ファリャ/バレエ音楽「三角帽子」


◆作品紹介
スペインの作曲家ファリャの代表作。ロシア・バレエ団のディアギレフからの委嘱で作曲された。アラルコンの小説『三角帽子』(1874年)をもとに、粉屋の女房に一目惚れした代官が、なんとか女房をわがものにしようとするストーリー。三角帽子とは代官がかぶっている権力の象徴となる帽子のこと。
2幕からなり、ファンタンゴ(粉屋の女房の踊り)、セギディーリャ(隣人たちの踊り)、ファルーカ(粉屋の踊り)、ホタ(終幕の踊り)など、スペイン舞曲が登場する。「序奏」と「粉屋の踊り」では、メゾ・ソプラノ独唱が舞台裏で歌われる。「粉屋の踊り」では、ベートーヴェン「運命」の運命の動機の引用がある。
初演は、1919年7月22日にロンドンのアルハンブラ劇場で、ロシア・バレエ団によって行なわれた。指揮はアンセルメ、舞台装置と衣装はピカソが務めた。全曲から抜粋した「第1組曲」「第2組曲」もある。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
プレヴィン指揮/ピッツバーグ交響楽団、シュターデ(Ms) 1982 フィリップス UCCP9306
バティス指揮/メキシコ州立交響楽団、サリナス(S) 1994 レジス(輸) RRC1271


プレヴィン指揮/ピッツバーグ交響楽団、シュターデ(Ms) 【評価A】
ピッツバーグ交響楽団首席指揮者時代の録音。音色が軽く、カラッとした明るさがある。クリアーな音響で、ギラギラしたところがない。民族臭はなく、フランス音楽のような柔らかさと暖かさがある。オーケストラの音色が作品によくマッチしていて、聴きやすい。オーケストラ・ピースとして楽しませる演奏である。ホルンがよく効いていて、奥行きがある。チェレスタは使われていない。録音も上品な雰囲気を支える。メゾ・ソプラノ独唱は舞台裏ではなくマイクに近い場所で歌っている。
「粉屋の踊り」は強奏でも量感を誇示しない。67小節(pochissimo piu mosso,ma ritmico)からは遅いテンポから盛り上げる。「終幕の踊り」10小節(Allegro ritmico, molto moderato e pesante)からは落ち着いたテンポで聴かせる。ラスト2小節でスコアにないカスタネットを追加している。


バティス指揮/メキシコ州立交響楽団、サリナス(S) 【評価B】
眩しい日光がイメージできるが、脂っこくて胃にもたれそうな部分がある。音色はささくれ立っていて洗練されていない。他の楽器とも調和されない。低音が効いている。チェレスタは使われていない。録音は直線的でひろがりに乏しい。演奏時間が25:13と記載されているが、35:13の誤り。
「序奏」はティンパニに締まりがなくて野暮ったい。闘牛でも始まりそうな雰囲気。Voix toutesの「Ole!」は叫んでいる。独唱はソプラノなので音程が高い。子音を強調してマイクの近くで歌う。「昼下がり」は、ギスギスした音色。29小節(Furioso, ma in tempo)からは2倍速!。「粉屋の女房の踊り」は、テンポを変えて局地的に遅くするので、ねちっこい。バレエの伴奏だったら最悪だが、面白く聴ける。「葡萄の房」126小節から、トランペットソロに合わせて、ソプラノ独唱が歌う。スコアにはないので、歌詞もオリジナルか。「粉屋の踊り」15小節(Moderato assai, molto ritmico e pesante)からは、行進曲並みの速さ。鋭くゴシゴシこするようなボウイングで、闘争モードのよう。124小節(Tempo giustomo)からもティンパニが効いて激しい。「代官の踊り」冒頭の八分音符の和音が力強い。「終幕の踊り」は、9小節の大太鼓が音が割れるほどの大音量でぶっ叩かれる。10小節(Allegro ritmico, molto moderato e pesante)からも速い。



2013.6.8 記


ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」 ガーシュウィン/ラプソディ・イン・ブルー