いずみシンフォニエッタ大阪リハーサル見学会


2005年11月3日(祝・木)14:00開演
いずみホール

飯森範親指揮/いずみシンフォニエッタ大阪

尹伊桑/室内交響曲第2番
ミニ・レクチャー(西村朗、飯森範親)
モーツァルト/交響曲第41番「ジュピター」

座席:全席自由


飯森範親が常任指揮者を務めるいずみシンフォニエッタ大阪の公開リハーサルに行ってきました。翌日にいずみホールで行なわれる「いずみシンフォニエッタ大阪第11回定期演奏会」の前日リハーサルで、本番のチケットを買っていなくてもリハーサルに入場できました。申し込み方法は往復ハガキで申し込んで、抽選の結果(?)招待状が郵送されました。
会場のいずみホールは、京阪京橋駅で降りてしばらく歩いたところにありました。会場に着いてびっくり。ホール前に開場を待つ長蛇の列ができていました。入場無料ということもあって、多くの人が申し込んだようです。ホールは全席自由でしたが、1階席のH列よりも後ろの席のみを開放しました。オーケストラメンバーは私服で、すでにステージで音出ししていました。

ホール職員から事務連絡。録音をするので演奏中のホールの出入りはご遠慮いただきたいとのこと。指揮者の飯森氏が登場。ピンク色の半袖Tシャツに白のズボンという服装でした。チューニングの後、飯森氏が後ろを振り返って「普段やっていることをそのまま見ていただきます」と挨拶。
翌日の演奏会で3曲目(メイン)で演奏する尹伊桑(ユンイサン)作曲/室内交響曲第2番のリハーサルがスタート。翌日の演奏会が日本初演となります。飯森曰く、この作品のスコアには「自由の犠牲者のために」と書かれているそうで、ベルリンの壁が崩壊してすぐの頃に作曲されたこともあって、追悼の意味や悲惨さが盛り込まれた「意味深な曲」である、それぞれのテーマには苦しさがみなぎっていることをイメージして欲しいと団員に話しました。3楽章からなり、技術的な聴きどころが多い作品でした。第1楽章はバスクラリネットやヴァイオリンが高音を演奏し、第2楽章はハープが活躍し、長いオーボエソロがありました。私好みの作品でした。
演奏はほとんど仕上がっていましたが、飯森は細かな指示を与えていました。音符単位(「3拍目のウラのウラ」とか)の具体的な指示で、その緻密なリハーサルには驚きました。飯森は指揮台に置かれたイスに座って指揮。ノッてくると立ち上がって指揮しました。指揮棒は使っていませんでした。スコアに書かれた音型をくっきりはっきり聴かせることを意識した演奏でした。交通整理が徹底されていて、和音のバランスやクレシェンド・デクレシェンドの音量などを調整。スコアにかかれた音符を説明しながらリハーサルを進めました。間の空け方も工夫していて、「時間をいただけます?」とか、逆に「もう少し機械的に」などと指示していました。
いずみシンフォニエッタ大阪はパワフルでエネルギッシュなサウンド。団員の反応もよく、日本初演の気合いを感じました。飯森の指示をスコアにメモしたり、団員から飯森に質問していました。打楽器の視覚的効果については、団員のアイデアが飯森に採用されました。

