シェーンベルク/浄められた夜


◆作品紹介
シェーンベルク25歳のときに作曲された弦楽六重奏曲(ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ2)。ドイツの詩人リヒャルト・デーメルが1896年に発表した36行の詩「VERKLARTE NACHT(浄夜)」(詩集『女と世界』所収)をもとに、1899年に作曲された。詩の大意は、月夜に照らされた恋人が林の中を歩いている。女が別の男の子を懐妊したことを男に告げるが、男は受け入れる。
1917年に作曲者自らコントラバスを加えた弦楽オーケストラ用に編曲した。さらに1943年に改訂版を出版したが、変更箇所はごくわずかである。
初演はロゼー弦楽四重奏団にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団員を2名加えた編成で、1902年3月にウィーンで行なわれた。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
ラサール弦楽四重奏団、マッキネス(va)、ペギス(vc) 1974 グラモフォン POCG30131
カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1988 テスタメント JSBT8431 AA
小澤征爾指揮/サイトウ・キネン・オーケストラ 1993 デッカ UCCD4216


ラサール弦楽四重奏団、マッキネス(va)、ペギス(vc) 【評価C】
内声や主旋律以外の素材を活発に聴かせるが、ちょこまかしていてやや耳障りに感じる。鋭角的なアーティキュレーションで、スピード感があって見通しがよく、付点音符も跳ねるように弾く。ただし、線が細く重々しくないので、響きの広がりに欠ける。トゥッティでは和音を響かせてほしい。少しセカセカしていて、もっとゆったり歌ってほしい部分がある。奏者の息を吸う音が聴こえる。
冒頭はゆっくり慎重に始まる。17小節から第1ヴァイオリンが語尾でグリッサンドをかけて降りるのがいやらしい。332小節2拍目の後の∨でパウゼを入れる。


カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価AA】
1943年改訂版による演奏。カラヤンのロンドンでの最後の演奏会のライヴ録音で、同曲生涯最後の指揮となった。ストライキの影響で楽器運搬が遅れたため、1時間遅れで開演した。
楽器が全開まで鳴りきって、尋常ではない盛り上がりを見せる。ホール全体を揺るがすほどの溢れんばかりの量感で、壮大なスケールで描かれる。表情が流れるように変化し、まさに変幻自在。アクセントの音圧もすごい。弦楽オーケストラ全体がひとつの楽器のようで、カラヤンの統率力に驚嘆する。音色の美しさも格別で、カラヤン美学が見事に結実している。特に第1ヴァイオリンの流麗な響きがすばらしい。コントラバスがよく効いていて、重厚感も十分。縦線が合わなかったりするなどほころびがあるものの、一発ライヴとは思えないほどの集中力と完成度で聴かせる。ゾクゾクする瞬間の連続で、永遠に語り継がれるべき名演。
255小節からの第1ヴァイオリンはsolo指定だが複数で弾いている。316小節からのコントラバスの連符は、ティンパニのように打点が見える。332小節からの第2ヴァイオリンと第1ヴィオラの連符の高揚感がものすごい。


小澤征爾指揮/サイトウ・キネン・オーケストラ 【評価C】
1943年改訂版による演奏。大きく緩やかな流れのなかで演奏されるが、アインザッツなど細部が甘く、がっちりした造形を求めたい部分がある。豊かで柔らかい響きだが、少し拡散しすぎで旋律が弛緩したように聴こえる。強奏は張りのある音圧が欲しい(特にヴァイオリン)。逆にppでもあまり音量が落ちない。音色は明るいが、作品の性格からして、もう少し落ち着いた引き締まった音色も聴きたい。



2010.5.7 記
2013.2.16 更新


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