モーツァルト/レクイエム


◆作品紹介
モーツァルト最後の作品。妻を亡くしたヴァルゼック・シュトゥパッハ伯爵からの依頼によって作曲された。ヴァルゼック伯爵は他の作曲家に委嘱した作品を自作と偽って発表しており、モーツァルトに作曲を依頼したライトゲールも依頼主を明かさなかったことから、モーツァルトの手紙には「灰色の服を着た見知らぬ男」と書かれている(偽作の疑いもある)。健康を害していた中、死の前日まで作曲されたが、1791年12月5日にモーツァルトが亡くなったため未完成となった。
レクイエム・ミサの形式と固有文のテキストにそって作曲されている。4人の独唱者と混声四部合唱を必要とする。一方でフルートとオーボエを使用していない。モーツァルトが作曲した部分は第1曲「イントロイトゥス(入祭唱)」のすべて、第2曲「キリエ」と第3曲「セクエンツィア(続唱)」と第4曲「オッフェルトリウム(奉献唱)」の声と低音部であった。「ラクリモサ(涙の日)」は冒頭8小節で絶筆している。
モーツァルトの死後、妻コンスタンツェはこの作品を完成させるために、アイブラーに自筆譜を渡したが、断念。その後、モーツァルトの弟子のジュスマイアーに打診された。ジュスマイアーは病床で聞いたモーツァルトの指示をもとに、残りの部分を補筆して完成させた。第5曲「サンクトゥス(聖なるかな)」、第6曲「ベネディクトゥス」、第7曲「アニュス・デイ(神の子羊)」を作曲し、第8曲「コンムニオ(聖体拝領唱)」は、「イントロイトゥス」と「キリエ」を転用した。初演は、1793年12月14日にヴァルゼックが自作として自ら指揮して行なった。
この「ジュスマイヤー版」(1800年)が最も多く演奏されるが、不完全さを指摘する意見は当初からあり、研究成果に基づいて「バイヤー版」(1971年)などが発表されている。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン楽友協会合唱団、トモワ=シントウ(S)、バルツァ(Ms)、クレン(T)、ダム(Bs)、ショルツ(org) 1975 グラモフォン UCCG5025
コープマン指揮/アムステルダム・バロック管弦楽団、オランダ・バッハ協会合唱団、シュリック(S)、ワトキンソン(A)、プレガルディエン(T)、カンプ(Bs) 1989 エラート WPCS11102
クルレンツィス指揮/ムジカ・エテルナ、ニュー・シベリアン・シンガーズ、ケルメス(S)、ホウツェール(A)、ブルッチャー(T)、リシャール(Bs) 2010 アルファ Alpha178


カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン楽友協会合唱団、トモワ=シントウ(S)、バルツァ(Ms)、クレン(T)、ダム(Bs)、ショルツ(org) 【評価A】
ジュスマイヤー版。カラヤン2回目の録音。ベルリンフィルらしい鋭角的な表現は鳴りを潜め、あまり角を立てずにやさしく包み込むように聴かせる。強奏でも激しさはない。合唱はあまり前面に出てこない。歌詞もやや不明瞭。
「イントロイトゥス」からオーケストラがしっかり鳴る。遅めのテンポで厳か。特に8小節からヴァイオリンを聴かせる。「キリエ」は最後の全音符をフェルマータのように伸ばす。「ラクリモサ」は弱音から盛り上げる。教会のなかにいるような厳かさがある。「ドミネ・イエス」はささやくように始まるが、合唱が弱い。「サンクトゥス」は遅いテンポで堂々と演奏される。「コンムニオ」最後の音符も長く伸ばして全曲を締めくくる。


コープマン指揮/アムステルダム・バロック管弦楽団、オランダ・バッハ協会合唱団、シュリック(S)、ワトキンソン(A)、プレガルディエン(T)、カンプ(Bs) 【評価B】
ジュスマイヤー版。ライヴ録音。古楽器を使用して速めのテンポ設定。音符も短めでキビキビ進められる。オーケストラはあまり鳴らないので、薄化粧でこじんまりした雰囲気だが、トランペットとティンパニのアクセントは鋭く強調される。
合唱は少人数で、歌声に透明感がある。スコアにはない抑揚をつけて、響きも美しい。キリスト教徒でなくても敬虔な気持ちになって心が動かされる。独唱も伸びやかに歌う。
「ラクリモサ」の最後の音符はデクレッシェンドして消えるように終わる。「サンクトゥス」冒頭のヴァイオリンの連符は控えめ。


クルレンツィス指揮/ムジカ・エテルナ、ニュー・シベリアン・シンガーズ、ケルメス(S)、ホウツェール(A)、ブルッチャー(T)、リシャール(Bs) 【評価A】
古楽器によるノンビブラート奏法による演奏だが、すっきりとしていて聴きやすく、嫌悪感なく受け入れられる。少人数の演奏だが、量感も不足しない。マイクに近く、直接音を多く収録していて、教会で聴いているようで厳かな気持ちになる。ティンパニとトランペットの爆発が効果的。合唱もビブラートかけない澄んだ歌声を聴かせる。
「キリエ」は速いテンポでスピード感をつけて、リズミカルかつスマートに聴かせる。「ディエス・イレ」はスコアにないクレシェンド・デクレッシェンドや強弱のコントラストをつけて嵐のように音楽が流れるが、少し作為的に聴こえる。31小節や53小節以降では、弦を弓でたたくコル・レーニョ奏法も聴かれる。「レクス・トレメンダエ」は、冒頭の弦楽器から合唱までスタッカートを徹底して、他に類を見ない透明感である。「レコルダーレ」は、4人の独唱の充実した歌声が聴きもの。「コンフターティス」はトランペットとティンパニの打ち込みが鋭い。「ラクリモサ」は、モーツァルトを追悼するかのように優しく歌う。最後にスコアにない鈴が鳴らされ、「アーメン・フーガ」が20秒ほど挿入される。「ドミネ・イエス」は速いテンポで歯切れよく歌う。「サンクトゥス」は、ティンパニの六十四分音符の粒がはっきり聴こえる。6小節のfzの炸裂がすごい。「アニュス・デイ」は意外に静かで、fでも音量は控えめ。
なお、ブックレットによると、アンサンブル・ムジカエテルナの編成は、第1ヴァイオリン6、第2ヴァイオリン4、ヴィオラ4、チェロ4、コントラバス2、打楽器1、トランペット2、バスーン2、バセットホルン2、トロンボーン3。ニュー・シベリアン・シンガーズは、ソプラノ10、アルト9、テノール7、バス7。



2011.6.3 記
2013.3.16 更新


モーツァルト/セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」 ムソルグスキー(ラヴェル編)/組曲「展覧会の絵」