休憩後はミニ・レクチャー。いずみシンフォニエッタ音楽監督で作曲家の西村朗氏と飯森氏のトーク。西村氏からいずみシンフォニエッタの説明。「いずみシンフォニエッタはいずみホールのレジデントオーケストラで、リハーサルと本番が同じ場所で行なえるのはすばらしい環境である」とのこと。飯森は今年で指揮活動20周年になるとのこと。22歳で大阪フィルを指揮してデビューしたが、初指揮は怖かったと話しました。西村氏は「指揮者はなりたい職業としてよく挙げられるが、東京芸大では学生の指揮者が先生が団員のオーケストラを指揮する。よくこんな人生を選んだなと思う」と語り、客席の笑いを誘っていました。
続いて、先ほど演奏した尹伊桑作曲/室内交響曲第2番について話題が移り、西村氏が「尹伊桑は世界平和をテーマに作曲を続けた。人類差別に対する葛藤、戦争、飢餓などに着目し、音楽で解決できないかと考えていて、それが作品に反映されている」と解説。飯森氏は「いろいろなテーマがふんだんに盛り込まれていて、作曲者はあれもこれも主張したかったのでしょう」と応じ、「fからffffが多いので、彼の主張が見えてくるようにバランスを取る」と話しました。西村氏の「指揮するときに作品の背景について話されますか」の質問に対し、飯森氏は「相当言う方です」「どう料理するか自然に考えます」と答えました。飯森氏は1989年の作曲当時、ドイツに住んでいたこともあるのでしょう。西村氏は「この作品は現代音楽を超えている。自由な筆致だ」と話しました。
次に演奏するモーツァルト作曲/交響曲第41番「ジュピター」(翌日の演奏会の1曲目)の話題に。ベーレンライター版のスコアを使用するとのことで、飯森氏が「モーツァルトが最初に書いたであろう版で、他人が手を加えていない」と解説。西村氏が「第4楽章のフーガがすごい」と絶賛。
最後に飯森氏がいずみシンフォニエッタ大阪について、「一丸となっていいものを作り上げるのがこのオーケストラのいいところ」「人間関係が濃い」と他のオーケストラにはない魅力を語りました。飯森は昨日『のだめカンタービレ』の取材を受けたそうで、記事が『FLASH』に載るそうです。千秋真一に似ていると言われるとのこと。

オーケストラの団員が再登場して、モーツァルト/交響曲第41番「ジュピター」のリハーサルがスタート。「しっかり鳴らすこと」「休符やリズムが詰まらないように」「呼吸を楽に」の3点を指示し、第1楽章から演奏がスタート。澄み切った音色で軽やか。スマートですが響きに不足はありません。ソフトな音響のなかにも個々の楽器の主張がよく聴こえました。ホールの残響とよくマッチした演奏で、無理に大きな音を出そうとはしません。このホールでの演奏に慣れている印象を受けました。飯森は指揮台から降りて客席でバランスを確認していました。団員への指示は前曲同様に丁寧で明快。「方向性が欲しい、停滞しないほうがいい」「(次の音符に移る)時間をいただけますか」「掛け合いが愛し合っていない」「もう少しスラーになりますか」などの言葉が聞かれました。「もしかしたら○○かもしれない」という表現で、団員に敬意を持って丁寧に指示しているのが印象的でした。
第2楽章は、第1楽章よりも時間をかけて練習しました。第2楽章のリハーサルが終わったところで、終了予定時間を10分オーバー。「続きは明日の本番で」ということでリハーサル見学会は終了しました。ちなみに、翌日の本番では、2曲目にヴォーン=ウィリアムズ作曲/オーボエ協奏曲(オーボエは茂木大輔)が追加されます。

飯森範親は、実に緻密なリハーサルを行なっていたので驚きました。指揮者は指揮棒で語るものであまりしゃべらないと思っていましたが、スコアをしっかり読んで、自分なりの音楽像を持って、団員に丁寧に説明してました。現在、ドイツ・ヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団の音楽総監督を務めているため、日本で指揮する機会はあまり多くないのが残念ですが、今度は本番の演奏会を聴いてみたいです。

いずみシンフォニエッタ大阪は、今年で結成5年目を迎え、初めての東京公演にも挑戦します。技術のレベルも高く、飯森の要求にもすぐに応えていました。また団員から飯森に質問するなど、演奏に対しても積極的。小編成だからこそできることを追求している姿勢は好感が持てます。今回のリハーサル見学会は、音楽が作られていく過程を知ることができるのでとても勉強になりました。日本全国でもまだ試みが少ないので、今後も継続して欲しいです。

(2005.11.12記)




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