◆作品紹介
イギリスの作曲家ブリテンの代表作。「パーセルの主題による変奏曲とフーガ」の副題を持つ。イギリス政府が製作した教育映画「The Instruments of the Orchestra」(1946年公開)の音楽として作曲された。
ヘンリー・パーセルが1695年に作曲した劇音楽「アブデラザル」中の舞曲を主題とし、全奏、木管楽器、金管楽器、弦楽器、打楽器、全奏の順に繰り返す。続いて、各楽器による変奏が始まり、フルート・ピッコロ、オーボエ、クラリネット、バスーン、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ハープ、ホルン、トランペット、トロンボーン・テューバ、ティンパニ、大太鼓・シンバル、タンブリン・トライアングル、小太鼓・木魚、シロフォン、カスタネット・ゴング、むち の順に紹介される。最後に、ブリテンが作曲したフーガを、ピッコロから徐々に楽器を追加して演奏する。全奏になったところで、主題が金管楽器によって演奏される。
指揮者が楽器を紹介するための解説文がスコアに書かれているが、指揮者がナレーションを行なうことは稀である。また、ナレーションなしでも演奏できる。
初演は、1946年10月15日にサージェント指揮のリヴァプール・フィルハーモニック管弦楽団、解説文を執筆したエリック・クロージャー自らのナレーションによって行なわれた。なお、映画では、サージェントが指揮とナレーションを行ない、ロンドン交響楽団が演奏している。
◆CD紹介
演奏団体 | 録音年 | レーベル・CD番号 | 評価 |
ベイヌム指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 | 1953 | デッカ UCCD3527 | D |
ロジェストヴェンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 | 1960 | BBCレジェンズ(輸) BBCL4184-2 | D |
ストコフスキー指揮/BBC交響楽団 | 1963 | BBCレジェンズ(輸) BBCL4005-2 | C |
ケーゲル指揮/ドレスデン国立管弦楽団、ルートヴィヒ(語り) | 1971 | デンオン COCQ84443 | A |
ベイヌム指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 【評価D】
モノラル録音。ナレーションなしでの演奏。音程や縦の乱れなど技術的な問題が散見される。木管楽器の響きが硬い。もう少し華やかさが欲しい。
ヴァイオリン(VARIATION E)は、大太鼓が力強い。ハープ(VARIATION I)は響きを抑えていて華がない。パーカッション(VARIATION M)は、打楽器のマイクのバランスを大きくしているようで、やや不自然に聴こえる。フーガはテンポが遅めでだらしなく聴こえる。Con slancio7小節1拍目の第1トランペットが落ちている。
ロジェストヴェンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 【評価D】
ライヴ録音。モノラル録音。ナレーションはなし。
イギリス音楽だが、すっかりロシア音楽の鳴らし方でひんやり冷たい音響になるのがさすが。青少年のために演奏しているような配慮はない。
冒頭の主題からテヌートなのにゴツゴツした音型。弦楽器(THEME D)の3小節は、マルカート指定だがスラーで演奏する。オーボエ(VARIATION B)でコントラバスを響かせる。クラリネット(VARIATION C)は流れがちで、縦線があまりあってない。チェロ(VARIATION G)はかなり抑揚をつけて感情を込めて弾かれる。ホルン(VARIATION J)のラストは鳴りきらず不完全燃焼。音量がffまで達していない。トロンボーン・テューバ(VARIATION L)は、伴奏の音符を短くしてリズミカル。パーカッション(VARIATION M)は最後の全奏で盛り上がる。コーダは少しあぶなっかしい。Animatoからシンバルが1小節早く入ってしまい、字余りになったまま終わる。
ストコフスキー指揮/BBC交響楽団 【評価C】
ライヴ録音。ナレーションはない。序盤は音を外したり縦線が合わなかったりするが、徐々に安定する。スコアにない主観的なテンポ操作が一部で聴かれる。打楽器がイタリア系のノリで、血が騒ぐように派手に鳴る。
主題は八分音符を短めに処理する。打楽器は大きく鳴らすが、管弦はあまり鳴っていない。7小節からスコアにないリタルダンドをかける。ヴィオラ(VARIATION F)とチェロ(VARIATION G)を抑揚をつけて濃厚に歌わせる。ハープ(VARIATION I)は7小節で伴奏がズレる。トロンボーン・テューバ(VARIATION L)は徐々にアッチェレランド。フーガはやや遅めのテンポで始まり、スタッカートを意識して音符を短く聴かせる。Con slancioからの金管楽器による主題は、トロンボーンの音色が汚く、やや薄っぺらく感じる。ラスト10小節でゴングがクレシェンド。
演奏後には熱狂的な歓声と拍手が収録されている。
ケーゲル指揮/ドレスデン国立管弦楽団、ルートヴィヒ(語り) 【評価A】
男性のドイツ語のナレーションが入る。各楽器の音符がよく見えて見通しがいい。スリムな音響を目指していて、強奏も分析的に聴かせる。長い音符は和音をしっかり響かせて美しい。演奏テクニックもすばらしい。青少年に分かりやすいかどうか以上に、聴かせ方に工夫を凝らしているので、クラシック通でもじゅうぶん楽しめる。特に伴奏楽器が表情豊かで、ソロ楽器を紹介する以上に、伴奏の重要性を伝えているようである。ソロ楽器と伴奏がうまくかみ合い、一大変奏曲に仕上げている。
主題はテヌートを意識して重々しく始まる。2小節からは小太鼓が冷たい響きでリズムを刻む。フルート・ピッコロ(VARIATION A)は速いテンポでスピード感がある。ヴァイオリン(VARIATION E)は華やか。ハープ(VARIATION I)はスラーを意識しないでスタッカート気味に演奏。トランペット(VARIATION K)はかなり速いテンポで、音が聴こえないほどスタッカートをつける。VARIATION Mのゴングは音色が軽くて陳腐。フーガは練習番号Mから木琴を浮き立たせる。主題が回帰するCon slancioからはヴァイオリンが奮闘して、細かい音符をまとまった音量で存在感を持って聴かせる。
2009.4.28記
2009.11.28更新
2010.7.9更新