ショスタコーヴィチ/交響曲第15番


◆作品紹介
ショスタコーヴィチ最後の交響曲で、2ヶ月間で作曲された。2管編成だが、13種類の打楽器を必要とする。ロッシーニ「ウィリアム・テル序曲」、ワーグナー「ニーベルングの指輪」、グリンカ「疑惑」、自作(交響曲第4番、第7番「レニングラード」)など、多くの引用が用いられる。第1楽章についてショスタコーヴィチは「おもちゃ屋さんの世界」と語っている。第2楽章と第3楽章は休みなく続けて演奏される。第4楽章の最後の弦楽器の和音は格別に美しい。
初演は、1972年にショスタコーヴィチの子息のマキシム・ショスタコーヴィチ指揮のモスクワ放送交響楽団によって行なわれた。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
ケーゲル指揮/ライプツィヒ放送交響楽団 1972 ヴァイトブリック(輸) SSS0039-2
コンドラシン指揮/ドレスデン国立管弦楽団 1974 プロフィル(輸) PH06065
ロジェストヴェンスキー指揮/ソヴィエト国立文化省交響楽団 1983 メロディア(輸) 74321 59057 2
K.サンデルリング指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1999 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(輸) BPH0611
アントルモン、ミッコラ(p) 2006 カスカヴェル(輸) VEL3102


ケーゲル指揮/ライプツィヒ放送交響楽団 【評価B】
ライヴ録音。スコアが詳細に分析されて、交通整理が行き届いている。伴奏がやや大きめの音量で表情豊か、積極的にメロディーを盛り上げる。ここまで伴奏に耳が行く演奏は珍しい。強奏での冷たい音色も魅力。
第2楽章は39小節からのチェロ独奏を伴奏するコントラバスが重みを持って響く。142小節からのトロンボーン独奏はけだるそうに吹く。208小節からの弦楽器アンサンブルはエレジーのよう。
第3楽章は猛スピードで飛ばして3分42秒で終わる。縦線がずれる箇所があるが、勢いで乗り切る。
第4楽章は216小節からの頂点のスケール感がすごい。音色の汚さも気にならない。254小節のタムタムはゴーンという低い鐘のような音がする。


コンドラシン指揮/ドレスデン国立管弦楽団 【評価C】
コンドラシンがドレスデン国立管弦楽団を指揮した最後の演奏会のライヴ録音。聴衆ノイズはほとんどない。
強奏はロシアのオーケストラのように威勢よく鳴る。それでいて弱奏では繊細な表情を持ち合わせている。ライヴ録音のため細かな演奏ミスがあるのが惜しい。
第1楽章は速いテンポでオーケストラを煽りながら進む。第2楽章は182小節(=練習番号71)から弦楽器がリードする。202小節でミュート付きトランペットが音を外すのが残念。227小節(=練習番号77)からのコントラバスソロは音程が悪い。第3楽章冒頭のクラリネットソロは音量が抑えめであまり前面に出てこない。第4楽章は17小節(=練習番号113)からのヴァイオリンのメロディーは感情を込めて歌う。230小節(=練習番号135)からスコアにないティンパニ?のクレシェンドを追加している。342小節(=練習番号148)からはかなり抑制された質素な響き。弦楽器の和音も打楽器もあまり聴こえない。342小節で打楽器が1拍遅れる。355小節で木琴が音を間違える。


ロジェストヴェンスキー指揮/ソヴィエト国立文化省交響楽団 【評価C】
ティンパニが強烈。ものすごい音量で叩かれる。やけくそで叩いているようで、聴いていて笑ってしまう。金管楽器は硬く乾燥した音質で直線的に鳴る。弦楽器や木管楽器に合わせて、もう少し気が利いた音色を聴かせてほしい。金管楽器とティンパニが突出しすぎて、全体の雰囲気をぶち壊している感は否めない。木管楽器のソロはなかなかの腕前で、技巧を見せつけるように演奏する。
第1楽章267小節からの弦楽器のストレッタは、エコーがかかっているように聴こえて神秘的な響きである。第2楽章180小節からは金管楽器が大爆発。第2楽章200小節からと第3楽章191小節からのトランペットのcon sord.は、ストレートミュートではなくカップミュートを使用しているのが注目される。第4楽章17小節からの弦楽器のメロディーは速めのテンポで演奏する。216小節からのクライマックスは、ティンパニとトランペットしか聴こえない。342小節からはカスタネットとウッドブロックがリズミカルに小気味よく叩かれる。


K.サンデルリング指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
ベルリンフィルハーモニーでのライヴ録音。音程や縦線の乱れなど、演奏ミスがいくつかある。音価をコントロールして余韻を残さないようにしている。fでも強くなく、スマートに鳴らす。透明感があり見通しがよく、各楽器の動きがよく分かる。静謐な雰囲気がいい。太鼓など打楽器は直接的に叩かれる。
第1楽章は音程が悪いのが残念。危なっかしい部分もある。冒頭のフルートソロは遅めのテンポで演奏される。225小節からの大太鼓が力強く叩かれる。第2楽章は張り詰めた雰囲気がある。142小節からのトロンボーンソロは、スコアにespress.と指定されているが無表情に演奏する。


アントルモン、ミッコラ(p) 【評価C】
ショスタコーヴィチが自ら編曲した2台ピアノ版による演奏。交響曲のスコアを書き終えた後に、編曲された。
オーケストラの原曲と比べても世界観が変わらず、ピアノ2台でもそんなに聴き劣りしないところはさすがショスタコーヴィチである。音符が少ない分、作品の構成がよく分かる。原曲の打楽器パートも音程を持つ音符として編曲されている。意外な音程が使われている部分があって興味深い。
アントルモンとミッコラ(女性)のアンサンブルも息が合っている。音符の粒立ちがはっきりしていて、つややか。アクセントやスタッカートなどのアーティキュレーションも適切に表現されている。強奏も和音が鮮やかに響いて、シンフォニックな迫力もある。
第1楽章冒頭の4小節と6小節で、弦パートの和音が構成が異なることがよく分かる。111小節および131小節からの「ウィリアム・テル序曲」の引用は、テンポを落として弾かれる。第2楽章は音色が多彩でないためやや単調に聴こえる。独奏チェロパートをピアノで弾くと別の魅力があるが、音価が持続しないため旋律が断片的になってしまう。第4楽章は216小節からの強奏は低音のメロディーが弱いせいか、意外な聴こえ方がする。続く224小節から緊張感が弛緩してしまうのが残念。341小節からの弦楽器の全音符はピアノでは和音が持続しないのが残念。打楽器の音色がないのも物足りない。



2008.11.12 記
2009.4.18 記
2009.12.26 記
2010.12.28 記


ショスタコーヴィチ/交響曲第10番 シベリウス/交響曲第2番