◆作品紹介
シベリウスが作曲した唯一の協奏曲。交響曲第2番と第3番の間に作曲された。若い頃にヴァイオリニストを志していただけあって、重音奏法などヴァイオリンの技巧を十分に発揮させる。3つの楽章から成るが、第1楽章が長大で、作品全体の半分を占める。第1楽章のカデンツァを終盤ではなく中盤に配置しているのもユニークな構成である。
初演は1904年2月8日にヘルシンキでシベリウス自身の指揮、ノヴァチェクのヴァイオリン独奏で行なわれた。その後、1905年に改訂されている。現在多く演奏されているのは、この改訂版である。初演は1905年10月19日にベルリンで、カルル・ハリールの独奏、リヒャルト・シュトラウス(!)の指揮で行なわれた。
◆CD紹介
演奏団体 | 録音年 | レーベル・CD番号 | 評価 |
クーレンカンプ(vn)、フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1943 | ロシアンコンパクトディスク(輸) RCD25009 | C |
ウィックス(vn)、エールリンク指揮/ストックホルム放送交響楽団 | 1952 | EMIクラシックス TOCE16050 | B |
ベルキン(vn)、広上淳一指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 | 1994 | デンオン COCO70626 | C |
クーレンカンプ(vn)、フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
ライヴ録音。戦前の録音と思えないほどノイズがなく聴きやすい。
ヴァイオリン独奏は、スラーをグリッサンド気味に演奏して、表情がねばっこい。音色に潤いがあって、線が太く朗々と歌われる。楽器全体がよく響いている。わずかなミスもあるが一気呵成に弾き切っている。第3楽章はありあまるほどの勢いをつけて弾く。
フルトヴェングラーがシベリウスを珍しく指揮しているが、構えが大きく、緩急をつけたテンポ設定も興味深い。第1楽章の練習番号4(Allegro molto.)は、ゆっくりしたテンポで落ち着いて歌われた後に、徐々にアッチェレランドする。練習番号11(Allegro molto vivace.)の前はリタルダントしてエネルギーを蓄える。
ウィックス(vn)、エールリンク指揮/ストックホルム放送交響楽団 【評価B】
歴史的名盤として語られてきた演奏である。モノラル録音だが、ノイズはなく聴きやすい。カミラ・ウィックスはアメリカ出身の女流ヴァイオリストだが、女性とは思えないほど力強く、スケールも大きい。たまに音を外すこともあるが、テクニックも比較的安定している。チューニングのピッチが高い。第1楽章はやや速めのテンポ。練習番号2の11小節前(Largamente)からのcrescendo e poco a poco stringendoや練習番号11のAllegro molto vivace.は、勢いに乗って速いテンポで弾く。第3楽章冒頭は、energicoの指示通り、付点音符を弾んで演奏する。
オーケストラの音色は暗め。第1楽章練習番号7の19小節で、ヴィオラチェロのトレモロを強めに聴かせるのが効果的。
ベルキン(vn)、広上淳一指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 【評価C】
ヴァイオリン独奏は優しい音色。繊細に表情を弾き分ける。テクニックも正確で、重音も美しい。
オーケストラ伴奏は細かな音符も聴こえる。強奏でもバランスのいい和音でカラッと鳴るが、もっと力強くて鳴ってもいい。空間に奥行きのある音響だが、金管楽器はアインザッツが遅れるなど反応が鈍い。
強奏よりも弱奏に聴きどころが多い。第1楽章練習番号2の8小節からは、弦楽器の四分音符のテヌートを一音ずつしっかり鳴らす。練習番号7の12小節からのコントラバスのピツィカートは芯がある。第2楽章はしっとり聴かせて聴きごたえがある。第3楽章練習番号8の7小節からのクラリネットとファゴットのメロディーが物寂しくていい。
2011.7.26 記
2013.1.13 更新