀市)の3ヶ所のみで、その他はイメージとして祇園囃子を持ち帰ったに過ぎない。祇園囃子が他の地域にあまり普及しなかった理由は、祇園囃子が疫神の鎮送としての性格を有しているためであると説明されました。祇園囃子の特色として、祇園祭が優雅な祭りと言われる一方で祇園囃子は一種おどろおどろしい雰囲気があること、笛に篠笛ではなく能管を用いていること、囃子(はやすもの)と山鉾(はやされるもの)が一体となっていることなどを挙げられました。

続いて、長刀鉾祇園囃子保存会による実演(曲目は「獅子」?)。総勢16名で、中央に太鼓が向かい合って2名、左奥に鉦(かね)7名、右奥に笛7名。演奏が始まると、会場全体が夏の熱気に包まれたように感じました。演奏については後述します。

続いて、長刀鉾祇園囃子保存会事務局長の木村幾次郎氏と田井氏による対談形式の詳細な解説。長刀鉾では囃子の担い手である保存会に入会すると、鉦方をまず10年担当して30曲を覚えたのち、太鼓方か笛方かに希望して移るとのこと。長いスパンで養成しているのに驚きました。次に木村氏が実際に演奏しながら楽器の解説。鉦を叩くカネスリは、クジラのヒゲとシカのツノでできているとのこと。ただ、今はクジラが捕れなくなったのでプラスティックで代用しているが折れやすいとのこと。太鼓は、能楽の太鼓と同じものですが、長刀鉾では奏法にキザミ(=トレモロ)はないとのこと。笛は低音と高音の2種類があって兼用しているとのこと。実際の鉾の中での楽器の配置は、進行方向向かって右側に鉦、左側に笛を配置。太鼓は他の鉾では進行方向の前方に置くが、長刀鉾は生稚児が乗るため、進行方向の対面に配置する。しかし、この位置は見送りがかかって外からまったく見えないので太鼓方からは不評とのこと。太鼓を中心に進行方向の後方で囃子の中心を形成しているとの説明でした。
また、木村氏が作成した譜面について説明。以前までは曲目を口伝えで教えていたが、今後の演奏の指導を考えて、3つの楽器を一覧できる譜面を作成したとのこと。譜面は縦書きで、おおまかに小節が形成されています。太鼓は「左」「右」と叩くバチが書いてあります。反転文字は強く打つ意味、「×」はバチを置くという意味。鉦は「▲」が真ん中を打つ、「○」は下を打つ意味(右手で打つときは「?」、左手で打つときは「?」と表示)。笛は、押さえる穴の数を数字(1〜5)で表示、「0」は全部押さえる意味。漢数字で書かれている場合は低音の楽器で演奏。これ以外に、掛け声がカタカナで書かれています。譜面を見れば楽器を演奏するタイミングや奏法が一目瞭然で、祇園囃子を理解するうえでとても意味のある作業だと感じました。
続いて、曲目の話題に移りました。囃子は「渡り囃子」(5曲)と「戻り囃子」(20曲)の2種類に分けられる。「渡り囃子」(地囃子)は、ゆっくりしたテンポで神様に囃子を奉納するために演奏されます。また、曲目によって演奏されるシーンが限定されています。例えば「地囃子」は四条烏丸を出発するとき、「唐子(からこ)」は四条河原町で辻回しをしているときなどです。一方「戻り囃子」は、自由に演奏されます。太鼓方が曲目を選定し、演奏中に曲目名を言って他のメンバーに伝えます。ただ、演奏の開始は「獅子」「朝日」「九段」のどれかで始まり、終わりは「古(ふる)」か「太郎」でしか終われないという曲目の構成になっているとのこと。また、何曲かをセットで演奏する「○段」や、囃子と囃子をつなぐ接続詞的な曲目として「上げ」があります。さらに、繰り返し演奏することで笛と鉦にズレが生じるため、それを調整する「流し」が曲間に挿入されます。祇園囃子は意外に複雑な曲目構造になっているようです。

最後に通し演奏(唐子〜唐子流し〜上げ〜兎〜兎の流し〜上げ〜御祓(みそぎ)〜御祓の流し〜上げ〜緑〜流し〜上げ〜太郎)。ステージ横に名びらが置いてあって、曲目を書いた紙をめくってくれたので何の楽曲を演奏しているのか分かりました。戻り囃子に変わってからは次々に曲目が変わっていくのが分かりました。先ほどの演奏と違って、楽器や曲目の知識を得た後で囃子を聴くと新しい発見がありました。「唐子」は太鼓2名で演奏される曲目ですが、縦線が完璧にあっていました。すごい。二人は向かい合っていますが、視線は太鼓を向いていて互いにアイコンタクトを取っているわけでもないのにとてもよくそろっています。これは練習の賜物でしょう。太鼓方がメンバーに次の演奏曲目を言って知らせるのも見ていておもしろかったです。鉦はとてもよく響きました。こんなに大きな音が出るのはなぜでしょうか。もちろん全曲暗譜で演奏。ずっと正座で演奏していることだけでもすごいことです。
演奏終了後の拍手に応えてアンコール。「日和神楽」を演奏。宵山に演奏される曲目で、明日の山鉾巡行がいい天気になるように祈る曲です。

2時間の講演でしたが、詳しい解説でとても楽しめました。祇園囃子がこれほど奥深いとは思いませんでしたし、囃子の中に演奏する場面が限られた曲目があるとは知りませんでした。祇園囃子の特色として囃子と山鉾が一体となっているという説明がありましたが、祇園囃子だけでもじゅうぶん楽しめる魅力を持っています。講座終了後も田井氏や木村氏に質問しに行く人が多かったので、やはり興味関心が高いテーマなのだと感じました。日本伝統音楽研究センターでは「祇園囃子の源流に関する研究」を共同研究課題にしています。今後も研究が進めば講座を開催して成果を還元してくれるそうです。
京都芸術センターは、展覧会やワークショップなどいろいろな企画が催されています。この講座に行くまでは存在すら知りませんでしたが、体験型の催し物も開催されているので、機会があれば足を運びたいと思います。

翌日の京都新聞の1面にこの講座の記事が掲載されました。写真に私が写っていました。

(2005.5.23記)




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