◆作品紹介
ドビュッシー管弦楽作品の傑作。「管弦楽のための三つの交響的素描」の副題を持つ。船乗りを志望していたドビュッシーが、多様な表情を見せる海を克明に描写している。第1楽章「海の夜明けから正午まで」、第2楽章「波の戯れ」、第3楽章「風と海との対話」から構成されている。
初演は、1905年10月15日に、シュヴィヤール指揮のコンセール・ラムルー管弦楽団によって行われた。初版のスコアの表紙に、葛飾北斎作の浮世絵「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が使用されたことで有名である。第3楽章237小節〜244小節のホルンとトランペットによるファンファーレは後に削除されたためスコアにはないが、復活させて演奏される場合がある。
◆CD紹介
演奏団体 | 録音年 | レーベル・CD番号 | 評価 |
トスカニーニ指揮/NBC交響楽団 | 1950 | RCA BVCC9933 | C |
![]() | 1952 | ウラニア(輸) URN22.239 | C |
パレー指揮/デトロイト交響楽団 | 1955 | マーキュリー PHCP10229 | C |
マルティノン指揮/フランス国立放送管弦楽団 | 1973 | EMIクラシックス TOCE3040 | A |
チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1992 | EMIクラシックス(輸) 7243 5 56520 2 7 | B |
ブーレーズ指揮/クリーヴランド管弦楽団 | 1993 | グラモフォン POCG50034 | A |
ジュリーニ指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 | 1994 | ソニークラシカル SRCR2016 | B |
フルネ指揮/東京都交響楽団 | 1997 | フォンテック FOCD9352 | C |
スヴェトラーノフ指揮/フランス国立管弦楽団 | 2001 | ナイーヴ(輸) V4946 | B |
トスカニーニ指揮/NBC交響楽団 【評価C】
速いテンポであっさりと進められた爽快感のある演奏。オーケストラもこのスピードについてこれている。ただし、あまりにも流れすぎであわただしい。句読点をもう少し明確につけて欲しい。合奏力があるだけに物足りない印象を受けてしまうのが惜しい。金管が主体となっていて特にホルンが強調されており、時には刺激的に響く。第1楽章ラストのホルン高音は聴きごたえがある。モノラル録音だがノイズはなくいい状態で鑑賞できる。
シューリヒト指揮/シュトゥットガルト放送交響楽団 【評価C】
ライヴ録音と思われる。モノラル録音の表記だが、ステレオ録音で、しかも信じられないほど聴きやすい音質である。「USD RESTORATION SYSTEM」のリマスタリング効果は称賛されてよい。
全体的に速いテンポで、どの楽器も活発に歌われ躍動感がある。印象派にふさわしい音色の融合はあまり聴かれない。アーティキュレーションを重視して分析的に聴かせる。チェロとコントラバスがよく効いている。細部にも目配りされていておおざっぱにならない。弱奏では繊細な表現が聴き取れる。
第1楽章73小節からハープとチェロのピツィカートを聴かせる。84小節のティンパニのsfzの一撃は力を込めて叩かれる。86小節(Tres rythme)以降も速いテンポを維持する。第2楽章60小節からハープとグロッケンシュピールが美しい。163小節(Anime)からは木管楽器と弦楽器のハーモニーが楽しめる。第3楽章は冒頭から勢いがある。225小節からグロッケンシュピールが聴こえるのが珍しい。237小節からのホルンとトランペットによるファンファーレを演奏する。278小節からコルネットが280小節の音型を先取りして演奏する。
パレー指揮/デトロイト交響楽団 【評価C】
丁寧な演奏だが、スコアに忠実すぎイマジネーションに欠ける。時として無表情に感じることがある。歌い方や音の受け渡しが下手で、響きのふくらみや柔らかさに乏しい。オーケストラの編成が小さいのかダイナミクスの幅やスケールが小さくこじんまりとした印象を与える。
マルティノン指揮/フランス国立放送管弦楽団 【評価A】
カラフルな油絵を思い起こさせる華やかで明るい演奏。音色に艶があり、楽器の絡み合わせ方もうまい。活力のあるのびのびとした自由な雰囲気を感じる。タテの厳格さよりもヨコの流れを重視している。スコアリーディングがすばらしく多様な表情を引き出すことに成功している。波しぶきが目に浮かんでくるようで驚く。
チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 【評価B】
非常にゆっくりとしたテンポで進められている。重量感のある力強さを感じさせる演奏。チェリビダッケの明確な意志を感じさせ、彫りが深く、一音たりともおろそかにしない姿勢で臨んでいる。全体的なサウンドがよくまとまっている。ただし、打楽器の扱い方には問題がある。
ブーレーズ指揮/クリーヴランド管弦楽団 【評価A】
普段は聞こえてこない音が浮き出て聞こえてくる楽しみがある。見通しがよいすっきりした演奏。緻密で丁寧な演奏だが、オーケストラ全体がコントロールされており、乾燥した音色とともにどこか人工的な印象を与える。技術的に極めて安定しているが、ピリピリとした緊張感がある。打楽器が遠近感をうまく表現している。第3楽章のラストでトランペットの3連符が聞こえるのがまさに圧巻。
ジュリーニ指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 【評価B】
ライヴ録音だが燃焼度は低い。演奏技術には問題ないが、響きが広がりに欠け、音色が硬い。まじめで律儀な演奏だが整理されすぎの印象があり、その分フランス的な香りに乏しい。全体的な迫力はいまひとつ。ティンパニが少しうるさい。
フルネ指揮/東京都交響楽団 【評価C】
第459回定期演奏会(サントリーホール)のライヴ録音。透明感のある澄んだ音色で、外面的な効果に頼らない繊細な音楽作りである。フランス音楽らしい音色の厚みや艶はない。厚化粧しないため清涼感すらある。ライヴとは思えないほど冷静で淡々と聴かせる。強奏でもおとなしく無理して鳴らさない。終始穏やかな海である。鉄琴が色彩感を与えている。東京都響も好演。
スヴェトラーノフ指揮/フランス国立管弦楽団 【評価B】
ライヴ録音。爆演を期待するとおおいにがっかりする。スヴェトラーノフらしからぬ丁寧さや繊細さが感じられる。局地的な誇張もあまり感じられない。明るい音色に彩られており、オーケストラの特性をよく引き出している。第2楽章のクレシェンドはかなり個性的。
2003.7.22 記
2008.7.17 記
2010.8.16 記