ブルックナー/交響曲第7番


◆作品紹介
1881年9月から作曲が開始され、1883年9月に完成した。第2楽章「アダージョ」はワーグナーの死を予感して作曲され、実際に訃報に接し、184小節以降の金管楽器によるコラールを作曲したとされる。
初演は1884年12月30日に当時29歳のニキシュ指揮によってライプツィヒ市立劇場で初演され、ブルックナーの交響曲で初めて成功をおさめた。後にバイエルン国王ルートヴィヒ2世に捧げられた。なお、初演に先立って1883年から弟子のヨーゼフ・シャルクらによりピアノ2台編曲版で行なわれた。
初演前後に改訂が行われたため、いくつかの版が存在する。自筆楽譜をもとに「初版」が出版された(1885年)。その後、ローベルト・ハースは自筆譜に書かれた書き込みをあまり採用せずに「ハース版」を出版した(1944年)。レオポルト・ノーヴァクは自筆譜の書き込みを積極的に取り入れて「ノーヴァク版」(1954年)を出版した。
ハース版とノーヴァク版の大きな違いは、第2楽章177小節でティンパニ、シンバル、トライアングルが加わるのがノーヴァク版である。自筆譜に書かれた「gilt nicht(無効)」の文字をブルックナーの指示と見るかどうかによる。


◆CD紹介
演奏団体 録音年 レーベル・CD番号 評価
マタチッチ指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1967 スプラフォン COCO70414
スダーン指揮/東京交響楽団 2009 ファインエヌエフ NF21202


マタチッチ指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 【評価A】
使用版は明記されていないが、初版を忠実に演奏。
チェコフィルが大健闘。力強く開放的に鳴りスケール感がすばらしい。コントラバスがどっしり響く。どの楽器も活躍して一体感があり、弦楽器と管楽器の音色がうまく融合できている。オルガン的な響きも何度か現出する。細部の構築力もよく、スコアの隅々まで手抜きせずに聴かせる。常にインテンポではなく、気にならない程度にテンポを揺らす。
第1楽章12小節からヴァイオリンのクレシェンドでヴィオラとチェロを盛り立てる。149小節からpp指定だが気にせず大きめの音量で演奏される。401小節を頂点にティンパニのクレシェンドが盛り上がる。417小節のホルンは付点二分音符を四分音符+付点八分音符+十六分音符+四分音符で演奏しているように聴こえる。第2楽章はゆったりしたテンポで思いを込めるように演奏される。しっとりとした音色もいい。177小節から大きく盛り上がる。第3楽章は125小節からテンポが遅くなる。226小節からトロンボーンの不協和音が強烈。第4楽章は金管楽器が威勢よく鳴って素晴らしい。


スダーン指揮/東京交響楽団 【評価C】
ミューザ川崎シンフォニーホールでのセッション録音。ノーヴァク版と明記されているが、後述するように一部でハース版を採用している。
さっぱりした透明感のある響きだが、重量感に乏しい。全体的に響きが薄く、強奏も物足りない。室内楽的な音楽の作り方で、教会で聴くような音場の広がりはない。弱奏ではモーツァルトを聴いているような気になる。ブルックナー臭がしない代わりに、音色が明るいため日本的な要素を感じてしまう。ブルックナー演奏において特異な位置を占めるかもしれない。
音楽監督スダーンが指揮する東京交響楽団は技術的には安定している。テューバがよく聴こえる。
第1楽章3小節からホルンよりもチェロを聴かせて、弦楽器主体の響きを印象づける。第2楽章127小節からffだが軽すぎる。173小節から第1ヴァイオリンのFisの十六分音符4つをテヌート気味に強調する。216小節の弦楽器はアルコで演奏しハース版を取り入れている。第3楽章は速めのテンポ。冒頭のトランペットは音色が明るすぎる。ティンパニも軽くトレモロが聴こえない。トリオはゆったりしたテンポ。第4楽章はritard.とa tempoを意識せずハース版のようにインテンポで演奏する。105小節からトランペットを大きく聴かせる。331小節からヴァイオリンががんばって高音を聴かせる。



2013.10.15 記


ブリテン/青少年のための管弦楽入門 ブルックナー/交響曲第9番