アルティ・アーティスト・プロジェクト Memorial dance performance 望月則彦追悼公演「カルミナ・ブラーナ」


  2023年7月8日(土)13:30開演
京都府立府民ホールアルティ

脚本・監修:望月則彦
演出・振付:山口陽子、川邉こずえ
特別出演:浅井永希(東京シティ・バレエ団)
出演:奥田明香、株田佳香、木下大輔、神田花、河野早百合、佐々木舞、高橋涼、田中裕子、津地夏希、寺倉礼那、中田亜優、楢原季里子、増田唯一、枡富元穂、吉田ルリ子

衣装制作:成安造形大学コスチュームデザインコース

オルフ/カルミナ・ブラーナ

座席:全席自由


 
京都府立府民ホールアルティで、「カルミナ・ブラーナ」のバレエ公演が行なわれました。オルフはもともとバレエ舞踊付きでの上演を構想したので、このような機会はうれしいです。
 
「望月則彦追悼公演」とタイトルにあるように、2013年12月11日に67歳で亡くなった望月則彦の没後10年を記念した上演です。京都府立府民ホールアルティでは、アーティストと劇場が共同で舞台芸術を創作する「アルティ・アーティスト・プロジェクト(A.A.P.)」を2005年からスタートして、望月は第1回の発足当時から芸術監督を務めて、第10回(2014年4月)まで続きました。望月は1971年に望月則彦バレエスタジオを京都府向日市に開設。他にも2004年から大阪芸術大学舞台芸術学科教授に就任し、2011年からは谷桃子バレエ団芸術監督を務めました。
 
「カルミナ・ブラーナ」は、第6回公演(2010年2月27~28日)に上演されましたが、本公演は当時の台本をベースに新たに練り直して新たな表現に挑んだとのこと。演出・振付は当時と同じ、山口陽子と川邉(かわべ)こずえが担当しました。川邉は大阪芸術大学舞台芸術学科特任講師を務めています。
 
本公演の特徴として、出演ダンサーはオーディションで決定しました。2022年7月頃(1年前!)から募集が開始されて、募集要項によると「ダンサー数名」の募集で、応募資格は「バレエテクニック習得者」「18歳以上」「平日10~14時のリハーサルに参加できる方(リハーサル日時は不定期)」「国籍は不問」の4点でした。審査員は、山口陽子と河邉こずえが「A.P.P.(アルティ・アーティスト・プロジェクト)舞踊部門アート・ディレクター」の肩書で務めました。2022年8月に応募締切、2022年9月に2次審査があり、2022年12月からリハーサルが始まったようです。
選出されたダンサーは15名でした。男性が2名、女性が13名です。ダンサーの顔写真を見る限り、年齢層は幅広い。また「特別出演」として、東京シティ・バレエ団の浅井永希(えいき)が出演しました。オーディションの募集要項では、本番は7月8日(土)と記載されていましたが、7月7日(金)夜公演が追加されて2日公演となりました。京都府立府民ホールアルティのInstagram(@alti_artlivetheater)によると、7月4日からホール入りしたようです。なお、2010年の公演は22名+ゲスト2名+協力出演1名の25名だったようで、同一人物かどうかは不明ですが、奥田明香と田中裕子は前回に続いての出演です。出演者数が前回よりも少ないので、前回とは細部の振付は違うのではないでしょうか。
 
チケットは全席自由で3500円。「アルティ・インターネット・チケットサービス」から申し込んで、セブンイレブンで発券(手数料165円)。全席自由ということもあってか、開場待ちの大行列ができました。関係者がひさびさの再会だったようで話に花が咲いていました。当日券も出たようですが、ほぼ満席でした。
ステージが黒幕に覆われていて、 いつもとは違うセッティングでびっくり。アルティはこんな配置もできるんですね。1時間休憩なしの公演でした。
 
望月の脚本がどういう内容だったのか詳しくは分かりませんでした。本公演のチラシには「誰もが誰かを探している 記憶を辿り、「糸」で結ばれるその先は…」とのコピーが記されて、配られたプログラムには「脚本より抜粋」として、「人々はその束ねられている根本が、強烈な光を発しているのを、ようやく理解する。個々の支離滅裂な動きから、絡まった糸を解こうとするが、ある者は体に巻き付いたまま、ある者はその糸から逃れようと走り回り、一時その場所から消え去る。最後に一本の糸で結ばれた一組の若い男女が立ち尽くす。」と記載されています。関西音楽新聞の取材には「大きなテーマは人と人の結びつき」と答えています。配布されたプログラムに曲目解説はなかったので、歌詞の意味を知っておいたほうがよかったかもしれませんが、振付と歌詞はあまり関係ないようです。
 
開演。照明がすべて落ちて真っ暗に。第1曲「おお、運の女神よ」の冒頭の一撃とともに、ステージに照明がつきました。ステージの床は黒で、可動式で段差になっていて、高くなったステージ後方で、赤い服を着た男(浅井永希、以下は「赤服男」)と青い服の女(川邉こずえ、以下は「青服女①」)が踊ります。王子と王女のような貫禄です。その手前で、白い服(原始人みたいなダボっとした服、厳密に言うとグレーのよう色)を着た12人が、エレベーターのように床下から上がってきてあまり広くないスペースで踊ります。白い服は下々(しもじも)の者のようで、一目でキャラクターの性格が理解できました。客席前方の扉から、薄い赤色の服の男(以下は「薄赤男」)がステージに登場しました。
 
