R.シュトラウス/アルプス交響曲


◆作品紹介
R.シュトラウスが作曲した最後の管弦楽作品。日の出前から日没後までのアルプスの一日と登山者を描写する。単一楽章で全曲休みなしに続けて演奏される。5管編成の管弦楽と、ウィンドマシーンやサンダーマシーンなど多くの打楽器を必要とする。
ニーチェ後期の著作『アンチクリスト(反キリスト者)』(1888年)をもとに構想され、1902年に4楽章からなる「アンチクリスト(副題:アルプス交響曲)」を作曲するが、1911年に2楽章以降を破棄し、単一楽章の作品とした。また、初演直前にタイトルを「アルプス交響曲」に変更した。
初演は1915年10月28日に、ベルリンでシュトラウス自身が指揮するドレスデン・シュターツカペレの演奏で行なわれた。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
シューリヒト指揮/シュトゥットガルト放送交響楽団 1955 ヘンスラークラシックス(輸) CD93.151
スヴェトラーノフ指揮/スウェーデン放送交響楽団 1993 ヴィブラート(輸) VLL170
朝比奈隆指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 1997 キャニオンクラシックス PCCL00540
田中雅彦指揮/早稲田大学交響楽団 2012 ユニバーサル UCCY1028


シューリヒト指揮/シュトゥットガルト放送交響楽団 【評価B】
モノラル録音。1955年にしてはノイズもなく、かなり聴きやすい音質である。
外面的な効果よりも、内面的な構築を聴かせることを重視しており、バランスよくコントロールされている。強奏は音量を抑えめで、各パートをしっかり明瞭に聴かせる。中低音が土台になって旋律を支えている。強奏は少し物足りないが、予想以上の完成度である。
「夜」の最後の小節の八分音符の三連符はテンポを落とさずに「日の出」に突入する。「滝にて」はピッコロを強めに聴かせて、色彩感を出す。「頂上にて」は練習番号80から、ホルンが朗々と歌う。「ヴィジョン」は、練習番号90からオーボエがやたらと聴こえる。練習番号96のfffは物足りない。「嵐の前の静けさ」練習番号109からヴァイオリンのピツィカートがはっきり聴こえる。「雷雨と嵐、下山」は、やや乱れがちなオーケストラを強引にリードする。いつもは埋もれがちな弦楽器がよく聴こえる。ティンパニの雷鳴がおとなしく、しかも見失ったようで、たまに落ちている。練習番号1275小節のフルートが落ちるなど、目立つ部分でミスもある。


スヴェトラーノフ指揮/スウェーデン放送交響楽団 【評価B】
ストックホルムでのライヴ録音。音符をしっかり鳴らして、重量感ある濃厚な響きが聴ける。燃焼度が高いが荒れることなく丁寧に演奏している。ライヴ録音のためか、音色がやや濁って聴こえるのが残念。スヴェトラーノフの低いうなり声がたまに聴こえる。
全体的に打楽器が力強く叩かれる。「日の出」でティンパニが豪快に鳴る。「森へ」冒頭のドラや、「幻」の鉄琴も大きめに叩かれる。「危険な瞬間」練習番号73の2小節で、クラリネットが入り間違えている。「ヴィジョン」は、速いテンポで演奏する。「雷雨と嵐、下山」はティンパニが豪快にとどろき、ものすごい迫力である。ウィンドマシーンは北風みたいに寒そうな音を聴かせる。練習番号124のサンダーマシーンの連打もすごい。練習番号127の6小節のティンパニの音がおかしい。「夜」ラストはフェルマータの音符を長くのばす。


朝比奈隆指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団 【評価C】
大阪フィルハーモニー交響楽団第307回定期演奏会「楽団創立50周年記念演奏会」(1997.4.26 フェスティバルホール)のライヴ録音。朝比奈隆の同曲2回目の録音である。
危なっかしい部分が数ヶ所あるが、ライヴにしてはなかなかの完成度で、集中力を切らすことなく演奏している。弦楽器がまとまった響きを聴かせる。堂々とした構えで格調高く聴かせようとする。エネルギッシュで老いを感じない。細部をはっきり聴かせるよりも総合力で勝負している。朝比奈隆のうなり声がたまに聴こえる。
「夜」は、ファゴットが明瞭に聴こえる。「日の出」や「花咲く草原」の強奏は、低音がさみしく感じられる。「登り道」の練習番号16でトランペットが乗り遅れて、1拍ずれている。「林で道に迷う」は、交通整理が不十分でごちゃごちゃしている。「頂上にて」は、威圧感がなくすがすがしい。あまり険しい山ではないように感じる。「嵐の前の静けさ」は、練習番号107から突然テンポアップ。「雷雨と嵐、下山」は、ウィンドマシーン音量が大きすぎてうるさいため、オーケストラの細部が明瞭に聴こえない。練習番号127の6小節の2ndティンパニを強打させて、雷鳴を派手に鳴らせる。「日没」は速いテンポで、運動性豊かににぎやかに演奏する。


田中雅彦指揮/早稲田大学交響楽団 【評価C】
ベルリン・フィルハーモニーにおけるライヴ録音。田中雅彦は同響の永久名誉顧問を務める。音像は少し離れていてステージと距離感がある。アクセントなどのアーティキュレーションがもうひとつ明確に聴けたほうがよかった。
学生オーケストラ(音楽大学ではない)にしてはかなりの水準で、音程もよく合っている。音色や表情の引き出しも多い。落ち着いた包容力のある響きで、晴れ舞台で堂々とした演奏を聴かせる。本番で興奮して個人プレイに走ったりせず、学生離れした懐の深さを感じる。強奏も勢い任せにならないが、fffでも音量的におとなしい。ホルンはもう少し張りのある響きが欲しい。トランペットは音が裏返ったり外したりすることが多い。
「夜」は細部もきっちり演奏している。「登り道」の「hinter der Scene(舞台の後ろで)」のホルン等は遠くから聴こえるが、縦線が緩くなる。「森へ」練習番号32からの弦楽器のアンサンブルは見事。「牧場にて」はオーボエがフラッターを聴かせる。「頂上にて」はゆったりしたテンポで朗々と歌われる。「嵐の前の静けさ」は、繊細に弱奏を作る。練習番号107から速いテンポで「雷雨と嵐、下山」に突入する。クライマックスでサンダーマシーンが炸裂する。「日没」は練習番号132からテンポを落とす。「夜」練習番号145からのppはもう少し音量を落として欲しかった。


2009.2.14 記
2011.8.13 更新
2013.9.3 更新


シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 R.シュトラウス/交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」