東京フィルハーモニー交響楽団「第九」特別演奏会


    サントリーホール
      
2003年12月21日(日)15:00開演
サントリーホール大ホール

チョン・ミョンフン指揮/東京フィルハーモニー交響楽団
アンナ・トモワ=シントウ(ソプラノ)、寺谷千枝子(アルト)、福井敬(テノール)、ディミトリ・ティリアコス(バリトン)
東京オペラシンガーズ

モーツァルト/モテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付」

座席:S席 2階LC 4列4番


2003年第九演奏会第2弾は、東京フィルハーモニー交響楽団のスペシャル・アーティスティック・アドバイザーを務めるチョン・ミョンフンによる第九演奏会です。このコンビは2002年から「ベートーヴェン交響曲全曲演奏会」を進めていて、この第九はその最後を飾る演奏でもあります。チケットは数日で完売する超人気ぶり。私も発売初日に電話しましたが全然つながらなくて、インターネットから申し込んでなんとかチケットを確保できました。本当は2階席Cブロックがよかったのですが、LCブロックになりました。少し残念。
この演奏会は、協賛の日本サムスン株式会社日本進出50周年記念を兼ねているということで、開場後ロビーにカメラマンなどの報道陣が集まっていました。

プログラム1曲目は、モーツァルト作曲/モテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。合唱団はステージ後方に並びました。オーケストラは弦楽器のみ。チョン・ミョンフンがゆっくりと登場。長い間をおいて演奏が始まりました。
作品は弱音によって構成されていますが、オーケストラはもう少し音量的に小さくてもよいでしょう。合唱団があまり聞こえませんでした。また、合唱は弱音の中でも発声をはっきりさせてほしいように感じました。この作品ならば、もう少し美しく演奏できるように感じました。演奏は約4分で終了。ふたたび休憩となりました。前プロにしては短すぎました。

休憩後のプログラム2曲目は、ベートーヴェン作曲/交響曲第9番「合唱付」。指揮者と一緒に独唱者が登場。合唱団の男声と女声の間に座りました。
チョン・ミョンフンの指揮は、スピード感のある鋭いタクトで、時には頭を上下に動かし、強奏では右腕を高く振り上げるなど気持ちが入った指揮を見せました。オーケストラも、チョンのタクトに呼応した力強く迫力のある演奏を聴かせました。重厚で濃厚な演奏で、全体的にテヌートをアクセント気味に処理しているのが特徴。特に弦楽器が決然とした表情でスケールを弾ききっているのが気持ちいい。
第1楽章は、301小節からのティンパニが強烈アクセント。迫力がありました。また、513小節からの葬送行進曲では、木管楽器を強調していたのが新鮮でした。
第2楽章は、第1楽章に比べるとやや安全運転。あまり面白みを感じませんでした。木管楽器があまり鳴らないので、旋律が聞こえない部分があったのが残念。Prestoは快速テンポで演奏していました。
第3楽章も、くっきりとした表情をつけました。交通整理が行き届いていて、この難解な音楽がすっきりと聴きやすい音楽になりました。丁寧な音楽作りが感じられました。
第4楽章は、冒頭のファンファーレが力強い。トランペットとティンパニの強奏が冴え渡りました。また有名な543小節からの伴奏でもトランペットとティンパニを強調。私好みの演奏でした。東京オペラシンガーズによる合唱は、力強く張りがあり、ボリューム感満点ですばらしい演奏。人数は約80名で昨日の東京音楽大学合唱団にくらべると少数でしたが、音圧が高くよくまとまっていました。特に男声の堅く引き締まった歌声がすばらしい。独唱者は、バリトンのディミトリ・ティリアコスは明朗な歌声を聴かせましたが、ソプラノのアンナ・トモワ=シントウの発声は少し無理があるように感じました。四重唱ではソプラノが突出するなどバランスが悪く、方向性のズレを感じさせました。
演奏終了後は、チョン・ミョンフンに盛大な拍手が送られました。期待以上の熱演を聴けました。

チョン・ミョンフンは、予想以上に実力を備えた指揮者でした。印象としては、輪郭を明確に形作って力強い演奏を聴かせるタイプだと感じました。2001年から東京フィルのスペシャル・アーティスティック・アドバイザーを務めているので、日本で頻繁に聴くことができるのもうれしいです。ちなみに、「スペシャル・アーティスティック・アドバイザー」という肩書きについて、チョン・ミョンフンは「音楽監督」ではないという認識を語っています(「東京フィルだより2003年秋」インタビュー記事)。最近はCDがほとんどリリースされていないのが残念ですが、どちらかというとライヴが似合う指揮者のように感じました。ここぞというところで、両腕を大きく広げる指揮は見応えがありました。まだ50歳なので今後の活躍に期待したいですね。

東京フィルハーモニー交響楽団の演奏を聴いたのは、今年9月の第679回定期演奏会以来でしたが、前回は演奏会場がオーチャードホールだったので、オーケストラの特徴がいまひとつつかめませんでしたが、今回の第九の演奏を聴いてこのオーケストラの実力が分かりました。技術的に安定していて熱演を聴かせてくれました。でも、この演奏会ではやはりチョン・ミョンフンを賞賛すべきでしょう。

うれしいことに、2004年7月にチョン・ミョンフン/東京フィルの顔合わせで京都公演があります。大いに期待しましょう!

(2003.12.28記)




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