東京都交響楽団東京芸術劇場シリーズ「作曲家の肖像」Vol.67「レスピーギ」


   
      
2008年3月22日(土)14:00開演
東京芸術劇場大ホール

ジェイムズ・デプリースト指揮/東京都交響楽団

レスピーギ/リュートのための古風な舞曲とアリア第3集
レスピーギ/交響詩「ローマの祭」
レスピーギ/交響詩「ローマの噴水」
レスピーギ/交響詩「ローマの松」

座席:S席 2階 D列46番


2005年4月に東京都交響楽団常任指揮者に就任したジェイムズ・デプリーストが、2008年3月に3年間の任期を終えて退任します。わずか3年で退任してしまうとは意外でした。まだデプリーストが指揮する演奏会を一度も聴いたことがなかったので、今回初めて聴きに行きました。
東京都交響楽団は、「作曲家の肖像」を東京芸術劇場で年4回開催しています。文字通り1人の作曲家の作品だけを取り上げる演奏会で、今回はレスピーギのローマ三部作を中心とするプログラムが組まれました。チケットは全席完売でした。

ジェイムズ・デプリーストは、小児麻痺のため歩行することができないため、車椅子に座って指揮します。写真で見たことはありましたが、実際に目にするのは今回が初めてです。デプリーストが車椅子に乗って、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの間を通って登場。指揮台には設置されたスロープを使って上がります。指揮台は正方形で、客席に対して斜め45度の角度で置かれていました。デプリーストが客席を向いて一礼した後、オーケストラのほうを向いて車椅子の高さを上げました。車椅子はすべて電動のようでスムーズに動きました。その間に、最前列のチェロ奏者が、デプリーストの譜面台を指揮台の上に載せました。

プログラム1曲目は、リュートのための古風な舞曲とアリア第3集。弦楽5部での演奏です。3曲目の「シチリアーナ」を小学校か中学校の音楽の授業で、リコーダーで吹いたことがあったので懐かしく聴きました。室内楽のような透明感ある響きを聴かせました。明るい音色で色彩感もあります。特にヴァイオリンが熱演。それに比べると、チェロとコントラバスは、ヴァイオリン並みの積極性が欲しいです。音量ももっと欲しいです。インバルが指揮した都響スペシャル「第九」では、コントラバスがしっかり響いていたので意外でした。
デプリーストは指揮棒を持ってスコアをめくりながら指揮しました。座ったままで手と腕だけの動きなので、あまり大きく指揮しません。その分、オーケストラが自主的にアンサンブルしているように感じました。
演奏終了後は、デプリーストが拍手に応えてオーケストラ団員を何回か立たせました。デプリーストはオーケストラのほうを向いたままで、後ろを振り向いて客席に挨拶しませんでした。また、一度舞台袖に引っ込むこともなく、そのまま指揮台の上にいました。ちょっとびっくりしましたが、おそらく指揮台の上が狭くて、車椅子を客席の方向に回転できないためのようです。

続いて、プログラム2曲目は交響詩「ローマの祭」。ヴァイオリンが澄んだ美しい音色を聴かせてすばらしい。東京芸術劇場のパイプオルガンは回転式の構造になっていて、2つの顔を持つとのこと。今回はいつも見かけない白いフォルムのモダンタイプで演奏されました。残念ながらパイプオルガンの音があまり聴こえませんでした。第1曲「チルチェンセス」では、バンダとしてトランペット奏者3名がステージ上のバルコニーから立って演奏しました。細部をデフォルメしない演奏でしたが、トランペットはもう少し大きくはっきり聴かせて欲しいです。第2曲「50年祭」もAllo festosoからトランペットが主旋律を演奏するのに鳴りません。第3曲「10月祭」のマンドリンは、第2ヴァイオリンとチェロの間の指揮台の前で演奏しました。第4曲「主顕祭」は、打楽器がリズミカルに鳴りましたが、はりきりすぎで、弦楽器や管楽器が聴こえませんでした。演奏が終わると、チェロ奏者が譜面台を指揮台から降ろして、デプリーストが車椅子の高さを下げて、スロープを降りて、指揮台の横で客席を振り向いて拍手に応えました。

休憩後のプログラム3曲目は、交響詩「ローマの噴水」。この曲がデプリーストに一番合っていると感じました。第1曲「夜明けのジュリアの谷の噴水」から、「朝」と「噴水」を即座にイメージさせる色彩感にあふれました。第1ヴァイオリンの高音の雰囲気作りもすばらしい。フルートの音色も美しい。第1ヴァイオリンの後ろに置かれたハープ2台やチェレスタもよく聴こえました。デプリーストはフランス印象音楽のような作品を得意としているように感じました。ローマ三部作の中では一番人気が低いですが、なかなかいい曲ですね。作品を見直しました。ただ、演奏の途中で客席から携帯電話が鳴ったのが残念。

プログラム最後の4曲目は、交響詩「ローマの松」。第1曲「ボルゲーゼ荘の松」冒頭から明るく軽い音色を聴かせました。ホルンを強調させるのが特徴的です。第2曲「カタコンベの傍らの松」は、弦楽器が荘厳な雰囲気を作り出しました。舞台裏のトランペットは、ステージ下手の舞台袖で演奏していたようです。第3曲「ジャニコロの松」はクラリネットが超弱奏を聴かせました。鳥の声は録音でした。第4曲「アッピア街道の松」は、バンダ(トランペット2、トロンボーン4)を客席2階席の通路に配置。そのため、バンダのすぐ前の席(G列4〜9番)には客を座らせていませんでした。綿密なステージプランです。大いに盛り上がりましたが、ティンパニがうるさく感じました。

演奏終了後は、カーテンコールが何回か行われました。デプリーストは、指揮台の近くで、両手を広げて拍手に応えていました。

デプリーストは、作品によってアプローチを変える指揮者ではないようです。弦楽器を美しく聴かせました。トランペットやトロンボーンよりも、ホルンを聴かせました。打楽器は強めに叩かせます。指揮の動きは小さいですが、強奏よりも弱奏のほうが大きく指揮することがありました。デプリーストにとって、指揮とは音量の大小を表すのではなく、音楽の流れを作り出すものなのでしょう。
東京都交響楽団は、4月からプリンシパル・コンダクターにエリアフ・インバルを迎えます。デプリーストは、東京都交響楽団の指揮者陣から離れるようで、東京都交響楽団を定期的に指揮するかどうか分かりません。デプリーストのレパートリーは広いですが、機会があれば色彩感豊かなフランス音楽を聴いてみたいです。

(2008.4.5記)


東京芸術劇場



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