京都市交響楽団第516回定期演奏会


   
      
2008年9月4日(木)19:00開演
京都コンサートホール大ホール

井上道義指揮/京都市交響楽団
清水信貴(フルート)、高山郁子(オーボエ)、柳生厚彦(ヴィオラ)、中西雅音(チェロ)、井上道義(チェレスタ)
京響市民合唱団

モーツァルト/アダージョとロンド
クセナキス/ノモス・ガンマ
ホルスト/組曲「惑星」

座席:S席 3階 C−3列26番


井上道義が意欲的なプログラムで京都市交響楽団定期演奏会に登場です。なんと18年前の京都市交響楽団第326回定期演奏会「音楽監督&第9代常任指揮者就任披露演奏会」(1990年7月27日 京都会館第1ホール)とまったく同じプログラムを、同じオーケストラと再演するというとても珍しい試みです。モーツァルト、クセナキス、ホルストの3曲ですが、18年後の今でもとても斬新。以前から井上道義は先進的なプログラミングを行なっていたことが分かります。客の入りは8割程度。平日公演にしてはよく入りました。

開演に先立って18:40からプレトーク。井上道義がマイクを持って正装で登場しました。就任披露演奏会では「最初何をやるか悩んだ」と話し、「なぜ今やるか」という再演の理由について「(このプログラムには)メッセージ性があった。(今でも)古くなってない」と話しました。選曲の趣旨は「音楽にはすごく幅があるよ」ということを伝えたかったようです。各曲の解説(後述します)の後、時間が余ったようで「あと何話します?」と客席に問いかけました。「(音楽監督の)8年間、オーケストラ(=京都市交響楽団)と戦いました」と当時を回想。「若い人をクラシックに呼んでください。ドイツは客が高齢化している。(井上が音楽監督を務める)オーケストラ・アンサンブル金沢の定期会員は3000人で、毎年海外公演を行なっている。京都に飽きた方はいらっしゃってください」と宣伝していました。

プログラム1曲目は、モーツァルト作曲/アダージョとロンド。モーツァルト晩年の室内楽作品で、グラスハーモニカ、フルート、オーボエ、ヴィオラ、チェロの5名だけで演奏されます。定期演奏会で5名だけの曲を選曲するとは大胆です。プレトークで選曲した理由について「(5人がオーケストラの定義でもかまわない」「石庭は季節によって違って見えるので、(それぞれの楽器が)違って聴こえたらおもしろい。いい曲だけど、グラスハーモニカの曲なのでやることがない」と話しました。グラスハーモニカでの演奏を検討したそうですが、断念して今回はチェレスタで代用するとのこと。井上道義がチェレスタを演奏し、それ以外の楽器は京響の首席奏者(チェロは副首席奏者)が演奏しました。5名が入場。向かって左から、フルート、オーボエ、チェレスタ、チェロ、ヴィオラの順に座りました。チューニングなしで演奏がスタート。演奏が始まると、ステージの照明を暗くして、5名を浮かび上がらせました。作品はやさしく繊細な音楽でした。チェレスタは響きが硬いので、グラスハーモニカの原曲で聴きたいです。

