京都女子大学音楽棟演奏ホール
第１部
��.色彩と旋法
��.鳥類学者としてのメシアン
第２部
��.収容所で作曲された「時の終わりへの四重奏曲」
解説・ピアノ：大谷正和（京都女子大学准教授）
ヴァイオリン：井上隆平（神戸市室内合奏団副首席ヴァイオリン奏者）
チェロ：高橋宏明（大阪センチュリー交響楽団次席チェロ奏者）
クラリネット：福井聡（相愛大学非常勤講師）
座席：自由
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２００８年１２月６日（土）13:30開演 京都女子大学音楽棟演奏ホール 第１部 解説・ピアノ：大谷正和（京都女子大学准教授） 座席：自由 |
京都女子大学で2008年に生誕100年を迎えたメシアンのレクチャーコンサートが行なわれました。入場無料で、事前の申込も不要でした。
京都女子大学には初めて行きました。観光客で混雑する京都駅から市バスに乗って、東山七条のバス停で下車。東に向かって長い坂（女坂と呼ぶらしい）を登ります。音楽棟はキャンパスのなかでも南東に位置します。バス停からけっこう歩きました。会場の演奏ホールは音楽棟の２階にありました。300人収容のホールです。あまり大きくないので、アンサンブル向けのホールといえるでしょう。100名ほどが来ていました。卒業生が多数来られているようで、プチ同窓会のようでした。
講師の大谷正和氏が登壇。大谷氏は京都女子大学発達教育学部教育学科教育学専攻准教授を務めていて、専門分野はピアノと現代音楽。メシアンの「トゥランガリラ交響曲」のピアノ独奏を務めたことがあるとのこと。大谷氏が聞いたところ、参加者の半数が今日初めてメシアンの音楽を聴かれるようです。配布されたレジュメにしたがって、まずメシアンの生涯について紹介。1908年12月10日生まれなので、あと数日で本当に生誕100年目になる。ちなみに、12月10日生まれはセザール・フランクと同じとのこと。1929年に初演された「ピアノのための前奏曲集」がメシアンの最初の有名な作品。大谷氏は初演者のアンリエット・ロジェからこの曲のレッスンを受けたことがあるそうです。1940年に捕虜となり、シレジア（当時はドイツ領、現在はポーランド領）のゲルリッツ収容所で半年間生活するが、解放されてパリに戻る。1962年に弟子であったピアニストのイヴォンヌ・ロリオと再婚。新婚旅行で日本を初めて訪れ、軽井沢や宮島などで受けた印象をもとに「七つの俳諧」を作曲されたとのこと。1985年には第１回京都賞を受賞し、京都を訪れました。
続いて、「色彩と旋法」について解説。メシアンは独自の音階を作って、色彩と結びつけることにユニークな面があるとのこと。「音楽を聴くと色彩が見えます」というメシアンの言葉を紹介。メシアンのインタビュー映像も映されました。「色聴感覚」というらしいですが、リムスキー＝コルサコフやスクリャービンにもこの感覚があったようです。ここで、メシアンが作った独特の音階をレジュメに掲載された五線譜を見ながら紹介。また、ステージ左に置かれたピアノで大谷氏が演奏しました。「移調の限られた旋法」第２番第１移調は、「半、全、半、全、半、全、半、全」の音程で作られた音階。メシアンはこの音階が青紫色に見えたとのこと。続いてこの音階を半音上げた第２移調を演奏。金色と茶色に見えたとのこと。半音上がるだけで、メシアンが感じる色彩が大きく変わるのはおもしろいですね。第２移調をさらに半音上げた第３移調は緑。第３移調をさらに半音上げると、第１移調との同じ音階になる。３回しか移調できないので「移調の限られた旋法」と名付けられているとのこと。続いて、「移調の限られた旋法」第３番は「全、半、半、全、半、半、全、半、半」の音階。第１移調はオレンジ、金色、乳白色。全音上げた第３移調は、青色と緑色。また、「移調の限られた旋法」第４番は「半、半、全＋半、半、半、半、全＋半、半」。第１移調は灰色と金色。ドビュッシーがこの音階を使っていて、大谷氏はメシアンがドビュッシーの影響を受けたとも考えられるが、ドビュッシーが未来の音楽を予想して書いたのではないかと話しました。私は音階を聴いても、メシアンが感じた色彩は見せませんでした。色聴感覚を持つ人はどれくらいおられるのでしょうか。
ここで作品の演奏。１曲目はメシアン作曲／「前奏曲集」より「鳩」。「移調の限られた旋法」第２番第２移調の音階で書かれています。２曲目はドビュッシー作曲／「前奏曲集第２集」より「月の光が降り注ぐテラス」。メシアンの間にあえてドビュッシーが演奏されましたが、そんなに違和感なく聴けました。メシアンとドビュッシーは共通点があるのかもしれません。３曲目はメシアン作曲／「前奏曲集」より「夢の中の感じられない音」。右手は第３番第３移調、左手は第２番第１移調で書かれています。
