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2006年11月19日(日)15:00開演 いずみホール ニコラウス・アーノンクール指揮/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス モーツァルト/主日のための晩課 座席:S席 1階 H列22番 |
前日のアーノンクールの「メサイア」に続いて、ニコラウス・アーノンクールが指揮するウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの演奏を聴きました。今日はいずみホールでモーツァルトです。
いずみホールの客席数は、821席。京都コンサートホール大ホールの半分以下です。アンサンブルの編成を考えると、いずみホールはちょうどいい大きさですが、チケットが即日(即秒?)で完売するのは必至です。どうしてもこの公演を聴きたかったので、この公演のために年会費2,000円を払って「いずみホールフレンズ」に入会しました。一般発売に先立って、会員を対象に優先予約があり、見事にチケットをゲットできました。S席のチケットは30,000円で、これまで聴きに行った演奏会で最高額です。
このいずみホールでの公演は、いずみホールを会場に開催されてきた「ウィーン音楽祭 in OSAKA 2006 〜ニコラウス・アーノンクールを迎えて〜」の最終日でした。14:30に開場。入口で「ウィーン音楽祭 in OSAKA 2006」共通のパンフレットが、無料で配布されました。客席が準備中ということでロビーで待ちました。
しばらくしてからホールに入場。ホールのステージには、「Wiener Musikfest in OSAKA」の垂れ幕がステージの左右にかかっていました。またステージの上には、花が飾られていました。まるで、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを思わせる華やかさです。
座席は、1階席の通路のすぐ後ろの席でしたが、思ったよりもステージに近くてびっくりしました。ステージでは調律師がオルガンを調律していました。
プログラム1曲目は、主日のための晩課(ヴェスペレ)K.321。演奏者が入場。昨日と同じように、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス、アーノルト・シェーンベルク合唱団の順番で登場しました。コンサートマスターによる丁寧なチューニングの後、独唱者4人とアーノンクールが登場。
楽器配置は、向かって左にコントラバス、中央にチェロ、右にティンパニとオルガンを配置。ひな壇1段目には、向かって左から、バスーン、独唱者4名、トロンボーン2本、トランペット2本の順。ひな壇2段目と3段目に合唱団が並びました。
この作品は、5つの詩編とマニフィカトからなります。特徴的なのは、「アンティフォナ(交唱)」と呼ばれるグレゴリオ聖歌が、男声合唱のユニゾンによって歌われること。各曲の最初と最後に必ず歌われます。モーツァルトにこんな作品があったとは知りませんでした。このアンティフォナの指揮は、アーノンクールではなく合唱団の男性が右手で指揮しました。
アーノンクールは前日同様、指揮棒なしで指揮。ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの演奏は音符をしっかり鳴らしていました。特に、金管楽器とティンパニは、ここぞというところできっちり鳴らしていました。アーノルト・シェーンベルク合唱団は「メサイア」より密度が濃く豊かな合唱を聴かせました。独唱者も無理なく歌っていました。教会で聴いているようで、心が洗われるようなすばらしい演奏でした(うまく表現できませんが)。
休憩後のプログラム2曲目は、レクイエム。「ジュスマイヤーによる完成版(バイヤーによるオーケストレーション改訂版)」による演奏で、パンフレットの解説(加藤拓未氏)によると、アーノンクールはジュスマイヤーの補筆を最大限尊重する考えを採っているようです。
演奏ですが、まさに2日間の集大成と言えるすばらしい演奏でした。人間業とは思えません。うますぎ。このレベルの演奏はめったに聴けません。こういう音楽を聴くと、どんな言葉も陳腐に思えてしまいますね。アーノンクールと演奏者の演奏に対する姿勢は、前日の「メサイア」と変わりません。確信に満ちた指揮と演奏でした。ホールがあまり大きくないこともあって、全体的に余裕のある響かせ方でした。
アーノンクールは、強奏では激しい指揮で、トランペット、トロンボーン、ティンパニを豪快に鳴らしました。逆に弱奏ではわずかな手の動きでバランスを調整していました。ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの演奏はどこまでも正確で、本当にミスがない。すばらしい。
アーノルト・シェーンベルク合唱団は、これまでほぼ直立不動で歌っていましたが、この曲では体を揺らしながら歌っていました。視覚的に個人の自由度が高くなって、のびのび歌っていました。だからといって、音程が狂ったりはしません。曲によって、やわらかい歌声と張りのある声の表情が切り替えられるのもすばらしい。
曲ごとでは、「ディエス・イレ(怒りの日)」では、強弱をはっきり対比させました。「ラクリモサ(涙の日)」は、ゆっくりと静かに始まり次第にクレシェンド。「サンクトゥス(聖なるかな)」は、冒頭のfがすごい迫力。
演奏の終盤で、客席から携帯電話のアラーム音が聴こえました。最悪。雰囲気ぶち壊し。せっかく招聘してくれたいずみホールの顔に泥を塗りました。演奏者は気落ちすることなく演奏してくれましたが、私は絶対に許せません。最後はアーノンクールが手を下ろしてから、客席から拍手が起こりました。余韻まで楽しもうとする理解のある聴衆です(アラーム音を鳴らした1名を除く)。
拍手に応えて何度かカーテンコールがありましたが、アーノンクールは右手で団員のイスを持って拍手に応えていました。ものすごいエネルギーを使って指揮していたので、お疲れになったのでしょう。少しフラフラされていました。団員が去った後も鳴り止まない拍手に応えて、アーノンクールが一人でステージ中央に登場。両腕を広げて拍手に応えていました。
これだけすばらしい演奏が、「異端」とされていたことが信じられません。別世界のような現実離れした演奏でした。この世の音楽とは思えません。言葉を失いました。この演奏会のことは一生忘れないでしょう。幸運にもアーノンクールの演奏を2日間続けて聴くことができましたが、聴いているうちにこの完成度の高い演奏が当たり前のように思えてくるのが恐ろしい。
アーノンクールは写真で見た感じでは強面な印象がありましたが、とても礼儀正しいステージマナーでした。威張った感じはまったくしませんでした。
ただ欲を言うと、座席はもう少し後ろの席のほうがよかったです。ホールの残響をもう少し含んだ響きのほうが私は好きです。ただ、アーノンクールの指揮をよく見ることができてよかったです。
(2006.11.26記)