東京フィルハーモニー交響楽団「第九」特別演奏会


   
      
2006年12月17日(日)14:00開演
サントリーホール大ホール

ミハイル・プレトニョフ指揮/東京フィルハーモニー交響楽団
高橋薫子(ソプラノ)、小山由美(アルト)、水口聡(テノール)、牧野正人(バリトン)
東京オペラシンガーズ

タネーエフ/カンタータ「ダマスカスのヨハネ」
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付」

座席:A席 1階 22列26番


年末恒例の第九演奏会の季節です。今年は1公演のみ、東京フィルハーモニー交響楽団の「第九」特別演奏会を聴きました。指揮は、ミハイル・プレトニョフ。ピアニストとして個性的な演奏を聴かせていますが、ロシア・ナショナル管弦楽団の音楽監督・首席指揮者を務めるなど指揮者としても活躍しています。東京フィルハーモニー交響楽団の「第九」を聴くのは、チョン・ミョンフン(スペシャル・アーティスティック・アドヴァイザー)が指揮した2003年以来です。
今年の第九演奏会の中でもやはり注目を集めたようで、東京フィルフレンズ会員の優先発売で電話をかけたときには、すでにS席が完売していました。びっくり。仕方がないので、1階席のA席を購入。早い段階で全席が完売したので、当日券はありませんでした。しかし、ホールに入ってみると、空席が目立ちました。どうなっているのでしょうか。1階席の22列目は、「雨宿り」席でした。あまりいい席ではないですね。

プログラム1曲目は、タネーエフ作曲/カンタータ「ダマスカスのヨハネ」。とても珍しい作品です。
合唱団が入場。ステージの後部に、男声が1列、女声が2列で並びました。続いてオーケストラ団員が入場。オーケストラは対向配置で、向かって左から、第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンの順。コントラバスは、チェロの後ろに配置していました。最後にプレトニョフがゆっくりと登場。スリムな体型でした。
「ダマスカスのヨハネ」は、タネーエフの作品番号1が与えられている作品です。タネーエフが27歳の1883年に、タネーエフの師だったN.ルビンシテインの追悼するために作曲されています。管弦楽と混声四部合唱で演奏されます。歌詞は、アレクセイ・トルストイ。『戦争と平和』を著したレフ・トルストイとは別人です。作品は3曲からなります。第1曲と第2曲は、レクイエムのようなおだやかな音楽。第3曲で勇ましく盛り上がりますが、最後は第1曲冒頭の部分が現われて静かに終わります。「第九」に比べると、地味な作品でした。
演奏は、美しく繊細な音色で演奏されました。プレトニョフは汚い音色を出すことを嫌っているようで、演奏に厚みがありません。f以上の音量になることが少ないので、ダイナミクスの幅に乏しいのが残念。音楽の流れもブチブチと切れがちで、ちょっと練習不足のように感じました。プレトニョフは、両手で合唱をコントロールしていました。

休憩後のプログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱付」。合唱団とオーケストラの配置は、1曲目と同じです。
全体的に速めのテンポで演奏しました。1曲目と違って、響きに一体感がありました。ただ、プレトニョフの指揮に問題があるのか、なかなかテンポが安定しないので、オーケストラは演奏しづらそうでした。細かい音符では粒がそろわず、粗くなることがありました。また、演奏の特徴として、旋律の背景となる長い音符をフェルマータのように扱っていました。例えば、第1楽章冒頭はホルンの二部音符を2小節以上じゅうぶん鳴らしてから、第1ヴァイオリンの旋律を指揮していました。この演奏解釈が他の楽章でも見られました。
第2楽章はテンポが速くて、音の粒が揃っていません。また、練習番号Cからの木管楽器の旋律にホルンを追加していました。木管楽器よりもホルンが大きな音量で演奏していました。
第3楽章も速いテンポを維持。121小節からのファンファーレもあっさり通過。
第4楽章の前に、独唱者4人が入場。指揮台の前に座りました。この楽章もテンポが速く、独唱者は歌いにくかったようです。東京オペラシンガーズの合唱は2003年の公演でも聴きましたが、力強く豊かに響きました。
プレトニョフは、あまり立ち位置を変えずに指揮しました。アクセントでは、指揮棒を奏者に突き刺すようにして指示していました。

個性的な演奏を期待していましたが、期待外れでした。身を乗り出して聴くような部分がなかったのが残念。プレトニョフは主旋律を処理するだけで手一杯のようで、同じピアニスト出身のウラディーミル・アシュケナージと指揮のスタイルが似ています。特に木管楽器には興味がないようでした。プレトニョフにとっては、大曲すぎたのかもしれません。2003年の「第九」公演で、チョン・ミョンフンの指揮ですばらしい演奏を聴かせたオーケストラとは思えませんでした。指揮者によって、まったく違う演奏になることを改めて痛感しました。

(2006.12.24記)


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