ラヴェル/ボレロ


◆作品紹介
同じ旋律を繰り返すだけという他に類を見ない単純かつ大胆なコンセプトによって作曲されている。テンポも変わらなければ、調性も最後に転調する以外は一定である。2小節からなるボレロのリズム音型は169回にわたって繰り返され、小太鼓は最初から最後まで休みなく4064回も叩かれる。曲が進むに連れて楽器が次々と加わっていき、音量を増していく。「音の錬金術師」と呼ばれたラヴェルの巧みなオーケストレーションが楽しめる。
初演は、作品を委嘱したイダ・ルビンシテインのバレエ団によって、1928年11月にパリ・オペラ座で行なわれた(指揮はストララム)。演奏会形式での初演は、1930年1月に作曲者自身がラムルー管弦楽団を指揮して行なわれた。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
ムラヴィンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 1952 メロディア(輸) MEL CD 10 00757
クリュイタンス指揮/パリ音楽院管弦楽団 1961 EMIクラシックス TOCE14066
ミュンシュ指揮/パリ管弦楽団 1968 セラフィム TOCE7119
ブーレーズ指揮/ニューヨーク・フィルハーモニック 1974 ソニークラシカル(輸)  SK92758
マゼール指揮/フランス国立管弦楽団 1981 CBSソニー 22DC5513
ラレード、ルヴィエ(p) 1985 デンオン COCO70989
カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1985 グラモフォン POCG90023
チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 1994 EMIクラシックス(輸) 7243 5 56526 2 1
チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 1994 ドリームライフ DLVC8032【DVD】
神谷百子&フレンズ(マリンバ) 1997 フィリップス PHCP11020
バティス指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 (P)2000 メキシコ州立交響楽団(輸) Alfa1025
パーカッション・ミュージアム 2001 ファイアバード KICC344


ムラヴィンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 【評価D】
モノラル録音。セッション録音にしては、演奏精度が予想外に低い。本当にムラヴィンスキーの演奏なのか耳を疑うようなひどい出来。初見演奏でももう少しできるはずで、指揮者の統率力を疑ってしまう。主旋律のアーティキュレーションが統一されていないばかりか、延ばしの音符を拍数分延ばさないで途中で消えるなど、細部はかなり適当。珍演として逆に聴いて損はない。
前半は淡々と進む。149小節からの不協和音は、主旋律よりも内声を強く出す。221小節からのヴァイオリンの主旋律は音程が悪い。音圧をかけてスラーを強調するように力んで弾き、フレーズの終わりをクレシェンドするなど、変わったアーティキュレーションが聴ける。293小節からトランペットが輝かしく響く。327小節からさらに元気に鳴らすが、ブレス位置で主旋律が消えるなどバランスが悪い。


クリュイタンス指揮/パリ音楽院管弦楽団 【評価C】
独奏楽器が明るい音色で演奏される。アーティキュレーションは楽器によって自由に演奏される。小太鼓などのリズム音型はスマートではなく、少しもたつく。311小節付近からリズム音型がかなりばらついてくる。最後の連符もなだれ込むように終わって、着地失敗の感がある。細部よりも雰囲気を重視している。現代の感覚で聴くと、技術的な問題が少し気になる。
冒頭のヴィオラとチェロのリズム音型が色っぽくウキウキする。203小節からの木管楽器のユニゾンによる主旋律がカラフルな響き。293小節からはトランペットが輝かしく響く。


ミュンシュ指揮/パリ管弦楽団 【評価A】
序盤の木管ソロが目立たなさそうに演奏されているのが慎ましく、のびやかで柔らかい音色がすばらしい。特に冒頭のフルートソロの高貴で美しい音色に驚かされる。旋律主体で厚みがあり、和音や楽器の変化が楽しめる。小太鼓はかなり控えめに演奏しているが、終盤はバテてきて遅れ気味になる。3連符と6連符の音型を間違えて叩いている部分があったりもする。ラストに向かって徐々にテンポアップしていく演出も見事。


ブーレーズ指揮/ニューヨーク・フィルハーモニック 【評価C】
メロディーよりもリズム伴奏に興味と力点が置かれている。小太鼓がツカツカとリズムを刻み、演奏をリードする。音量的にもリズム伴奏が総音量の半分以上を占める。旋律を担当するソロ楽器は、おもしろくなさそうにメロディーを演奏する。スコアに書かれたアクセントなどのアーティキュレーションは意識せず、抑揚もなくなめらかにメロディーを聴かせる。メロディーに厚みがないため、後半になっても盛り上がらない。スコアを分析的に聴かせるブーレーズの演奏にしては意外にも無表情な演奏で、ブーレーズがこの作品にあまり親しみを感じていないように感じられる。刺激的な演奏を予想すると期待外れの結果になる。275小節からホルンがリズム音型を演奏しているのが聴き取れる。最後から2小節の十六分音符×5+八分音符で、オーボエ(?)が高いCの音を演奏しているのが聴こえる。


マゼール指揮/フランス国立管弦楽団 【評価C】
テンポが驚くほど速い。すごいスピードで進んでいく。次々に楽器が入れ替わっていくのでなんともあわただしい。リズム音型もタンギングが大変そうである。中盤でさらにテンポアップしている。主旋律は弦楽器が主体になっていて、透明感はあるが華やかさに欠ける。また、テンポの影響もあって味わいはなく涼しげで薄っぺらい印象を与える。積極的には勧めないが、このスピードを体験されるのも悪くない。


