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2006年11月18日(土)17:00開演 京都コンサートホール大ホール ニコラウス・アーノンクール指揮/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス ヘンデル/オラトリオ「メサイア」 座席:S席 3階 C−2列19番 |
ニコラウス・アーノンクールとウィーン・コンツェントゥス・ムジクスが1980年の初来日以来、実に26年ぶりに来日しました。アーノンクールは時差ボケが嫌いということで、四半世紀の間、来日公演がありませんでしたが、今年ついに実現しました。昨年の第21回京都賞受賞にともなって行なわれた「アーノンクール イン 京都」で、アーノンクールは25年ぶりの来日を果たしました。今回は指揮者として本格的な演奏会です。
今回のウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとの日本ツアーは、3プログラム6公演。東京3日、京都1日、大阪1日、札幌1日という内訳ですが、京都が土曜日公演、大阪が日曜日公演という願ってもない日程。近畿圏在住者のために組まれたような日程なので、迷わず両公演のチケットを確保しました。京都公演のプログラムは、ヘンデル作曲/オラトリオ「メサイア」です。
ちなみに、アーノンクールは11月3日から13日まで、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と日本ツアー(全8公演)を行なっていました。近畿圏では11月4日(土)に兵庫県立芸術文化センターで公演がありましたが、プログラムが「ブルックナー作曲/交響曲第5番」だったので外しました。そのうえで、11月11日(土)のサントリーホール公演(モーツァルト作曲/交響曲第39番〜第41番)のチケット争奪戦に参戦しましたが、プレオーダーやプレリザーブを含めて全滅でした。残念。
開場は16:00。ツアーパンフレットを1,000円で購入しました。ホールに入ろうとしましたが、まだリハーサル中なのか入れず。25分ほどロビーで待ってホールに入ることができました。ホールでは調律師がハープシコードを調律していました。
ホールはほぼ満席でしたが、いつもと開演前の客席が違います。ザワザワした感じはなく、張り詰めた緊張感が漂います。ちなみに、私の左斜めの席に、大阪音楽大学学長の中村孝義氏が座られました。開演前のチャイムが鳴ると、ホールが「シーン」と静まり返りました。開演をこんなに静かに迎える演奏会は初めてです。
演奏者が登場して、大きな拍手が送られました。まず、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの団員が登場。続いて、アーノルト・シェーンベルク合唱団の団員が登場しました。
チューニングは、オルガンのGの音に、コンサートマスターが合わせて始まりました。その後、コンサートマスターが他の弦楽器奏者の近くまで歩いていってチューニング。一人づつ音程を合わせているようでした。ちなみに、パンフレットによると、この日の演奏ピッチは、A=430Hzとのこと。チューニングが終わると、独唱者4人とアーノンクールがゆっくりと登場。アーノンクールには割れんばかりの拍手が送られました。
楽器配置について書いておくと、まずウィーン・コンツェントゥス・ムジクスは、1列目の向かって右端にオーボエ2本、2列目の右端にバスーン1本を配置していました。向かって左側に置かれたハープシコードとオルガンは、1人の奏者が演奏しました。ひな壇1段目には独唱者4人が座り、ひな壇2段目と3段目に合唱団が座りました。ひな壇4段目には誰もいません。指揮台はありませんでした。
以下に演奏の感想を記しますが、この演奏会はこれまで聴いてきた演奏会とは別次元の完成度を誇る演奏でした。私の音楽知識と語彙力で、演奏内容について詳しく語れるとは思えません。最初にこのことをお断りさせていただきます。
