マーラー/交響曲第2番「復活」


◆作品紹介
5楽章からなり、演奏時間約80分を要する大曲。第5楽章だけでも約30分を要する。大規模管弦楽やオルガンのほかに、ソプラノ独唱、アルト独唱、混声合唱と、舞台裏には金管楽器と打楽器が配置される。
第1楽章にはマーラーは当初「葬礼」という標題をつけていた。第1楽章演奏後に「Hier folgt eine Pause von mindestens 5 Minuten.(=ここで少なくとも5分の休止を置く)」とスコアに指示があるが、実際の演奏ではほとんど守られていない。第3楽章は、歌曲集「子供の不思議な角笛」第6曲の「魚に説教するパトヴァの聖アントニウス」と同じ主題である。第4楽章「原光」は、歌曲集「子供の不思議な角笛」にあった「原光」をそのまま充てている。第5楽章では、ハンス・フォン・ビューローの葬儀で聴いたクロプシュトックの「復活」の詩を手を加えて使用している。第3楽章から第5楽章までは休みなく続けて演奏される。
初演は、第3楽章までが1895年3月4日にマーラー指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によって行なわれた。全曲の初演は、1895年12月13日に同じくマーラー指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によって行なわれた。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
バルビローリ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂合唱団、シュターダー(S)、ベイカー(Ms) 1965 テスタメント(輸) SBT2 1320
バーンスタイン指揮/ロンドン交響楽団、エディンバラ音楽祭合唱団、アームストロング(S)、ベイカー(Ms) 1973 グラモフォン UCBG9030【DVD】
ストコフスキー指揮/ロンドン交響楽団、ロンドン交響合唱団、M.プライス(S)、ファスベンダー(Ms) 1974 RCA/タワーレコード TWCL3005〜6
ケーゲル指揮/ライプツィヒ放送交響楽団、ライプツィヒ放送合唱団、プロイル(S)、ブルマイスター(A) 1975 ヴァイトブリック(輸) SSS00302
渡邉曉雄指揮/日本フィルハーモニー交響楽団、日本プロ合唱連合、常森寿子(S)、ソウクポヴァー(Ms) 1978 東京FM TFCM0013〜4
フェドセーエフ指揮/モスクワ放送チャイコフスキー交響楽団、モスクワ室内合唱団、ヴォズネセンスカヤ(S)、ペコーヴァ(A) 2002 レリーフ(輸) CR991069
キャプラン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン楽友協会合唱団、ムーア(S)、ミヒャエル(Ms) 2002 グラモフォン UCCG1164〜5
ブーレーズ指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン楽友協会合唱団、シェーファー(S)、デ・ヤング(Ms) 2005 グラモフォン UCCG70072


バルビローリ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂合唱団、シュターダー(S)、ベイカー(Ms) 【評価C】
有名なマーラー/交響曲第9番の録音(EMI)の翌年に、ベルリン・フィルハーモニーで行なわれた演奏会のライヴ録音。モノラル録音なのが惜しい。
バルビローリはやや遅めのテンポで、間を多く取る。うなり声や指揮台を踏みしめる音が聴こえる。積極的にリードして、オーケストラをよく歌わせる。ベルリン・フィルも熱演で、しっかりした音圧で音符をはっきり聴かせる。弦楽器の響きが濃厚。打楽器はスピードをつけて強めに演奏される。ただ、縦線が乱れるなど演奏精度は低い。トランペットがよく音を外す。
第1楽章384〜385小節のヴィオラの旋律がスコアと異なる。第2楽章は弦楽器の伸びやかな響きがいい。第3楽章449小節のUnmerklich drangend(気づかぬほど切迫して)からの急激なテンポアップにオーケストラがついてこれていない。第5楽章はソプラノ独唱はクセのある歌い方である。639小節のクレシェンドで、バルビローリのものすごいうなり声が聴こえる。


バーンスタイン指揮/ロンドン交響楽団、エディンバラ音楽祭合唱団、アームストロング(S)、ベイカー(Ms) 【評価B】
イーリー大聖堂でのライヴ映像。画質はやや古い。歌詞字幕はない。
バーンスタインは譜面台なしで指揮。オーケストラ全体を見渡しながら大きな動きで指揮している。遅めのテンポでじっくり丁寧に演奏している。正攻法の演奏解釈で、奇をてらおうという意志は感じられない。テンポが遅いため、音楽の流れがやや停滞する部分がある。第5楽章ではバーンスタインは口を大きく開けて歌詞を歌いながら指揮している。712小節(Pesante)からテンポをさらに落とし、目に涙を浮かべて指揮する姿は見ているだけで感動する。
楽器間の掛け合いでは画面が頻繁に切り替わる。編集ミスなのか、映っている楽器の運指と音が大きくずれている部分があるのが気になる(第3楽章330小節からのクラリネット、第5楽章143小節からのトロンボーン)。ホルンは、スコアの指示(mit aufgehobenen Schalltrichter)どおりにベルアップしている。
独唱と合唱は、歌い出すまで画面に映さない撮影アングルの工夫が見られる。アルト独唱は、第4楽章をバーンスタインの左横で歌った後、一度舞台袖に戻ったようである。第5楽章ではソプラノ独唱と並んで歌う。合唱団は第5楽章演奏中に入場したようだが、画面に登場するのは472小節以降である。左から、ソプラノ−テノール−バリトン−アルトの順で整列している。第5楽章で舞台裏の楽器が演奏するときは、カメラは大聖堂内部の装飾を映している。演奏終了後の拍手は収録されていない。


