オーケストラ・ディスカバリー2011 〜こどものためのオーケストラ入門〜 「オーケストラの世界!」第3回「オーケストラ&サイレント映画」


   
      
2011年12月25日(日)15:00開演
京都コンサートホール大ホール

齊藤一郎指揮/京都市交響楽団
佐々木次彦(ナビゲーター)

チャップリン/「街の灯」(オーケストラのライブ演奏によるサイレント映画の上映、日本語字幕付)

座席:指定席 1階13列26番


2011年の聴き納めです。2003年から年末には必ず「第九」演奏会に行きましたが、今年は聴きに行きませんでした。京響は広上淳一、大阪フィルは大植英次が第九を指揮しましたが、どちらもすでに聴いているので今年はパスしました。

「オーケストラ・ディスカバリー 〜こどものためのオーケストラ入門〜」の第3回は「オーケストラ&サイレント映画」。サイレント映画をオーケストラのライヴ演奏で聴かせるという意欲的な試みです。上映する映画は、チャップリンの「街の灯(まちのひ)(原題:City Lights)」。パンフレットによると、1931年制作のアメリカ映画で、サイレント映画としては末期にあたるとのこと。チャップリンが「浮浪者」役で主演しているだけでなく、プロデューサー・監督・脚本・作曲・編集をすべて一人で務めています。作曲までしているとは驚きです。
指揮は齊藤一郎。セントラル愛知交響楽団の常任指揮者を務めています。

ホールの入口で、途中で休憩がないことがアナウンスされました。ホールに入ると、ステージ後方に大きな正方形のスクリーンが天井から吊られていました。ポディウム席には黒い布が被されていました。

演奏前に、プレトーク。京都市交響楽団マネージャーの柴田智靖が登場して、挨拶。ナビゲーターの佐々木次彦と対談しました。佐々木は「おくりびと」などの映画で音楽プロデューサーを務めているとのこと。佐々木が「普段は絶対に見れないものをお見せしたい」と話して、音が入る前の映画が上映されました。監督に頼んで許可をもらったとのこと。上映された映画は、「WAYA! 宇宙一のおせっかい大作戦」。監督は古波津陽(こはつよう)。2011年秋に公開されました。2シーンを音楽ありと音楽なしの2バージョンで見比べました。音楽がないとドキュメンタリー映画を見ているようでした。佐々木は「出ている人の気持ちが伝わるように、音楽は作られている」と解説しました。「悲しいシーンで悲しい音楽が続くと鈍感になって慣れてしまうので、わざと楽しい曲を使うことがある」「落語や高校野球の歓声などがラジオから聞こえてくるようにすると、際立って悲しく見えてくる。あえて正反対のものをつける」と話しました。また、「テレビと映画は音楽が全く違う」「映画は集中して観ているが、テレビはコマーシャルが入ったり、台所の物音とかが聞こえたりするので、テレビのほうが音楽が多い。」と話しました。

入れ替わって、指揮の齊藤一郎が登場。背が高い。チャップリンの映画をライブで演奏する「オーケストラ ライブ シネマ」を京都市交響楽団と2005年から取り組んでいて、今年で7年目になるとのこと。京都コンサートホールで上演するのは今回が初めてとのことです。「街の灯」は2008年に演奏したので、今回は再演になるようです。
「街の灯」について、齊藤は「300〜400回観ている。シーンによっては1000回くらい観ている。日本で一番観ている」と豪語。「現代の映画は言葉が多すぎる」「チャップリンは完璧主義者」「吉本新喜劇やドリフターズはチャップリンが基本になっている」と持論を展開。最後に「存分に笑って、存分に泣いてほしい」と話しました。
最後に、柴田から、効果音でピストルが使われるが、実際に大きな音で鳴るので、映像にピストルが出てきたら心構えをしてほしいと話して、プレトークを終了しました。

いよいよ「街の灯」の上映。上映時間は約85分。オーケストラ団員が入場。映画上映のためか、ひな段はなく、平面で演奏します。ホール内を暗くするため、譜面台にライトがついていました。齊藤一郎は指揮台に置かれたイスに座って指揮します。指揮者の譜面台の前にはモニターがあり、スクリーンに映し出されている映像と同じ映像をモニターで確認しながら指揮しました。
セリフはもともとサイレント映画なので一切ありません。言葉が必要となるシーンでは、英語でセリフを書いた紙を映すことで、ストーリーを展開させています。今回の上映では英語の下に日本語で字幕が付けられていました。
演奏される音楽はBGM程度に断片的なのかと思っていましたが、常にどのシーンでも流れます。そのため、オーケストラは長い時間休みなく演奏します。交響曲のように楽章の間で休みもないので、集中力も要求されます。チャップリンが作曲した音楽は親しみやすく、とてもよい。基本となるテーマが他のシーンでも使われます。
齊藤一郎はシャープで大きな指揮。自信を持ってオーケストラをリードしました。映画の伴奏として、シーンの長さに演奏のテンポを合わせなければなりません。相当練習してテンポを設定しないと、映画のシーンと音楽のタイミングがずれてしまいます。かなり研究していないとできない芸当です。「300〜400回観た」と語ったのも過言ではないでしょう。すばらしい。
効果音も生演奏。映像のイメージを膨らませるのに役立ちました。例えば、映画冒頭の除幕式のシーンでは、男女のスピーチをサクソフォンとトランペットで表現。思わず笑ってしまいました。その他は、頭にピアノをぶつける音、ピストルの音(2回)、スパゲッティを吸う音(スライドホイッスルで表現)、飲み込んだ笛が鳴ってしまう音、ボクシングのゴング、サイレンなど。
後半のボクシングの試合のシーンは大爆笑。まさに計算された作られた笑いです。「喜劇王」と呼ばれるだけあって、コントの古典と言っていいでしょう。客席の小さな子供たちも笑っていたので、白黒映画であっても現代にも通用する笑いです。
ラストシーンは盲目だった女性が、チャップリン演じる浮浪者と再会するシーン。姿を見ることができたというエンディングに、うるっときました。音楽も感動的に盛り上げます。
夜のシーンが多いわけでもないのに、なぜ「街の灯」というタイトルなのか疑問を持ちました。タイトルについてはいろいろな解釈ができるので、諸説があるようです。また、この日はクリスマスでしたが映画のテーマには関係ありませんでした。あえて関連付けるとすれば、12月25日はチャップリンの命日らしいです。

終演後は、齊藤一郎が胸ポケットに差していた花を、客席の客に渡しました。続いて、団員もステージ前に進み出て、花を客席に投げ入れました。

一発勝負の生演奏でこれだけ完成度が高い演奏ができるとは、世界に誇れる偉業と言ってよいでしょう。京都市交響楽団の演奏も最高の一言。これだけ緻密な指揮ができる齊藤一郎をぜひ定期演奏会にも呼んでほしいですね。

(2012.1.24記)


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