アーノンクールは、譜面台に置かれた譜面をめくりながら、指揮棒なしで指揮しました。作品に対する緻密な構成が随所に感じられました。スコアに書かれた音符ひとつひとつに意味があるように、アーノンクールの指揮の一挙手一投足に意味が読み取れました。立ち位置を頻繁に変えて、両手を振り上げるなど、スピード感あふれる指揮でした。アクセントやアーフタクト、シンコペーションは、力を込めて速く細かく指揮しました。また、縦線をきっちり合わせることは当然ですが、音がいつ始まっていつ終わるのか、その過程での方向性も指揮で明確に伝えていました。さらに、音符の最後の処理を残響を残して響かせるのか、残響を残さないで切るのかを明確に振り分けていました。後者の場合は、両手を横に大きく広げる動きが見られました。客席から見てもとても分かりやすい指揮でした。あいまいな部分は皆無で、演奏者に任せて流すような指揮はまったく見られず、明確な指揮動作によって、団員をコントロールしていました。合唱団に対する指示も多く見られました。常にきっちり指揮することが自分の役割であると考えているように感じました。来日の疲れなどはまったく感じられませんでした。
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの演奏は、まさに少数精鋭。ものすごく技術力が高い。大ホールで演奏するにしては少人数ですが、アンサンブルの密度が濃いので、音量が小さいと感じませんでした。どこまでも緻密で、アンサンブルはまったく乱れません。不純物のないクリアーな響き。弱奏でも音程に狂いがありません。完成度が高すぎ。1953年にアーノンクールによって設立されて以来、アーノンクールの考えが完全に浸透している結果でしょう。一朝一夕にこのレベルには行きません。手兵は違いますね。
アーノルト・シェーンベルク合唱団の合唱は、音程に狂いがないのがすばらしい。とてもよくそろっています。強奏ではまとまりのある響きを聴かせました。ただ、ホールの容積の問題なのか、発声がちょっと響きすぎかもしれません。
独唱者4人も美しい声で、自然にホールに溶けました。
結果的に、アーノンクールが演奏者全員を統率できているので、演奏の一体感がすばらしい。京都コンサートホールを本拠地にしている演奏団体ではないかと思ってしまうほど、じゅうぶんな響きがホールに響きました。各パートのバランスもすばらしい。非の打ちどころがありません。名演だとホールの響き方なんて気になりませんね。
特に印象に残ったのは、第1部最初の第1曲「シンフォニー(序曲)」。私が大好きな曲ですが、いきなりすばらしすぎ。目頭が熱くなりました。ただならぬ演奏が聴ける予感がしました。第11曲「合唱:ひとりのみどり子が、私達のために生まれる」では、弦楽器の細かな音符をしっかり聴かせるように指揮していました。第2部最後の第39曲「合唱:ハレルヤ!」は弱奏からは始まって、少しづつクレシェンドしていきました。テンポも次第に速くなりました。向かって右に配置されたトランペット2本とティンパニが、待ちかねたように強奏。「ハレルヤ!」の演奏後に客席から拍手が起こりましたが、アーノンクールは振り向きませんでした。ここでは拍手して欲しくなかったのかもしれません。
第1部が終わると20分間の休憩がありました。休憩前にカーテンコールが一度ありました。休憩中はトイレに見たことがないような大行列ができました。あやうく遅刻しそうになってあわててホールに入りましたが、ホールでは調律師がオルガンを調律していました。ちょっとあわただしい休憩でした。休憩後は、第2部・第3部を続けて演奏しました。演奏者もアーノンクールも最後までダレることなく、真剣な態度で集中して演奏しました。客席はちょっとダレている聴衆が見られましたが。
第3部最後の第47曲「合唱:ほふられた小羊は」の最後の全音符で、客席の誰かがフライング拍手。すると、他の誰かが「シーッ!」と拍手を静止。演奏が終わると、少し間があって拍手が起こりました。
演奏終了後のカーテンコールが何度かあった後、団員が退場。その後も拍手が続いたため、アーノンクールが一人でステージ中央に姿を現しました。まだまだ拍手が続くかと思いきや、この1回だけで終わり。多くの聴衆がすばらしい演奏を聴けただけでじゅうぶん満足したのではないでしょうか。20:15頃に終演。3時間を越える演奏会でした。
これだけ完成度の高い演奏を聴かせるとは本当に驚異的としか言いようがありません。レベルが高すぎ。こんな高尚な作品を、これだけすばらしい演奏で聴けたことに、なんだか罪悪感すら覚えてしまいました。もっと音楽について勉強しないといけませんね。
(2006.11.20記)