熊川哲也Kバレエカンパニー「ベートーヴェン 第九」


   
      

2013年4月20日(土)14:00開演
フェスティバルホール

井田勝大指揮/シアターオーケストラトーキョー
草野浩子(ソプラノ)、橘知加子(メゾ・ソプラノ)、清水徹太郎(テノール)、井上敏典(バリトン)
Kバレエカンパニーフェスティバルホール公演記念合唱団

井上とも美、遅沢佑介、白石あゆ美、荒蒔礼子、西野隼人、伊坂文月、浅川紫織、宮尾俊太郎、熊川哲也

シンプル・シンフォニー(世界初演)
プロムナード・センチメンタル(世界初演)
ベートーヴェン 第九

座席:S席 2階1列29番


フェスティバルホールがリニューアルオープンしました。2008年12月に閉館して改修工事に入り、このたび地下2階・地上37階建ての「中之島フェスティバルタワー」が誕生しました。このうち、フェスティバルホールは2階から7階までの部分です。4月3日に開業記念式典が行われました。
「festival hall オープニングシリーズ」として、熊川哲也が率いるKバレエカンパニーが世界初演2作品を含む公演を行ないました。Kバレエカンパニーは約70名のメンバーを擁しています。熊川哲也が芸術監督を務め、プリンシパル、プリンシパル・ソリスト、ファースト・ソリスト、ソリスト、ファースト・アーティスト、アーティストといった階級を設けています。東京(Bunkamuraオーチャードホール)で5公演行なったあと、この日に大阪公演(1日2公演)がありました。私が観に行ったのは1回目の公演です。チケットはフェスティバルホールオンライン会員の先行発売で購入しました。

フェスティバルホールの最寄り駅は京阪渡辺橋駅と地下鉄肥後橋駅ですが、梅田駅からも歩いていける距離です。1階から2階へは赤じゅうたんの「大階段」があります。2階は「エントランスホワイエ」。ここでチケットの確認があります。入口には熊川哲也の直筆メッセージが飾られていました。「悠久の時を旅する劇場空間 そこは人類のみが持ちえた素晴らしい文化です」と書かれていました。この階でプログラムを3000円で購入。長いエスカレーターに乗って一気に5階へ。5階には「メーンホワイエ」があります。7階まで吹き抜けで照明が凝っています。ここが1階席です。ホール内は木目調で落ち着いた内装です。以前のフェスティバルホールを改修したというよりも、新しく生まれ変わった印象を受けました。
客席数は、改修前と同じ2700席(オーケストラピット使用時は2524席)。座席は2階席の最前列でしたが、ステージとの距離は割と近いほうでした。壁の両サイドには「バルコニーボックス席」もあります。ホール内は携帯電話通信防止装置が作動している旨のアナウンスがありました。オーケストラはオーケストラピットで音出しをしていました。客席はほぼ満席。

プログラム1曲目は、シンプル・シンフォニー。音楽は、今年で生誕100年を迎えたブリテン。振付は熊川哲也。オーケストラは弦楽器のみの演奏。対向配置で、左から、第1ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、第2ヴァイオリン。第1ヴァイオリンの後ろにコントラバスでした。コンサートマスターが立ち上がってチューニング。指揮者の井田勝大が登場。演奏開始と同時に、ステージの黒い幕が上がりました。ステージは奥行きが広い。ステージの左右は黒い幕で仕切られていたので、中央の席を購入してよかったです。セットは宮殿のような柱が左右に立っています。
男3名と女3名の出演。ダンサーの衣装は黒色。イギリス音楽ということを意識してか、シンプルで品位のある振付でした。楽章間はほとんど休みなく続けて演奏しました。第1楽章「騒々しいブーレ」は男と女が交互に演技。軽やかに踊ります。第2楽章「遊び心に満ちたピチカート」はジャンプしやすい曲想。ラストに男が女を持ち上げて、客席から拍手。第3楽章「感傷的なサラバンド」は男女のデュエット。第4楽章「浮かれ気分の終曲」が終わると照明が消えました。なお、BS-TBSで放送されたテレビ番組「日本が誇る天才ダンサー熊川哲也 世界を駆け巡る!スイス&イタリア」で、熊川はこの作品の振付について「テーマはない。音楽を具現化した」と語っていました。また、スタジオでの練習風景では熊川自ら踊って見せました。

10分休憩の後、プログラム2曲目は、プロムナード・センチメンタル。音楽はドビュッシーのピアノ曲(「小組曲」「ベルガマスク組曲」)から5曲をオーケストラで演奏しました。小組曲の編曲はアンリ・ビュッセル。ベルガマスク組曲の編曲はアンドレ・カプレ。管楽器と打楽器がオーケストラピットの右側に加わりました。
振付と衣装デザインはリアム・スカーレット。英国ロイヤル・バレエ団の振付家です。まだ20代ですがダンサーを引退して振付に専念しています。衣装は神話の世界のようなデザイン。照明もシンプルで、セットもありません。出演は最も多いときで12名(男6名、女6名)。
第1曲の「小舟にて」(小組曲より)はフルートソロから始まります。12名が出演。第2曲は「行列」(小組曲より)は2名だけ。第3曲は「パスピエ」(ベルガマスク組曲より)。オーボエがメロディーを演奏。8名が出演。第4曲は「月の光」(ベルガマスク組曲より)。テンポが少し遅い。2名だけの出演。照明が暗くなって終わりました。第5曲は「バレエ」(小組曲より)。12名が出演。ホリゾントが明るい。