ストコフスキー指揮/ロンドン交響楽団、ロンドン交響合唱団、M.プライス(S)、ファスベンダー(Ms) 【評価C】
ストコフスキー唯一のマーラーのセッション録音。大胆な編曲やカットは行われていない。全体的にホルンを大きく鳴らすのが特徴である。縦線があまり揃っていないのが残念。
第1楽章は、遅めのテンポで格調高く演奏。208小節(Etwas drangend)からppp指定のハープを強調している。325小節(Molto pesante)は、インテンポで突進する。第2楽章はチェロの音程の悪さが耳につく。第3楽章は速めのテンポにオーケストラがやや乗り遅れる。第5楽章はp指定でも大きな音量で演奏するため、交通整理が不足気味である。343小節から舞台裏のトライアングルを聴かせる。426小節でヴァイオリンが全休符を数え間違えたのか、1小節ずれる。合唱は美しく響くが、歌詞がやや聴き取りにくい。


ケーゲル指揮/ライプツィヒ放送交響楽団、ライプツィヒ放送合唱団、プロイル(S)、ブルマイスター(A) 【評価C】
ライヴ録音(CDに表記はないが、演奏終了後に拍手が収録されている)。録音の解像度があまり高くないのが残念。また全体的に金属的な音響である。
全体的に遅めのテンポ設定。ときどきテンポを揺らすが、指揮棒の問題なのかオーケストラが対応できずに乱れる部分がある。ここぞというところで勢いをつけて、速いテンポで駆け抜ける。常にハイテンションではなく、予想したほど細部もデフォルメしない。縦線や音程などの演奏精度はあまり高くない。打楽器が派手に鳴る。トランペットがよく音を外す。
第1楽章216小節からのヴァイオリンソロが、速いテンポについていけてない。ラスト5小節からのTempo Iは猛スピードで駆け下りる。第5楽章73小節のトロンボーンソロは、二分音符を演奏していない(演奏ミス?)。343小節からの舞台裏の金管楽器と打楽器がよく聴こえる。696小節からは遅めのテンポで堂々と演奏。


渡邉曉雄指揮/日本フィルハーモニー交響楽団、日本プロ合唱連合、常森寿子(S)、ソウクポヴァー(Ms) 【評価C】
第301回定期演奏会(1978.4.8 東京文化会館)のライヴ録音。日本フィル分裂後、初代常任指揮者の渡邉が音楽監督・常任指揮者に復帰した最初の定期演奏会の記録である。
予想以上にオーケストラの技術水準が高い。特に低弦は重心の低い響きで、アーティキュレーションまでしっかり聴こえる。浮ついたところがなく音色も暗め。ヴァイオリンは量感に乏しいが、その分緻密なアンサンブルを聴かせる。全体的に速めのテンポで、だれない。縦線の乱れはあるが、オーケストラの演奏に懸ける熱意が伝わる演奏で一聴の価値はある。マイク位置が遠めで、解像度は高くない。強奏は響きが拡散して量感に欠ける。
第4楽章のアルト独唱は歌詞が不明瞭。第5楽章は、舞台裏の金管楽器と打楽器はあまり聴こえない。376小節からも尻すぼみ。455小節からの金管楽器のファンファーレは、ティンパニのsfが強調される。合唱が入る472小節からゆっくりしたテンポに落として丁寧に歌う。