ラレード、ルヴィエ(p) 【評価C】
ラヴェル自らが編曲した2台ピアノ版での演奏。2台のピアノを左右(第1ピアノが左、第2ピアノが右)に置いている。1台がリズム、1台がメロディーを演奏し、18小節ごとに交互に入れ替わる。2台のピアノでメロディーとリズムが対決するようなスリリングなおもしろさがある。音符の数や音色の種類はオーケストラにかなわないが、この編曲なりの楽しみがある。
2人の弾き方は統一されていない。リズム音型は第1ピアノが長め、第2ピアノが短めに演奏。メロディーも第1ピアノはテンポを揺らして歌い込むが、第2ピアノはテンポ通りに弾く。一体感に欠けるが、逆に2人の奏者を聴きくらべられる。
冒頭から速いテンポでキビキビと進められる。リズム音型は八分音符2つのスタッカートで足並みを揃えて、3拍子の拍感を出す。弱奏で演奏される冒頭は六連符が不安定。149小節からは弦に物をはさんで音色を変える。終盤はメロディーが高音で演奏し、リズム音型の連符も勢いが増し、かなり盛り上がる。


カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価D】
カラヤン3回目の録音。カラヤンファンを自認しているからこそ、なおさらこの演奏は勧められない。カラヤンの欠点が出てしまった演奏である。オーケストラ全体がコントロールされすぎており、機械的で活気がない。ソロもおとなしすぎて響きが薄い。ホルンなどリズム音型が次第に興奮してくるが、音量が大きくやや耳障りである。終盤でカラヤンサウンドらしくなってくるが、平面的で広がりがない。カラヤンにはこういう単調な作品は向かないのではないだろうか。


チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(CD) 【評価C】
ライヴ録音。遅いテンポで進められ、最後まで一定に保たれている。音色の変化に乏しくモノトーンで面白味に欠ける。主旋律がテンポの遅さで間延びしてしまっており、ソロの音型もバラバラで不統一である。全体的に旋律よりもリズム音型を重視しているように感じられる。スコアの指定よりも早い219小節から小太鼓の奏者を2名に増やしているが、これが逆効果。リズム音型がうるさくなって、しかもタテが揃っていない。中盤で盛り上がりすぎていて、終盤で開放感や熱気に欠ける。


チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(DVD) 【評価B】
ケルンでのライヴ映像で、上述のCDとは別音源である。チェリビダッケは指揮台に置かれたイスに座って指揮している。譜面台はない。
やや遅めのテンポで演奏される。主旋律はあまり抑揚をつけず、淡々と歌い継がれる。全体的にこれといった脚色もなく、堂々と着実に進められる。チェリビダッケは主旋律よりもリズム音型を合わせることを意識させる指揮で、特に「四分休符+八分音符+八分休符+八分音符+八分休符」のリズム音型の2拍目のアクセントを強調するように指示している。音量を要求するときは、左手を動かし、奏者に鋭い視線を送っている。チェリビダッケのうなり声がたまに聴こえるが、意外にもときおり笑顔も見せる。
スコアの指定よりも早い219小節から小太鼓を2名に増やしている。最初から演奏し続けている奏者は第2ヴァイオリンの後ろ、途中から加わる奏者はヴィオラの後ろに配置されている。
演奏終了後は、チェリビダッケはヴァイオリン奏者の腕を持って客席の拍手に応えている。カーテンコールの出入りも、付き人の手を持って歩いていてかなり弱々しい足取りである。


神谷百子&フレンズ(マリンバ) 【評価C】
佐橋俊彦編曲によるマリンバ二重奏での演奏。「神谷百子&フレンズ」名義で、神谷以外の演奏者が3人(藤本隆文、小林巨明、大石真理恵)のうち誰なのかは明記されていない。
速めのテンポで演奏される。演奏時間は9分26秒。いくつかカットがある(1〜2小節、57〜76小節、93〜112小節、201〜220小節、257〜310小節)。冒頭は柔らかいマレットでふんわりと演奏され、次第に音量を増して打点や輪郭がはっきりする。両手にマレットをたくさん持っているようで2人で演奏しているのが意外なほど音色は多く、マリンバの楽器の魅力を伝えてくれる。小太鼓の連符は、主旋律の手が空いているときに演奏される。149小節からの不協和音は、内声のほうが強く出る。185小節(原曲はトロンボーンソロ)は急に音量を落とす。クライマックスは華やかさに乏しい。


バティス指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価D】
CDに(P)2000(=2000年が最初の発行年)の記載があるが、録音年は不明である。標準的なテンポで淡々と進められる。おとなしく整然としている。主旋律のアーティキュレーションが楽器間で統一されていないのが気になる。後半になっても、金管楽器はあまり鳴らず、弦楽器もボリューム不足である。ラストも高揚感を感じない。不完全燃焼でモタモタしている。爆演指揮者にしては平凡な演奏。


パーカッション・ミュージアム 【評価C】
菅原淳編曲による打楽器奏者14名による演奏。珍しい楽器が登場して、多彩な打楽器の音色が楽しめる。どんな楽器なのか演奏風景を見たい。冒頭4小節がトゥッティで始まるので驚くが、原曲のように厳密にクレシェンドの音量をコントロールしない。多くの楽器を登場させたいためか、主旋律を演奏する楽器が途中で入れ替わるので、少しあわただしい。ティンパニも主旋律を演奏しているのがおもしろい。原曲のアーティキュレーションを変えたり、内声を追加したりしている。ラストも軽快な響きで重くならない。リズム音型は小太鼓以外の楽器も演奏している。また、239小節以降で主題の順番を入れ替えている。



2003.8.8記
2004.9.4更新
2006.3.27更新
2007.7.2更新
2007.12.2更新
2008.7.27更新
2009.10.29更新
2011.10.30更新
2013.3.23更新


ラヴェル/ラ・ヴァルス レスピーギ/交響詩「ローマの祭」