プログラム2曲目は、クセナキス作曲/ノモス・ガンマ。1967〜68年に作曲されたクセナキス中期の代表作らしいです。プレトークで井上は「とんでもない曲」と話しました。「ミラノ・スカラ座管弦楽団と初めてやらされた」そうですが、「やってみたらおもしろかった」と選曲した理由を話しました。「騒音そのものでも構成があれば音楽として印象づけられる」と作品の魅力を語りました。「打楽器が周囲に8つある」と言って、実際にステージにおいてある打楽器を数えて聴衆に示しました。「(作曲者の指示では)本当はみなさんはステージに座って聴かなくてはいけない。静岡のグランシップでアマチュアオーケストラと客を中に入れてやった」と話しました。調べたところ、今年8月10日に、音楽の広場オーケストラを指揮して演奏しています。そのときは、オーケストラ内に客席を作って、聴衆はその中で聴くことができたとのことです。
上述したように、本来はステージの中央に指揮者がいて、指揮者を取り巻くようにオーケストラを円形に配置しますが、京都コンサートホールでは難しいのか、普段のオーケストラ配置とあまり変わらない半円形でした。ただし、指揮台と客席の間に逆の半円形に奏者を配置して、本来は円形で配置されることを聴衆に意識させていました。奏者はパート別ではなくバラバラに並んでいました。弦楽器の隣が木管楽器だったり、その隣が金管楽器だったり、ごちゃまぜ。普段では絶対にない楽器の配列と、いつもと違う場所での演奏に、団員も少し緊張気味に見えました。
チューニングなしで、演奏がスタート。作品は4部で構成されていますが、休みなく続けて演奏されます。メロディーと呼べる旋律はなく、ほとんどノイズで成立している音楽です。約15分程度の作品ですが、少し長く感じました。プレトークで「構成があれば音楽として印象づけられる」と話しましたが、この作品に構成があると言えるかどうかは疑問です。なぜこんな音響が生まれるのか、スコアがどうなっているのか見たいです。「何だこれ?」と言いたくなるまさしくキワモノ音楽で、今聴いてもじゅうぶん現代音楽に分類されます。18年前ならなおさらでしょう。こんな作品は、日本では井上道義くらいしか取り上げないでしょう。他の指揮者は興味を示さないと思われます。
冒頭はわざと音程を狂わせた木管楽器が悲鳴を上げます。途中から打楽器が加わってうるさいほど大きく盛り上がります。打楽器のソロがあり、半円形の外周に配置された打楽器が点呼を取るように順番に右回りや左回りで演奏。視覚的に楽しめました。配置が円形だったらもっとおもしろかったでしょう。グランシップで行なわれたようにオーケストラ内の席で聴けば、360度の全方向から音が立体的に聴こえて、すごい音響が体感できるでしょう。一度聴いてみたいですね。
井上道義は骨がないのではないかと思えるほど、体を傾けて指揮しました。拍を振りながら、楽器の入りのキューを出したり、忙しい指揮でした。また、譜面台と一緒に指揮台の周りを一周しました。第4部の途中では上着を脱ぐパフォーマンスを披露。カーテンコールでは、井上が打楽器8名を左から順番に演奏させて、聴衆に向かって「分かる?」と話問いかけました。

休憩後のプログラム3曲目は、ホルスト作曲/組曲「惑星」。演奏会では初めて聴きます。「海王星」で女声合唱団が必要になるので、演奏会で取り上げられる機会は少ない曲です。プレトークで「なぜ就任(記念演奏会)でやったか。(京都市交響楽団の団員が)誰がどれくらい弾けるか分からなかったので、まずいことにならない曲を選んだ」と選曲の理由を話しました。冥王星が惑星から除外された話題にも触れました。京都会館と違って、京都コンサートホールはオルガンが使えることもアピールしていました。
演奏は危なっかしい部分があったものの京都市交響楽団の今の到達点を確認できるような演奏でした。標準的な演奏解釈で、オーケストラの魅力を楽しませてくれました。「火星」は、金管楽器がよく鳴りました。こんな勇壮な「火星」が京響で聴けるとは思いませんでした。「金星」は、CDで聴くよりも起伏が少なく感じました。「水星」は、木管楽器が充実した音色で色彩感がすばらしい。「木星」は、全奏を豪快に鳴らします。有名な第4主題は、たっぷり歌ってド迫力で聴かせました。「土星」は、やや速めのテンポ。パイプオルガンがよく聴こえました。「天王星」は、井上道義が片足を上げながらリズミカルに指揮。「海王星」は、女声合唱がどこに配置されているのか見えませんでした。歌声がちょっと声が荒くて頑張りすぎ。もう少し落ち着いた整えられた美しい声で聴きたいです。カーテンコールで、合唱団が2L1扉と2R1扉から姿を現しました。ポディウム席に通じる2階の通路で歌っていたようです。ポディウム席後方に一列に並び、拍手を受けていました。

(2008.9.14記)


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