◆作品紹介
マーラーが作曲した最初の交響曲。マーラーの全交響曲の中で最も演奏時間が短いが、それでも約50分を要する。4楽章形式で、第3楽章と第4楽章は休みなく続けて演奏される。
作曲当初は、「2部からなる交響詩」の作品名で、「第1部」(第1楽章〜第3楽章)と「第2部」(第4楽章・第5楽章)の2部構成。現在の第1楽章と第2楽章の間に、「花の章(ブルミーネ)」が存在した。初演は、1889年11月20日にブタペストでマーラー自身が指揮するブダペスト・フィルハーモニー交響楽団が行なった。
その後、1893年10月29日にハンブルクで演奏した際に「巨人」の標題が与えられた。「巨人」は、マーラーが愛読していたジャン・パウル(1763年〜1825年)の長編小説『巨人(Titan)』(1802年)から採られた。
1894年3月16日にベルリンで再演された際に、「花の章」を削除し、さらに2部構成や各楽章の標題もすべて取り払って、4楽章構成の「交響曲第1番」として演奏された。したがって、「交響曲第1番「巨人」」という呼び方は誤り。出版は1899年。
同時並行で作曲された歌曲「さすらう若人の歌」(1885年完成)と同じメロディーが使われている(第1楽章で第2曲「朝の野を歩けば」、第3楽章で第4曲「恋人の青い瞳」)。
◆CD紹介
演奏団体 | 録音年 | レーベル・CD番号 | 評価 |
ショルティ指揮/ケルン放送交響楽団 | 1957 | アルヒペル(輸) ARPCD0409 | C |
ショルティ指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1964 | オルフェオドール(輸) C 628 041 B | D |
シノーポリ指揮/フィルハーモニア管弦楽団 | 1989 | グラモフォン UCCG5030 | B |
小林研一郎指揮/日本フィルハーモニー交響楽団 | 2005 | エクストン OVCL00205 | C |
ショルティ指揮/ケルン放送交響楽団 【評価C】
1957年6月17日のケルンでのライヴ録音。ノイズは気にならない。マイク位置が近く、モノラル録音にしては細部は聴きとりやすい。
エネルギッシュではつらつとした表現が、作品の性格にふさわしい。アーティキュレーションを強めに出して、造形をはっきり見せる。
第1楽章冒頭はやや速めのテンポ。各モティーフがはっきり聴こえる。後半は勢いが抑えられなくなって突き進む。第2楽章は三拍子のテンポについていけていない部分があり、流れが悪い。管楽器がにぎやかに鳴るが、なかでも50小節からのホルンのgestopftが強烈。326小節からティンパニがスコアにない低弦と同じ音型を叩く。ラストはスピード感が出てハキハキと演奏する。第3楽章はやや速めのテンポ。8小節でコントラバスソロの音が裏返る。第4楽章は勢いをつけて爆走。アンサンブルが乱れがちで、弾き捨てるように演奏する。前半はヴァイオリンの八分音符の鳴りがすごい。中間部は弦楽器がよく歌う。210小節から一気にアッチェレランド。254小節からの盛り上がりがすごい。375小節からのPesanteが驚くほど速いテンポ。533小節からも速いテンポで、聴きどころがあっという間に過ぎるのがもったいない。569小節からホルンのfffがあまり聴こえないのが残念。
ショルティ指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価D】
1964年8月16日のザルツブルク音楽祭でのライヴ録音。残念ながらモノラル録音である。
音程の乱れが気になるなど、ウィーンフィルにしては演奏の精度が落ちる。鳴って欲しい楽器が聴こえないなどバランスもいまいち。低音がもっと鳴って欲しい。縦線を合わせて音圧を作るよりも、メロディーを横に流すことを重視する。
第1楽章冒頭はヴァイオリン高音の音程が安定しない。75小節からのメロディーは後から追いかける楽器がよく見える。弦楽器は小節線を感じさせないほど流麗でなめらかな響き。ヨハン・シュトラウスのようである。木管の音色も雰囲気満点。162小節の反復記号はスコアどおり行なう。第2楽章TRIOは、マーラーとは思えないほど明るくてやわらかい。第3楽章31小節からエスクラリネットの装飾音が大きく跳びはねる。第4楽章は一転して金管楽器が元気に鳴る。ここまでパワーを温存していたかのようである。2番ティンパニが自信なさげ。133小節頃は見失ったようで落ちている。636小節からは快速テンポだが、ところどころでリタルダンドをかける。ラスト2小節のティンパニは、全音符よりもやや長くとる。
シノーポリ指揮/フィルハーモニア管弦楽団 【評価B】
アーティキュレーションを意識した演奏で、輪郭がはっきりしている。内声や伴奏が表情豊かに歌われ一体感がある。そのうえ各旋律は遠近感を持って分離して響く。低音を強めに聴かせて濃厚な表情を作る。強奏は奥行きがある音響で、広がりと包容力がある。ただし、第4楽章はやや荒いのがマイナス(後述)。
第1楽章27小節からのトランペットはpppだがはっきり鳴らす。71小節からは、ハープや弦のピツィカートで拍感を出す。143小節からティンパニが重く響く。334小節からトロンボーンとテューバの下降音型を強調。
第2楽章はホルンがよく響き、ティンパニも遠慮なく大きく叩かれる。冒頭はチェロとコントラバスのスタッカートを強調して音を短くすることで、リズムに躍動感を作り出す。44小節からの木管楽器の「Schalltrichter in die Hohe!」はマイクの近くで演奏しているような臨場感がある。おそらくマイクバランスを調整していると思われる。
第3楽章は冒頭から楽器が積み重なるが、起伏が少なく平坦で混沌としている。139小節からの「Plotzlich viel shneller」は、141小節からリタルダンドが始まる。
第4楽章は、38小節からのホルンのゲシュトップが効いている。315小節からティンパニのクレシェンドが豪快に叩かれる。その後は、前3楽章とは演奏姿勢が異なり、勢い任せの部分がある。荒々しく乱暴とも思えるほどで、耳がキンキンする。丁寧さに欠けるのが残念。317小節からの「Holzinstrumente: Schalltrichter in die Hohe」は、木管楽器のテヌートを強調。クラリネットを効かせていて音色が柔らかい。619小節からスコアにはないアッチェレランドをかける。
小林研一郎指揮/日本フィルハーモニー交響楽団 【評価C】
日本フィル音楽監督時代の第567回定期演奏会(サントリーホール)のライヴ録音。マイク位置のせいか弦楽器がよく聴こえるが、強奏は量感に欠ける。残響も少ないため、もう少しブレンドされた音色が聴きたい。また、チェロの高音域など音程の乱れが耳につく。強奏では小林研一郎のイーという低いうなり声がよく聴こえる。
第1楽章冒頭は二分音符+二分音符の音型が各楽器によって明確に提示される。135小節からは小林研一郎のうなり声がオーケストラよりも大きい。第2楽章はやや遅めのテンポで弛んで聴こえる。流れも重い。99小節でスコアにないリタルダンド。第3楽章は冒頭からカノンの響きが重層的に聴こえないのが残念。第4楽章は後半になるほど金管がよく鳴る。最後の四分音符はやや長め。演奏後の拍手の中、小林が「ありがとうございました」と団員に話しかける声が入っている。
2010.6.29 記
2011.6.16 更新
2013.4.19 更新