20分休憩の後、プログラム3曲目は、ベートーヴェン 第九。演出・振付は、熊川哲也。熊川は各楽章にテーマを与えて、全体として「地球46億年の悠久の歴史を辿る」というテーマを与えています。初演は2008年の赤坂ACTシアターのプレミアム・オープニングで行われ、DVD「Dancer」に収録されています。今回は改訂再演となりました。第1楽章にカットがある以外は、全曲を演奏しました。オーケストラは健闘しましたが、オーケストラピットで演奏しているので、どうしても音がこもってしまうのが残念。中央に浮かんでいるオブジェが楽章によって違う以外は、セットは同じです。
第1楽章「大地の叫び」は、速めのテンポ。全身タイツを付けたダンサーが大勢出演。頭にターバンを巻いているので髪の毛は見えません。赤い照明で顔は分かりませんでしたが、この楽章の出演は全員男性。前の作品はダンサーは人を表現していたのに対して、ここでは火を表現。明らかに違う表現でした。倒れるなど激しきすばやい動き。身軽に跳ぶなど躍動感もあります。メンバーがそれぞれ別々の動きで、バレエというよりはダンスに近いでしょう。ステージの出入りが激しい。両手を合わせて音を出すこともありました。最後はステージ中央に浮かんでいた岩石のようなオブジェが降りてきて上がりました。
第2楽章「海からの創世」は、青い照明。海の中という設定でしょう。中央にはクジラのようなオブジェが浮かんでいました。この楽章の出演は一転して全員が女性。同じくターバンを巻いているので髪の毛は見えません。物になりきって踊りました。トリオはテンポを落としました。
第3楽章「生命の誕生」は、遅めのテンポ。男3名と女3名の出演。衣装は白ターバンと緑色の模様が描かれた白タイツ。最初は床に寝そべっていましたが、起き上がって踊り出しました。暗い照明も明るくなり、夜明けを表現しているようでした。この楽章は人間らしい動きでした。スムーズな動きに感心。演技レベルが高いです。中央のオブジェは花。
第4楽章は「母なる星」。冒頭からしばらくはステージに誰も出てきません。照明の色が変わるだけですが、照明だけで雰囲気が変わりますね。有名なメロディーが流れ出す92小節頃から、ダンサーがステージに登場。この楽章はターバンなしで初めて髪の毛を出しています。どんどん人数が増えました。また合唱団が中央を取り囲むようにステージ後方と左右に立ちました。また、独唱4名もステージ前方に登場。左右に2人ずつ立って、左からテノール、ソプラノ、メゾ・ソプラノ、バリトンの順。合唱団も独唱も衣装は白装束で、頭に白ターバンを巻いています。インド人(イスラム教徒?)のような格好です。独唱は歌っていないときは後ろを振り返ってステージを見ています。
208小節からいよいよ熊川哲也がステージ後方から登場。熊川哲也だけズボンが黒色で衣装が違うのですぐに分かりました。客席から拍手。しばらく熊川一人でソロ状態でしたが、ずっと動いているわけではなく止まっていることも多いです。熊川は無駄な動きがなく、重心や軸がしっかりしています。熊川は331小節の前でいったん退場。543小節の前で再登場。合唱団が歌い出すとすぐに去りました。ステージ中央に、女性の輪ができて、その周りに男性の輪ができて、くるくると回ります。熊川が再度入場して、女性ダンサーに持ちあげられて退場。半裸の男子(出演者名はクレジットなし)がいつの間にかステージに登場。意表を突かれました。これは生命が生まれたという意味でしょうか。最後は熊川哲也がスポットライトが当たるなか、ステージ中央で足を付けずに何度も回転。バレエ用語ではピルエットというらしいです。その最中に星空のようなシースルーの幕が降りてきました。熊川は回転しながらスポットライトから左後ろ方向に移動して消えました。曲が終わると、照明がすべて消えました。上述のテレビ番組の映像では、最後はスポットライトの中で片手を上げてポーズを決めていましたが、今回はスポットライトから離れていくようにして消えました。これは演出なのか、回転しすぎてよろめいたのかは分かりません。不自然な終わり方ではありませんが、どうだったのか少し気になりました。

終演後はカーテンコール。指揮者もステージに上がりました。観客はスタンディング・オベーションでした。

ダンサーの演技はミスがなく完成度が高い。複数人で踊るときも動きがよくそろっています。セットはシンプルで、バレエの中味で勝負したいという意気込みを感じました。 熊川哲也の出演は「第九」第4楽章の後半だけだったので、出番が少なくて残念でした。今年で41歳になったので、年齢を考えると仕方ないでしょうか。今回上演した作品はいずれもバレエ音楽として作曲された作品ではありません。クラシック音楽を伴奏として、バレエの領域を開拓する姿勢は大いに評価できます。2012年にBunkamuraオーチャードホール芸術監督に就任しているので、これからの活動に期待したいです。
フェスティバルホールの響きは改修前よりもよくなったかもしれません。今度はステージで演奏するオーケストラを聴きたいですね。

(2013.4.30記)


中之島フェスティバルタワー(渡辺橋から望む) 大階段 熊川哲也直筆メッセージ 7階からメーンホワイエを望む



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