演奏はステージ両端に置かれたスピーカーから流れました。演奏者は不明ですが、テンポが速めでスマートな響き。少なくとも(金管楽器がよく音を外す)ヨッフム盤ではないことは確実で、アメリカのオーケストラかもしれません。カットなしで全曲が使われましたが、ダンサーの出入りに合わせて、曲間で間を空けることがありました。
アルティで上演する演出の利点としては、ステージの床が自由自在に上下すること。アルティのホールの床が、こんなに自在に上下できるとは知りませんでした。空間性が生まれて、演出の幅が広がります。おそらく全曲で100回近く操作したと思われます。人が乗っている状態でも上下に動かすことができます。照明も頻繁に切り替わりました。裏方スタッフにも拍手。
衣装制作は成安造形大学コスチュームコースの10名が担当しました。Twitter(@seiancostume)によると「白布を手作業で染めて製作した色彩に拘った衣装」「17名30体47着を制作した」とのこと。同大学空間デザイン領域准教授の田中秀彦が衣装監修を務めました。
 
第2曲「運の女神の傷手を」で、青服女①と赤服男は下手に退場しましたが、薄赤男が追いかけようとします。第3曲「春の愉しい面ざしが」は、薄赤男が白い服の人々をすりぬけながら、人を探す仕草を見せますが、白い服の人々はあまりかまってくれません。その間に三段の段差がついていたステージが、段差がなくなってフラット(平面)になりました。第5曲「見よ、今や楽しい」は、天井から白い糸が垂らされ、床に落ちました。白服4人と薄赤男の5人でダンス。演奏は「poco rit.」と「’」ではあまり溜めません。第6曲「おどり」では、糸を綱引きのように引っ張りあって遊びます。演奏は中間部のフルートソロも速いテンポ。いつの間にか床が段差になっています。糸をもう一本持ってきて、3本の糸を6人が持って、*(アスタリスク)のような形になって戯れます。
第8曲「小間物屋さん、色紅を下さい」で、薄赤男と青い服の女(冒頭の青服女①と衣装が似ていますが、左肩を出していて、別人でちょっと紛らわしい、以下「青服女②」)の二人で糸を引っ張りあい。第9曲「円舞曲」では、薄赤男と青服女②が親しくなって一緒に踊ってリフト。「Swaz hie gat umbe」から速いテンポ。青服女②が出ていってから、間をあけて第10曲「たとえこの世界がみな」。第11曲「胸のうちは、抑えようもない」は、赤服男が後ろから登場して、踊っている間に床が上昇(やはり赤服男は身分が高い)。去ってから間をあけて第12曲「むかしは湖に住まっていた」は薄赤男がフラフラと歩いて登場。白服のダンサーが、緑か赤か紫のノースリーブの衣装に着替えて登場(照明が暗くて色が分かりにくい)。グループごとに動きが別で、アドリブなのかは不明ですが、それぞれが意思を持って動きます。第14曲「酒場に私がいるときにゃ」はテンポが速い。下手奥に青服女①が、赤服男と薄赤男も登場。演奏はかなり打楽器を効かせます。ラストのポーズが決まって、客席から拍手がちらほら。
第17曲「少女が立っていた」で、青服女①と青服女②が同時に登場。ここで青い服を着た女性が二人いることが分かりました。上手の下に薄赤男、下手の下に青服女②、後方の中央に赤服男と青服女①。第18曲「私の胸をめぐっては」 は、青服女①と青服女②の二人が離れた距離のまま踊ります。ソプラノ独唱がきれいな声。 第20曲「おいで、おいで、さあ来ておくれ」 は、男声合唱の部分では赤服男と薄赤男の二人が同じ動きで、女声合唱の部分は青服女①と青服女②の二人が踊ります。音楽にあわせた動きです。 第21曲「天秤棒に心をかけて」 は、ふたたび白い服の人が登場。ソプラノ独唱が薄赤男を励ますように聴こえました。第22曲「今こそ愉悦の季節」では、床が完全にフラットに。白い服のダンサーがいっぱい出てきて、第23曲「とても、いとしい方」で。青服女②が登場。第24曲「アヴェ」では、薄赤男と青服女②を祝福し、一緒に踊ります。
第25曲「おお、運の女神よ」は、冒頭の一発で、天井から糸が降りてきました。白い服の人(二人×6組)と一緒に踊ります。中央の糸をみんなで持ったところで、ステージの後方の壁から赤服男と青服女②が登場。目潰しのライトつきで神々しい。
カーテンコールで、演出・振付の川邉こずえが青服女①を演じていたことが分かりました。もう一人の演出・振付の山口陽子が登場して、18人でカーテンコール。14:40に終演しました。ダンスがあると、この大曲もあっという間でした。
 
音楽と一体感のある振付で、ストーリーの展開も楽しめました。望月則彦の作品が没後も評価されていることも納得です。ぜひ他の作品も上演して欲しいです。「アルティ・アーティスト・プロジェクト(A.A.P.)」として上演された作品では、「カルメン」(第4回、2008年2月)、「じゅりえっと」(第5回、2009年2月、プロコフィエフではなく、チャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」)、「春の祭典」(第9回、2013年3月)、「火の鳥~HAZAMA~」(第9回、2013年3月)も見てみたいです。
 
府民ホールアルティが舞台機構に優れたすばらしいホールであることを実感しましたが、残念ながら2024年1月から8月末までの予定で、耐震工事および一部設備の更新工事のため、利用休止となります。響きがいいホールなので、アンサンブル団体は痛手でしょう。
 
 
 

京都府立府民ホールアルティ

 

(2023.7.24記)

 

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