続いて、「鳥類学者としてのメシアン」の解説。大谷氏は「多くの作曲家が鳥の鳴き声を作品に使ったが通俗的な使い方である。メシアンは鳥類学者として科学的な観点から鳥の鳴き声を正確に採譜した」と話しました。また「メシアンの1950〜60年代の９曲で259種類の鳥が出てくる。ヨーロッパだけでなく、日本（軽井沢）、アフリカ、南北アメリカなど、全世界の鳥を採譜したと言っていい」と話しました。ちなみに、鳥は全部で12,000種類いるらしいです。メシアンは鳥が歌うことに３つの側面があると考えたとのこと。１つ目は、縄張り争いのため。歌がうまいかどうかで縄張りが決まるとのこと。実験で証明されているようですが、本当でしょうか。２つ目は、オスがメスを誘惑するため。春は求愛の季節とのこと。３つ目は、生まれてくる光（日の出）と消え行く光（日の入り）に対する歌。日の出や日の入りの色彩が美しいほど鳥は美しく歌うとのこと。メシアンが採譜する際は、鳥の鳴き声がピアノよりも音が高く、音程が半音よりもせまいので、メシアンはピアノで写すときに、音程の比率を拡大して正確な尺度で音にしたとのこと。また、倍音を使って再現することもあるようです。
題材として、メシアン作曲／「鳥のカタログ」より「ヨーロッパウグイス」を使って解説。フランスのシャラント川のほとりの４月の朝の風景を描いた作品で、14種類の鳥が出てきます。それぞれの鳥について、メシアンの鳥の性格についてのコメントを読み、鳥の写真を見ながら、実際の鳥の鳴き声を録音で聴いて、作品をピアノで演奏するという、聴きくらべが行なわれました。鳥の鳴き声はもちろん単音ですが、メシアンの作品では重音で演奏されることが多いです。アーティキュレーションは似ている部分がありますが、和音で演奏されると違和感があります。「ヨーロッパウグイス」は、この曲の主人公。メシアンのコメントは「小さくて怒りっぽいが、大きな声」とのこと。「クロウタドリ」は、ヨーロッパウグイスよりもメロディーらしい鳴き声。毎年鳴き声のレパートリーが増えていくとのこと。「ウタツグミ」は、同じメロディーを３〜４回繰り返して次のメロディーに移るとのこと。「ミソサザイ」は最も小さな鳥のひとつとのこと。高音で鳴いて、トレモロでアッチェレランドする。「アトリ」も同様の鳴き声。「ヤツガシラ」は単音の鳴き声をピアノでは和音にしています。その他にも川のテーマなど、鳥が生息している場所の雰囲気やにおいを忠実に再現しているようです。解説後に、大谷氏が全曲を通して演奏。解説で予習できたので、とても分かりやすく聴けました。
休憩後の第２部は、「収容所で作曲された「時の終わりへの四重奏曲」」。メシアン作曲／時の終わりへの四重奏曲について解説。メシアンが第２次世界大戦で捕虜となった収容所で作曲された特殊な作品で、収容所内でのつらい経験をもとにしている。1940年にメシアンは収容所に到着したが、かばんにスコアを入れていたとのことで、取られないようにメシアンは鬼のような形相をしていたらしいです。収容所は食糧不足で寒かったようですが、メシアンが著名な音楽家だと分かると特権が与えられて次第に優遇されたとのこと。捕虜としての義務を免除されて、作曲に専念できるようになったようです。鉛筆、消しゴム、五線譜も与えられたようです。メシアンは聖書「ヨハネの黙示録」第10章にインスピレーションを受けて「時の終わりへの四重奏曲」を作曲したようです。なお「時の終わり」とは、「永遠のはじまり」を表現したもののようです。続いて、「７つのトランペットのための怒りの踊り」で使われている「非逆行的リズム」の説明。小節の中でリズムの勘定が真ん中に集まっている（左右対称である）ことを説明しました。
解説後に、第６楽章「７つのトランペットのための怒りの踊り」、第７楽章「時の終わりを告げる天使のための虹の錯乱」、第８楽章「イエスの不滅性への賛歌」を演奏。メンバーが登場。後方にピアノ、前列左から、ヴァイオリン、チェロ、クラリネットの順に座りました。第６楽章「７つのトランペットのための怒りの踊り」は全楽器ユニゾンで演奏されます。技術的に難しい作品です。第７楽章「時の終わりを告げる天使のための虹の錯乱」は「移調の限られた旋法」第２番第１移調の音階で演奏されます。チェロがグリッサンドで上昇下降を繰り返します。第８楽章「イエスの不滅性への賛歌」は、ヴァイオリンとピアノのみで演奏されます。遅いテンポで演奏され、神が上昇する様子が表現されます。ピアノは同じリズムで演奏されます。
演奏終了後に質疑応答。メシアンが現代音楽に与えた立場として、大谷氏は、ブーレーズ、シュトゥックハウゼン、クセナキスには影響を与えていると話しました。15:50頃に終了しました。
大谷氏はメシアンの音楽の特徴を端的に分かりやすく説明しました。京都女子大学は仏教系の大学ですが、キリスト教の影響を大きく受けたメシアンの研究者がおられるのはおもしろいですね。今後も同様の企画があれば足を運ぼうと思います。
(2008.12.7記)
