東京フィルハーモニー交響楽団第679回定期演奏会


   
      
2003年9月14日(日)15:00開演
Bunkamuraオーチャードホール

ウラディーミル・フェドセーエフ指揮/東京フィルハーモニー交響楽団
セルゲイ・ハチャトゥリヤン(ヴァイオリン)

〔ハチャトゥリヤン生誕100年〕
ハチャトゥリヤン/ヴァイオリン協奏曲
ハチャトゥリヤン/組曲「仮面舞踏会」
ショスタコーヴィチ/交響曲第10番

座席:S席 1階26列24番


東京フィルの首席客演指揮者を務めるフェドセーエフが、ロシア音楽を指揮するということで渋谷まで聴きに行ってきました。

プログラム1曲目は、ハチャトゥリヤン作曲「ヴァイオリン協奏曲」。ヴァイオリン独奏はセルゲイ・ハチャトゥリヤン。アルメニア生まれのまだ10代です。ステージに登場したところでは、10代という感じには見えませんでした。同姓ですが、作曲者のアラム・ハチャトゥリヤンとは血縁関係はないようです。指揮者のフェドセーエフは紳士っぽい感じでした。
独奏のハチャトゥリヤンは直立不動で演奏していましたが、音程が正確で清潔感のある演奏に好感が持てました。しっとりとした美しい音も魅力的。フェドセーエフの指揮も大振りせず、丁寧で表情豊かな演奏でした。しかし、オーケストラはホールのせいか弦楽器が拡散気味でまとまって聞こえてこないため力強さに欠けました。残響が多すぎるせいか、全体としてモヤモヤした印象がしました。また強奏で弦楽器が管楽器打楽器にかき消されてしまうのも残念。
第1楽章は、管楽器と打楽器が作品の持つ東洋的な雰囲気をうまく表出していました。またリズム感のある演奏でした。カデンツァは、プログラムの解説によれば、作曲者自身によるものを演奏したようです。幅広い音程を駆使するカデンツァでした。
第2楽章は、冒頭のファゴットソロがホルンのように聞こえたのには驚きました。ヴァイオリン独奏は、テンポや強弱の付け方など少し型にはまった感じがしました。オーケストラも洗練されすぎの感があり、和音の使い方によってもう少しノスタルジックな雰囲気が表現できるのではないかと感じました。中盤から大音量の行進曲となり、強奏と弱奏の差が極端な演奏でしたが、スコアにそのように指定されているようです。ラストも金管の鳴りがすさまじく交響曲のようでした。トランペットなどは汚い音でしたが、まあ許容範囲と言えるでしょう。
第3楽章は、ヴァイオリン独奏が主題を気持ちよさそうにのびのびと演奏。オーケストラとソロの掛け合いもよくなってきました。ただし、全体的に作品がやや長いですね。
演奏後は拍手に応えてハチャトゥリヤンがアンコールを披露。ハチャトゥリヤン作曲「バレエ音楽ガイーヌからダンス」。細かなテクニックを要求される作品でしたが、2音を同時に鳴らす技術なども正確さが光りました。セルゲイ・ハチャトゥリヤンは、若いながらすばらしいテクニックを持ったヴァイオリニストでした。今後は表現力をさらに磨いて欲しいです。

プログラム2曲目は、ハチャトゥリヤン作曲 組曲「仮面舞踏会」。この作品は吹奏楽でもよく演奏されますが、やはり金管がうまいとすばらしい演奏効果を挙げます。第1曲「ワルツ」は、弦楽器がまとまっていましたが、やはり管楽器打楽器にかき消され気味なのが惜しい。途中でグランドパウゼを仕掛けたのが斬新。第2曲「ノクターン」はヴァイオリンソロの音程がいまひとつ。第3曲「マズルカ」は華やかな演奏。管楽器、特にフルートがうまい。第4曲「ロマンス」はヴァイオリンのユニゾンが美しい。第5曲「ギャロップ」は、金管がよく鳴りましたが、もっと爆演を期待したいだけにいくぶんおとなしい演奏のように感じました。シンバルがややうるさめ。

休憩後のプログラム3曲目は、ショスタコーヴィチ作曲「交響曲第10番」。一体感のある熱演でしたが、いわゆる爆演ではなく、フェドセーエフは落ち着いていて、強奏もフルに鳴らしきりながら整理された演奏を聴かせました。スコアの一音も無駄にしない明確な意志を持った演奏でした。
第1楽章は、冒頭から超弱音での演奏。クラリネットソロも音量をセーブしていました。そこから頂点へのもっていき方が演出上手。強奏との対比が効果的でした。弦楽器もホールの悪さを感じさせない一体感のある演奏でした。特にコントラバスの支えがすばらしく、ショスタコーヴィチにふさわしいいと言えるでしょう。ラストも手を抜くことなく丁寧で緻密な演奏でした。
第2楽章は、金管の鳴りがすばらしい。木管の細かなパッセージも大健闘で、日本のオーケストラでよくここまでやったと思えるほどでした。もう少しテンポが速ければ、この楽章の恐ろしさがさらに表現できると思います。
第3楽章は、速めのテンポでスタート。有名なD−S−C−Hのテーマはかなり速く、軽やかな印象。金管もここでは激しさが控えめでした。
第4楽章は、冒頭からオーボエやフルートのソロを強めに出していました。すばらしい盛り上がりを見せましたが、肝心の382小節目のD−S−C−Hの全奏で、なんとトランペット1本が1小節早く入ってしまいました。全曲のクライマックスでのミスは本当に残念です。

拍手に応えてのアンコールは、プログラム2曲目のハチャトゥリヤン作曲 組曲「仮面舞踏会」からギャロップ。フェドセーエフとオーケストラとの良好な関係がうかがえました。

フェドセーエフは、爆演系の指揮者だとイメージしていましたが、作品の構造をよく理解し、整理したうえでオーケストラを鳴らしきっていました。最近はCDのリリースなど目覚ましい活躍はありませんが、今後の活躍に期待したいです。

東京フィルハーモニー交響楽団は、技術的にそこそこの力量を兼ね備えており、トータルとしてまとまったサウンドを聴かせました。また、指揮者の要求にも即座に対応できる能力があります。ただし、今回の本番でのミスは非常に痛いです。集中力を持続できる演奏を求めたいです。

Bunkamuraオーチャードホールは、東京フィルのフランチャイズホールですが、音響的には少し問題があるホールだと感じました。天井が高いせいか、弦楽器が拡散して聞こえてしまうのが問題です。またステージの幅が狭いのかオーケストラも窮屈そうでした。しかも、この日は演奏中にホール内の照明が一瞬でしたが数回落ちたりするなど落ち着かない雰囲気でした。今回は1階席で聴きましたが、おそらく2階席の方が音響的にはよいと思います。渋谷駅から徒歩5分程度と立地条件はよいですが、同一プログラムが他ホールでも演奏されるのなら今後はそちらで聴くことになるでしょう。

(2003.9.22記)


オーチャードホール



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