フェドセーエフ指揮/モスクワ放送チャイコフスキー交響楽団、モスクワ室内合唱団、ヴォズネセンスカヤ(S)、ペコーヴァ(A) 【評価C】
ライヴ録音だが、拍手は収録されていないのでライヴとは気づかない。ロシアのオーケストラとは思えないほど、音色が明るく見通しもよい。意外に重量感が少なく、フランスのオーケストラのような柔軟性がある。すっきりした音響で、繊細な表情も悪くない。テンポ設定が個性的で、流れが悪い。弦楽器は対向配置。ハープがところどころで顔を出す。
第1楽章冒頭のチェロとコントラバスはアクセント気味に硬い。6小節(a tempo)から速いテンポで、驚くほどあっさり軽快に進む。48小節(In Tempo nachgeben)からテンポを落とす。278小節からスコアの指示に反して、遅いテンポを維持する。408小節から木管楽器とホルンに抑揚(<>)を大胆につける。第2楽章39小節(Nicht eilen. Sehr gemachlich.)からテンポを落として弦楽器が律儀にスタッカートを刻む。210小節からの弦楽器のピツィカートは速いテンポ。245小節(Breit)からスピードを増して滑らかに演奏する。第3楽章は遅いテンポで丁寧に演奏。室内楽的だが、くどく感じる。第4楽章3小節(Nicht schleppen.)からのトランペットは遠い。第5楽章冒頭はティンパニがモルトアクセントを効かせる。162小節(Wieder breit)から速い。380小節(Halbe taktieren)からテンポが遅い。音楽が止まっているのかと錯覚するほど。455小節からの金管楽器は抑制的でもごもごしている。合唱は発音がはっきりしない。640小節(Mit Aufschwung, aber nicht eilen)から止まりそうなほど遅いテンポで独唱二人が熱唱する。712小節(Pesante)からは合唱が奥まっていて迫力に欠ける。テンポも速めで、滑らかに運ばれすぎる。


キャプラン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン楽友協会合唱団、ムーア(S)、ミヒャエル(Ms) 【評価C】
「復活」研究家キャプランの2回目の録音で、1910年にマーラーが修正した「新改訂版」による初録音。キャプランの解説によると、すでに出版されているスコアの誤りを訂正したというが、大幅な変更はない。どこが修正されたのかよく分からない。私が気がついた範囲では、第1楽章120小節のティンパニがトレモロではなく連符で演奏されている、300小節4拍目も3連符以外の音符で演奏されている、程度である。
細部にこだわりを持って、意識して聴かせる。スコアの読み込みはブーレーズ以上である。内声を大きめに聴かせる、音量操作、テンポ設定、アクセント強調、グリッサンドなど、おおげさに大胆に聴かせる。ただ、少しやりすぎの感があり、音楽の流れがよくない。原因が「新改訂版」使用によるものなのかは分からない。ウィーンフィルの美しい音色などの魅力は二の次の扱いである。また、キャプランの指揮がアマチュアレベルのためか、ウィーンフィルらしからぬアンサンブルの乱れがある(特に第1楽章)。
第1楽章252〜253小節のヴィオラとチェロのトレモロはppppだがはっきり聴かせる。第2楽章74小節から弦楽器のアクセント位置の違いをはっきり聴かせる。226小節からハープを聴かせる。第4楽章3小節からのトランペットの音色が美しい。第5楽章6小節から弦楽器の細かな連符を聴かせるので、冒頭の響きがずいぶん異なって驚く。43小節からのホルンは、かなり遠くから演奏されていてあまり聴こえない。472小節からと512小節から合唱は、伴奏のチェロとコントラバスを聴かせる。672小節から合唱がパート別に美しく響く。


ブーレーズ指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン楽友協会合唱団、シェーファー(S)、デ・ヤング(Ms) 【評価C】
重量感を削ぎ落としたスマートで抑制された響きである。sfやfpを強く短く演奏するなど、余分な響きを排除し演奏を引き締めている。強奏でも整然と演奏され、清涼感すら与える。音圧が低いため、興奮が少なく物足りなく感じる。いきいきとした感情表現に乏しく、感情を押し殺して演奏しているように感じられる。
普段スコアに埋もれがちな音が顔を出すのが魅力である。トゥッティでも構成している楽器が分かる。とりわけ第1楽章366小節からのハープ、第3楽章246小節からのヴァイオリンソロ、441小節からの第3・第4トロンボーンを浮かび上がらせるのは、ブーレーズの面目躍如である。しかし、期待したほど大胆な仕掛けは少なく、驚きは少ない。スコアに書かれた「,」の扱いは、間を空ける場合とそうでない場合に対応が分かれる。
第1楽章から第3楽章までは速めのテンポで演奏されるが、声楽が入る第4楽章以降はやや遅めのテンポ設定で丁寧に進められる。第4楽章3小節からの金管楽器のコラールは教会音楽のように美しい。第5楽章は穏やかな落ち着いた演奏を常に心がけている。合唱は前面で聴こえず、オーケストラの背景で響く。
個性的な演奏だが、何回も繰り返し聴きたくなる演奏ではない。



2007.8.21 記
2008.1.12 更新
2008.3.17 更新
2008.6.23 更新
2008.10.12 更新
2010.10.31 更新
2013.9.14 更新


マーラー/交響曲第1番 メンデルスゾーン/交響曲第4番「イタリア」